3話:高校生活1(転入生編)
「アハハハ」
「それでな――」
賑やかな雰囲気が漂う教室に柊二は足を踏み入れた。複数のグループが存在し、他愛もない世間話をする者、静かに本を読む者、気だるさから机に突っ伏す者、宿題を忘れて答案を写している者など、ごく普通の光景か柊二の目の前に広がっていた。
「おーす天斬、朝からドンマイ」
「何だ吉田か」
「なんだとはなんだ、酷い奴だな」
席に座った柊二に声を掛けてきたのは前の席の男子生徒。
柊二の道場の門下生である吉田。
性格は陽気な為、柊二の爺ちゃんと仲が良い。
商店街の吉田さんの息子。以上
「ちょっ、俺の扱い酷くない!?」
「お前もうちの妹も何処に向かって言っているんだ...」
「ところでよ、今日転校生が来るの知ってるか?」
「転校生じゃなくて転入生だろ、まあ知らなかったよ」
「はぁ、お前本当に女に興味無いよな」
「いや、そうでもないが」
別に女性に興味が無い訳では無い、かと言って意識する程の事でもないので女性の話題について気にならない彼は適当に流しつつ、鞄の中身を机の中へと押し込んだ。
「お前、意外とモテてるの知らないのか?」
「?」
「はぁ、なんでお前みたいな奴を好きになる人がいるのかねぇ」
「俺みたいなって酷いな」
「うるせぇ!なんで俺はモテn」
「はぁーい、席ついてー」
落ち着きのない吉田とは対照に、妙に落ち着いた声を発するのは彼のクラスの担任だ。
「今日は転入生がこのクラスに来ます、みんな仲良くね〜」
「よっ!待ってました!」
「吉田君、席に付かないと床に膝をつく事になるよぉ〜」
「おぉ〜、怖いけど可愛いよ桃ちゃーん!」
毎朝見る普段の流れ。女性に目がない吉田が誰これ構わず口説こうとするのは柊二にとっては見飽きたもので、呆れたのかため息1つと肩を落とした。
吉田を抜いた周りの生徒が静まり返った頃、前のドアが開かれる。
その瞬間、柊二の目を奪われた。薄い青がかった髪、高い鼻、整った口、そして何よりも大きくて蒼く輝く瞳。その瞳は全てを見透かす事が出来そうにも見えて、深く吸い込まれそうな感覚もあった。
アニメや小説に出てくる美少女や美女という単語より女神と言っていいほどの容姿に柊二は言葉も出なかった。
だがそれと同時に違和感を感じていた。いくら美しい容姿とは言え、彼女から感じる目には見えない何かが柊二の意識を釘付けにしていたのだ。まるで一般人とはかけ離れた何かを。
「・・・ぎり!」
「おい、天斬!」
目の前の女生徒から意識を奪われていた所、吉田の声が柊二の意識を引き戻させる。我に返った男の額には僅かな汗が滲み出ている。
「どうした吉田何かあったか?」
「どうしたってお前、こっちが聞きたいよ。急に魂が抜けたみたいに動かなくなってよ」
声を潜めて会話する男二人を他所に、教壇に立つ転入生は黒板に名前を書くと振り返って口を開く。
「こんにちは、今日からここに転入しますレミア・フォンス・フォルテシアです。レミアと呼んでください」
「キャー、可愛いー!」
「マジ天使!」
「俺、一目惚れしたかも!」
透き通った声に女子も男子も彼女について様々な反応を見せている。先程まで静かだった教室は始めの騒がしさを取り戻した。
「はー、あんな可愛い子がこの世に存在するなんて!」
「落ち着けよ吉田」
「なんでお前は落ち着いていられるんだ!あんな可愛い子が目の前にいるんだぞ!?」
「誰がいようと騒ぐことでもないだろ?」
「だからお前は男好きって言われるんだよ」
「おい!それ誰が言ったから教えろ!」
半分抑えの利かなくなった教室で彼女の話は持ち上がり、しまいには彼女の存在は学校中に広まり、たちまち噂になった。
教室中が騒がしい中、彼女はある1人の人物を見ていた。
「彼が天斬柊二...」
クラスの中央、男子生徒に言い詰めるもう片方の男子生徒に向けられた視線。当の本人は知る由もない。