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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第1章:2度目の人生
16/42

16話:聖メルセリア皇国

昨夜、老婆から龍脈の研究者について教えて貰った柊二は、1日かけて皇国へ向かう準備を整えていた。


肩掛け袋を道具屋に貰い、その中にこれまた頂いた保存食や衣服、僅かばかりの硬貨袋を入れていた。他にも生活必需品を働いて稼いだ金で買っておいた。


老婆の話によると明日の昼頃に輸送車が来るらしい。毎月、村が皇国に収める税と特産品を受け取りに来る使いの人に頼めば皇国まで乗せて行ってくれると言う。


今は準備と夜の勉強が終わり、明日の為に就寝する所だった。寝間着ねまきに着替えて、おもむろにベッドへ倒れ込んだ。仰向けになって天井を仰ぐ。最初は不便でしょうがなく感じていたこの部屋も、いつしか居心地良い場所となっていた。


(自分で決めた事だけど、この部屋を離れるのは辛いな。)


1度倒れた込んだベッドから起き上がり、部屋から出た。廊下やリビングは、既に数本の蝋燭のみが僅かな灯火を作り出しているだけだった。老婆もリサも部屋にいるのだろうか、柊二は誰もいない事を確認すると家を出て、レミア像に向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

満天の星空の下、レミア像の台座に背をもたれる。ひんやりとした冷たさが布越しで伝わってくる。ここに来るのも久々な気もするが、この世界でそれ程過ごしてはいなかった。


「こうやって君のもとに来れるのも、もしかしたらこれが最後かもしれないから...」


柊二は独り言を話す。誰が聞いている訳ではないけれども、この像の近くにいると彼女・・がいる気がする。


(見えないが傍にいてくれてる事は分かる。君が俺の横にいてくれるなら、どれだけ心強い事か...)


そっと目を閉じて彼女に対する感情を思い浮かべる。すると、頭上から何かが柊二の足元に落ちてきた。


「何だこれ、ーー指輪か?」


柊二の下へと落ちてきたのは、蒼色の石が埋められた指輪だった。双翼が石を包む様な彫刻も施されたその指輪を拾い上げ眺める。頭上に持って眺めると像を下から眺める様な形になる。それで、あるものに気がついた柊二は不意に薄笑いをしてしまった。


「いつも一緒って事ですか...」ハハッ


レミア像の右手薬指には石像ながら細かく作られた指輪があった。今さっき柊二の頭上から落ちてきた指輪と全く同じ形の指輪だった。何故、頭上から指輪が落ちてきたのかは分からないが、少なくとも彼女がくれた事だけは分かる。


指輪を左手の薬指にはめる。不思議と気持ちが安らぐ感覚があった。柊二は指輪を指にはめた後、立ち上がって家に向かい始める。これからはいつでも傍にいるよ、と背後から声が聞こえた気がするが人がいる訳が無い。柊二は、再び就寝しようと部屋に向かって歩き始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

窓の外から陽の光が差し込める。いつもならここで起き上がって着替え始めるのだが、この部屋から出るのが名残惜しい柊二はなかなかベッドから出られなかった。眠気は無いのにブランケットを頭でかぶり、ゴソゴソと寝返りを打つ。


「トージ様、入りますよ?」


コンコンとノックと共に部屋にリサが入って来る。普段ならとっくに起きて朝食をとる時間に顔を出さないので、心配して様子を見に来たのだった。


「もう、まだ寝てるんですか?今日から皇国に行くのですから、しっかりして下さい」


うぅ〜、と唸り声を出して頑なに拒否の姿勢を見せる柊二を、リサは体を揺すって起こそうとする。嫌々と駄々をこねる子供のような柊二にリサは困り果てた。


「...!。分かりました、そこまで起きないなら私にだって考えがあります」


そう言うとリサは柊二が被っているブランケットを引き剥がす。


「何する気だ...、ーーて、おい!」


リサはブランケットを柊二の腰辺りまで引き剥がすと、空いたスペースに体を入り込ませる。所謂いわるゆ添い寝という状態になった。柊二は慌てて離れようとするが、リサに背後からしっかりとホールドされて動けない。


「あの、リサさん?離してくれませんか?」

「先程揺すったのに起きなかったトージ様は今、何されても起きないんです」

「何を言って...、〜〜ッ!」


めちゃくちゃな理屈で反論して来るリサ、更に言い返そうとする柊二だったが、彼女がいきなりの首に噛み付いてきた反動で言葉が詰まる。


「はむ...ちゅ...んん〜、ぷはぁ」


噛み付いたと思ったら力強く首に吸い付いて離す。いきなりの出来事で柊二は反応が遅れた。


「わ、分かった!起きるから止めてくれ!」

「んもぉー、しょうがないですね。今回は止めてあげます」

「ありがとう...、今回【は】?」


ベッドから降りて部屋を出ていこうとするリサに、恐る恐る問いかける。


「次はもっと凄い事しちゃいますよ?」


ウインクして口角に人差し指を当てる。可愛く見せたつもりだったのか分からないが、柊二にとって新しい恐怖を感じる体験だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

現時刻は大体12時頃、何しろこの村には時計が存在しないので正確な時間では把握出来ない。一緒に持ってきたスマホはバグのせいか起動しない。充電はフルだった気はするんだけどな、とスマホの電源ボタンを長押しして確認するもやはり(電源が)つかない。


輸送用の馬車が来るまでやることの無い柊二は、道具屋で再度必要となりそうな道具が無いか確認した。その後にもう1度バッグの中の確認をしたがまだまだ来るのが先になりそうなので、教会の石段に座っていた。


ぼーっと空を眺める。2羽の鳥が愉しそうに飛んでいるのが見える。後は雲一つ無い晴天の空がどこまでも続いているだけだった。


「まだ来ねぇのかな、昼頃ってお婆さん言ってなかった?」


老婆に文句を言うつもりでは無いが、自然と愚痴が零れた。幸いな事に誰もいなくて助かった。


空を眺めていた顔を正面に向け、今度は村の風景に目を向ける。短い間だったが世話になったこの村を忘れない様に、今見えている風景を脳に保存する。


教会の時計台の細部や畜舎にいる家畜の数まで記憶する様に見回す。そこへ、遠くから二匹の馬が荷台を引いてやってきた。予め決められた場所に馬車を留め、村人と業者が共同で荷物を積み込んで行く。


柊二は運転手に皇国へ向かう為に乗せて行って欲しいと頼むと、元々老婆の方から手配がされていたようだった。


「では、後ろからお乗り下さい」


運転手の指示通りに荷台の後ろへ回る。と、そこにはリサや老婆、村人の大半が見送りに来ていた。幼い子供達や大人達から別れの言葉や無事を祈る言葉をかけてくれた。


「ファル様が戻って来れるように部屋は綺麗にしておきます。いつでも遊びに来て下さい。」


老婆はニコニコとした笑顔で柊二に言う。その表情は都会に息子を見送る様な顔だった。


「今迄ありがとうございました、いつかまた来ますね」


柊二は軽く別れの抱擁を老婆と交わした。柊二が離れるとリサが柊二の横へ来て、老婆や村人達の方に振り返る。何をするのだろうと柊二が考えていると衝撃の一言。


「では、皆行ってきます」

「え、どういう事?」


なんとリサは自分も皇国へ行くと言うのだった。予想外の発言に柊二は老婆に尋ねる。


「どうしてリサも皇国へ行くんですか!?ああ、買い物でもしに行くのですね?」


皇国へ買い物にでも行くのだろうと納得した柊二は、腕を組んでうんうん、と独り頷く。だが老婆からも予想外の一言が返ってきた。


「いえ、リサもファル様について行くんですよ。」


「ち、ちょっと待って下さい!そんなの聞いてませんよ!」


「言ったらファル様は止めるでしょう?だからこそ、今の今まで言わなかったのです」


老婆は柊二にこの事を伝えれば確実にやめさせようとする筈だと確信を踏んでいた。


「龍脈が無い以上、リサはもう普通の女の子となんら変わりありません。龍巫女として生まれれば、その生涯は決まったも当然なのです。龍脈が無くなった今、リサには好きな様に生きて欲しいと思っております」


「それに、これはリサ...、ーー彼女が決めた事なのです」


「リサが?」


リサの方へ振り向くと彼女は頬を赤らめて何やら縮こまっていた。チラチラと柊二の方へ視線を向けたり落したりと、朝の出来事は別人格が起こしてきたのかと思うくらいに、今のリサは大人しい。


「り、龍脈は無くなりましたがどうして無くなったのかを調べるには私自身も必要だと思われます。それに、トージ様は料理が出来ますか?洗濯は?掃除は?...向こうで身の回りの事が出来ないかも知れないトージ様に変わって、私が家事労働をさせて頂こうと思った次第なのです」


両手で拳を胸の前で作ってりきむ。家事の事なら任せとけと言わんばかりの勢いだった。


そんな彼女の意思も無駄には出来ないのだが、柊二は迷っていた。


「言っていることは最もなんだけどなぁ...」


悩みに悩んだ末に柊二は、

「...はぁ、分かった。確かに龍脈についてはリサの力が必要になるかも知れないしな」


渋々リサの同行を認め、柊二は馬車に乗ってからリサに向かって手を伸ばす。リサは老婆と別れの抱擁を済ませて柊二の手を握って荷台に乗り込む。


柊二は木箱に腰を掛けて運転手と話す。リサは荷物を置いて柊二と反対側の場所に座る。


話がついた運転手はすぐさま出発するが、あえてスピードは遅く進める。別れの挨拶の時間を取ってくれる運転手の優しさなのだろう。


出発するとリサは荷台から体を乗り出して村のみんなに手を振る。


「お婆ちゃ〜ん、皆〜、行ってきま~す!」

「気をつけるんだよ〜」

「嬢ちゃん、元気でな!」

「お姉ちゃん、バイバーイ!」


最後の別れを告げて、馬車は聖メルセリア皇国を目指して進んでいくのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「〜〜♪」

「・・・」ボッー


ガタガタと振動を受ける音を鳴らしながら馬車は道を進み続ける。荷台では、周りの景色を見ながら楽しげに花歌を歌うリサと、荷袋を枕に仰向けになって空を見上げる柊二。皇国までは時間がかかるようで、特にやる事も無い2人は暫し自由にしていた。


「あっ、トージ様見てください!あそこに兎がいますよ。可愛いですね」

「んー」

「あっちにもいます。親子かなぁ、それとも夫婦?」

「んー」

「トージ様はどう思います?」

「んー」

「トージ様!!」

「ッ!びっくりした、なんかあったの?」


空返事ばかりの柊二にリサは怒った顔で近くにあった木箱を叩いた。何故叫ばれたの分からない柊二に怒りながらも呆れた顔をするリサ。


「もう!さっきから「んー」しか言ってないじゃないですか!私の話ちゃんと聞いてましたか!?」

「聞いてたよ」

「じゃあ、なんて言ったか答えてください!」

「何をそんなに怒ってるんだよ...」


上半身を起こして目を瞑り記憶を呼び起こす。


(まずいなぁ、何も聞いてないや...)


「...いい天気ですね?」

「全然聞いてないじゃないですかぁ!!」


この後、柊二は正座で小一時間はリサに説教をされていた。その間、馬車の運転手は苦笑いで馬を走らせていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あ、見えてきましたよ!」

「...そうですね」

「そんなに落ち込んでも知りません。トージ様が悪いんですからね」


体を乗りだして皇国を見つめるリサを他所に柊二は荷台の端で膝を抱えて座っていた。相当叱られた事が安易に想像つく。


(あそこがこれからの拠点となる街か)


柊二はこの先自分が拠点を置く都市を相変わらず膝を抱えて眺めていた。暖かな風が草原を吹き抜けて、馬車は皇国手前の橋を渡り終えた。

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