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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第2章:皇女殿下の意志
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23話:行方の途絶えた姫

「各班は周辺の警備、その他団員は付近の通路と裏路地をパトロール。くれぐれも警戒を怠らない事、以上。」


早朝から再度作戦の確認を済ませて、各団員は自室として使っている部屋に戻って装備を整えに戻る。


柊二も自室に戻って装備を整える。ブーツを履き、篭手をはめ、国王から贈られた柊二だけの鎧ローブを身に纏う。


そしていつもの様にベルトに二つの刀を携える。


だが、

「...こいつは置いていこう」


そう言ってベッドに置いたのは、木刀の方だった。どんな時も使っていたのは木刀。刀を使えないのは昔のトラウマによるもの、それなのに木刀を置いておくのには理由があった。


木刀なら何のためらいもなく扱う事が出来るが、元の世界での戦い、レオとの決闘、魔剣舞祭マジェスティアでの使用と木刀を使い続けてきた為にかなり消耗していた。


それに木刀よりか刀の方が人に恐怖感を与える影響力は段違いである。


刀を剣帯ベルトに固定して、自ら任務を果たすべく、柊二は部屋を後にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「これより作戦を開始する。総員配置につけ」

「「「了解!」」」


団長アリシアの号令のもと、団員達は決められた場所へ配置につく。婚約式会場は聖堂ではなく、特別に野外に作られた会場で行われる。


団員は会場を囲む班、その近くを哨戒する班の2班で構成された騎士団はそれぞれの任務を遂行するべく、警戒を怠らない。


騎士団が配置に着くのと同時に、会場に街の神父が上がり、一度会釈して開会式を始める。


「これより、聖メルセリア皇国皇女 フレイヤ・フォト・メルセリア様とルクセント国フルハーフ家ご子息 レイス・ニア・フルハーフ様の婚約式を致します」


「この婚約式は両者互いの愛を誓い、いつの日か結ばれる事を前提とした式であります」


神父は手元にある文集を読み上げる。会場の周りには式を一目見ようと街の人が集まり、神父の言葉を静かに聞いていた。


「では、まず始めにレイス様 壇上へお上がり下さい」


そう言われて上がってきたのは、一番と煌びやかなスーツを見に纏った好青年だった。顔立ちの良いイケメンな好青年に街の女性達が声を上げた。


「彼が殿下の婚約相手になるレイス様よ」


柊二とアリシアが同じ班となり、彼等は壇上の角に立っていた。手を腰の後ろで組んだ体勢のまま立っている柊二に、アリシアが耳打ちをしてきた。


『彼が殿下の婚約者か』


体の動きは止めたまま視線だけをレイスに向ける。1歩また1歩と階段を上がる様子を見てると、レイスの視線とぶつかった。


『なんだ、こっちを見たのか?』


ものの数秒だったがレイスは柊二を視界に捉えると、僅かに口角を上げた。柊二はそのことには気が付かなかった。


「次にフレイヤ殿下 お上がり下さい」


神父はフレイヤに壇上へ上がるように言い放った。新郎とは別の道から来る為に全ての人がそちらに顔を向けた。


「...フレイヤ皇女殿下?」


しかし、神父の言葉に反応する事がなく、その道にはフレイヤの姿が見当たらなかった。


一瞬して会場はどよめき始めた。町民も騎士団員も揃って今の状況が理解できないようだ。


「アリシアさん、殿下はどちらに?」

「おかしいわ、想定外よ」


柊二もアリシアもこの状況に疑問を持っていた。そこへ1人のメイドが駆け足で壇上近くに寄ってきた。


「ハァ...ハァ...殿下が何処かへ...」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「おい、見つかったか?!」

「いや、そっちはどうだ?」


団員達が街のあちこちを駆け巡る。それもその筈、先程のメイドの一言で事態は予想外な方向へと向かってしまったのだ。


アリシアは即座に式を中止させ、団員を集めて作戦を変更した。作戦内容は勿論、皇女殿下の捜索及び保護だ。アリシアは団員たちに各々が単独でフレイヤを捜索するように言った。


勿論、柊二も有無を言わずに走り出していた。


今は会場からそう遠くない街路を走っていた。時には会場に来なかった町民の人にフレイヤの事を聞き回っていた。


「何処ですか...殿下」


国王からの命令でもあるが、柊二自身がフレイヤを心配しての捜索だった。だが、多くの町民に訊ねるも答えは全て「見ていない」と言う。全く手掛かりが無い状態であった。


街路、裏路地と様々な場所を探してみるも、一向に見つかる気配がない。


本格的に焦りを見せてきた柊二だが、

「皇女殿下を探しているんだろう?」

突然、背後から声を掛けられ、柊二は前方に飛び跳ねて身体を後ろに捻るも、そこには誰もいなかった。


「無駄さ、アンタには俺の姿は見えないよ」

それでも低く響くような声はハッキリと聞こえてくる。


「お前は誰だ?」

「そうだな、俺はこの地に眠る思念体と言うべき存在なのだろう」

「それで?その思念体がどうして殿下の居場所を知っているんだ?」


警戒を解かずに柊二は、自身を思念体と呼ぶ者に問いかける。


「教えてやってもいいが、一つ条件がある。お前の記憶を見せてくれ」

「俺の記憶だって?一体何の意味が...」

「理由なんてどうでもいい。どうだ、取引しようじゃないか」

「...分かった、だが先に殿下の場所を教えろ」


思念体の言う記憶を覗かせる行為には、些か不安もあったが背に腹は変えられない。今は殿下を見つけることが最優先だと考えた結果、柊二は了承した。


「良いだろう、彼女は港にいる。どうやら今も1人みたいだな」

「良かった...」

「さぁ、取引通りにお前の記憶を見せてもらおう」


ほっと胸を下ろす柊二に、いきなり激しい頭痛が伴った。その痛みは、次第に強くなっていき、最後はあまりの痛みで柊二はその場で気を失った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目が覚めると柊二は見た事の無い景色を眺めていた。

燃え盛る城、その中で幾多の敵を薙ぎ倒す血塗られた男。その男の顔を見ようとするものの、クレヨンで塗りつぶしたかのように顔だけが見えなくなっていた。


男の後ろには、男に殺されたと思われる死体が何百と倒れていた。男はただ迫り来る敵を光り輝く剣で次々に切り伏せる。敵の血が飛び散る中でその剣だけは、光を失う事なく輝き続ける。


「誰だ?俺は何を見ているんだ...――現実じゃないよな」


一人称視点で見える景色は、まるで自分が戦場にいるのだと錯覚させられる。


敵も男も柊二には目もくれず、お互いに斬り合いを続けている。


「これは誰かの記憶...なのか?」


柊二は男に向って走る兵士の1人に触れようとする。そして、指先が触れた瞬間、その景色は崩壊を始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「――ッ!」


崩壊が終わると同時に柊二は意識が戻った。それに頭痛も無くなっていた。それでも脚がふらつく為、壁にもたれながら立ち上がり、思念体に声をかける。


「さっきのは一体何だ?それと、さっき「記憶を見せろ」と言ったよな?俺を騙したのか、――黙ってないでなんとか言えよ」


柊二が思念体に話しかけるが、返事はない。奴は既にこの場から居なくなっていた、そもそも思念体の声が聞こえていたのは柊二だけだったのかもしれない。


その証拠に裏路地でボールを蹴っていた子供が、不思議そうに柊二の事を見ていた。まるで無いもない空中に話しかけている青年を不思議そうに。


「取り敢えず殿下を迎えに行こう、――どれくらい経ったんだ?」


裏路地から出ると、未だふらつく足取りで港へ向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

柊二が港に着く頃には、丁度空が夕焼けとなっており、海の景色が映えていた。


近く漁港では漁師達も水揚げ作業を進めており、今日捕った海産物を籠いっぱいに運んでいた。


そんな築地を境に反対側の港は、貿易港となっており、数えられる程の町人が海を眺めていた。


その中でも1人だけ町民から離れた場所、灯台の下で座って海を眺めている少女がいた。薄汚れたコートを羽織って、フードを深々と被っている。下を向いていたら顔なんて見えない事だろう。


柊二はそんな人物の元に歩み寄って行った。


そして一言

「随分と綺麗な海ですね」


少女はその言葉にピクリと反応をしたが、視線を変えることなく、唯々夕焼けに照らされた海面を眺めていた。


「初めて来たのですが、いい所です」

「どこの世界でも、この景色は変わらないものですね」


少女の隣に立ち、柊二も少女と同じく顔を見ずに海を眺めていた。


「...私を連れ戻しに来たのですか?」


膝を抱えて少女は静かにそう尋ねた。誰が自分の隣に立ち、なんの目的で現れたのかも、既に予想がついていた。自分が何をしてしまったのかも分かっていたのだ。


だが返ってきた言葉は少女の予想を外れていたものだった。


「はて、何のことでしょう。私はお忍びデートの続きをしているだけですよ?」

「えっ?」


返事を聞いてあまりにも予想外で、ふと彼の顔を見上げてしまった少女。


「私は昨夜「失礼致します」とは申しましたが、終わりにするとは言ってませんよ」


「ッ!そうでしたねオルティア様」

「レーナ様、お夕食までは時間があります。どうかこの私と浜辺の散歩を致しませんか?」

「はい、喜んで!」


オルティアは少女レーナに手を差し伸べる。その手に自分の手を重ねて立ち上がる。その手は男性らしくゴツゴツとした力強いものだったが、とても優しい温かさが感じられた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それで、どうしましょうか?」

「考えていませんでした...」


夕食前に屋敷前には戻って来れたのだが、門にも入口にも騎士団員が集まっていた。大切な式を放り出した皇女と命令に背いた騎士が、二人仲良く帰ってくるのを見たらと考えるら、後はどうなるか予想出来た。


「少なくとも私は確実にお父様に怒られるでしょう...」

「私も団員に合わせる顔がないですよ...」


とある家の一角からこっそりと様子を伺いながら、お互いに叱られない方法を考えていた。


「どうしましょうか」

「打つ手ないですね」

「なら、私に考えがあるわ」

「是非、教えてくださ...」


二人して苦悩の策を捻り出そうしていたが、柊二が声のする方を向くと立っていたのはアリシアだった。


「アリシアさん...」

「あら、アマギリ君。どこに行くのかしら?」


アリシアは逃げようとした柊二の首に短剣の柄で打撃を与えると、柊二はそのまま目を回して気絶した。


「アリシア様...」

「殿下はこのまま私についてきていただければ大丈夫ですので」


アリシアがフレイヤに向けた表情は、無表情だが怒りが篭った顔だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「彼をよろしくね」

「了解致しました」


アリシアは襟首を掴んで引っ張ってきた柊二を、ほかの団員に託した。未だ目を回している柊二を心配そうにフレイヤが運ばれる様子を後ろから眺めていた。


「殿下、国王陛下が執務室でお呼びです。恐らくは、式の件でしょう」

「分かっています...」


アリシアと別れ、執務室のドアの前で立ち止まる。ドアノブに手を掛けると、これから何が起こるのか考えてしまい、血の気が引いた。


自分の身勝手な行動のせいで、父親に恥をかかせてしまったのだから。ドアを開けようにも、鼓動が早くなり、息遣いも荒くなる。それでも、自分の冒した行為に責任がある事は百も承知。意を決してドアを開いた。


「失礼致します...」


ドアの先には怪訝そうな顔をした自分の父親が椅子に座っていた。父 ディーンはただ真っ直ぐに、入って来た娘から目を逸らさず、じっと見詰めていた。無言の圧力にフレイヤの鼓動は更に早くなる。


「...私が何を言いたいのか、わかっているな?」


ディーンの開口一番で出た言葉は、フレイヤの予想通りの言葉であった。


「この度は私の身勝手な行動で多大な迷惑を掛けてしまった事、それどころか...陛下の顔に泥を塗る様な行為をしてしまった事を、――深く反省しております...」


「....。」


「私はメルセリア家の恥であり、汚名を着せる様な行為をしました。謝罪をした所でこの罪は消えませんが、私は...」


「もう良い、フレイヤ」


この空間の重圧で思考回路はめちゃくちゃになり、考えつく限りの言葉を発するフレイヤを、ディーンは一言で止めさせた。父はとても怒っている、許されることは無いと気づいていた。


「確かにお前は許されぬ事をしてしまった。自分の私情でどれだけの人に迷惑をかけた事か」


「――はい」


ある筈がないが、償える事があるならなんでもする、そんな意気込みでフレイヤは父の言葉を聞いていた。


「だが、お前は一つ間違えている」

「...え?」


ディーンは椅子から立ち上がり、ゆっくりとフレイヤの元へ歩いて来た。


「私が最初に言いたかった言葉は、無事で何より、と言う言葉だ」


そう言ってフレイヤの前に来ると、優しくフレイヤを抱き締めた。それ程強く無い力で、娘を抱き締める父親。


「私は陛下である以前に、お前の父親だ。娘が行方不明になって心配しない父親が何処にいる!」


突然の出来事に硬直し言葉も出なかったフレイヤだったが、ディーンに抱き締められてから数秒、次第に体のこわばりが抜けて、遂には涙が出てきた。


「ごめんなさい、お父様。ごめんなさいぃ」

「それに私はお前に泥を塗られたと思っていない。ここだけの話、我々は王家でフルハーフ家は小国の領家。こちらの立場は上だから何も心配する事は無いぞ」


『それにしても、フレイヤに父と呼ばれたのいつぶりだろうか...』


執務室では、陛下などの立場は無く、父と娘の家族愛が確かめられる夜だった。




ちなみに、こことは別に宿営舎の団長室では、目覚めた柊二が床に正座で座らされ、アリシアに説教を受けていた。そんな様子を知っているのは、報告書を持ってきた一団員だけだった。

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