2話:登校
柊二は早朝ランニングから始まり、道場での素振りで出た汗を流す為にシャワーを浴びていた。
「・・・」
『剣を交えんか?』
ふと、あの言葉が脳裏に浮かび、いつになっても柊二の頭から出ていかない。
「はぁ...」
朝から少し気分が優れない様子。祖父のせいだと責める気は無いがそれでも落ち着かないでいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自室に戻り制服に着替えてリビングへ向かう。
「あ、おはよう兄さん」
「ああ、おはよう」
柊二の妹、天斬遥香は実の妹ではない。俺が10歳の頃に父が再婚した時に母親に付いてきた子だ。今では普通の兄妹の様に接する事が出来ているが、初めの頃はいつも母親の後ろにいて目を合わせることすら出来なかった。
性格は真面目で一生懸命。
遥香武術の類は一切出来ない為、家の家事を手伝ってくれる。
柊二は自分には出来すぎた妹だと思っていた。
「あと超絶可愛いよ!♡」
「何処に向かって言ってんの?」
「それはそうと兄さん、ご飯出来ていますよ」
そう聞いて柊二はテーブルに腰掛けて朝食をざっと眺める。
ご飯に味噌汁、焼き魚に納豆と他にも色々あるが如何にもthe・和食ってメニュー。
母親に変わって料理をする遥香の腕は悪くないのだが――、
「相変わらず量が...」
「何か言いました?」
「いいえ何も」
とても美味しい料理を作ってくれる妹には感謝しているが、遥香の料理は何かと量が多く食べ切れない。
例えるなら旅館やホテルで出てくる料理の2倍はあると思って欲しい。
「早く食べないと遅刻しますからね」
「え、今何時?」
「現時刻は7時50分です」
「マジか!急がないと!」
柊二が急ぐ理由にはある教師が関わっていた。生徒から鬼軍曹と影で言われている者が。
鬼軍曹と呼ばれる荒井先生。柔道6段を持ちスパルタ指導をする為、生徒からそう呼ばれていた。
「それじゃ兄さん、くれぐれも遅刻だけはしないで下さいよ?」
「ふぁい」
「飲み込んでから話す!」
「ん、はい」
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
妹が家を出たら外から爺ちゃんと話す声が聞こえた。
『お爺ちゃん行ってきます 』
『行ってらっしゃい気をつけるんだよ 』
『はーい』
遥香の作った朝ご飯を柊二は急いで口にかき込んだ。
あれだけの量を食べられる自分の胃袋につくづく驚かされる。
「ごっそーさん」
幾つもの皿や茶碗をまとめてキッチンに運び水に漬けておく。
洗い物は帰ってきてからやるつもりで、靴を履いて急いで柊二も家を出る。
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「おう、柊二坊おはよう、お爺さんに宜しくな」
「おはようございます、伝えておきますね」
「あら、柊二君おはよう」
「おはようございます、吉田さん」
ここの商店街は小さい頃から良く通っているので自然と知り合いが増えてくる。お店の準備や商品の運び込む人や店先の清掃をする人達が歩く度に視界に増えていく。
トレーニングでこの商店街を走るけど、早朝と打って変わって賑やかな商店街に柊二は安心する。
高校へ繋がる橋を渡る。柊二と同じく遅刻ぎりぎりの生徒が何人かいた。
「天斬君おはよ〜」
「うん、おはよう」
「オッス天斬」
「おう」
こうした普通の会話のお陰があってか、柊二は朝の嫌な気分もいつの間にか忘れる事が出来ていた。
橋を渡りきり校門へ差し掛かるが、既のところで聞き慣れた音がスピーカーから流れ始めた。
「あっ...」
「お、天斬惜しかったな」
「先生...これは何かの間違いです」
「ほう、目の前で遅刻した奴が言い訳か?後で職員室に来いよ?」
結局、柊二は今朝の事は忘れる事が出来たが気分は再び沈んだ気がした。