13話:剣士と巫女
生い茂る草木を大きなナイフで切り進めて男10人が山へ向かう。大半の人は大きな剣と盾を背中に背負い、バッサバッサと草木を切っている。だが、最後尾の一人は木で作成された片刃の剣を腰のベルトに1本挿して、他の男達が切り進む後ろに付いていく。
ただ、他の男達と違う所は眉を寄せて怒りをあらわにしている所だろう。また、見る者によれば殺気すらも出ているのでは?と思うほどにその表情は迫力があった。
「待っていてくれリサ、すぐに助けに行くから」
彼らが山に入る2時間前ーー、
◇◆ ◇◆
鍛冶屋の娘ノーラに話を聞こうと向かった柊二は、鍛冶屋の近くの教会まで来ていた。
やっと教会を曲がると既に鍛冶屋の外には村人の半分は集まっていた。集まっている皆はそれぞれで声を挙げている。ドアの近くに近寄ると同時に傷の多い大柄な男が出てきた。おそらくノーラの親父さんだろう。
「うるせぇぞ!少しは静かにしやがれ!!」
大柄な男が叫ぶと辺りは静かになったが一人の男がノーラの持つ情報が欲しいと言う。皆がリサを捜しに行くと言い始める。
この村の人達は村人1人の為にここまで仲間思いの良い人達なんだ、と感心させられた。
そこへ老婆もやってきてノーラと話がしたいと言うと鍛冶屋の親父は老婆をすんなりと入れた。他の村人達も入りたいと言うが拒否される。
そんな中、柊二はノーラの親父さんと目が合い、
「ファル様、中へ入ってくれ」
と、言われたので不思議に思いつつも中へ入っていった。
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中では椅子に座った老婆とノーラの姿が見える。何やら話しているように見えるがここからでは聞こえないので柊二も老婆らに歩み寄っていった。
「おやファル様、入れたのですね」
「はい、なぜ自分が入れたのかわかりませんが話を聞かせて貰えるという事なのでしょうか?」
「そうですよ、あんなにたくさんの人が一度に質問して来たらこの子も怖いでしょうから、この子が信用している人だけを招いているんです」
お茶を入れているノーラの母が答える。
そうか、それなら納得する。あんな人数が一度に来たら小さい子なら泣いてしまうだろう。
そう納得した柊二は早速ノーラに優しく問いかける。
「ノーラちゃん、リサお姉ちゃんが何処に行ったか知っているかい?」
ノーラはしばらく黙っていたが、
「......怖いおじちゃん達がノーラの腕を引っ張ったの。ノーラ、怖くて声が出なくて泣いてたの。そしたら一緒に遊んでくれたお姉ちゃんが代わりにって...ううぅ...グスッ」
ノーラはそういうとぽろぽろと涙を流して泣き始めた。それを母が抱きしめてあやす。
つまり、ノーラとリサは一緒に遊んでいる最中に逸れてしまい、ノーラは知らない人に連れて行かれそうになった。そこへ探しに来たリサが代わりに拉致された、て事になる訳だな。
柊二は怒りで満たされた気持ちを抑えつつ老婆へ聞いた。
「お婆さん、拉致した奴らがどんなのか分かりますか?」
「ここ最近やってきたと噂される盗賊団かと」
「奴等の目的とは?」
「付近の村で略奪、女子供を拉致し、奴隷として売買が主な目的でしょう」
ここで一つの疑問が生まれた。
ん?待てよ?仮に拉致か目的なら【なぜノーラとリサを取り替えた】んだ?人身売買を目的とした拉致ならば二人まとめて誘拐すればいいじゃないか。なぜリサを...リサだけを連れて行ったのだろう...。
「犯人はノーラじゃなくてリサだけを狙っていたとしたら...」
一応、誘拐された事を予想して捜索隊には防武具を装備させ、盗賊団のアジトへ確認して貰う。そこにリサがいたら救助するという案が出された。
1人悩み呟く柊二をよそに老婆とノーラは話を進め、老婆は村の中から強者を募り捜索兼万が一の救出隊を結成するプランを考えた。
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広場に集められた村人からくじでメンバー入りする。全員が行けばいいと思うが男手がいなくなると村の警備が手薄になり、他の盗賊や獣達が村へやって来るかもしれないのでせいぜい10人が限界らしい。
それでも多くの立候補者が集まってくれた。若者から中高年代の様々方々が集まり、皆が我こそは!と息巻いている。
そして次々とメンバーが決まっていくなか、最後の一人を決めるために紙の入った箱に老婆が手を入れる。10番目の人が救出隊のリーダーとして隊を率いる事になっている。
そして老婆が取り出した紙の名前を読み上げる。
「10人目でリーダーとなるのはレオに決定となった」
老婆が挙げた名前は道具屋の息子のレオ。だが皆不服そうな感じを出している。理由は簡単だ。彼は戦闘訓練すら受けておらず、弱々しい物腰で平和主義者だからだ。
残念だが俺の名前は呼ばれなかった。だけど、村人を助けるなら村人が助けて当然だな...
柊二は今でも捜しに行きたい衝動に駆られているが、メンバーが決定した以上、従うしかない。
自分に言い聞かせる柊二はふとある事を思った。
ところで、なんでレオが立候補したのかがわからない。後で直接聞いてみよう。
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出発まであと30分
あちらこちらで防具を着るゴツイ男達が剣や盾の整備する者や、レミア像の前で祈る者もいる。そんな中、一人だけソワソワして落ち着かない青年がいた。勿論、レオだ。彼は自分の鎧を叩いてみたり、周りをきょろきょろしている。
彼は何をそんなに挙動不審になっているんだろう。
柊二は彼の横へ立ち、話しかけた。
「レオ、何をそんなにソワソワしているんだ?」
「わぁ!なんだファル様ですか。ーーあのですね、今更になって緊張してきたと言いますか...」
ソワソワしているレオに柊二はあの質問をしてみる。
「レオ、なぜ君は救出隊に参加したんだ?お世辞にも君は戦闘に向いていないと思うが」
少しの間レオは何も言わなかったが、
「俺、こんなに弱いし気も小さいし、よく馬鹿にされるけど、--もう子供じゃないんです。だからこれまでの自分を捨てたくて参加したのが理由です」
彼はこれまで何度も子供扱いされ、親からもガキだと言われてきたと言う。そんな彼が今回の作戦で戦果を出せば弱かった自分と決別出来ると考えたのだろう。
「そうか、頑張らないとな」
「はいっ!」
レオは気合の入った返事をした。
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出発5分前になった頃に突然1人に男が腰を痛めたようだ、彼はメンバーの中で一番の高齢者だった。
1人いないだけで戦力は大きく下がる。そこで再びくじが始まり、引くのは先ほど腰を痛めた男が引いた。
「出てきた名は、ファル様です!」
出てきた名前を読み上げると村人は一斉に歓喜の声を上げた。運命の人と呼ばれるファルの戦いが見れる訳だから、メンバーは喜びの声を上げている。
そんな他メンバー達をおいて柊二は、
「これで君を助けに行ける...」
恩人を捜しに行ける喜びを小さく呟いていた。
◇◆ ◇◆
そして現在は山の中を先頭とレオとした一列で草を切り倒しながら進んでいる。
「みんな、もう少しで指定座標に着くから頑張って!」
最年少のレオや柊二、他の若者は体力があるが中高年代のメンバーは息使いが荒く、体力的にも限界が近い。
「ここだ。みんな、少し休憩しよう。僕は少し辺りを偵察してくるよ」
レオはそういうと一人で藪の中へ入っていった。
柊二も出発前に貰った、果実の蜂蜜漬けを口に含む。果実の香りと蜂蜜の甘さが合わさり、僅かながら疲労がとれたような気がした。他のメンバーも同じ物を食べていたり、給水をして体を出来る限り休める。
暫く経ったがレオはまだ戻って無い様だ。まわりを見ると何人かの人達が居眠りをしている。年齢の高いメンバーは登山で体力が奪われて寝てしまうのは仕方がないが、若者は寝たら駄目だろう。と思いつつも瞼が重くなってくる。
「レオも来てないし、少しだけ寝よう」
人間、己の欲求には忠実だからな。といいように解釈して柊二は眠りについた。
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パチパチッと絶え間なく音が聞こえる。それに、なんだか暑くなってきた。
色々な音が聞こえ、焦げ臭い空気を鼻で吸い込み、異常な暑さを感じて目を覚ます。そして辺りを見て起き上がる。
「みんな起きろ!火事だ、囲まれてるぞ!」
柊二は隣にいた男をゆすり起こす。が、まだ眠っているのだろうか、男は中々起きない。
「おい、早く起きろ!」
ゴロンと仰向けにした瞬間に気が付いた。男は既に死んでいた。見ると頸動脈が斬られている。
「首を斬られているということは一体誰がこんな事を......」
大体予想はつくがきっと盗賊団の仕業だろう。
柊二は自分の荷物があることを確認すると生存者を探し始めた。仲間の荷物から残っている水を頭からかぶり燃える森の中を走ると、岩場に出た。そこには一人だけ生存者がいた。
「ファル様、ご無事でしたか!」
「ああ、そちらは?」
「奴等から逃げ切りましたが、この有様ですよ」
そういうと彼は左腕の切り傷に目線を落とす。おおよそ深さ4㎝と言った具合だろう。
「それよりもファル様、お気を付けください。今回の騒ぎは全て...「はいはーい、ちょっと待ってねー!」
岩場の上から声の主が現れた。だが奴の姿を見て柊二は怒りが溢れ出てきた。
「どうしてこんな事をした、レオ!!!」
降り立ったのは道具屋の息子のレオ。いや、今は盗賊団筆頭と言うべきだろう。
「どうしてって、敵が攻めてくるのに迎え撃たない馬鹿がいるんですか?」
ケタケタを笑うレオは血塗られたナイフを片手で遊ぶように手元で投げている。レオはいつの間にか鎧から盗賊として活動する際に着ていると思われるローブに着替えていた。ローブには大量に血が付いている。きっとメンバーの大半を殺したのはレオだろう。
「このクズがぁぁぁ!!!」
先ほどの生存者が右手で剣を持ち、突撃する。
が、
「ッ!駄目だ、離れろ!」
柊二が叫んだ時にはもう遅かった。
レオと彼の距離は5m程だったが,レオは目にも止まらぬスピードで首元にナイフを運び
「......おせぇよ。」
と呟き、ナイフで喉元を斬った。
あまりにも精錬された動きだったために、柊二ですら目で追いつける事が出来なかった。
「さてー、邪魔者もいなくなった事ですし、早速やりましょうか」
「やるって何をだ......?」
柊二の問いにレオは笑みを浮かべながら答え。
「やだなぁ、やるって言ったら決闘ですよ決闘」
先ほど殺した男の上に腰を下ろしてナイフをペン回しをするように回す。
「あ、勿論景品もあるんですよ」
「へぇ、ちなみにどんな物だ?」
焦り交じりに柊二は尋ねる。そして運ばれて来た箱のような物に布が被さっている。
「景品はなんとこちらでーす、ジャーン」
布が剥ぎ取られて出てきたのは檻。
その中には、
「リサ!!」
「~~~!!」
口に布を咥えさせられて縛られたリサが閉じ込められていた。
「レオ、今すぐ彼女を放せ!」
「だからぁー、景品だって言ってるでしょ?欲しけりゃ僕を倒してくださいよ」
ニヤニヤと不敵な笑みを見せるレオ。
「頼む、俺はどうなってもいい!だが彼女は何の関係がないだろう!」
必死に自分の代わりに解放するように頼む。
が、
「あー、もうしつこいな!」
ヒュンッ!と音を立ててリサの足元にナイフを投げられる。あと数センチというところにナイフが刺さった。
「彼女が欲しけりゃ勝負しろよ、なぁ?ファル様よぉ」
村の時のあの話は全てが演技で、この状況をつくる為だけの過程にすぎなかった訳だ。
「一つ答えろ、なぜそんなにも俺に執着する?」
尚も変わらずレオは薄笑いをしたまま立ち上がり、両手を空に向けて広げて答える。
「そんなの決まってるだろ、俺が歴史上最初の、--いや、最初で最後のファル殺しを成し遂げた人間となるためにだよぉ!」
レオはナイフを構えて、柊二に向かって走って行く。
「俺はもう誰も悲しませたりしない。それが俺をこの世界に送った人が望む事だと思うから!」
腰から木刀を抜き構える。この世界で最初の恩人を救うために剣士は敵に立ち向かう。




