14話:隠された真実
カンッ!ゴンッ!と高い金属音や低く鈍い音が幾度となく鳴り響く。近くで木々の勢い良く燃える音も聞こえるが、岩場では高低のある音が良く聞こえる。その音の中に微かながら人の話す声が聞こえる。
「おい、どうした。アンタの力はそんなものじゃないだろ」
盗賊団筆頭のレオは右手でナイフを持ち、素早く柊二の身体に斬り込んでくる。対して柊二は木刀でレオの繰り出す斬撃を受け流すか、自らが動いて避ける。
「当たり前だ、お前を倒すのに全力なんか出す必要はない!」
柊二は焦りを悟られないように強気な言葉を返す。しかし、柊二はレオの動きについて行くのが精一杯で攻撃をする事が出来ない。
(不味いな、騙される前は訓練さえ受けている姿を見ていなかったからここまでやるとは思わなかった。)
防一方の柊二はどうにかレオの隙を見つける為に動きを良く見ているが、相手は盗賊で戦闘経験も豊富であるため中々隙が無い。
「おら、どうしたよ?反撃しないのかよ?」
上から中央、下から上へと突きや斬り上げ等、続け様に攻撃をしてくるレオに隙は無い。相手が攻撃が出来ないように攻撃をする、攻撃は最大の防御とはこの事だろう。
(くそ!どうにか奴の隙を見つけないといつかは殺られる...なにか、ーー何かないのか!?)
ひたすら攻撃を受け流す柊二は、現状から考えられる方法を探す。ただ、彼には考える時間も少なくなりつつある。それは、柊二の木刀がレオの斬撃により少しづつ削れ始めている。このままでは、いずれ木刀は折れ、無防備になる。そうなればどうすることも出来ない。
受け流すことしか出来ない柊二に、レオはこれから死んでゆく相手にとある情報を教えた。
「ファル様よ、殺す前にいい事教えてやる。実はリサを誘拐したのにはアンタを呼ぶ為の餌、それと他にもう一つあるんだぜ?」
相変わらずニヤニヤとした表情でレオは攻撃の手を休める事なく柊二に言う。
「なんだ、言ってみろよ」
ガンッ!とナイフと木刀がぶつかり互いに武器を押し合う鍔迫り合いとなる。
「あんたは知らないと思うがあの巫女、ーーリサは【龍巫女】の末裔なんだよ」
鍔迫りをしながらレオは尚も話し続ける。
「ある依頼主から龍巫女の持つ龍脈が欲しいと依頼されてな、高額な報酬も出るときた。報酬も貰えてアンタを殺せるとなれば、こんなおいしい話を受けないわけないだろ?」
「その龍脈とやらが取られた場合、彼女はどうなる?」
柊二は彼女の持つ特別な何かを取られた後に、彼女の身体に後々どう影響するのか聞く。
「さあね、俺は金にしか興味は無いから龍巫女がどうなるかなんて知らないね。龍脈を無理に取られれば死ぬって言う奴もいるし、仮に助かったとしてもあれだけの上玉だ、依頼主が奴隷にでもするんじゃねぇのか?勿論、別の意味の奴隷だと思うがなっ!」
レオは話し終えると柊二の腹に右足で蹴りを入れて、距離をとろうとする。が、僅かな所で避けられる。伸ばしきった右足にめがけて柊二は木刀を振り下ろす。
ボキッ!と鈍い音と振動が木刀から手に伝わる。
「グ、ガァァァァァ!!」
と大きな悲鳴を上げて後ろに跳躍する。良く見るとレオの脛の部分が紫に腫れ上がる。だが、常人なら痛みを抑えられず倒れ込む所をレオは踏み止まる。常に痛みがつきものである盗賊を伊達にやっている事はある。それに、こんな状態でも口元の口角は上がったままである。
「そうだ、この痛みだ!この痛みが、俺に殺し合いをしていると教えてくれる!」
柊二は木刀を左下に置いた下段構えをして顔を伏せている。その表情こそは見る事が出来ないが、恐らく精神を統一する為に目を閉じているのだろう。
視覚を遮断する事により聴覚が研ぎ澄まされる。未だ木々が燃える音、そよ風により岩場に生える草の揺らぐ音が大きく聞こえる。
「なんだぁ?一発くらわせて終わりか?そんなんじゃ全然足らねぇぞ!」
ナイフを逆手に持って、相手に刺し込む様な形で飛び掛る。足を折られた痛みなど微塵も感じさせない動きで柊二の元に突撃した。
目を瞑り意識を集中させる。
「天斬流剣術下段...」
レオの放つ刺し込みは30cmの所で無に変わった。聴覚を澄ました柊二にはレオのナイフから出る、空を切る音すらもはっきりと聞こえ、柊二はすかさず技を繰り出た。
「空転撃弐型!」
一瞬の動きでレオの身体に打撃を与える。飛びかかってきたレオに自ら踏み込んで胴に一撃、更に踏み込んだ勢いで左足を軸に体を捻り背中にもう一撃を与える。
レオの常人を超えたスピードを更に超えた速さで動き斬り込む。その速さは相手と自分の位置を、ーー空間を入れ替えた様にも見える程である。
「ガッ!!」
目にも留まらぬ速さの打撃を喰らえば、受ける衝撃はとてつもなく大きいものである。流石のレオもたちまち膝から崩れ落ちた。
「やった...のか...?」ハァハァ
倒れたレオを見て、木刀を下げる。寧ろ、あの技を使っておいて立っている事すら難しいのに、柊二は激しい呼吸をしているだけで済んだ。空転撃弐型は、放つ人の身体能力の限界を超えたスピードを出す技であるため、身体にかかる負担はでかい。
今にも自分も膝を着きそうな柊二は木刀を杖にしてやっと立っている状態だ。そんな身体の中、柊二はレオの懐から鍵を漁り、リサのいる檻へと向かった。
檻の中ではリサが身動きのとれない状態で何かを訴えている。
「待ってて、今開けるから」
檻を解錠して彼女を抱え出し、座れそうな石の上に座らせて縄と口の布を解く。
「さあ、もう大丈夫...おわっ!」
最後の手首の縄を切り離す、といきなり巫女は柊二に抱きついた。彼女が出せる最大の力で助け出してくれた恩人を抱きしめる。
「怖かった...皆死んじゃった...貴方も死んじゃうかと思った!」グスッ
「大丈夫です、俺はこの通り生きてます」
ボロボロと大粒の涙を流す彼女。普段は子供たちから慕われている彼女だが、今の姿はどんな子供よりも子供っぽく泣き、親にしがみついているように見える。
ギュッと力強く抱き締められている柊二は彼女の頭を優しく撫でる。親が泣き止まない娘をあやしているかのように。
~~~~~~~~~~~
彼女に抱きしめられてからどのくらい経ったのだろう。
未だに抱きしめる巫女の腕の力は弱まらない。
「そろそろ、離れてもいいかな?」
柊二は巫女に尋ねるが、
「駄目です、もう少しこのままで」
拒否されてしまう。
そろそろ限界なんだが...。
そう思ったのもつかの間、次の瞬間には柊二は、気を失った。
身体のあちこちこら悲鳴を挙げていたのだから仕方が無い。助け出せた安心感と疲れの溜まった身体にある疲労感により柊二の意識は飛ばされた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぼんやりとした視界で目にしたのは見たことのある天井。目を覚ました場所は、老婆と巫女に提供して貰ったあの部屋だった。
「あれ?何で俺はここに...」
さっきまで森の中にいて、レオを倒した後に巫女さんに抱きつかれて...、
「っ!そうだ、リサ...痛てぇ!」
気絶する前のことを思い出し、リサを捜しに行こうと立ち上がるが。全身に酷い激痛が走り、おもわず苦痛の声を漏らす。全身には包帯が巻かれており、包帯の内側から独特な匂いがする。多分、薬か何かを塗り込まれているのだろう。それがこの痛みの元凶だと、柊二は思う。
それでも柊二は、激痛の走る身体に鞭打って立ち上がり部屋から出る。ヨタヨタと危なっかしい足取りでリビングに向かうが誰もいない。
テーブルの上には花の入った花瓶が1つ、ゆらゆらと燃える炎を作る短い蝋燭が1本あるだけだった。捜索隊の件で最後に家に寄った時は、まだ長かったのでかなり時間が経ったことが分かる。
(それにしても皆は何処へ...俺の知っている限り老婆はこの時間には家にいるはずなんだが...)
捜しに行こうとリビングまで来た柊二だが、全身の痛みが引かないうちに捜しに行けば倒れると考え、椅子に座って二人の帰りを待つ事にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
待ち続けてどのくらい経ったのだろう。まだ、2人は帰って来ない。椅子に座り続けていた柊二は、戦闘の時の疲労が出始め、椅子に座りながら船を漕いでいた。
「...zzz、ハッ!...zzz」コックリコックリ
眠らない様に時々頬を叩いたりするが、それも余り効果がないようだ。このままいけば確実に寝るだろう。
柊二が睡魔と戦う中、突然家のドアが大きな音を立てて開かれる。急な音に眠りかけていた柊二は、椅子に座ったまま後ろに倒れた。打ち付けた背中が痛い。
「ファル様、起きていらしたのですね。丁度お呼びする所でしたので良かったです。さあ、行きましょうか」
呼びに来たというこの男は、柊二に付いてくるように言う。背中を丸めて擦りながらも、柊二は黙って男の後に付いて行く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
黙って歩く男の後ろをついていくと、遠くにぼんやりとした灯りが目に入る。男の後について行く柊二は、ふと気がついた。
「あの、この先は確か...」
柊二が話をしている途中だったが目的地についた途端男が話を中断させた。
「さあ、ファル様。こちらにどうぞ」
そう言って男は一番前の椅子に柊二を誘導した。男に言われ、黙って椅子に座る。周りには柊二と同じく椅子に座る人もいれば、立っている人もいる。
案内された場所は柊二が見知った場所で目覚めた場所でもあるレミア像の前。ここに連れてこられた意味がイマイチ分からない柊二をよそ、皆ある《・・》一点に視線を向け続ける。
(みんな何を見てんだ?)
みんなの視線を集める方に柊二も視線を向けるが、その先には布で出来た簡単な小屋の様な物があるだけで他には何も無い。
柊二が不審に思っていると、どこからともなく姿が見えなかった老婆が現れる。老婆は見たことも無い衣装を身に纏い、錫杖を手にし、レミア像の前まで向かうと老婆は体に見合った椅子に座る。
老婆が現れた事により村人達の表情は一層真剣なものになったが、ただ一人だけ未だに理解出来ていない者がいた。
(え、え?これから何が始まるんだ?)
只々、現状把握出来ていない柊二は徐々に不安を感じ始めてきた。
すると、背後の方に用意されていた太鼓がなり始め、同時に老婆が錫杖を地面に突いて音を鳴らす。太鼓と錫杖の音が重奏を作り、幻想的な音楽への変わる。
演奏の途中で存在を忘れていた布小屋から何かが出て来た。村人達は出て来た何かを見ると歓声が湧いた。特に男達の声が良く響く。出て来た何かに柊二も確認する為に視線を向けた。
布小屋から出てきたのは、1人の女性だった。長い黒髪を結、薄化粧で巫女姿で出て来た女性を柊二は、直ぐに気づくことが出来なかった。
「...リサ?」
老婆と同じく姿が見えなかったが、見えても気付く事が出来なかった。それ程迄に、普段の姿と今の姿に大きな差があるのだ。見た目だけでなく、その凛とした雰囲気も普段の明るい彼女から感じ取ることは出来なかった。
彼女は老婆に一礼するとレミア像の前に敷かれた布の上に正座する。
隣の人に聞いた話によると、今から始まるのは古くから人類を守ると言われている【龍帝イグランディア】に今後の守護、龍脈を持つ者と意識を繋げる儀式だと言う。
何らかの儀式や祭はこの村ではレミア像の前で行われる。それがこの村の仕来りとなっているらしい。
巫女は目の前に置かれた小さな針を指に刺し血を出す。その血で龍巫女に伝わる儀式の印を描いて祈り始める。老婆も錫杖を鳴らすのをやめ、祈りを捧げる。村人達もその場で目を瞑って祈るので柊二も参加した。
「古の時から我らを守護する龍帝よ。今この瞬間をもって、再び貴公への崇拝と感謝の意を込めて祈りを捧げよう...」
巫女が静かに呟くと血印が徐々に消え始める。これで終わりなのだろう。柊二は目を開けて終了した事を確認する。巫女は立ち上がり布小屋に向かう。老婆も錫杖を着いて、どこかへ立ち去ってしまった。村人達は各々が儀式の片付けを始める。
(さて、俺も片付けを手伝おうかな)
痛みが残る身体で立ち上がるが、次の瞬間には空を眺めていた。
「...あれ?おかしいな、力が...入ら...な...い」
次第に瞼も重くなってくる。突然倒れた柊二の周りに心配してきた村人達が柊二に声をかける。
既に柊二の瞼は閉じ切っており、耳だけが聞こえている状態だ。
(俺、この世界に来てから倒れてばっかりだな...)
そう思った次には既に意識は飛んでいた。村人達は一斉に駆け寄り、柊二を家へ運び始める。
慌ただしい様子の中で、柊二の右腕には不可思議な線が3本淡く光っていたが、誰1人としてその線に気がつく者はいなかった。




