30話:それぞれの戦う理由
最終投稿日から大分あいてしまいました。
すみませんm(_ _)m
「おーい、そっちの材木とってくれー」
「固定する為の部品はここに置いておくぞー」
港の造船所には沢山の造船職人達で溢れていた。加工された材木や船体に必要な鉄部品を運ぶ人やそれらを使って船を造る人。
正確には造ると言うよりかは直しているのが正しかった。何故なら港に残っていたのは今直している船だけで他は全て壊されてしまっていたからだ。
柊二達が一刻も早く島に向かいたいとのことで造船するより半壊した船を直した方が早いからだ。
「朝から精が出ますね」
「おうよ。あんた達にはこの街を救ってくれた恩があるからな。部下達総出でとびっきり上出来な物を造ってやるから待っててくれ」
「それは楽しみだ」
柊二は朝早くから造船所に立ち寄り修理がどれほど進んでいるのか確認し、そこへ造船所の指揮者が現れたので現状報告を聞いていた。
「それで、あとどれ位時間がかかる?」
「そうだな。このペースで行けばざっと3日だな」
「3日か...」
あと3日で済むならと考えるが柊二は少し焦りを見せていた。この街を解放してから今日で4日目。完成するまで街にいる滞在日数は合わせて1週間ほど。
これが意味するのは、今日を含めた修理日数の中で再び敵軍が攻めてくる日があると言う事。柊二は敵の襲撃に対しての防衛策を考える時間が殆ど残されていなかった。
『残り3日の中で襲撃があるのは確かだろう。だが敵の戦力、武装も分からないままで俺達の戦力は150人も満たない。幸い、こちらには剣、弓と矢が大量に残ってはいるが、いくら武器があっても兵士がいないんじゃ...』
柊二は造船職人達が休憩する小屋の前にあった木箱に座って考え込む。今迄は街の復興に兵力を割いてしまっていたので時間を食われたのに攻められなかったのは運が良かっただけ。
こうしている間も敵戦力がこちらに向かっているかもしれない、迅速に作戦を練らなければならなかった。
「オルテア様大変です!」
息を切らして走ってきたのはこの間柊二達が助け出した氷華団の副団長で、なにかあったのか慌てた様子で言葉を紡ぐ。
「なにがあった?」
「だ、団長が...」
「はぁ、分かった。すぐ向かう」
大きな出来事が続く訳では無いがこの様な小さな事で作戦を立てると言った本来の目的が果たせないまま数日が過ぎていたのは言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おう、やっと来たか」
「ジャカル、どうしてここに?」
「わしもそこの嬢ちゃんに呼ばれてな」
兵舎の一部屋の扉前で柊二はジャカルと鉢合わせた。その部屋は氷華団の団長(元は柊二が使っていた)の部屋で、ジャカルは柊二と同じく副団長に呼ばれたのだと言う。
「それで俺らを呼んだ要件は?」
「はい、実は団長の様子が以前と比べて落ち着いて」
「そこのどこが大変なんだ?」
「いえ、落ち着いたのはいいのですが今度は遠くを眺めるようになってしまい、私達団員の話も聞こえていないようでして」
「成程、そこで元々男嫌いな性格を刺激するために俺達を呼んだと」
副団長は静かに首を縦に振る。大体理解出来た2人は顔を見合わせると柊二は部屋のドアノブを握りしめ、ゆっくりと扉を開けた。
窓が少し開いているのか微風がカーテンを優しく揺らす。その隙間から外を眺めているのか彼女は動く事も無く、柊二達の存在にも気付いていないようだ。
「団長、オルテア様とジャカル殿をお連れしました...」
「・・・」
女性である副団長の声も通り過ぎるかのように彼女の耳には入らない。覇気の無い目で唯ひたすらどこかを見つめている。
「ご覧の通り、団長には私達の声も聞こえておらず糸の切れた人形のようになっているのです」
「おーい、嬢ちゃん見えてってかー?聞こえてるかー?」
ジャカルは団長の前で手を振り翳したり声を掛けるも無反応。柊二はジャカルが近づいても反応しない事で自分が行っても同じだと様子を見ているだけだった。
「こりゃダメだな。わしの友人もこうなった奴はいたが抜け殻みたいになって逝っちまったよ」
「し、死ぬんですか!?」
「いやいや、元々そいつは心臓が悪くてな。そのせいで死んじまっただけで団長様が死ぬ事は無いぞ」
「そんな事よりもこの状態はどうする」
「男性をお呼びしても駄目となってしまうと、もう打つ手がありません...」
「そうか、力になれなくてすまない」
「いえ御二方は何悪くありませんから。お力添え感謝します」
二人を呼んでも現在の団長に効果が無い事を知り、自分の不甲斐なさを心の中で悟ったのか副団長の表情は曇るばかりだ。
「それじゃ、わしは酒保にでも行かせてもらうぞ。兄ちゃんはどうする」
「俺は忘れ物を回収するかな」
ジャカルと副団長が部屋を出ていこうとするが、柊二だけは部屋に留まる。
「忘れ物?先程この部屋に来たばかりですよね」
「あの、ここが俺の部屋って事を忘れてます?」
「し、失礼しました」
それ程現在部屋を使用している人物がインパクトの大きい人だという事が良くわかる。
「では私もお暇させて貰います」
副団長が軽く会釈をして扉を閉めてから約3秒後、柊二は廊下に誰の気配もない事を感覚で捉えると振り返る。
「いつまで芝居を続けてる気だ?」
柊二はテーブルに置かれた瓶に入った水を未使用と思われるコップに注ぎながら言葉を掛けた。
「...いつ気付いた?」
彼女は返事をするが顔だけは向けようとしない。
「ジャカルが近寄った一瞬、君は動揺しただろ?副団長が近くによっても平然としていたが、ジャカルが側に寄った途端に心拍数の上昇、首に浮かぶ血管が僅かに動いた」
「つまりは動揺によって脈拍が増えた事で、俺達の存在には気づいているって事が分かった。まぁ、あの二人は気づいていないようだったがな」
「――つくづく可笑しな男だ」
「洞察力と集中力は嫌と言うほど鍛えされられたからな」
「私は男が嫌いだと言うのにそれでも近寄るお前は何が目的なんだ」
「――俺達は協力するべきだと思ってる」
「協力!?お前は正真正銘の馬鹿――いや、大馬鹿者だ!」
激昂で芝居の事などすっかり忘れた彼女はいつの間にか柊二の方を向け、声を荒らげていた。
「私の兵士達がどんな目にあったのか分かっているのか!?副団長の話では未だに心を病んだ者もいると聞く...そんな状態で戦えるとでも思ってるのか!」
「だから君達は戦えないと?」
「そもそも氷華団の団長は私だ。お前にどうこう言われる筋合いは無い!」
柊二も無意識だが段々と言葉が強くなり売り言葉に買い言葉で言い争いが激しくなってきた。
「戦うも戦わないも氷華団の行動は全て君にある訳か」
「そうだ、分かったならもう――」
出ていけ。そう彼女は言うつもりでいた。
「君の【男が嫌い】だからという理由で氷華団は逃げ出すんだな」
柊二の放った言葉は彼女の怒りを最大まで引き上げた。気づいた時には彼女は柊二を床に押し倒して胸ぐらを掴んでいた。
「貴様、氷華団を愚弄するのか!!」
「私的な感情に左右されて逃げ出すの団長の下に就く彼女達も臆病者――そう言う事になるぞ?」
「ならどうしろと言うんだ!敵は遥かに進んだ軍事力で我々の数を圧倒しているんだぞ!こちら兵は疲労して負傷者だって少なく無い!」
彼女の胸ぐらを掴む力が強くなる。その震える拳から彼女の混乱具合が伝わる。なす術がない状態に陥った彼女はパニックになっているのか焦りが見える。
だが、柊二は心配の言葉を掛けるどころか強い言葉で受け返す。
「疲弊しているのはこっちだって同じだ!」
「!!」
「最前線の戦いで生き延びた俺の仲間達は今よりもっといた。この街に来る間の撤退戦で負傷した奴もいれば、死んだ奴だっている」
「その窓から彼等を見てみろ。戦場に身を投じている筈なのに誰一人嫌な顔をしてない筈だ。何故か分かるか?」
柊二の言う通り外を見ると市民に紛れて負傷兵達が談笑しているではないか。それも傷の痛みなど気にもせず、イキイキとしていた。
「彼等は傷を受けようが国の為に戦う兵士だと自覚してるからだ。国を守るためなら我が身を顧みない、愛国心持った連中が俺の仲間達だ」
「君の部下は何の為に戦ってきた?名誉や武勲が欲しいからか?そんな奴はそこら中にざっといる。女性である身で戦場に立つのは同じ愛国心を抱いているからじゃないのか」
「俺達は共通の敵を持ち、同じ使命の元で戦う兵士。利害が一致するなら協力するべきだと俺は思う」
「...話はそれだけか。なら、もう出て行ってくれ」
彼女は柊二の上から退くとベッドに座って顔を伏せ、か細い声でそう言った。柊二も立ち上がると何も言わず――いや、言わない方がいいと思いその場を立ち去った。
先程の騒がしい部屋から打って変わって静寂が包み込む。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
元自室を離れた柊二は現在兵舎の執務室で報告書に目を通していた。
机に並べられた書類は物資の備蓄や街近辺の状況が殆ど。その中の一枚を手に取って頬杖をつきながら見ていた。
『ザルタ森林、モール山岳、アムネス村...周辺20km圏内で起きた戦闘発生地はこれ位か』
「オルテア様、伝達兵の準備が整いました」
「分かった、各員は日没迄に戻るよう伝えてくれ」
「了解しました」
柊二は近辺で起きた戦場に伝達兵を送り出すようにしていた。理由は敗残兵や負傷兵の回収兼誘導をする為だ。
ここの所、戦闘は起きているが味方正規軍が勝利したという報告は一度たりとも聞いていない。圧倒的な戦力差を見せつけられ、戦場で士気は落ち、逃げ出す者もいると聞いていた。
『殿下から教えてもらった歴史では、最後はメルセリアが勝つ事にはなっているが、神が死ぬまで持ち堪えることが出来るのか?圧倒的武力の前に心構えだけで戦えるはずが――』
そんな事を考えていると1人の兵士が入ってくる。
「お忙しい中失礼します。オルテア様、壁外にて残党兵と思われる隊がオルテア様に面会を求めています」
「敵でない可能性は?」
「殆どが負傷者でしてその可能性は極めて低いと」
「分かった、案内してくれ」
「ではこちらへ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「開門して彼等を中に」
「はっ!直ちに開門しろ!」
伝令兵の掛け声で扉を開く為のレバーを門兵が引く。重低音で開く扉の向こうにいたのは、さきの兵が言っていた通り負傷者ばかりの小隊だった。
「重傷者には担架、足を負傷した者には手を貸してやってくれ」
柊二の指示で、用意していた担架に重傷を負った兵士達を乗せ運び込む。次に軽傷者に衛生兵が応急処置を施していた。
「貴殿がここの指揮官か」
柊二の元に現れたのは若く凛々しい好青年。歳は柊二よりも少し上くらいだろうか。
「申し遅れました、私の名はフィート・ソルティ。メルセリア国第11歩兵師団所属、階級は少尉であります」
「それで、少尉殿が何故私の元に?」
「一つは敗残兵を保護する人物がいると耳に挟み、我々もそこの指揮下に入ろうと思った次第であります」
「一つと言うことは他にも何か?」
柊二が他にも理由を聞くと少尉の顔はみるみる青ざめてくる。まるで化物にでも鉢合わせたかのように。
「ここへ来る途中、我々は恐ろしく巨大な何かを見ました。山を下っていた時、酷い霧で視界の覚束無い中を歩いていると突然空が暗くなったのです」
「そいつはゆっくりと霧の中を進み山の方に消えて行ったのですが、その得体の知れない何かが存在する事を伝えに来ました」
柊二は俄に彼の話を信じていなかったが一応頭の片隅に入れる事にした。
「話は分かった。今は傷を癒すことだけに専念してくれ」
「有難い、そうさせて頂きます」
フィートは他の兵士よりかは、ほぼ無傷と言っていいほどに傷がなかった。返り血を見るに剣の腕は立つのだろう。彼の背中を見送ると壁上から街の外を見渡す。
『彼が言う物が本当に実在するなら対空装備も整えなければならないが...』
爽やかな風が広がる草原の草を靡かせるなか、遠くから土煙を立てて何かが近づいてくる。
正体は少し前に柊二が送り出した伝達兵の一人で、何やら慌てた様子で馬を走らせてくる。門の前で立ち止まると壁上の柊二に気付いたのか、早口で話してくる。
「大変ですオルテア様!」
「どうした、何かあったのか」
「ここから約20km先で謎の巨大兵器を確認されました!恐らくは敵のものと思われますが――敵兵器は上空にて浮遊、進路をこちらに向けているとの事です!」
彼の言葉を聞いて柊二は冷や汗をかいた。それはフィートが見たと言っていたものと一致し、彼の話が真実であったことを意味する。
「伝達兵!先に送った他の奴らには身を隠せる場所を探して待機しろと伝えてくれ!」
「了解しました!」
再び彼は馬を走らせ、みるみるうちに遠ざかっていく。柊二は焦り、困り果てていた。
『いよいよヤバイ状況になってきたな...』
「ん?兄ちゃん、そんなところで何やってんだ?」
振り返ると階段を登ってきたのはジャカル、その腕には何やら木製品が抱えられている。
「ジャカル、そいつは?」
「これか?こいつはバリスタと言ってだな、でかい矢を撃つための兵器だ。随分前にここの連中が作っていたみたいだが使われていなくてな、今は戦時中だし少しでも戦力に――」
柊二はジャカルに近づくと肩に手を置いて前後に揺すった。
「やっぱりお前は最高だよ!」
先まで色々と悩んでいた者の顔は新しい玩具を貰った子供のようにキラキラと輝いてる。
「そ、そうか。何でもいいが脳を揺らすのをやめてくれ」
これさえあれば勝てる!。ジャカルの持ってきた無数の兵器――バリスタがこれから始まる戦いの要になる事をジャカル自身は知る由もなかった。
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