18話︰魔剣武祭《マジェスティア》
「マジェスティアの参加受付会場はこちらでーす」
「魔法を使う方はこちら、剣を使う方はこちらで、別々にお並び下さーい」
皇国中心街には一際目立つアリーナが建っていた。普段は使う事は無い様だが、今回は毎年恒例の魔剣武祭が開催されるとなって、大いに賑わっている。
マジェスティアには皇国市民だけでなく、隣国や付近の村から、更には海を越えて別大陸から参加しようと目指してくる参加者もいる。
アリーナに向かう大通りには、あちこちに屋台が建っている。賑わう大通りには、大剣を背負った戦士にローブを纏った老人など、様々な参加者がアリーナへと向かっていた。
そんな人混みの中を柊二もアリーナ目指して進む。人が多いせいか、時々肩がぶつかったり、よろけてしまう事が多々あった。
「すみません、参加したいのですが」
「では、こちらの参加記入書を御記入下さい」
ようやく受付会場に着く事が出来た柊二は、受付嬢に参加記入書を受け取る。
一通り書けた柊二は記入書を受付嬢に渡す。
「...すみませんが、お名前の横にご職業を御記入下さい」
「職業?」
(どうするか、職業って言っても...、ーーあ!)
職業欄の所に【ファル】と記入して再び渡す。
『ファルも職業みたいなもんだろ』
「...ファル様でしたか、大変失礼致しました!。では、これで受付完了となりますので控え室でお待ち下さい」
受付嬢の畏まった声を聞いた柊二より後ろの人達がファルと聞いてどよめき始めた。
「おい、今の聞いたか?」
「ああ、ファルが参加するとはな...今回は荒れるぞ」
なかには、
「オメェさんがファルだって?はっ、せいぜい気ぃつけるこったなぁ」
と挑発的な態度で話しかけてくる選手もいた。
更に賑わう受付会場を後に、柊二は控え室に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「トージ様、調子はどうですか?」
「ちょ、リサ!どうやってここに!?」
ソファに座って選手の様子を魔性石から映し出されるスクリーンで確認していた柊二の元に、勢い良くドアを開けてリサが入ってきた。
選手控え室には【選手しか】入れないはずなのだが、いつもと代わり映えのない姿で何事も無かったかのように入ってきた。
「それは、係の人に「夫の応援に来ました」って言ったらどうぞって...痛い!」
「誰が夫だ」
リサに軽くデコピンで叱る柊二。再びソファに座って選手の様子を見始めた。柊二の出場する枠はE-2でまだまだ後の方だった。なので、今のうちに前半組の戦闘様子を確認しておこうと考えていた。
『この人さっき受付会場で煽ってきた人だ』
受付会場で柊二の後ろにいた戦斧を持った中年男性が武器を片手に雄叫びをあげていた。民衆の反応を見ると盛り上がりを魅せているようだ、どうやらこの大会では有名な人らしい。
『肝心の相手は...女?』
奥から姿を現したのは銀色の髪で細剣を帯剣して出てきた女性だった。彼女の登場に会場は更に盛り上がる。
「リサ、彼女は?」
「アリシア・クルシエルです。いつ見ても綺麗な方ですねぇ」
アリシアと名乗る剣士は自身のレイピアを抜き、構える。男性も戦斧を両手で持って身構える。
両者が武器を構えると開始のゴングが鳴る。
『さて、どう動くんだ...』
スクリーンに食い入るように眺める。最初に動いたのは男性の方だった。横に戦斧を構えて突進していく、彼女の前まで行くと一気に薙ぎ払いを仕掛けるも、彼女はジャンプで躱す。
すると、彼女が着地したと同時に男性の周りに砕け散るエフェクトが発生する。参加時に説明を受けたが、出場者には魔法でバリアを張られ、攻撃を受けるとバリアが壊れるようになっている。小型武器に大型武器、魔法での攻撃方法は威力に囚われず、バリアどんな攻撃も3回まで耐えられるそうだ。3回目が砕けた時点で試合はそこで終了と決まっている。
「いつもながら美しい動きですね」
彼女の動きにリサはうっとりと眺めていた。
再び男性が突進をしながら武器を振り回すが、彼女に1度も当たりはしない。それどころか躱すだけで武器で受け止めもしない。疲れている様子もなく、表情は至って冷静そのものだ。
男が振り回す武器を躱し、そこへすかさず一撃、二撃と突きを放つ。その剣筋は素早いものだった。
「試合終了!勝者、アリシア・クルシエル!」
ワァー!と大歓声の中、彼女は剣を収めてその場から立ち去ってしまった。
「彼女は何者なんだ?」
「彼女は皇国一の実力者で、戦姫の中の1人、剣姫の称号を持っています。恐らく、剣で彼女に勝てる者は存在しないでしょうね」
『アリシア・クルシエル...か』
思わぬ強敵を目の当たりにして軽く武者震いが走った柊二。彼の心の中何処かに、彼女と戦ってみたいと思う自分が存在した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さぁー、続いての対戦はこちら!Eブロック2試合目、今大会の目玉勝負と言っていいでしょう!最初に出てきたのは、ルドルフ・マクナー選手!彼は幼少期から魔法に特化した体質の持ち主だ!」
やけにテンションが高い実況だな、と自分の篭手の紐を固く結んで、準備をする。
『篭手良し、ブーツ良し、木刀良し!』
最後の装備確認をして、フィールドに足を踏み入れた。
「対する相手は、なんと!歴代大会初出場となる、運命の者【ファル】アマギリ トージ選手!」
実況が柊二の名を挙げると会場は一気に盛り上がる。あまりの歓声にビクッと反応を見せた柊二は、気を取り直し中心に向かって歩く。
「何処から来て、何故呼ばれたかも分からないファルの実態に私も会場のみんなも興味津々だぁ!いったい、どんな戦いを見せてくれるのだろうかぁ!」
「少し落ち着いて下さい」
『実況が解説にツッコまれてどうする...』
木刀を抜き構える。相手も杖を持って戦闘態勢に入る。
「始め!」
開始の合図と共にルドルフは詠唱を始める。柊二はまずは様子見の為に動ける準備をしつつ、その場に留まる。
「ファイヤーボール!」
詠唱を唱えると杖の先から、バレーボールサイズの火球が飛んでくる。火球は柊二に目掛けて一直線に突き進む。
木刀で飛んできた火球を叩き落とす。叩き落とすように木刀をぶつけたが火球は 二つに割れてしまった。どうやら物質量は持たないようだ。
『これなら行ける!』
構えを下段にして、走って距離を詰める。ルドルフとの距離はもう3m程だった。
「もらった!」
ルドルフに切り込むが、
「なっ、下か!」
急に地面から氷柱が飛び出し、吹き飛ばされる。その後に砕け散るエフェクトが発生した。もろに食らった為、1回分バリアが壊れたようだ。
「ファル様、ここで終わらせて頂きます!」
どうやら柊二が吹き飛ばされていた間に複数の詠唱が終わっていたようで、ルドルフの背後には魔法陣が展開していた。
彼が腕を振り下ろすと同時に魔法陣から数え切れない程の氷柱が柊二目掛けて飛んでいく。
「おおっと!アマギリ選手に容赦無く氷柱が飛んで行く!果たして彼は無事なのでしょうか!?」
大きな土煙が舞い上がる。そのせいで柊二の姿は目視できない。
徐々に土煙がおさまっていくと、そこには先程と同じ姿の柊二が立っていた。あれほどの氷柱を浴びて立っている柊二に、ルドルフも会場もどよめき始める。
「えー、先程の映像が確認出来ますのでスローでどうぞ!」
スローモーションで映し出された映像には、複数の氷柱が柊二に目掛けて飛んで行くのが、しっかりと確認出来た。だが、飛んできた氷柱を柊二は、躱していた。躱しきれない氷柱は木刀で壊しているようだ。
「な、な、なんと!アマギリ選手、あの無数の氷柱を避けて、壊すという人間離れの技を見せていたぁ!」
とんでもない行動に観客は大歓声を挙げて興奮していた。
「ちっ、くそ!」
再びルドルフが柊二に火球や氷柱を飛ばすも、全て柊二に叩き落とされる。柊二は飛んでくる物は全て叩き落とす、と行った具合にルドルフの元に向かって行った。
そのまま三連撃を与え、ルドルフのバリアを全て打ち砕く。
「試合終了!勝者、アマギリ トージ選手!」
こうして、一回目の試合は終了したのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「トージ様凄いです!どのようにあの氷柱を見切ったのですか?」
控え室に戻ると興奮気味のリサが迫って来た。
「あー、あれは慣れかな」
「慣れ、ーーですか?」
「昔、爺ちゃんに狭い部屋でバッティングマシーン...速い球を飛ばす機械で避ける特訓をさせられたんだ」
◇◆ ◇◆
「いくぞぉ柊二ぃぃ!!」
「マジかよぉぉぉ!」
「兄さん...」
「天斬がんば!師匠カッケェっす!」
「どうした、まだまだゆくぞぉぉ!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
◇◆ ◇◆
あの時の事が今頃役に立ったとはいえ、思い出したくない思い出で身震いをする柊二だった。
装備を外して机に置くと、ソファに座ってそのまま仮眠をとることにした。
「トージ様、ここに」
先にソファに座っていたリサが自分の腿を軽く叩く。
「...いいよ」
「遠慮しないでください」
「遠慮なんてしてな...うわっ!」
強引に肩を引かれ、リサの太腿に柊二の頭が乗り掛る。所謂、膝枕という状態だった。
「どうですか?悪くないでしょう?」
「悪くはないな」
「そこは素直に良いとか言えないんですか?」
「...寝る」
恥ずかしさもあってか、すぐさま顔を隠して眠りについてしまう。
「ふふっ、可愛い。次も頑張ってくださいね...」
眠りに落ちた柊二の頭を優しく撫でているリサ。撫でられながら寝てしまった柊二の顔は、この後も試合が控えている選手とは考えられない寝顔だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後も、次々と相手を倒し続けて勝ち進んで来た。中には強敵もおり、ギリギリで勝つと言った試合もあったが順調に決勝戦まで勝ち残った。
今は決勝前の準備時間でゲート前のベンチに座って装備の点検をしていた。
ブーツの紐を固く締め直し、革籠手の締りを直す。木刀の状態を確認してベルトに挿して固定する。その他諸々、準備を済ませてあとは名前を呼ばれるまで待つだけだった。
「さぁ!皆々様、お待たせ致しました!今年の魔剣武祭の決勝戦の始まりです!恐らく、もう見ることの出来ない1戦になる事間違いなしの勝負となるでしょう!」
「まずはこの方!皇国一の実力者と呼ばれ、戦姫の中の1人、剣姫の称号を持ちし者!アリシア・クルシエルだー!剣に愛され、剣に選ばれた彼女は正しく、戦場に輝く白星となる事でしょう!」
先に呼ばれたのは柊二の対戦相手でここまで1度も攻撃を喰らわずに勝ち進んで来たアリシアだった。
そんな強敵が相手となれば幾らな歴戦の戦士だろうが優勝を諦めるだろう。だが、この男だけは違った。これ程までに強く気高い剣士を目の前に、闘いたくてウズウズしていた。
『悪いリサ、お金が必要なのは分かっている。分かっているが、こんな強敵を前にして俺の闘争心が収まりそうにない!』
一歩踏み出せば砂のフィールドに彼女が立っている。戦いたくて、闘いたくて、堪らなく気持ちが高ぶって来るようだ。
「対する相手はこちら!幾多の試合で人間離れな技を繰り出し、観る者全てに興奮と衝撃を与えてきた、異世界の剣士!アマギリ トージ選手!」
「剣士としての腕もさながら、その動きはまるで幾多の死闘を掻い潜ってきた剣士の様だ!いや、彼は剣士などでは無い!彼も剣とともに生きて来た剣聖と呼べるだろう!」
『それはちょっと大袈裟で言い過ぎだと思うが』
紹介が始まった時点で、ゲートからフィールド中央に向かって歩く。既に対戦相手のアリシアは、中央で立ち止まっていたが剣は抜いていなかった。
「誰もが待ちわびたこの試合!彼等はいったいどんな戦いを見せてくれるのだろうか!勝者は、我らの剣姫 アリシア・クルシエルか、それともファル アマギリ トージ選手なのか!?剣姫とファルの前代未聞の一戦が今始まります!」
説明を終えると柊二とアリシアはお互いの目を観て頷き、剣を構える。互いに言葉を交わす必要は無い、目を見れば相手がどう考えているか、文字通りひと目でわかった。
二人共闘いたくてしょうがなかったのだ。
「これより、決勝戦を開始する。始めぇぇ!!」
開始の合図で互いに一足で距離を詰める。剣姫とファルの一戦が今始まった。




