21話:漆黒の聖騎士オルテア
「うん、結構似合ってるわよ」
「...こっち見て言ってくださいよ」
城内地下にある兵舎で柊二は騎士団の装備を着せられていた。柊二が兵舎に来ると、すぐさま召使いが衣服を脱がせ、用意されていた服を着るように言う。
明るめな黒をベースとし、様々な朱の模様が入ったロングコートのような鎧だった。普段と違う雰囲気にアリシアは顔を背けて笑い(?)をこらえていた。
「団長、準備が整いました」
そう言って団長室に入ってきた一人の青年は、アリシアに敬礼、報告をした。
「ん、分かった。じゃあ、行っていいわ」
「はっ!了解しました!」
アリシアから命令を受けとるとそのまま部屋を出ていってしまった。
「アリシアさん」
「何かしら?」
「...どうして俺だけ黒なの?」
「陛下が君の為に作らせた鎧だから、陛下しか知らないわ」
先程入ってきた青年やアリシアの鎧は、同じロングコートのような鎧であるのは確かだが、色合いが蒼ベースの白の模様だった。全く逆の色合いに不満がある訳では無いが、納得いかない柊二だった。
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「では、今日の任務の再確認をする」
城門付近にはアリシアと柊二を含めた全騎士団員が集まり、ブリーフィングを受けていた。
「任務内容は国王夫妻と皇女殿下を隣街テニオラまで護衛、その後式が終わるまで警護となっている。2人1組の5組を作り式場のパトロール、他は式場で待機。なにか質問は?」
「ありません!」
「では、準備をして。解散」
「「「了解!」」」
その場からバタバタと早足で各自の準備を始めに行く騎士達を見て、柊二はアリシアの元へ行った。
「どうしたの?」
「いや、なんかいつもと雰囲気が違うなって思っただけですよ」
「そうね、いつもの私は無表情で無愛想よね」
「そこまで言ってませんけど...」
「じゃあ、どこまで言ってるのかしら?」
「...ノーコメントでお願いします」
柊二もアリシアから離れる様に自分の準備を済ませに行った。
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「まぁ、こんなものだろ」
鎧の装着を確認した後に剣帯に木刀と日本刀の二つを帯剣する。支度が出来ると城へ向かった。他の騎士達とは別に王直々の命、皇女殿下の護衛と警護を頼まれていたので皇女殿下のエスコートまでもが柊二の任務の内だった。
城へ向かう途中で、大勢の人から注目の視線を浴びた。中には子供達が、
「漆黒の聖騎士だ!」
「オルテア様にそっくりー」
などと特定の人物と思われる名を話しているが、誰の事か分からない柊二はそのまま城へ向かった。
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「陛下、殿下、お迎えに上がりました」
「御苦労、では行くとするか」
「・・・」
「フレイヤ殿下?私のどこかおかしいでしょうか?」
じーっと柊二を見詰めるフレイヤの視線に、自分のどこかおかしいのか?と不安になり、装備を眺める。暫く見続けていたフレイヤはようやく口にした言葉は、子供達と同じ名前だった。
「オルテア様...」
「殿下?私はオルテアではなく天斬ですよ」
「はっ!すみません、その、服装がよく似ているものでして...」
「お迎えに上がる途中、子供達も漆黒の聖騎士やらオルテア様と言っていましたが、誰なのでしょうか?」
フレイヤもオルテアと言う人名を口に出し、柊二は次第にその人がどのような人物なのか気になり始めていた。
「立ち話もなんだ、馬車に向かいながら説明したらどうだ?」
「そうですね、では行きましょうか」
国王の提案で馬車に向かって歩きながらフレイヤは柊二に、かつての英雄 最初のファルと呼ばれた男の話を始めた。
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遥か昔、悪の神が起こした反乱により善の神の土地は無惨にも荒れ、奪われ、とうとうメルセリア皇国ただ一つ。悪の神は進んだ軍事技術で次々と善の神の土地を略奪をして行きました。
善の神が自身の命を絶つことに気づく数年前、付近の街や要塞が奪われて行くなか、数人の人々が港目指して荒野を歩いていました。その中でもただ1人強い意志を持って家族を支える少女がいた。
彼女はメルセリア皇国国王バルトロ・フォト・メルセリアの娘 シルフ・フォト・メルセリア。大戦末期のメルセリア皇国は悪の神に反抗しようとする反抗派と何とか生き延びようとする存続派に別れていました。王家は存続派でしたが、多くの貴族が反抗派に加担しており、王家は国を追い出されたのです。
追放された王家の者達は別の大陸に逃れるべく多くの商船が来る港へと向かいました。しかし、軍隊の行動力は計り知れず、既に港は敵の手に落ちており、王家は捕えられ、広場で処刑される事になったのです。
絞首台の上に立たされた王族は、次々と縄輪をかけられて、公開処刑が始まったのです。台の周りには敵の兵達が囲み、各々が嬉々とした歓声をあげていました。処刑人がレバーを引くとガタンと床が外れる音がしました。
最初に殺されたのは弟のニール。5歳という短い人生は終わりを告げました。次に母 アスティが死に、1人また1人と殺される度に兵士が声を上げました。叔父、叔母、親戚達も殺され残るは父と娘。父のレバーに手がかけられた時、父はこう叫びました。
「たとえこの身が滅びようとも、いつの日か善の神が全てを終わらせ平和な世が訪れる。そしてお前らは自分がした事を悔やみ、嘆き、生命の重さを知ることになるだろう!」
父の最後の言葉が言い終わると同時にレバーが引かれ、娘の横にはズラリと並んだ首吊り死体だけが残りました。彼女は憎みました。愛する家族が殺された事を、ただ見るだけの民衆を、大戦を引き起こした神を、無力な自分を、恨み、怒り、哀しみの混じった感情を最後に残して死ぬ覚悟を決めました。
だが、死んだのは彼女ではなく処刑人でした。首にナイフが刺さった状態で倒れていました。―――自分は死んで夢を見ているのだと、ありもしない現実から目を逸らしました。
しかし、目の前で起きたのは現実で幾多の兵士を掻い潜り、絶望に落ちた彼女に差した一筋の光。2本の剣を携えて、彼女に手を伸ばす青年は、彼女にとって希望と言える存在でした。
青年の名はオルテア・ファル・アルバート。黒き鎧を着た彼を後に人々はこう呼んだ、【漆黒の聖騎士】と。オルテアはシルフを連れて、船で小さな島へ向かいました。彼は各地の敗残兵を掻き集め、いずれ決行する皇国奪還の為に兵力を集めていました。
シルフはオルテアに訊ねました。
「どうして私を助けたの...私はあそこで死ぬべき人間だったのに...」
オルテアは答えました。
「人はいつか死ぬ、どんな人間にも最後に死が来る。それが自然の摂理であり、運命だと俺は思う」
「ならどうして!?」
「だが、そんな運命で自分の人生を決められてたまるか!俺の人生は俺が決める。君もそうじゃないのか?決められた運命の下を歩いて終わるなら、足掻いてでも自分の成し遂げることをやるべきだ。それが遺された命ある者の義務じゃないのか?」
彼の真っ直ぐな瞳には、曇りなんてものは無い。現実から目をそらさない彼にいつしか彼女は親愛の感情を持っていた。
「私は弱い人間です...貴方のように強くはなれない...」
「なら、俺が君を守ってみせる。それが騎士として、男としてのやるべき事だから」
シルフはオルテアを強く抱き締めて、盛大に泣いた。皇女としてのプライドや重荷も全て投げ出して、今はただ家族を失った悲しみを誰かに知って欲しくて泣き続けた。
そして敵軍がメルセリアを占領して数ヶ月、遂に作戦は決行された。それぞれが自分達の気持ちを持って戦った。敵を誘き出して、その間に城へ入って立て篭もる。作戦は完璧だったが、それから先は地獄の様な光景だった。20万とない自軍に対して敵の数は計り知れない。戦いは1年程続いたが、遂に時は来た。
善の神が自ら命を絶ち、悪の神は死んだ。指揮系統を失った敵は何処かへ消えてしまった。シルフは思い出す。あの日あの時見た光景と父の最後の言葉、それが今叶ったのだと、悲しくなんかない嬉しいだけなんだ、と涙を流して家族に誇れる事が出来た。
シルフはメルセリア皇国陛下として戴冠を受け取った。オルテアに【聖騎士】の称号を与え、唯一聖騎士のいる国として、国の名を【聖メルセリア皇国】と改名した。こうして、長きに渡る戦いはこうして終わりを迎えたのだった。だが、シルフは気がついた、共に戦い励ましてくれた最愛の人が見当たらないと。
演説を其方退けてシルフはオルテアを探した。彼はとある石像の前で立ち止まっていた。それは善の神が死ぬ前に創り上げた神の一人を祀った石像だった。シルフはすでに決意していた。オルテアの、最愛の彼の傍に居たいと。
反して、オルテアはシルフと共に生きることを選ばなかった。いや、選べなかったのだ。彼が言うには迎えが来るのだという。
「どうしても行ってしまわれるのですか...?」
「済まない...」
「...貴方が私に生きる道を与えてくれた!運命に抗う事を教えてくれた!それなのに貴方は運命に従うの?」
「時に人は足掻いても無駄だと気付かされるんだ。だから人は強くなれる」
「それでも私は、貴方を愛しています。あの日私を救ってくれた時からずっと」
静かな聖堂に一つの光が差し込む。光はオルテアを包む様に少しづつ光が強まる。
「この先、どんなに辛く険しい事があっても君は乗り越える事が出来るはずさ。あの時の少女がこんなにも気高く美しい女性になったのだから」
『行かないで!』
分かっていても心の中から彼を留めたい気持ちが溢れ出てくる。感情が止まらない。オルテアが何処かへ行くのはシルフにも分かっていたから。
オルテアが消える前、シルフは抱き着いてキスをした。それはこれまでの愛情と感謝を、これから先も彼に募る感情を載せた、短くも長いキスだった。
「ずっと貴方を愛しています。これまでもこれからも...」
その後の言葉を聞く前にオルテアはどこかへ消えてしまった。彼が何処にいてもこの気持ちが変わること無く、思い続けることだろう。
これは一人の皇女と1人の青年騎士が国を救った物語。決して結ばれる事の無い悲しき物語。
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「かくして皇国は一人の騎士により護られ、未来永劫シルフの名の元に騎士の最高位【聖騎士】が騎士の模範となったのです」
子供のように物語を話す彼女は、興奮気味に力説していた。
「へぇ、そのオルテア様がこの街を守り、我々の生活がある訳ですね」
「そうです、我々が今を生きていられるのはオルテア様が護り、彼の愛した国をシルフ様が作ってくれたおかげなのです」
物語を話す彼女は、何よりも輝いて見えた。
「オルテア様はフレイヤ様を愛しておられたのですか?」
「わかりません、ただ言えるのは、オルテア様もシルフ様に信頼の情は持っていたのだと思います」
「いい話でもあり、悲しい物語ですね」
「そうですね、愛した家族を失い、最後も愛する人を止められなかった。それでも、だからこそフレイヤ様は自分の人生を変える事が出来たのでしょう」
いつの間にか馬車に辿り着いていたことに気付くと、柊二は手を差し出す。フレイヤは柊二の手に自分の手を添わせ、馬車に乗り込む。
「...私には運命に抗う力なんて無いのです」
「え?」
最後のフレイヤの言葉の意味を理解出来ないまま、唯々その言葉の意味を護衛中考えるだけだった。




