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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第3章:神話と伝説
31/42

31話:テニオラ防衛戦=魔導空艇を破壊せよ

だいぶ更新までに時間をかけてすみませんでした。今回は以前レビューで言われた戦闘シーンを自分なりに長めに書きました。m(__)m

現在、テニオラの壁上は工作兵と兵器製造者でごった返している。壁上だけではない、壁近くの高台にも沢山の工作兵達で騒がしい。彼等がしているのはバリスタの設置作業で、取り付けに参加出来ない者はバリスタ用の矢を作っている。


「皆急いでくれ、敵はいつ来るか分からないからな」


柊二は彼等を急かすように言葉を掛ける。柊二の言う通り敵はいつ来るのか分からない、皆その事は百も承知。自然と手を動かすスピードが上がるものだ。


「しかしまぁ、ワシが良かれと思って持ってきたこいつがすぐに使われるとはな」


ジャカルはそばに取り付けられているバリスタに手を当てて、撫でるように触れた。それらは以前から作られているのにも関わらず、兵器庫の奥で埃をかぶっていた所をジャカルに見つけられた。


◇◆◇◆◇◆◇◆

「緊急作戦だ、よく聞いてくれ。残党兵捜索用伝達兵からの報告により、敵戦力がこの街に向かってきているらしい」


柊二はジャカルを呼んで各隊の隊長を選別し、隊長に決まった兵士達を含めて作戦会議を開いた。


「敵戦力は聞くところによると上空を浮遊する魔導空艇らしい。偵察部隊を派遣したが陸戦部隊は確認出来ない。よって敵は魔導空艇のみ、又は空艇から降りてくる空艇部隊がいる事だろう」


「我々は壁上にバリスタと呼ばれる兵器――本来は攻城兵器だが、今回は対空兵器として使用する。一部の大砲も魔導空艇の高度が落ちてきた際に使用する」


「今回は4つの部隊を編成する。

1、歩兵隊は空艇部隊の警戒、対処。

2、バリスタは弓兵が使用する事。

3、工作兵は弾薬補充と兵器の修理。

最後に支援兵だが、敵もまんまとやられる訳が無い。何らかの攻撃法を持っている筈だ。その攻撃によって負った負傷者の搬送と治療を頼みたい」


「それと各隊で問題が起きた場合は俺かジャカルに伝令兵を寄越してくれ。他に質問は?」


柊二の問いに答える言葉は返ってこない。


「無いなら以上だ。総員速やかに行動してくれ」


◇◆◇◆◇◆◇◆

『作戦概要は伝えた...後はどう立ち回ればいいかだけ。敵空艇が街に近づく前に落とせればいいんだが、不可能に近いだろうな。となると、早期決戦か...』


街中心の広場には臨時司令部を設置、中央で広げられた街の見取り図を眺めながら険しい顔をしている柊二。司令部では柊二の他にも大勢の兵が戦闘に備えて物資の入った木箱を、壁のある方向に運んでいく。


「オルテア様、少々お時間宜しいですか」

「どうした?」


見取り図を眺めている柊二の元に1人の兵士が現れた。


「着々と各隊の準備は進んでおりますが、問題が発生しました。歩兵隊の1人が市民と小競り合いを起こした様で口論となっております」


彼の話では、バリスタ設置中に一市民が反対。突然現れた軍に街を荒らされた事を強く憎んでおり、暴動――とまではいかなかったが、彼の投げた石が一歩兵に当たった事で対立が起きたそうだ。


『戦争前に下らない事を起こさないでくれよ...』

「...分かった。そっちは何とか自分達で対処してくれ」

「はっ!それともう一つありまして...」

「まだ何かあるのか?」

「ソルティ少尉が折り入って話があると――」


畏まった兵士がそう伝えると彼の肩に少しの重さを感じた。振り返るとソルティ本人が立っており、肩に手を乗せていた。


「やはり自分で話そう。君は下がっていい」

「了解であります。これにて失礼」


フィートが笑顔で伝えると兵士は敬礼をし、司令部から離れていった。柊二は椅子に腰を掛けると陶器のコップに注がれていた珈琲を一口含む。


だが戦時中だからなのか、はたまた元々低品質なのか、柊二の知っている珈琲とは大分差がある。そんな不味い珈琲を飲み込むとフィートに話をかける。


「それで、少尉殿が私に話とは?」

「実は私が出兵する前に良からぬ噂を耳にしましたので。貴方は私よりも先に戦場に居ただろうと思い、知らせておこうと」

「噂とは」

「はい、実はメルセリアで貴族の中で王家を引き摺り下ろそうと目論んでいる輩がいると小耳にしまして。彼らの目的が何であれ王家に使える軍人として見過ごす事は出来ない」


柊二は腕を組んだまま何かを考えていた。その何かとはこの時代の歴史。


『殿下の話通りに歴史は進んでいる...だとしたらこのまま行けば王家は追放。王家一族は捕縛されて処刑か』


歴史を知っている柊二には結果がどうなるか知っているが、正直今は関係ない。今考える事は目の前の敵だ。


「少尉殿、興味深い話を有難う。しかし今は目先の戦闘に集中するべきだ」

「分かっています。ただ、この噂を知っておいて欲しいとの思いで。近い内に我々にも関わりが出てくるかもしれませんから」


それだけを言うとフィートは司令部から立ち去った。残った柊二は再び1人、作戦を練る事にした。


忙しなく街中の兵士や市民が動く中、遥か前方の空に悠々と佇む空挺。奴等が街に到着するまでそう時間は掛からないだろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あ〜、くそ...どうもスピーチってのは慣れないな」

「すぴぃち?何言ってんだか知らないがもっと大将らしくしな」


いつもながらの装備を身につけて剣を携える。人前に立つのが苦手――という訳でもないが、それなりに緊張をする柊二。その後ろにはジャカルに加えフィートがいた。


「指揮官たるもの部下の前では堂々と――」

「分かってるが緊張するもんはするんだよ」


一つ咳払いをすると司令部から柊二は足を踏み出した。目の前には整列した兵士が大勢いる。


「あー兵士諸君、我々の目標もすぐ目の前に近づいてる。だがここに来てひとつ大きな問題が我々の前に立ちはだかった。敵は巨大で空を飛ぶと聞く」


「しかし、俺達は立ち止まる事は出来ない!いや立ち止まる事は許されない!何故なら共に歩んできた戦友ともが見ているからだ!彼等の為にも俺達は生きて祖国を守る」


「その為には今よりも力をつけ、いつの日か敵を一掃する知恵、力、武器、そして勇気を身につける必要がある。それを行うにはこの街の船で行く島でしか出来ない」


「これを目標として進んで来た隣にいる友、亡くなった戦友達の遺志を継いで俺達は何としてでも生き延びる!これは生きる為の戦争だ、誰1人として欠けることは許さない!」


「皆、生きる為に戦え!!」


柊二が剥き身の剣の切っ先部分で石床を叩くと一斉に雄叫びが上がる。


準備は整った。各隊の兵士達も配置につき、誰もが敵を迎え撃つと意志を持って待ち続けている。


柊二も外壁の中央で目を瞑り仁王立ちをしていた。十字の左右に槍と剣の紋章が入った軍旗が見張り台の上で靡いている。


皆が前方の空を見つめる中、柊二は全神経を研ぎ澄ませていた。暫くしてふと、肌に触れる風の向きが一瞬だが変わった。


「...来るぞ」


柊二の直感は当たっていた。先程まで靡いていた軍旗が逆向きになっていたのだ。


「見えました!前方から敵空挺来ます!」


姿こそ見えないが山の上空に漂う雲の一部が暗くなっている。恐らくはその上にいるのだろう。


皆が見つめるそれは悠々と動きを進め、やがてその実体を現した。その姿に誰しも驚愕した。


「で、でけぇ」

「俺達本当にあんなのに勝てんのかよ...」


一部の兵士でどよめきが立つ。巨大な葉巻の様な物体、その下には長方形の箱のような形状をしたものがぶら下がっており、その左右には風車が取り付けてある。


その姿はまるで、

「ヒンデ〇ブルク号じゃねーか!」


柊二の持つ高校の歴史の教科書に出て来た飛行船とまるっきり同じだった。


両拳を痛くない程度に腰までの突起に振り下ろす。見慣れたものに期待が外れて悔しがる。


「異世界に来て魔法があるのを知ってから、きっと凄いのが来るのかとちょっと期待しちまった・・・」


正直な話、男である柊二も魔法を見てから知的好奇心を擽られて以来、現実世界にない物を見る度にワクワクしていた。だからこの時代に飛ばされても、きっと見た事の無いものが出てくると勝手に期待していた。


「オ、オルテア様は何を言ってらっしゃるんだろうか」

「さ、さぁ...だけどオルテア様の事だからきっと凄い事を考えているんだろうな」


誰もが見たことない飛行船を目にして驚いたが、同じ位に柊二に何かしら驚いた。


地上ではそんな事になっているなんて知らない空挺はゆっくりだが着実に街へ向かってきている。


「だがまぁ、正体が判ってれば怖くねーな。総員、警戒態勢!弓兵、目標 上空敵空挺!」


柊二の号令で弓兵がバリスタを操作し、射角を上げ、狙いを定める。バリスタの横についている手回し機で弦を引っ張り固定し、そこに大きなバリスタ弾を装填する。


無数のバリスタが空挺に矢の先を向けて準備完了。


「一斉射放て!」


柊二が合図を送ると全弓兵が引き金を引き絞る。勢い良く放たれた無数の弾は空挺目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。


だが、弾は目標に到達する前に呆気なく宙で砕け落ちてしまった。一瞬何が起こったのか理解らなかった柊二。しかし、よく見ると空挺の周りに光を反射する層の様な物がある事に気がついた。


『あれは...』


それに気がついた柊二は再び弓兵に命令を出す。再び放たれた弾はやはり空挺に到達する前に砕けてしまう。それはさっき柊二が気づいた層があると思われる場所。


「バリアとかアリかよ」


弾が砕ける理由、それは紛うことなき目に見えない障壁(バリア)の存在があるからだと柊二は確信した。バリアがある以上は、こちらの攻撃など通る筈もない。


対空兵器となるものを見つけた所までは良かったが、何しろどんな攻撃も通らないのでは話にもならない。正直な話、策なんてものはなくなっていた。


「オルテア様、敵空挺にダメージはありません。已然としてこちらに向かっております!どうなさいますか?」

「兎に角、今は撃ちまくれ!」


なす術なく無数の弾だけが飛んでは砕けを繰り返す。尚も空挺は進む速度を落とす事なく街に近づいてくる。


やがて空挺は外壁の上空まで来るとようやく歩みを止めた。


先程まで進んでいたものが止まると何事かと思い始める兵士達。だが次の瞬間、外壁の端に設置されていたバリスタが音を立てて砕け散った。


大きな音と地響きを立てたそこには球状に削られた岩があった。恐らく敵の兵器は重力を利用した自然兵器らしい。


「8号砲破壊されました!」

「総員一時撤退!」


唯でさえ少ない兵を死なせる訳にはいかないと、撤退を指示するが1人の兵士がバリスタに弾を込めていた。


「何やってる!早く避難しろ!」

「良くも仲間をやりやがったな!」


激昂した彼は1人でバリスタを操作すると空挺に球を飛ばした。恨みを込めた彼の弾も必然として砕け散るオチが見えていた。と思われたがそれは砕けること無く船底甲板に突き刺さった。


『なんだ?バリアがあるんじゃないのか?』


その様子を眺めていた柊二。しかし2発目の弾は宙で砕けた。そこで柊二はある憶測に辿り着く。


『そうか、ようやく攻略法が見えた』

「総員撤退中止!元の配置につけ!」


司令部の方へ向かっていた兵士達を引き留めると再度配置につくように伝え、


「誰か、軍旗と馬を用意してくれ」


何を考えたのか、又は頭でもおかしくなったのか、軍旗を持ってこいと頼んだ。何に使うのだろうと思いながら取りに行った兵士。


この状況を打開する為の案を思いついたのは彼しかいない。此処は柊二に懸かっていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「開門しろ!」


重低音を鳴らしながらゆっくりと門が開いていく。軍旗を取り付けた槍を片手に、もう片手で馬の手綱を握り締める。


重厚な門が馬に跨る柊二の背の高さまで上がると同時に柊二は手綱を思いっきり引く。馬は前脚を高く振り上げ、着地すると脚を進めた。


柊二は槍と体を平行に倒し、馬が門を掻い潜る。飛び出した先にあるのはどこまでも広がる草原。その地に蹄鉄を着けた蹄で跡を残すように走る。


柊二は旗を敵に見せつけるように大きく振りかぶりながら馬を走らせる。最初は見向きもしなかった敵も馬に乗っているのが敵指揮官だと判明すると、街から進路を変え、柊二を追うように行動する。


だが、幾ら脚の早い馬であっても巨大な敵空挺の攻撃範囲は計り知れない。次々に大小様々な岩が馬、もとい乗っているの柊二目掛けて降り注ぐ。


何とかして岩を避け、柊二は手に握る槍を高らかに空挺に突き向ける。


同時刻、敵の離れた外壁上の弓兵隊はフィートの指揮の元で動いていた。


「指揮官から合図が来た。弓兵隊、矢に火をつけろ!」


何を思ったのか木製のバリスタの上で弾に脂を塗り、火をつける。これではバリスタを無駄にするような行為であった。


脂の塗られた矢はみるみるうちに炎が立ち上がり、まるで生きているかのようだ。ただ、やはりと言っていいほどに、炎はバリスタ本体にも移り、焦がし、徐々に炭に変えていく。


前方で柊二が旗を掲げたまま馬を走らせている中、敵も柊二目掛けて岩を落としていく。


全ての準備が整い、フィートは弓兵隊に命じた。


「目標 敵空挺、一斉射撃!」


鋼鉄製ワイヤーが留め金が外れる。と、同時に張られていたワイヤーは元に戻ろうと反発する。力の働く中央に矢の筈が引っ掛かり、矢はワイヤーに押されてバリスタから飛び出した。その反動でバリスタの膨張した金具が外れ、次々に壊れていった。


宙を飛ぶ矢は進路を変えることなく真っ直ぐと進み、やがて空挺のガス袋に命中する。


するとどうだろう、燃える矢から火がガス袋に移り、みるみるうちに燃え広がる。布で出来ている袋は燃え、散々に炭となって空を漂う。


穴の空いたガス袋からはガスが抜け、空挺は維持することが出来ず、徐々にその高度を落としてくる。


「しかし、よくバリアが消える瞬間と空挺の弱点が分かったものですね。流石は指揮官と言ったところです...」


高度が下がり、落ちてくる巨体を眺めながらフィートはそっと呟いた。


◇◆◇◆◇◆

数十分前...


「少尉、敵の弱点が分かった」

「してどの様な?」

「敵空挺――飛行船と言うもので人が乗っている部分は鋼鉄製だが、あれの上部にあるもの。あれはガス袋と言って質量が空気より軽い気体が入った布袋なんだ」

「つまり?」

「そのガス袋に穴を開ければ気体が抜け、空挺は高度を維持出来なくなる。地面に落ちさえすれば、後はこっちのものだ」


意気揚々と力説をする柊二、それを腕を組んで聞くフィート。


「成程、攻略法は分かりました。しかし、奴に矢が到達する前に空で砕けてしまう。それではどう仕様もないのでは?」


フィートが心配していたのは、バリアの存在であった。バリアがある以上、幾ら矢を飛ばしても当たらなければ意味が無い。


「それについてだが、さっき一兵士の矢が船底に弾着した」

「一体何故でしょう?」

「俺の予想では、あのバリアは・・ての弾を通さないんだろう」

「成程、敵も攻撃をするには一旦そのバリアなるものを停止する必要があると」

「そういう事だ。そこで俺が囮として単騎出撃する。敵将を討ち取れば戦争は終わるからな。敵の目標は俺になるはずだ」

「その隙に我々が、という訳ですね」

「理解が早くて助かる。直ぐに馬と軍旗を用意してくれ。後、バリスタは消耗していいから火矢を飛ばしてくれ。布は燃えやすいからな」


そこまで来るとフィートは柊二の指示通りに行動する。異世界の知識がここに来て役に立ったと柊二は感謝した。


◇◆◇◆◇◆


柊二は馬の足を止め、頭上で燃え落ちる空挺を眺める。燃えきった場所からは、骨組みとされる鉄骨が剥き出しになっている。


敵を倒したことによるつかの間の安堵に浸っていると、遠く外壁上でフィートが両手を振っていた。柊二がフィートに気づくと彼は慌ただしく上――空に指を突き上げる。


「上?上になんか――」


その意味を取ろうと上空に再び顔を向けると、さっき見た時より空挺が近くにいた。


「...ヤバい!」


空挺は柊二に襲いかかる様に落ちてくる。まるで狙っているかのように。ようやく気づいた柊二が馬を走らせるが、既に遅かった。


墜落する空挺は柊二の頭上の殆ど間近まで迫っていた。そして遂に空挺はその重い体を地に伏せたのだ。柊二を巻き込んで。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

数え切れないほどの瓦礫、衝撃でひん曲がった鉄骨に捲りあがった土で辺りは形成された。燃えきっていないガス袋の袋が風に靡いてる中、地面では大きめな鉄板が押し退かされた。


「ゴホッゴホッ!」


柊二は空挺の墜落に巻き込まれておりながら、死ぬ事は無かった。殆ど奇跡とも言っていいだろう。


「あー、死ぬかと思った...」


一息溜息を吐いてから辺りを見渡す。荒んな光景に、自分は死んで地獄にでも来たのかと一瞬思ったが、数m先で少しの時を共にした馬が息絶えている。その様子から自分はまだ現実にいるのだと理解した。


「兎に角、ここから脱出しな――いて!」


ここにいてはいずれ文字通り蒸し焼きにされる。脱出しようと立ち上がる為に足に力を入れるが左脚に激痛が走った。


ふと見ると左の腿に直径1cm位の鉄骨が突き刺さっていた。動く度に内部に触れる鉄骨が筋繊維を刺激し、痛覚が疼く。体のバランスが取れずに腰を地面に落としてしまった。


「ちっ、参ったなぁ...」


天――黒煙が巻き上がる頭上を仰ぎ、どうしようもない倦怠感に襲われ、動く事さえも諦める寸前まで来ていた。


取り敢えず、柊二は小型ポーチに入れていた小さな水筒を取り出し、一口飲んでから、中の水を頭から被る。それと別にバンダナを取り出して口元をスカーフの様に隠す。熱防止と煙防止の為の処置だ。


『このままジャカルか少尉を待つのが得策か...』


近くの岩まで這いずり背をもたれる。今は唯、燃えるような暑さが襲う即席のサウナ部屋みたいなこの場所で、仲間を待つことにした。


ふと、柊二の目に留まった大きな箱の存在が何か引っかかる。


『何であれだけどこも凹んですらいないんだ?』


妙な違和感がある箱。その違和感は見事的中した。鈍い音と共に箱の側面が開き、側面の鉄板は地面に倒れた。


そして、それらは現れた。鎧を着込んだ7人の男達が咳き込み、ふらつきながらも姿を見せた。柊二の様に深手を負った者はおらず、皆が軽傷、又は無傷でいた。


『...少しマズイな』


自然と僅かに口角が上がり、苦笑してしまうが、それはあくまで自分が意識したものではなかった。


柊二はベルトに差していた日本刀を鞘ごと引き抜き、左脚に添えると、ポーチから出した包帯で、日本刀を左脚に固定する。耐え難い痛みが襲ってくるが、悠長なことは言っていられない。


一刻でも早くこの場から立ち去らなければ、今の状態で戦うのは到底無理だと自分に活を入れた。


そして軍旗の付いた槍を杖替わりにしてなんとか立ち上がると、背を向けてその場を立ち去ろうとする。だが、不意に強風が吹いてしまい、その大きな旗が泳ぐ。


「いたぞ!!」


その旗は敵を誘き寄せる役目を未だに果たそうとしているのか、はたまた神の悪戯なのか。そんな事は露知らず、柊二は足を引き摺ってまでして歩を進めた。


が、移動に不備がある柊二に比べて何事も無かった敵兵は柊二に向かって進める脚をどんどん早める。


軽く後ろを振り向いた柊二だが、敵の距離は縮まっていく一方だと理解すると、杖替わりの槍を敵に向ける。


「どうせ死ぬなら、一人でも多く殺ってやる」


戦う覚悟が出来た頃には、既に敵は目と鼻の先にいた。剣を振りかざす男の足に槍を回転させて脛に当てる。足をすくわれた敵の背中を槍で一突き。鉄を貫き、肉に突き刺さる感触が槍を伝って手に届く。


『まず1人!』


続けて二人の男が剣を構えて襲ってくる。右の男が剣を振り下ろすと槍を離し、手首を掴んで、敵の腕を敵の背中に回す。その手に持った敵の剣で、左から攻めてくる敵の剣を受け止める。


弾かれた敵は一歩後ろに下がった所で、腕を回された敵の剣をそのまま持ち主の背中に突き立てる。


体勢を立て直した片方が剣を柊二の顔目掛けて突き付ける。その腕を脇で抑え込むと空いた手を拳に変え、喉仏に思いっきり拳を放った。


喉に大きな衝撃を喰らった敵は、踠きながら地に伏せた。上手く息が出来ず、最後は窒息死となった。


『二人目、三人目!』


四人目の男は盾に棘付き棍(モーニングスター)を持っていた。右斜め、左斜めに繰り出される攻撃を紙一重で避けるが武器を持っていない状態では、盾持ちと殺り合うのは部が悪い。


柊二は左に飛び込むと、その先にあった敵の剣を拾い上げ、再び対峙した。腰を落として、剣をやや後ろに持ってくる。敵の猛攻を剣で受け流しながら、敵が疲れてくるのを待つ。


ほんの一瞬の攻撃が止んだ瞬間に柊二は大きく剣を縦に振り下ろす。そんな攻撃はお見通しだと言わんばかりに、敵は持っていた盾で攻撃を防いだ。


だが、次の攻撃が来ない事に違和感が湧いた敵は、頭上に構えた盾を若干下ろし、様子を見る。その瞬間、敵は迫ってくる剣先を目視し、ついには意識を無くした。


柊二はあえて盾に剣を置いて、敵がのぞき込んだ一瞬を狙って突きを放った。仮面にく覗き穴に柊二の剣が突き込まれた。


あの仮面の下にある現実は想像しない方がいいだろう。


『四人目...』


左脚に走る激痛が動く度に増していく。五人目の敵が目の前から走ってくるが、柊二は手の感覚だけでポーチから1本の小型注射器を取り出すと、鉄骨の刺さった皮膚の近くに針を突き立てた。


中に入っていたのは痛み止めで、全部入ったのが分かると容器をその場に放り投げ、敵を迎えた。


最初と同じく剣だけを持った男が襲いかかってくる中、柊二の左肩に一本の矢が刺さる。男の遥か後ろにはクロスボウを構えた敵が立っていた。そいつは二発目を撃つために矢をつがえている最中。


柊二は目の前の敵の攻撃を防ぎ、鍔迫り合いに持ち込むと、あえて奥の敵に背を向けるように動いた。敵からしたら美味しい瞬間であるが、柊二は敢えてこれを狙っていた。


大体の自分の感で、敵が撃ってきたと仮定して、目の前の敵の顔面に左拳を御見舞する。痛みで仰け反った敵の隙を見逃さず、持っていた剣を放り投げると、敵が剣を握っていた腕を再び後ろに回す。


それだけではなく、柊二は敵の首に自分の腕を回すと180度向きを変える。すると、感が当たったのか敵は矢を飛ばしており、矢を防ぐ盾となった敵の左胸部に命中。心臓部をやられた敵は息絶え、柊二は拘束を止める。


『五人目...』


味方を殺してしまった敵はほんの僅かの間だけ、呆気にとられて矢を番えるのを忘れていた。慌てて矢筒から矢を取り出すも、既に遅かった。


柊二は死体を解放すると、左肩に刺さった矢を折り、その場に落とした槍を拾い上げて、思いっきり宙に投げていた。


ようやく矢を装填した敵が柊二に向けて狙いを定めようとした瞬間、旗を靡かせた槍が胸を貫いてそのまま地面に突き刺さる。敵は、ほんの僅かだが息があり、槍を抜こうと腕に力を込めるが結局抜けないまま息絶えた。


『これで六人目...七人目はどこだ』


敵が事切れるのを見届けると柊二は敵の向かってきた方向を見る。だが、そこに七人目の存在が見当たらない。


「うおおぉぉぉ!!」


その刹那、真後ろから雄叫び共に突っ込んでくる最後の敵の姿があった。思わぬ背後からの奇襲に柊二は驚くだけで、そのまま敵に突き飛ばされた。


予想外の出来事に反応の遅れた柊二に敵が馬乗りになる。敵は腰から短剣を取り出すと勢いよく柊二に突き立てた。柊二はその手首を抑え、ナイフが刺さるのを阻止しようとするが敵も体重を掛けてくる。


そんな格好のまま1分程経つと、不意に敵が話しかけてきた。


「小僧、お前がオルテアか」

「くっ、そうだと言ったら?」

「参謀長官から話を聞いていたがこんな若造だったとは、思わなかったぞ。報告書通りの頭の切れる奴だ。我々の飛空挺を落とし、怪我を負って尚もわしの精鋭部隊を1人で片付けるとはな」


「敵に称賛を送ってどうする...っ!」

「そうだな...お前の物語もここでお終いだ。ゆっくりと眠るがいい」


敵はそういうと更に短剣に体重をかけてくる。当然、柊二の抑える腕にも負荷がかかり、耐え切れそうにない。


『ここで俺は死ぬのか。元の世界に帰れないまま...』


精一杯の腕の力も疲労で徐々に力が抜け、短剣の切っ先が少しずつ左胸部に近づいてくる。


「ぐっ...!」

「何も心配することは無い...そうこのままゆっくり...」


とうとう切っ先が鎧の装甲に沈み、血が湧き始めた時の事だった。柊二の背中に触れる地面が地響きを鳴らしていた。敵は馬乗りになっているからなのか、気づいていない様子。


『これは...!』


その振動は少しずつ大きくなっていき、やがて敵にもわかるほどの激しい地響きとなって襲いかかってきた。


「はっ!!」


燃え盛る獄炎の中から――正確には外から馬が飛び込んで来た。その馬は柊二達目掛けて突っ走ってくると、突然柊二に跨っていた敵兵が吹き飛んだ。吹き飛ばされた敵の首には一筋の切り傷が。


柊二は体を起こすと馬の方に目を向ける。まるで雪のような白馬に跨っていたのは、


「あんたか」

「・・・」


柊二の部屋に引き篭もっていた彼女だった。馬に乗った彼女は柊二を睨みつける様に一見する。すると、後から氷華団の副団長が飛び込んでくる。


「オルテア様!ご無事でしたか!」

「副団長...どうして?」

「ふふ、団長が仰ったんですよ。オルテア様を助けに行くと」

「なっ!私は別に...!」


そこまで言うと再び彼女は柊二を睨みつけて言った。


「勘違いするなよ、お前が言った通り共通の敵がいるから一時的に手を組むだけだ」


副団長に手を伸ばされて、その手を掴んで馬の後ろに跨る。


「ジャカル達はどうした」

「ジャカル殿は歩兵隊を率いて山岳地帯からきた伏兵と交戦中、フィート殿も弓兵を率いて援護に」

「そうか」

「おい、人の話をちゃんと聞け!」


柊二が自分の話を聞いていない、といきなり怒り出す彼女。副団長は柊二を街の治療施設へと送るつもりでいた。


「副団長、そいつを頼むぞ」

「了解しました、団長もお気を付けて」

「ちょっと待ってくれ、彼女は何処に?」

「団長と私以外の団員はジャカル殿の助太刀に」


彼女は馬を味方の待機している方角に向けた所で柊二は一つ聞きたいことがあった。


「なぁ、あんたの名前教えてくれ」

「名など...」「あんたって呼ぶのもなんか変だろ?」


少し引き攣ったような表情をしたが数秒後に彼女は自分の名を口にした。


「...リノア」

「ん?」

「くっ!私の名はリノア・アーカイムだ!」


たかが名前をいうだけに大げさな反応を見せるリノアと言う彼女。


「そうか...リノア」

「なんだ!」

「気を付けてな」

「怪我人に言われる筋合いなど無い。はっ!」


リノアは馬の横腹を踵で小突くと馬は勢い良く駆け出し、獄炎の中から抜け出した。


「我々もここを抜けます、しっかり捕まっていてください!」


柊二は彼女の腰に手を回して固定すると、馬はリノアと同じく獄炎を抜け出した。脱出する際に見た光景と、出てから見た光景は別のものであった。


今だ燃え続けている空挺の黒煙は巨大な狼煙となっている。こうして漆黒の聖騎士オルテアと同じく、柊二による歴史的な戦闘は幕を閉じたのだった。

ご閲覧ありがとうございます。


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誤字脱字も感想にて教えていただけると助かります。


これからも宜しく(*´ω`*)

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