20話︰舞踏会
「うーん、ふぁーっ。あ、何処だここ?」
大きな窓から日光が差し込む。窓際にはクローゼットやタンス、全身を映せる鏡に観葉植物等が立ち並ぶ。
柊二が起きたのは宿で使っていたベッドよりも更に大きく、タブルベッドと殆ど同じものだった。
「そうだ、家貰ったんだった」
魔剣武祭で2位の人には1等地が貰えることになっていた。大会で貰える家としては一番大きな家だと言う。本当は金貨50枚を受け取る筈が、どうしてか屋敷が渡された。勿論、2位はどちらかしか貰えないので金貨は無くなってしまった。
『しかし、こんなにもでかい屋敷に二人で住むのもなぁ』
この屋敷に住んでいるのは柊二とリサの2人だけだった。幾つもある部屋の殆どは空き部屋となり、使われているのは家主の部屋を柊二が、書庫の隣の部屋をリサが使っていた。
「こんなにでかい屋敷を貰っても、人が居なくて不気味過ぎる」
「トージ様〜、おはようございます〜」
リサの言葉が屋敷内を反響する。それだけ広くて距離がある事が分かる。大きいのは家だけではない、庭には花畑や噴水があり、馬小屋等もあった。
「ご飯出来てるので食べに来てください〜」
大きな屋敷を移動するのも一苦労で、寝起きにはキツイがダイニングルームへ向かった。
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「そう言えばトージ様、この間アリシア様から渡された手紙にはなんと書かれていたのですか?」
「記名者は永遠の愛を誓う事をここに示す、だったかな?」
「そっちじゃないですよ、もう片方のです」
いつしかの食事会で柊二はアリシアに1通の手紙を渡されていた。あの時の柊二はサインが忙しく読む暇がなかった為、後日読もうと机の上に置いていた。
しかし、それ以来1度も手をつけていない為に内容を確認さえしていなかった。
「...そういやまだ見てなかったな」
「まったくもぉ、こういう時はいつも抜けてるんですから」
ハァとため息を吐くリサに何も言えなかった柊二は、食事をしていたリビングルームから退出し、自室から手紙を手に取り戻ってきた。
椅子に座るとピリピリと手紙を開封し、中の書類を取り出す。手紙の内容はこうだ、
『ファル殿、いやアマギリ殿へ、先刻の魔剣武祭での健闘見事であった。ご存知かと思わるが、魔剣武祭は我が国が開催する極めて大掛かりな大会である。その為に大陸中から参加者が募る、幾多の敵を倒し、我が国随一の実力者であるアリシア・クルシエルと互角の実力を貴公は示された』
長々と書かれた文章を面倒くさそうな雰囲気を出しつつも、しっかりと読み込む。
『そんな貴公にこの度の健闘と恥ずかしながら我自身の貴公に対する好奇心故に王城に招待したい。封に入っている招待状とこの手紙を門兵に提示すれば、入城が許されるだろう』
『近いうちに王城で舞踏会を開催する予定だ。その時に是非とも来ていただける事を楽しみに待っておる。聖メルセリア皇国 現国王 ディーン・フォト・メルセリアより。』――だってさ」
取り敢えず重要そうな部分だけを抜き取って読んでみたが、どうやら舞踏会の招待らしい。柊二の健闘と国王自らの招待が書類に記されており、封の中にはもう1枚紙が入っていた。これが招待状とみた。
「リサ、どうする?」
「どうするも何も行かないと駄目です!国王自らの招待となれば、それは名誉なことであり誰もが羨むことなんですよ!?」
柊二が読み上げた説明を聞いて、先程から驚き続きのリサは声を荒らげて柊二に行くように指示、―――命令した。
『俺、パーティとか行ったことないしなぁ』
「それにさ、正装とか礼装とかないし――「それなら問題ないですよ?」
柊二の主張を途中で割り込み言わせない。それに不適に笑うリサには何か考えがある様だった。
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「はぁーっ、マジか...」
金や銀の刺繍が入ったタキシードの様な服装で街の中央広場噴水前に溜め息を吐く柊二がいた。だが、礼装にもかかわらずベルトに木刀を帯剣している当たりは、いつも通りと言えるだろう。
「何でこんなことに...」
今日は舞踏会当日で国王との謁見を控えている日でもあった。あれほど行きたくないとリサに言った柊二だったが、こうなったのには理由がある。
◇◆ ◇◆
二日前
「さぁ、トージ様。動かないで下さい」
「いや、動けない様に縛ったリサが言うか?」
仕立て屋に強制連行さた柊二は、縛られ採寸を受けて礼装を作る準備をしていた。
「どうしてここまでするんだ?」
「トージ様が「悪いけど、俺舞踏会とか興味無いから行かない」なんて言うからですよ。王様から呼ばれて行かないなんて不敬罪ですよ?」
◇◆ ◇◆
と、まぁこんな感じで半ば強制的に参加するハメになった。一人ベンチに腰掛けて、同伴する女性を待ち続けてた。
「トージ様、遅くなってすみません」
「どれだけ着替えるのに時間かけるん...だ?」
声のする方へ振り向くとそこには煌びやかなドレスを身に纏ったリサがいた。装飾品の類いは付けていないが、元々の容姿にあった服を選んだのか、普段との代わり映えが大きかった。
「どうかなさいましたか?」
「いや、問題ないです」
「所でどうですか?」
「どうって?」
くるりとひとまわりしてみせる。どうやらドレスが似合っているか感想を求めているようだ。
「...行くぞ」
「あぁ、待って下さいよ〜」
リサの問いかけに答えることなく城門へ歩き出す柊二。その彼を追いかけるように小走りで隣について行くリサ。柊二は横目でリサに視線を向けた。
『――結構可愛いんだよな...』
声には出さないがふと、そんな事を思ってしまった。
『しかし、――露出の少ないドレスは無かったのか?』
リサより身長の高い柊二が彼女を見ると、ドレスの作りのせいか肩や背中、特に胸元が見えてしまってリサを直視出来なかった。先程の問いかけに答えられなかったのは、胸元が目に入ってくるので逃げる様に視線を外したからだった。
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城門に着くと門兵に招待状と手紙を見せ、城内へと入っていった。今いる場所はホールの思われる所で、柊二達以外にもお偉いさん達が集まって、各々が自由に過ごしていた。
「わぁー、私城内なんて入る機会なんて無いと思ってました」
「スゲェな、まさに城って感じだな」
室内は白と金を主とした色合いで、クリスタルで出来たシャンデリアが天井に幾つもある。凄いのは内装だけではない。純白のテーブルクロスが掛けられた長テーブルには料理や酒が置かれていた。どれも見たことの無い料理一つ一つから良い香りが漂ってきた。
「流石は王族、暮らしが違うな」
皿を取って一口大の肉を盛り付ける。係から酒を勧められたが、未成年なので断った。
「トージ様、料理に手をつけるのが早いですよ。国王の話の後にしてください」
「だってな、料理が俺に食べて欲しいって――」
「子供じゃないんですから、もう少し落ち着きを持ってください」
「...はい」
母親に怒られる子供のようだった。皿を置いて暫くすると国王と王妃、その後ろから王女がホールの奥、玉座に座り込む。
座ったと思いきや国王がすぐさま立ち上がり、棒状のものに魔石が付いた道具を口元に運ぶ。
「皆、私の招待に集ってくれたことを心から感謝する」
国王が話すとその声が倍増されてホールに響き渡る、あれは元の世界で言うとマイクと同じようだ。
「知っての通り、我が国では毎年マジェスティア後に選ばれた参加者や貴族達を募い、この様な舞踏会を開いている」
「今回はいつもの様な舞踏会とはひと味違う。今までの大会でも歴戦の戦士でさえ我が国随一の剣士 アリシア・クルシエルと互角に戦える者はいなかった」
「だが、今年のマジェスティアには歴代の大会でも無かった剣姫とファルの闘いを観させてもらった。今夜、この場にファル殿を招待し、来て下さった事を心から感謝を示そう」
国王は柊二の方へ視線を送ると、ニヤッと笑みを浮かべて話を続ける。
「故に、大いなる盛り上がりを見せてくれた客人に失礼がないよう、今までにない舞踏会にする事を約束する」
国王の元にグラスに入ったワインが運ばれ、国王はそれを受け取ると高らかに掲げて一言。
「皆、今夜は飲んで、食って、歌って踊れ!目一杯楽しんでくれ!」
乾杯の合図と共に招待客全体が歓声と拍手を送り、こうして舞踏会が始まったのだった。
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「これ美味いな」
話の前によそっていた肉をひとくち。その味に柊二は声を上げた。ガツガツと食べている訳では無いが、取る量も普通なのに食べる速度が早かった。
「そんなに美味しいですか?あむ、ん!美味しいです!けど、なんか複雑...」
毎日柊二の為に料理を作っている立場としては、口にした途端自分の料理に自身がなくなりそうになった。そんなリサに柊二はすかさずフォローを入れた。
「ん、でもまぁ俺はリサの作る料理の方が好きかな」
「え?なんで私の方が?」
「この料理は舞踏会に呼ばれる人達に作られたものだろ?けどリサの料理は俺に向けて作られたもので、なんて言うか心が篭ってる感じがするんだよ」
皿に載せたサラダを見つめてから、リサに向けてはにかんでそう言った。
「...トージ様って天然ですね」
「ん?なんだって?」
「何でもないですよ、あっコレも美味しい」
『トージ様はそうやって女性が喜ぶ事を素で言うんですから...』
自分で思っておいて僅かながら頬を赤らめたのを誤魔化すために近くの魚を取り、食べた。
「?」
一人わからずじまいの柊二は、自分の無自覚な性格を知らず、なぜリサが誤魔化したのかも分からなかった。
「アマギリ君...」
リサの方を向いていたが急に後ろから自分を呼ぶ声が聴こえ、柊二は振り返るとそこにはアリシアがいた。
「アリシアさんこんばんわ。アリシアさんも招待を?」
「ええ、国王が是非と。それと私は皇国の近衛騎士団団長だから、元々ここに呼ばれる予定だったの」
「へぇ、団長とは凄いですね。確か戦姫の中でも一番だとか」
「そう言われてるけど、私はそう思った事ないわ」
相変わらず表情が掴めない人だなぁ、と心の中で思ったけど絶対口には出せなかった。
「それはそうと、どうかしら?」
アリシアは、白のドレスで小さめなクリスタルのイヤリングを付けていた。リサとは逆に清楚な感じがアリシアにピッタリだった。
「...そう、まじまじと見られると恥ずかしいわ」
「あ、ああ、すみません。―――とても似合っていますよ。綺麗です」
「...真っ直ぐ言われると嬉しいものね」
淡々とした話し方、変わらない表情のアリシアだが色白の頬が少しだけ赤くなったのはハッキリと分かった。その事が分かると妙に意地悪をしたくなるのがこの男。
「もしかして照れてます?」
赤面のアリシアに柊二は僅かな笑みをみせながら訊ねる。
「...照れてなんかないわ」
「本当ですか?」
「本当よ」
「なら、どうして頬が赤いんですかね」
「ッ!...バカ」
そっぽ向いてしまったアリシアは顔を背けるようにして、距離を開けた。
と、そこへ国王自ら柊二に歩み寄ってきた。
「どうです?楽しんでおられますかな?」
「勿論です国王陛下、今夜はこの様な舞踏会に招待して頂き至極恐悦――」
「まあ、そんなに畏まらなくても良い。気安く話し掛けてくれ」
舞踏会を始める時の乾杯の様な覇気や威厳は観えず、明るい男性の様な話し方に柊二は驚いた。それに気付いたのか柊二に耳打ちをするように国王が側まで来る。
「実はな、私も堅苦しい話し方は嫌なんだが妻の方がな」
「ああ、成程。分かりました」
遠くで娘と話す妻を見る国王は、ごく普通の男性に観えた。
「所でアマギリ殿、一つ提案があるのだが」
「何でしょうか?」
「なに、簡単な事だよ。アマギリ殿、うちの近衛騎士団に入らないか?」
突然の勧誘に驚きもしたが柊二は冷静に考えた。
「理由をお聴きしても?」
「貴殿の力が欲しいからというのもあるのだが、近いうちに娘の婚約式が隣街で行われるのでな、その護衛と警護を頼みたいのだ」
国王からの直々の依頼であり、しかも柊二には断る理由も無かった。だが、一つ気になる点に気がついた。
「陛下、その内容だと殿下の護衛と警護だけとなりますが?」
「仮入団として任務に就いてもらいたいのだが、貴殿が良ければそのまま入団しても構わんよ。選択権は私にある訳では無いのだからな」
『いつまでも無職のままだと金の心配もあるしなぁ』
「では、その任務心して承りましょう」
「おお、そうか。では、早速娘に挨拶してくれ」
「え、今からですか?」
「早い方が良いだろ?さぁ、行って来なさい」
王が指差す方向には、他の貴族の少女達と話しをする皇女がいた。柊二は、軽く服を整えて彼女達のいる場所へ足を進めた。
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「で、どうしてこうなった...」
ホールの端、丸いテーブルに羊皮紙が積まれ、その1枚と睨めっこしている魔剣武祭第2位。
「すみません、友人が失礼な事を...」
「お気になさらないで下さい皇女殿下」
柊二の後ろで申し訳なさそうに縮こまって恥ずかしそうな表情を出しているのは国王の娘で皇女のフレイヤ・フォト・メルセリア。
「殿下、私の仕事が終わり次第、少々お時間をいただけないでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
『そうと決まれば、さっさと終わらせるか』
目の前の羊皮紙に羽ペンで自分の名前を書き綴る。食事会の時よりは人数が少なかったため、それほど時間はかからないようだった。
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「では、改めて。初めましてフレイヤ皇女殿下。私の名前は天斬 柊二と申します。国王陛下の任務を授かり、殿下の護衛と警護を任されました。今後、宜しくお願い致します」
「お初にお目にかかります、アマギリ様。私の名はフレイヤ・フォト・メルセリア。現国王の娘にして皇女、以後お見知りおきを」
互いに自己紹介を済ませて、2人は食事をしながら余談を始めた。互いの趣味や好きな物等なんて事無い普通の会話を二人は楽しんでいた。
「へぇ、フレイヤ殿下は本がお好きなんですか」
「そうです、大自然の中でのんびりとした時間を過ごしながら読む本はとても落ち着くんですよ。アマギリ様も本はお好きですか?」
「私も本は好きですが、この世界の文字はまだ勉強中ですので今現在は読む事が出来ないんです」
「そうでした、ファルは別世界から来られるのでしたね。大変失礼致しました」
フレイヤは柊二に軽く一礼した。皇女に頭を下げさせるなどもってのほか、慌てて止めに入った。
「そんな、頭を下げないでください。男として女性に頭を下げさせるなどあってはならない事ですから。気にしませんので大丈夫です」
「ですが...」
「では、次は殿下の話をして頂けませんか?」
「私の...ですか?良いですけど...」
――上手く話を逸らすことが出来て良かった。国王が見てる前で娘に頭を下げさせるとか俺死ぬだろ。
自分の首が繋がっている事を気付かされる瞬間だった。
「それでは、失礼ながら皇女と婚約相手の話をして頂けませんか?」
柊二がさりげなく聞いた質問に、一瞬フレイヤが反応したのを柊二は見逃さなかった。
『なんだ?今、一瞬だけ反応したのか?』
「ええ、勿論ですよ。さて、何処から話しましょうか」
ニコニコとした笑顔を柊二に観せる。それはさっきの動揺のような反応など微塵も見せない笑顔だった。
『俺の気のせいか...』
そう解釈した柊二はそのままフレイヤとの談笑を再開したのだった。




