27話:灰降り積もる空、荒廃した世界
どうも太古です。
私は余りアクセス数を確認したりしないのですが、今朝見てみましたらなんと!
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もう嬉しいのなんの。いつもありがとうございます。
<(_ _)>
「・・・きろ!」
誰だ、叫んでいる奴は...。
「おい兄ちゃん、起きろよ」
目の前の鎧を着た中年男性が柊二の肩を揺すって起こす。鉄と鉄が擦れ合う音が何とも不快だ。
「兄ちゃん、見ねぇ格好だな。どこの出身だ?」
ガタガタと揺れる荒地を荷台に乗せられて運ばれているこの状況に柊二は頭をフル回転させて、男性を問い詰めた。
「おっさん、ここは何処だ。なぜ俺達は運ばれている。何処に向かう。何がどうなってるんだ」
「おいおい、落ち着け。そんな状態じゃろくに戦えねぇぞ」
男性は至って冷静な態度で柊二を抑える。
『ここは何処だ。さっきまで俺は教会にいて、円に――、そうかあの円がこの訳の分からない状況を作った元凶か』
ようやく頭を落ち着かせて、身に置かれた状況を再確認し始める。
「なぁ、俺達はどこに向かってんだ」
「何処ってリコンだよ、リコン村」
「何しに」
「何って...兄ちゃん、大丈夫か?戦争に参加したからこの部隊にいるんだろ」
男性は懐から紙筒を取り出すと口に加えて、筒の先をちぎる。すると、忽ち煙が立ち上り、男性は大きく吸い込んで吐き出した。
「戦争?どことどこが?」
「兄ちゃん、本当に頭でも打ったのか?悪の神が戦争をふっかけてきたのが始まりだろ」
その時、柊二は男性の話を聞いて冷や汗をかいた。男性の話を聞いて、どことなく完成していたパズルにラストピースがハマった。全ての現状を理解したのだ。
『つまり、俺は殿下達が言っていた【神の大戦期】に来たって言うのか?』
こんな馬鹿な話があるか、なんて思ったがこれは現実だった。何とも言えない虚無感に襲われ、柊二は唖然として景色を眺めていた。
何処までも続く灰色の空、荒れ果てた土地が荒々しさを物語る。
「どうした兄ちゃん?――おかしな野郎だ」
男性は未だに咥えた紙筒から空へ煙を立ち上らせていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いいか!私の合図で突撃だ!」
リコン村の各民家に柊二を含めた兵士達が息を潜めて、敵が来るのを待っていた。各隊の隊長の合図で村に入ってきた敵兵を攻撃するといった、奇襲作戦だ。
「祖国の為に!」「我々は闘うぞ!」
血気盛んな者達もいれば、
「死にたくない、死にたくない」「母さん、ごめんよごめんよ」
死を恐れて泣き叫ぶ者もいる。
そんな中、敵の小隊と思わしき集団が村に入ってくる。全員、剣を引き抜くと突撃準備をする。
敵小隊が村の中心に来る。そして隊長の合図が鳴り響いた。
「突撃〜!!」
一斉に各家から飛び出す兵士達、いきなりの敵の出現に相手は混乱を起こした。
味方の一人が敵兵を切りつけようとした瞬間、
バァン!バァン!と敵小隊の周りで爆発が起こる。至近距離で巻き込まれた味方は、無残な姿に変わり果てた。
柊二も爆発に巻き込まれたものの、距離があったからか爆風で吹き飛ばされた程度で済んだ。
叩きつけられた全身の痛みを堪えてなんとか立ち上がる。その先に見た光景は余りにも残酷なものだった。
「これが...戦争...なのか」
柊二は初めて見た光景に、臆することは無かったが忘れる事の出来ない記憶を刻んだ。
「うぉぉ!死ね死ね!」
柊二が立ち竦んでいると1人の敵兵が剣を構えて走ってくる。焦った柊二は敵の振り下ろす剣で浅い傷を受けた。しかも、その拍子に後ろへ倒れてしまう。
それを絶好の機会と捉えた敵が再び剣を振り下ろすが、柊二は倒れた時に手元に落ちていた剣を拾い、相手を貫いた。
「う...ぐふっ」
口から垂れ落ちた血が顔の横を通り過ぎる。伸し掛る敵の骸を横へ落とし、突き刺した剣を引き抜いて立ち上がる。
柊二の手は汚れていた。敵の生暖かさの残る真っ赤な血で。足元には焦点が外れ、ピクリとも動かない敵。
『俺が...殺したのか。この手で...』
正当防衛、祖父からの教え、自分を正当化する言葉などいくらでもある。だが、柊二は忘れないだろう。
同じ人間の命を奪った事を。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・・・」
柊二は井戸の淵に腰を掛けて、空を眺めていた。雨でも降るのかと思わせる灰色の空は、今もどこかで物が焼かれ、排煙が空へ上がっているのだろうか。
「どうした兄ちゃん、そんな所に座って」
「...おっさん、生きてたのか」
「あんな爆発でワシが死ぬか。ところで兄ちゃん、なんか抱えてるだろ」
馬車の荷台で同じだった男性が隣に来て、あの時の紙筒を吸い始めた。
「言わなくてもわかる、初めて人を殺したんだろ」
「...確かに俺は初めて命を奪った。だが、何故か心が痛くないんだ。今もまだこの手に感覚が残ってる、なのに...」
柊二にとってあの感覚を一生忘れないものとなったが、何故だか心が痛まない。それを不思議に、そして怒りを覚えていた。
「俺は人間として何かが欠けているのか」
柊二は罪悪感、慈悲の心がない人間なんだと気づいてしまった。
「...いいか、これが戦争だ。どちらかが死ぬまで戦いは続く。情けをかけてたら自分が殺られる。そういう世界にお前は来たんだ、覚悟を決めろ」
男性は柊二を叱る訳でも慰める訳でもなく、ただ戦争がなんなのかを押してた。
「さて、これから兄ちゃんはどうする?我らの隊長さんは、逝っちまったし、ワシ達にやることは無くなったぞ」
「俺は――」
柊二は今の自分に何が出来るのか考えた。そして周りを見渡す。彼らの周りには先程の戦いで傷を負った兵士が無数といた。
「俺は負傷者を連れて何処か安全な場所に向かう。今の彼らには戦うほどの気力はない、なら治療できる場所が必要になる」
「ふむ、それならここから数十km先の島に行くといい。あそこなら誰も手をつけていないし、身を潜めるなら最適だ」
「おっさんはどうするんだ?」
「ワシもやる事がなくなっちまった以上、兄ちゃんについて行こうと思ってる。わしが思うに兄ちゃん、あんたはきっと大物になるぞ。だが、今すぐには無理だ。だからワシが兄ちゃんを鍛えてやる」
男性は鎧の胸部を力強く叩く。この時代で初めて心強い味方が出来たことが、今の柊二にとって最善だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ここまで密偵が来てるとは...奴らの行動力を舐めてたな」
「どうすんだ?今動けるのは俺とおっさん含めて約30人だけ...、無理に突っ込めば殺られるのはこっちだ」
「わしに考えがある。まず弓兵はここで待機、歩兵は装備を短剣のみにして椅子や箱へ」
「弓兵の(配置の)意味は分かるが、歩兵をそこに置く意味は?」
「椅子に座って目の前を通った敵を倒し、椅子に座らせる。箱は中から引きずり込んで中で倒せば死体は見つからない」
空き家の中で街の地図を広げ、兵士の配置場所を決める。空き家に置き捨てられた古ぼけた地図、柊二は見た事があった。
『港から役所までの街道、商業区と工業区。実際に見ただけじゃ分からないが地図で見ると、この港はかつてのテニオラなのか』
少し前まで任務でテニオラに来ていた柊二。詳しい年表までは知らないが、神の大戦期はおよそ1500年も昔だったとフレイヤが言っていたのを思い出した。
「兄ちゃん聞いてるのか?」
「あ、ああ、すまない。もう一度頼む」
「しっかりしてくれ。ワシは一通り密偵を潰したら歩兵を連れて街の近くに引き返す。街には民間人が多すぎるからな。そしたら弓兵を外壁まで連れていき敵弓兵を倒す。その後、敵歩兵がワシらの元に向かったら、背後から味方弓兵が敵を撃つ」
「成程な、所で俺はどうすればいい?俺も歩兵に回ろうか」
「兄ちゃんは弓兵を率いてくれ」
「...自分で言うのもなんだが、俺もそこそこ剣が使えるぞ」
「そうじゃない、大将の命取られちまったらそれこそ終わりだ」
男性は真面目な顔で話したが、柊二は違和感を感じ、違和感に気付いた。
「待ってくれ、俺が司令官だって?」
「おうよ、この街に来るまでの撤退戦、各兵への適切な対応。どれをとってもワシらの大将だ。こいつらだってそう思ってる」
「俺達は自分で選んで兄ちゃんに付いてきてんだ」
「兄ちゃんになら、命を預けてもいいと思ってんだからよ」
柊二や男性の後ろに立つ味方兵士達は一同に頷く。戦場での対応、負傷兵への対処、柊二の取った行動を見ていた彼らは満場一致で柊二を司令官にするつもりでいた。
「本当に俺でいいのか?俺みたいな若僧よりおっさんの方が...」
「ワシは大将になんて向かんよ。寧ろ、戦う方が気楽でいい」
自分の大剣を笑いながら叩く。男性は自分の身長よりも少し長く、それでいて厚い大剣を戦場で振り回す。
ここまでくる間に柊二は彼の戦いぶりを見たが、一気に敵を薙ぎ払う姿は正しく豪将の技。
「さて、作戦会議はここまでにして皆、夜に備えてからだを休めておけ。奇襲するなら夜ってな。」
男性の一言で兵士達は1階、2階の床に各員散らばって体を休めに行った。負傷兵は地下に集めたベッドに寝かせる。それでもベッドの数は足りず、床に御座を敷いて寝かせなければならない兵達もいる。それ程迄に負傷兵の数が多いのだ。
「おっと、兄ちゃんは待ちな」
「まだ何かあるのか?」
「まぁな、確かここに...おお、あったあった」
男性は床下の板を抜くと中から酒瓶を取り出した。
「どうやら前の住人が忘れていったようでな、ちょっと付き合ってくれや」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夕暮れの差し込む窓際で男2人は話をしていた。
「かぁ〜!なかなかの酒じゃねぇか」
「数時間後には戦闘になるって言うのに、のんびり酒なんて飲んでていいのかよ」
「ハッハッハ、明日死ぬかもしれないんだ、だからこそ呑むんだよ。そこんところはまだまだ若造だな」
「...うっせー」
なんとかこの街まで着いたが、極限の物資不足が応えてきた現在に酒の肴になる様な物は無い。男性は酒を浴びるように飲んでいた。
「――俺を呼んだのはただ酒に付き合わせる為じゃないだろう?」
「察しがいいな。ちょっとワシの昔話でも付き合ってくれ」
「断る理由もないしな」
柊二は短く息を吐き、男性の話に耳を傾けた。
「ワシはガキの頃はヤンチャでな。しょっちゅういろんなやつと喧嘩してもんだ。戦うことで自分を見出すことしか出来なかったんだ」
「それから兄ちゃんと同じ歳ぐらいで傭兵を始めたんだ。毎日毎日、気が狂う様な訓練ばかりで飽き飽きしていた。俺はこんな事をする為に傭兵になった訳じゃない、戦いたくてここに来た。なんて思っていた」
「そんなある日、近くの村と村で小競り合いが起きてな。ほんとに小さなきっかけだったが、突然争いになったんだよ。農具片手に殺し合いが起きた所にワシを含めた部隊が止めに行ったんだ」
「だが、奴らはワシらの武器や防具をみるといきなり襲いかかってきた。いきなりだったから分からなかったが、今となれば良い武具があれば主力になると思ったんだろうな。ワシの友達は皆死んじまった」
男性はどこか寂しそうな表情で酒瓶を揺らして中の酒が揺れるのを見ていた。
「ワシは友を殺された激昂で向かってくる奴等を殺し回った。そして気がつけば、足元に転がっていた骸の山々。その中には襲ってこなかった筈の女子供も混ざっていた」
「ワシは関係ない人々を巻き込んで村一つを消してしまったんだ...。その景色はだいぶ応え、傭兵を辞めて以来ずっとあの夢を観る...」
男性は一口さけを呑み込むと真面目な顔で柊二に伝えた。
「兄ちゃん、初の戦闘で人を殺したと思うが――、正しい選択なんだ。お前に向かって迫る敵の目を見たか?人によって、怒り、畏怖を隠し潜めている目をする」
「少なくとも奴らも人間だ。死にたくないから敵を排除する、この考えは敵味方関係ない。兄ちゃんに向かった敵も死にたくないから殺そうとした。なら、兄ちゃんも殺されるのが嫌で殺した。違いないだろ?」
「俺は...違うとは言えないのかもしれない。あの時、俺がただ見ているだけだったら今ここに俺はいない。こうして生きているのは、俺が奴を殺したからで正しい選択だったのだろうか...」
頭の中は善悪の区別ができなくなってしまい、複数の倫理と感情が複雑に絡まりあってしまう。
だが、男性はそんな気持ちになったのはとうの昔の話で、自分がどう乗り越えたのかを伝えた。
「兄ちゃん、もし人を殺した事で悩むなら――」
「そいつ等の分まで生きろ。全ての業を背負ってただ前だけを進め。だが忘れるな、お前の進む道の背後にはお前の殺した人達が伏せている。後ろに戻ることは赦されない、それこそ死者への冒涜だ」
「死んでいった奴らのことを忘れるな。お前は奴らの命、人生を奪ってまで生きているんだ。それが人を殺してまで進む生き方だ」
男性は柊二の求めていた答えを既に見つけていた。傭兵時代から今日まで彼はこうして生きてきた。戦場でただ剣を振るって敵を屠る訳じゃない、その後の後悔を彼なりの考えで乗り越えてきたのだ。
「――すまない、おっさん...。」
「なに、兄ちゃんと同じ境遇になった事があるだけさ。さぁ、兄ちゃん呑み直そうぜ」
辛気臭い話をしたせいか男性の酒の進みは最初に比べて遅くなっていた。
「そうだ、酒を酌み交わさいか?」
「酌み交わすって――、俺はまだ未成年だぞ」
「固いこと言うなって、ほら腕を回せ」
柊二は受け取ったコップに半分程酒を注いでもらい、男性と腕を組んだ。
「そういやまだ自己紹介をしてなかったな。ワシはジャカル」
「俺は――」
天斬 柊二だ。と答えようとした。だが、ここが過去の世界なら本名を使えば元の時代に柊二の名前が残ってしまう危険性があった。
だから、
「俺はオルテア。オルテア・ファル・アルバートだ」
この時代を生きた英雄の名を借りた。
「オルテア...いい名じゃないか。兄ちゃんにピッタリだ」
「煽てるのは止めてくれ」
「それじゃ、老兵ジャカルと騎士オルテアの出逢いに」
「「乾杯」」
刻々と日が暮れる中、オルテアとジャカルは酒を酌み交わした。信頼できる友との対面とこれからの戦闘を意味して。
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