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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第1章:2度目の人生
19/42

19話︰剣姫vsファル

ヒュンヒュンと空を切り裂く音がハッキリと聞こえる。アリシアの突きが柊二に目掛けて放たれる。突きは、実に真っ直ぐ放たれブレなど全く生じなかった。そんな突きを柊二は自前の運動神経、動体視力で見切り、受け流していた。


「ご覧下さい!私達の目の前で起きている事は全て現実です!」


実況が大騒ぎで現状報告する。しなくとも、観客の目にもしっかりとその光景は見えていた。いや、正確には【目に見えているが捉えられない】と言った方が良いのだろう。


何しろ、アリシアの突きとそれを避ける柊二の動きはブレて見えてしまう。目の錯覚等ではなく、現に残像の様な現象を起こしていたのだ。


「解説さん、これはどういう現象なのでしょうか?」


「彼らの動きがブレて見えてしまうのは、彼等の動きが我々の視覚では捉えられない動きになっているということです。つまり、彼等の動きはほぼ人間離れの速さになっているのです」


「良くわかりませんが、とにかく凄いと言うことですね!!」


「そういう事です」


観客は目の前で起きている闘いを観ているが、誰1人として声を発する者はいない。何故なら、今観ている光景は他の試合よりも激しくあり、美しく観えたからだった。二人の選手の真剣さが観客に伝わり、心の中では白熱するも、おもてには出せなかったのだ。


観客が観ている2人は両者譲らず、お互い攻防一体とした闘いをしていた。


柊二は最初から今まで上段の構えで闘っていた。上段なら既に頭上に木刀を構えているので、振り下ろすだけで攻撃ができるからだ。しかし、これにはリスクがあり、防御という防御が出来ず、相手の武器を地面に落とす事しか出来ないので、少しでもタイミングが遅いと胴をやられてしまうのだ。


アリシアの方は突きを基本とした攻撃だが、時々横払いや切り上げをしてくる。フェンシングと剣道を合わせたような型だった。


(いつまでも上段だけだと無理があるな...それなら)

「天斬流剣術剣型...機創戦剣」


自分へ向かってくる突きを、ーー木刀を逆手に持ち変え、クナイを持つかのような構えで剣筋を僅かにズラして逸れさせる。そのままの形で懐に一撃を与える。次の瞬間、アリシアの周りから破壊エフェクトが表示された。見事、先程の一撃が入った事が確認出来た。


この出来事に驚いたのは観客だけで無く、アリシア本人も何が起きたのか分からなかった。


「な、何ということでしょう!アマギリ選手の一撃がクルシエル選手に見事命中、バリアの一つが破壊されてしまったぁ!いったい、アマギリ選手は何をしたのですか?」


「はい、先程までのアマギリ選手は武器を既に頭上で構えていましたが、クルシエル選手の突きと同時に武器を逆手に持ったのです。あの様な構えは短剣で行うのが有利ですが、アマギリ選手はあの様な長い武器で行なったのです。」


「武器を逆手に持つ事で、特に突きの剣筋を逸らす事が容易になるのです」


そう、柊二は突きを放つアリシアの細剣に、わざと木刀を当て押し上げたのだ。


「・・・」


予想外の出来事にも関わらずアリシア常に冷静だった。少々、動揺はしたようだったがそれも一瞬のことだった。


「...もう手加減しない」

「え?」


控え室のモニターで試合を観ていた時、どんな時も試合では話をしなかった彼女が口を開いた事に、柊二は気の抜けた声を出してしまった。


「油断しないで...」


柊二が僅かに気を抜いた時を狙ってアリシアが飛び込んで来た。余りに突然の出来事に、柊二の防御は一秒遅れてしまった為、アリシアの切り上げを防ぐ事が出来なかった。


「...これで同点」


無表情のまま、そう一言告げた。


『やばい、もしかしたら爺ちゃんクラスの剣の達人かもしれない。そんなの――、楽しくてしょうがない!』


柊二は、祖父同等かそれ以上の強者と闘うことが好きだった。レオの時は死闘だったが、これはあくまで大会であり死ぬ事は無い。その事が分かっている柊二は、今の試合が楽しく思えていた。


剣姫とファル、互いにバリアは2つずつ残っておりまだまだ試合は続くのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

決勝戦が始まって既に30分は経っていた。観客は飽きること無く、未だ戦う二人の剣士を観ていた。先程、互いの攻撃が同時に決まり、どちらもバリアが1つずつとなっていた。両者は距離を置いて相手の出方を警戒していた。


「頑張れぇ、お兄さんー!」


実況、解説、観客の誰もが静かに勝負の行方を見守っている観客席の中で1人の女の子が声を出して応援した。今まで誰も言葉を発する事無かった会場に、剣がぶつかり合う音しか聞こえなかった会場にこだまする。


「頑張ってファル様ー!」

「アリシア様負けるな!」


決勝戦が始まって以来、静かだったアリーナに再び歓声が巻き起こる。1人の少女が会場の雰囲気を変えたのだった。


「・・・」


突然の盛況に実況はポカンとしていたが、

「ほら、実況実況」

と、解説に指摘されて実況者は急いでマイクに手を伸ばす。


「遂にここまでやって来ましたぁ!これまでの戦いで両者共にバリアの数が残り1つとなってしまいました!皇国一の実力者を、このマジェスティアでバリアを減らすことの出来た選手はいません!いや、います!運命の者(ファル)、ただ1人だぁ!」


調子が戻ってきた実況者のテンションの高い実況が観客を最も盛り上がらせた。


「両者譲らずここまで来たが、最期に勝つのはどちらだ!?」


今までの緊張感は、もうこの会場には存在なんかしなかった。


『なんか気が緩むなぁ』

と、気を抜いたらやられてしまうのが分かっているので思いつつも気は抜かない柊二。アリシアも気を抜かなかったが、1つ柊二に提案してきた。


「...ねぇ、一発勝負にしない?」

相変わらず無表情で淡々と告げてくるアリシア。


『観客も盛り上がってるし...』

「おし、その話乗った」


そう言うと互いに距離をとって武器を構える。柊二は腰元に持ってきて抜刀の構え、アリシアは左手を柄に添えて肩の位置まで持ってきた。


「おっと、両者共に距離を開けて構えたぞ!どうやら次の一撃で全て決まるようだ!」


実況の説明に観客は大盛り上がりで食いついた。


「では、特別に一撃勝負用のカウントエフェクトをつけましょう」


解説が何やらボタンを押すとフィールドに直径20cm程の魔水晶が現れ、カウントダウンスクリーンが表示される。


「では、今から10秒後にアラーム開始!」


10秒 集中力を限界まで高める。

09秒 全ての感覚を聴覚に集中させる。

08秒 周りの歓声が聞こえなくなった。

07秒 彼女だけに意識を向ける。

06秒 目を瞑り、呼吸を正す。

05秒 時間が過ぎる感覚が遮断。

04秒 全神経に意識を研ぎ澄ます。

03秒 ピクリとも体を動かさない。

02秒 気持ちを鎮める。

01秒 一足に力を込める。


開始の合図と共にアリシアが迫ってくるのが分かる。


「天斬流抜刀術壱の型...」


アリシアの突きが目の先にあるのが分かる。


「一刀輝龍ッ!」


ガチィィィィィン!!と甲高い音が響く中、アリシアは柊二の背後に、柊二はアリシアの背後に立っていた。


誰がどう観ても今の一撃で今大会の優勝者が決まったのは明らかだった。


両者技を出した後の形のまま、その場に留まっている。


「両者互いに1歩も動かなぁぁぁい!!果たして、勝ったのはどちらだぁ!!?」


誰もが見守るなか、倒れた選手がつい現れた。


「試合終了!!決勝戦勝者は...」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「痛てて、リサもう少し優しく...」

「ならじっとしてて下さい」


控え室で柊二はリサにガーゼを付けられていた。


「それにしても惜しかったですね。あと1歩だったのに」

「まあ、俺は彼女と闘えただけで満足だよ」


決勝戦、倒れたのは柊二の方だった。僅かコンマ0.3秒の差で惜しくもアリシアの攻撃が先に当たっていた。柊二が先に倒れるとアリシアも倒れ込んだらしい。


「とか言って、本当はアリシア様と顔が近くなって動揺したんじゃないんですか...?」


ジーッと疑いの目で柊二は観られた事に弁解した。


「そんな訳ないだろ、実力の差だよ」

「どうてしょうね、トージ様は綺麗な女性に弱いですからね。アリシア様の様な方と近づけて嬉しいんでしょ、ふん!」


自分で言っておいてリサは拗ねたようだ。


「そんな事ないって」

「じゃあ、何で私には動揺しないんですか!?そんなに魅力ないですか...?」


しょんぼりと悲しそうな表情を魅せるリサに柊二は慌てて、「最初は動揺したさ。今はいつも隣にいるから動揺はしないがドキドキはするよ」と言ってしまった。


「本当ですか?」

「リサみたいに可愛い女の子が近くに居て、ドキドキしない男なんかいないよ。そんな男は僧か男色者ぐらいだ!」

「可愛いって、可愛いって言ってくれた...」


慌てて言った言葉なので、柊二は自分がどれだけ恥ずかしい事を言ったのか気づいたのはもっと後だった


「アマギリ選手 表彰式を致しますのでステージに集合お願い致します」


「はい、分かりました。それじゃリサ、ちょっと待っててくれ」


柊二はリサを部屋に残してステージへ急いだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「これより皇国主催魔剣武祭(マジェスティア)の表彰を致します!3位までの表彰者はこちらの台にお並び下さい」


柊二は人の身長ほどの高さのある台に上る。隣にはアリシアと3位のマーリヤ・二トラ選手が嬉しそうに並んでいた。


「それでは第3位 マーリヤ・二トラ選手!続いて第2位 アマギリ トージ選手!最期に優勝 第1位 アリシア・クルシエル選手!」


名前を挙げられると盛大な拍手が贈られた。それは観客からだけで無く今まで闘った選手達からも含まれていた。


「更に特別賞として、アマギリ選手とクルシエル選手に特別剣闘賞を授与致します。」


見事な闘いを魅せてくれた者に贈られる名誉な賞だと言う。


『幾つになっても表彰式だけはなぁ...』

と少々照れくさそうに頬を人差し指で掻く。


「これにて表彰式を閉会と致します。本日ご参加下さった皆様、観客の皆様、お疲れさまでした」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「「「カンパーイッ!!」」」

「カ、カンパイ」


商業区画の【酒場 ラード】にて柊二、リサ、宿の店主、店主の娘のリーシャが今日の柊二の奮闘を讃えて食事会をしていた。


「ハァー。美味しいです」

「リサ、程々にしろよ?」

「分かってますよ」


リサは運ばれて来た葡萄酒を一気に飲み干した。店主はビールの様な物を、少女は見るからに未成年なので葡萄ジュースを飲んでいる。


「それにしてもお兄さんが準優勝とはねぇ」

「お兄ちゃん、カッコよかったよ」

「そっか、ありがとう」


柊二も数口ジュースを飲み、食事をしていた。


「リーシャ、お兄ちゃんに頼み事があるんじゃなかったの?」

「そうだった、お兄ちゃんここにサイン書いて」


リーシャは持ってきた鞄から羽根ペンとインクを出して、鞄にサインを希望した。


「いいよ」

と一つ返事でリーシャの鞄にサインを書いてあげた。


「お兄ちゃんありがとう!」

「どういたしまして」


リーシャの頭を優しく撫でてあげると再び食事に戻ろうとした。が、後ろに視線を感じて向き直ると二人の女性が立っていた。


「何か用かな?」

「え、えーと」

「ほら、早く言いなよ」


片方の女性がもう片方の女性を小突く。


「わ、私にもサイン良いですか...?」

「構わないけど...」


色紙の様な物にサインを書く。女性は凄く嬉しそうだった。


「ありがとうございます!宝物にしますね!」

「そんなもので良ければどうぞ」


二人の女性は元の座席に嬉しそうに戻って言った。


『何だったんだ?』


気を取り直して再び食事に戻ろうとしたが、

「あの〜...」

振り向くとそこには長い列が出来ていた。女性が多かったが中には男もチラホラ見えた。


「そうすると君たちも...」

「はい、サイン頂けないでしょうか」


これは当分、食事は先だなと思いながら次々と渡される物にサインを書いていく。


「んんー!ほらぁ、やっぱりトージ様は女性に弱いです!」

「私も貰おうかしら」

「お兄ちゃんモテモテだぁ〜」


忙しそうにサインをする柊二を横目に各々が思った事を口にする女性陣。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここにお願い致します!」

「は、はい...」


『一体、いつまで続くんだ...?』


かれこれ10分以上は書き続けている。最初のうちは、酒場の中迄だったのに、今では酒場の外まで長蛇の列が出来ていた。


「いやぁー、ファル様のおかげで商売繁盛繁盛」


店長は沢山の客が来てくれて嬉しそうに料理や酒を運んでいた。


終わりの見えない列にそろそろ限界になりそうだった。腹の虫は既に限界を迎えていた。


「次の方どうぞ」

「・・・」

「どうなさいました...か?」


次の人を呼ぶが、物を渡されないので顔を見上げると、そこに立っていたのはアリシアだった。


「アリシア...さん?」

「...これ」


渡されたのは1通の手紙。しかし、今の状況で読む気にもなれず机に置いて後で読もうとした。


「ア、アリシア様!?」


既に出来上がっていたリサが驚きの声を挙げる。周りの客もざわめき始めた。


「おい見ろよ、1位と2位が揃ってるぞ」

「アリシア様、いつ見ても美しい...」


『それよりもこれを届けに来ただけなら、なんで列から動かないんだ?』


「あのアリシアさん?」

「・・・ッ、これに」

「この紙のここに書けばいいの?」

「・・・そう」

「これ、なに?」

「婚約書よ」


「「「ブハァッ!!ゴホゴホ!」」」


リサ、店主、その他現場にいた客達が一斉に飲んでいるものを噴き出した。


「ア、アリシア様!?何を!?」

「婚約、なのだけど」

「だ、駄目です駄目です!」

「どうして?」

「どうしてって...でも、駄目なんです!」

「?」


リサとアリシアが何やら言い合ってるようだが柊二は数十分に及ぶサインと空腹で頭が回らなかった。


「あらあら、修羅場ねぇ」

「お母さん、シュラバってなぁに?」

「なんで婚約なんてしたいんですか!?」

「...私、強い人が好きなの」


『もう、どうにでもなれ...』


そう思いながらアリシアの後の人達にサインを書き続けていた。結局、食事もろくに取れないまま食事会はお開きとなってしまった。

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