32話:目指すは未開の地
お久しぶりです皆様方....。
大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした〜!(´;ω;`)
私だって書いてない訳では無いのです。唯ちょっと時間が無くてですね、気付けばもうすぐ二度目のテストって....(´º∀º`)ファー
本日は快晴、雲一つない青々とした空。それと穏やかに微笑むどこまでも広がる透き通った青い海。陸地にいた時には考えられない灰色の空が嘘のようだ。
現在、柊二は船首で樽に腰掛けて、そこから下に広がる海にのんびりと釣り糸を垂らしていた。
幼少期、祖父に忍耐の訓練の一つとして強制されていたのが釣りだった。彼自身、昔は大して釣れもしないのにやらされていたのに飽き飽きしていたが、今では数少ない趣味の一つ。
「なぁ、まだ釣れんのか?」
「...何度も言ってるだろ。釣りってのは――「気長に待ってから釣る方が達成感が大きいんだろ。何度も聞いてるよ」
ジャカルは柊二の横に立ち、海を覗き込んでいた。...右手に酒瓶を持って。
「ジャカル、もう呑んでるのか...」
「もうってな。こんな無風の中で何をやれって言うんだ」
ジャカルが言う通り、本日は雲一つない快晴...だが風がなくて船は立ち往生するハメになった。それが理由で柊二は釣りを、ジャカルは酒を呑んで気を紛らわせているのだ。
「んで、もうそろそろ釣れそうか?」
「今気づいたんだが...俺が釣った魚食う気だろ」
「そりゃ、釣ったばかりの魚は新鮮だからな。煮て、こいつの肴にでもするつもりだ」
「...そんなに食いたいなら自分で釣れ」
柊二が後ろに親指を突き出す。ジャカルが振り返ると、後ろの方では数人の兵士が柊二の様に釣りをしようと準備をしている最中だった。
ジャカルと目が合った一人の兵士が余った釣竿を片手に言葉を掛けた。
「親父殿もどうですか?」
「ワシは遠慮するよ。釣るより食う方がいい」
なんて、自分は働かずに飯を食うと宣言するジャカルに肩を落とす柊二。それはそうと、ここだけの話ジャカルは並外れた剛腕と、普段はそれを感じさせない馴染みやすさから兵達に【親父】と呼ばれる様になっていた。
なんて話を終えると再び柊二の垂らす釣り糸に目を移した。そんな形で数分が経ち、今度は柊二が口を開いた。
「...そう言えば、少尉とリアはどうしてるんだ?ここで釣りを始める前も今も見てないんだが」
「んぐっ...ぷはぁ。あー、嬢ちゃんの方は知らないが、兄ちゃんなら書庫と資材庫を行き来してるぞ」
「何の為に?」
「砦や施設の建築法とそれを建てる為の資材の数を確認するんだとさ。やる気満々に眼鏡まで掛けて」
『眼鏡?...あ、眼鏡の事か』
なんてたわいもない話をしていると、突然柊二の竿に反応があった。引きはそれ程大きくないが長年の感覚で確かに当たりが来てる事は確かだ。
「おっ、来た来た!」
現代のようにリールなんて付いていない、丈夫な木の棒に釣り糸、浮き、針を付けただけの超シンプルな竿。柊二は竿を立てて、糸を手繰り寄せると手で引っ張り始める。
やがて海面から引き上げられた魚は見た事はないが、大きさは約60cm程だろうか。なかなかの活きの良さに柊二は、心踊らせながら糸を手繰り寄せる。
「おい見ろよジャカル。まあまあの魚だろ」
「んー。お、そいつはソーマって言って、焼いても煮ても美味ぇんだよな」
男2人、考えてる事は違うがはしゃぐ姿はどこから見ても子供のようだ。
「よし、もう少しで...」
船体の半分位まで引き揚げ、もう少しで柊二の手元に届く。その瞬間、船体全体が揺れる程の衝撃が起こる。
甲板に出ていた兵士が一斉に慌て始める。
「お前ら落ち着けって、高波か何かがぶつかっただけだって」
柊二は後ろで慌てている兵士に言うと再び手繰り寄せる手を動かそうとする。が、突然飛び出してきた頭が既まで迫っていた魚を咥え、海の中へ消えていった。無論、竿を置いて糸を引くだけだった為、魚に連られて竿も引きずり込まれてしまった。
柊二はポカンと口を開いた後、歯を食いしばったまま下を向き、動かなかった。
その様子に兵士達がオドオドと柊二に話を掛ける。
「あ、あのオルテア様...ここらの海にはマザーと言う怪物がいまして...。我々人間には敵対しないのですが...その、自分の縄張りで海産物を取られると怒ると言いますか...」
兵士が声を掛けるも聴こえているのか聴こえていないのか分からない状態で柊二は立っていた。
これはまずいと兵士の1人が、ジャカルに助けを求めようと振り返る。
「あのー、親父...殿」
兵士は言葉を失った。ジャカルは樽の上に手を伸ばしたまま硬直していたのだ。その樽の足元には紫色の水溜りと無数のガラス片が。
その瞬間、彼は全てを悟った。ジャカルが酒瓶が空になったから樽の上に置いていた酒瓶を手に取る瞬間、先程の揺れで瓶が落ちて割れてしまった事を。
こっちもこっちで魂が抜けたように、ただそこで立ち竦んでいる。八方塞がりの兵士達は何か考えようと集まる。
すると、先程まで黙っていた柊二が俯いたままだが言葉を発した。
「なぁ...」
「な、なんでしょうか!」
「マザーってのは...どんなやつなんだ」
「えっと、体長はおよそ5~6m。体重は6~700kg。見た目は三つ首の蛇みたいなやつですかね」
「そうか...」
「は、はい」
柊二は暫く沈黙を貫いた後、思いがけない事を言い始めた。
「そのマザーって奴は食えるのか?」
「...えっ?」
流石にここまで予想していなかった兵士も思わず呆気にとられた。
「どうなんだ?」
「はい、地元民の方が食べられるとは言っていましたが、何しろその大きさと見た目から怪物と呼ばれ、ここ何年かで口にした者はいないらしいですが」
「分かった...ジャカル来てくれ」
柊二はジャカルを連れて船の中に入っていた。二人共、普段と変わらない表情なのだが、何処か内に秘めた何かを隠している。
暫くすると、扉が勢い良く開かれると中から大量の槍を担いだ柊二と、戦場で愛用している大剣を手にしたジャカルが出てきた。
兵士達は彼らの眼を見た瞬間、身震いした。それは普段、戦場に立っている時の眼だったからだ。
柊二とジャカルはその手に武器を抱えたまま、兵士達の前に立つと一喝入れた。
「「マザー狩りじゃぁぁぁぁ!!!!」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「全く...お二人共、子供じゃないんですから。もっと立場ある威厳を持ってください」
「反省します」
「面目ない」
「それじゃあ私は解体作業を手伝いに行きますので。安静にしてないと駄目ですからね」
なんて言って副団長は出ていった。
「はぁ~、暇だな」
現在、二人がいる場所は船内にある一室。ここは薬品等が置かれている為に医療室として使われる事になった。柊二は簡易ベッドに身を委ねると、暇だと駄々をこねる。
「じゃ、ワシも行くから大人しくしとけ」
椅子から立ち上がったジャカルが上着を着ると部屋を出ていこうとするので、柊二は驚いて飛び上がった。
「待て待て、さっき安静にしてろって言われただろ」
「ワシは兄ちゃんより軽度だから、良いんだよ。じゃあ」
「ちょっと待ってくれ!頼むから!ジャカルー!」
ベッドの上で部屋から出ていくジャカルを呼び止めるも、その声は虚しく部屋の中で木霊する。柊二は怪我を負うのは平気だが療養や入院が嫌いだった。
理由は実にシンプルで、つまらないからだ。鍛錬や趣味にも没頭出来ず、ただベッドで横になるのが退屈で嫌いなのだ。
とは言え、柊二は額を包帯で巻かれる怪我を負った。マザーとの闘いは熾烈なもので2時間に及ぶものだった。
その時の闘いで柊二はマザーの頭突きをもろに食らい、吹き飛ばされ、背中を叩きつけられ、額を切った。動きたいが背中が痛くて無理な動きは出来ないのだ。
天井を仰ぎ、何かをする訳でもないが唯ぼーっとしていた。だが、次第に疲労感と睡魔が柊二を襲う。
『そう言えば最近まともに寝てなかったな....この際だ、体を休めた方がいいな』
そうと決まると自分の意志とは無関係に瞼が落ちてくる。彼が住んでいた世界、日本の布団と比べたら質は悪いが今の柊二にはそれ程苦ではなかった。
余程、これまでに溜まった疲れが酷かったのか柊二が寝付くまでにさほど時間はかからなかった。
話し声のないこの部屋は、耳を澄ませば錠剤がぶつかり合う音と体で感じる波の揺れ位。
そのまま柊二は寝息を立てて、体を休めるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぁ〜、....あ?」
どれ程経っただろうか。窓から差し込んでいた光は消え、今は小型ランプの小さな灯が部屋を軽く照らす程度だ。柊二が寝る前はまだ昼くらいだったと思うが、すっかり日が沈み、暗闇が天を包み込んでいた。
柊二は上半身を起こすと時間が経過している事よりも、先に自分の脇にいる彼女の存在に気が付いた。丁度柊二の腰の辺り、ベッドに体を預けるように寄り掛かるリノアがいた。
彼女は耳を澄まさなければ聴こえないほどの寝息を立てている。柊二が好奇心からリノアの頬を人差し指で突く。
「ぅ....ん」
余り力を入れないで柊二は突いたのだが、リノアは小さな声を上げるとゆっくりと目を開いた。口元には光る一筋の道がある。柊二は、手を自分の膝元に下ろすとリノアと対面する。
「良く寝れたか?」
「....」
まだ寝惚けているのか、リノアは柊二の存在に気づいていない様子で、ゆっくり辺りを見回してから、
「な、なななな!」
な、を連呼しながら顔が真っ赤に染まっていく。この後の彼女の行動はだいたい予想できる。柊二は、慌ててリノアを落ち着かせようと答弁を試みる。
「ち、違うぞリア?俺はお前の寝顔なんて見てないからな?」
「私を――リアと呼ぶな!!」
薄暗い部屋でパンッと高い音が響き渡る。彼女は違う理由で怒りを見せ、柊二は痛みのある体をうまく動かすことは出来ず、彼女の平手を直に受けた。
「で、あんたは何しにこの部屋に来たんだ」
ヒリヒリと痛む紅葉を擦りながら柊二はリノアがこの部屋に来た理由を問いただす。
「そうだ、貴様が寝ている間にこの船は目的の島に着いた。その件で貴様を呼びに来たんだ」
リノアは服装を正すとベッドに腰を掛ける柊二に対して見下すような形で事を進めた。
「そうか。あと一つ聞きたいんだが、どうして俺のベッドで―「それ以上口を開いてみろ、この剣で貴様の喉を斬り裂いてやる」
いつの間にかスッと伸びた剣の切っ先が喉に突きつけられている。彼女の目は本気だ。
「何でもないです....」
「それでいい、早く準備をして出て来い。私は先に行く」
リノアは剣を収めるとそのまま部屋を出ていった。柊二もベッドから降りると近くにかけてあった服を着る。
今の体に鎧はキツいと判断すると、そのまま部屋を出るのだった。柊二が部屋を出て甲板に向かう途中、食堂、資材庫、その他船室から一言も声が聞こえない。耳が痛くなる静寂に柊二は歩みを早めた。
甲板に出るドアを開けるとマストにぶら下がったランタンの光がぼやけている。船の端から周りの景色を目視する。小屋が幾つかあるがどれも半壊しているが、直せばいくらか使えそうだ。此処はかつて人間が開拓地として島を切り拓くための物資を集めていた港のようだ。
甲板に誰も居ない事から既に仲間達は島に上陸しているのだと知った柊二も、仲間達が降りる時に使ったと思われる梯子からゆっくりと降りていく。ボロボロながらも整えられている港、数日ぶりに地を踏みしめた。
港に掛かる桟橋を慎重に渡り、明かりの灯った大きな長屋に辿り着く。何やら中から愉しそうな声が外まで聞こえてくるので、柊二は扉を開いた。
中で行われていたのは、複数の焚き火を囲って仲間達が食事を取りながら談笑をしている光景。焚き火によって焼かれる何かしらの肉を食べ、酒を飲み、愉しそうな仲間達の光景がクラスメイト達と馬鹿やってた時と重なる。
『あいつら何してんだろうな....』
どこか懐かしい光景に心の何処かが痛む。そんな心境の柊二の元にジャカルが、酒瓶片手に近寄る。
「おう兄ちゃん、遅いじゃねーか。もう、飯出来てんぞ」
「あ、あぁ。悪いな、俺が寝てる間にやらせて」
柊二がジャカルに招かれるまま、一つの焚き火の元に連れてこられる。その焚き火には、既にフィートとリノア、副団長が座っていた。フィートは眼鏡を掛け、手に持つ本を読む。その眼鏡のレンズに真っ赤に揺れる炎が映っている。
リノアは焚き火に薪や小枝をくべ、火を絶やさないように番をしていた。その隣、フィートとリノアの間にいる副団長は、何かの切り身を枝に刺し、焚き火の近くで翳している。どうやら焼いているようだ。よく見るとあちらこちらの焚き火でも同じ物が同じ様に炙られている。
「みんな、遅れてすまない」
柊二がジャカルと共にその焚き火の近くに腰を下ろすと、フィートが読んでいた本を閉じ、眼鏡を外した。
「アルバート卿、体の方は大丈夫ですか?」
「だいぶ痛みも無くなったかな」
「それは何よりです」
フィートが微笑むと彼の特徴的な赤と金の髪が揺れる。彼曰く、地毛なのだと言う。よく良く考えればこの世界、ましてやこの時代に整髪料なんて存在する筈が無いのだから。
「オルテア様、夕餉の用意が出来ました」
そう言って副団長が手渡して来たのは、焚き火で炙られていた何かしらの肉。その身は先程と違ってしっかりと焼け、脂の滴るいい匂いが辺りを泳ぐ。
「副団長、この肉は?」
「これはオルテア様とジャカル殿が仕留めたマザーの切り身です」
渡された肉は比較的新しく若い葉の上に乗せられている。その肉は三種類あるが、どれも筋の線や脂身の量が違う。三種の肉が漂わせる甘美な香りが一行の食欲を刺激させてくる。
「皆さん、オルテア様をお待ちしていたのでここにいる人で手を付けた方はいません」
「なんか悪いな、みんな腹減ってるよな」
「ええ、お腹ぺこぺこです」
「ワシは酒が飲めればいいんだが、肴が欲しくてな」
「私は別に――」
空いてない、と言うつもりだったのだろうが、話の途中で本人の意思とは別に腹の虫が動いたのだ。
リノア自身は見る見るうちに顔を赤らめる。副団長とフィートは、必死に口元を抑えて顔を伏せている。ジャカルといえば、酒が回っているのか、元々の性格上、高らかな笑い声をあげていた。
「腹....減ってんだろ?」
隣で真紅に染まるリノアに声を掛けた方がいいのでは?と解釈してしまった柊二。わなわなと肩を震わせるリノアだったが唐突に、
「うるさぁーい!!!」
と室内に怒号が谺響する。初めは固まっていた空気も今では皆が打ち解けて、再び食事を取る光景に変わる。そんな様子のまま数秒間、黙っていた柊二だったが不意に、
『此処もそんなに悪く無いな....』
仲間達の愉しそうな声、やり取りは僅かに柊二の心を揺るがせた。元の世界には無い愉しさを柊二は肌で感じる。
これから先、延々と続く死闘が待ち構えていると知っているのは、先の未来からやってきた柊二だけ。だが、それは教えない。伝えてはいけないのだ。未来を変えるなどあってはならない事なのだから。
だが今だけは....この景色だけは変わらずにいて欲しいと、柊二は心底思いながら目の前の肉を口にした。
口いっぱいに広がる濃厚なのにあっさりとした味を柊二は、ゆっくりと味わった。この肉の旨さは、肉本来の味だけではないのだと柊二は心の片隅で分かっているのだ。
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