12話:この世界の事
窓から朝日の射し込む部屋のソファーで柊二は目を覚ました。木目がハッキリと分かる天井を寝ぼけ眼で眺める。
「俺の部屋、―――じゃないよな...」
天井には蛍光灯なんてものは無く、部屋のドアの近くにカンテラ(ランプ類)が1つ、テーブルの上に蝋燭が1本だけある状態だ。元いた世界の現代文明とは劣った文明なのだと、よく分かる。
未だにボヤける視界で天井を眺めていると、隣から女性の声が聞こえる。
「あ、お目覚めになりましたか。もう朝食の用意は済ませてありますので身支度が整いましたらリビングへお越し下さい」
昨夜、葡萄酒を飲み、そのまま床に倒れた巫女だったが、何事も無かったかのような様子で朝食について報告してきた。
「ありがとうございます、では用意が出来次第向かいます」
巫女は朝食の用意の事を伝えると部屋から出て行った。
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彼女が部屋を出て行ったので着替えようとするが、
「あれ?俺の制服どこ行った?」
そう、昨日着ていた制服が見つからないのだ。この世界に来た時は、元の世界で死んだ時の持ち物は勿論、着ていた制服までもが昨日の目覚めた時には棺の中にあったのだ。
だが、昨夜寝る前に用意された布着に着替えて寝たため、脱いだ制服は畳んでテーブルに置いていたのだが見当たらない。
「スマホに財布と腕時計、それに木刀と刀はあるな。しかし、なんで制服だけが...?」
持ち物をテーブルに並べて椅子に座り、腕組みをして首を傾げる。柊二はう〜んと項垂れて昨夜の事を思い返す。
そこへコンコンとドアをノックする音がした。誰か来たのだろうか。
「はい、どうぞ」
「あのー、失礼致します」ガチャ
入って来たのは先程部屋を出て行った巫女であった。彼女は、申し訳なさそうにしながら頭を低くして入って来た。
「そんなに頭を下げてどうなさりました?何か用でも?」
1度リビングに向かった巫女さんが戻って来るなんてどうしたんだろう?
制服の事を一旦頭の隅に寄せ、巫女の話を聞く。
「あのファル様?昨夜まで身にまとっていた衣類が無くなったとかは...」
「え!?何処にあるのか知ってるの!?」
やばい、つい素に戻って敬語を忘れてしまった。そんな事を思った柊二だったが、巫女は気にせずに答えた。
「えっと、―――知っているも何も私が持っていますので」
そう言うとオズオズと背中に隠し持っていた柊二の制服を前に差し出す。
「良かった、無くなったのかと思いましたよ。しかし、なぜ巫女さんが?」
無くなったと思われた自分の制服が戻って来てホッと安心する。それと同時に何故巫女が制服を持っていたのかを問い質す。
「それはですね、昨夜ファル様の、その...ベ、ベッドで目覚めた時にファル様の衣服が見られましたので洗濯を、と思った次第です」
ベッドという単語を口に出した彼女は少し恥ずかしそうにしているが柊二にはその理由が分からない。
「それでですね、洗濯をいざしますと右の横腹から左胸にかけて大きく裂けていました。それに沢山の血痕が...」
全く気が付かなかったが殺られた時はそんなに大きな傷だったのか。
「それに、こんな衣服は見た事がありません。薄いのに丈夫でその上、軽いです。大変珍しい衣服と思いましたので私の方で裂け目を縫わせていただきました。」
そういうと、Yシャツ広げて柊二に見せてきた。そこには、裂け目など元々無かったかのように見える程綺麗に縫われていた。
「凄いな、裂け目なんて無かったみたいだ。ん...?」
感心してYシャツを眺めていると、丁度胸ポケット上辺りに紅い糸で花の刺繍が施されていた。薔薇のような形をした刺繍を見て不思議そうにしている柊二に気付いた巫女が不安そうな様子で答えた。
「えっと...その...ファル様のこの服の裂け目は見た限り鋭利な物で斬られたように見られました。また、洗う前に血痕がありましたので、ファル様が斬られたのではないかと思いましたので...」
ゴニョゴニョと呟く巫女。
「それでですね...御守り的な意味で私の好きな赤薔薇の刺繍を入れさせて頂きました。ご迷惑でしょうか...?」
胸の辺りで両手を組んで巫女は柊二に目を合わせた。柊二の身長は大体175くらいなので、柊二よりも背丈が低い巫女が柊二に目を合わせると、どうしても上目遣いになってしまう。
「うっ...いえ、構いませんよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
勝手な事をしてしまったが許しを貰えたことを嬉しがる巫女を横に少し赤面した柊二。
上目遣いで視られたら許すしかないだろ。
仮にこの世界から元の世界に帰ることが出来たら、来た時同様に持ち物も衣服も一緒に送られるのだろう。
そこで赤薔薇の刺繍入りYシャツなんかで学校に登校した後の事を一瞬でも考えたが、彼女の上目遣いと笑顔を見たことにより気にしないようにした柊二だった。
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朝食を頂いた後、この世界の事を良く知るために老婆から話しを聞く事にした柊二は、1人外のベンチに腰を掛けていた。
暫くして、杖を突いてこちらに向かってくる老婆がいた。柊二は立ち上がり老婆に手を貸して座らせてあげた。
「どうもありがとう、こんな婆さんに気を使ってくれて」
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
ゆっくりと腰を下ろした老婆は杖を膝の上に載せてハァ...と息を吐いた。老婆が座った事を確認すると自分も隣に腰を下ろた。
「さて、ファル様は何を知りたいのですか?」
老婆は柊二の方に顔を向けて尋ねる。対して柊二は、老婆よりも目の前の景色を眺めていた。
「では、この世界にの事を教えていただけますか?」
今一番知りたい事はこの世界がどんなモノなのか、それを知る必要がある。元の世界へ戻る事が第一優先だが、戻る方法が見つかるまではこの世界で生きてゆく必要があるのだ。...いや、もしかすると戻れない可能性すらもある訳だからな。
老婆は問いに答える。
「この世界ははるか昔、1人の神によって統治され、争いのない世の中に人々が生活をしていました。この村とは別に、灼熱の砂や凍えるような冷たさがある土地にも人々は適応し、神は彼らにも豊かな恵みを与え、誰一人として苦しむ事を知らない。そんな世の中を作ってきました。」
老婆は子供に昔話でも聞かせるように話し始めた。
「しかしある日、神は増えた人々を自分1人では管理できなくなりはじめ、自分の弟となる分身を作りました。慈悲深い神は自分の分身だから彼も善良な心を持っているのだと思い、世界の半分を弟に託しました。」
柊二は話している老婆がだんだんと悲しそうな顔をし始めた事に気が付いた。
「だがそんなに都合が良い事はありませんでした。善の兄から作られた兄の分身は兄の心の奥底に封じられていた悪の心から出来た分身だったのです。」
「そうとも知らない神は負担が半分になったことを喜びました。そんな喜ぶ兄をよそに弟は、いつしか兄の持つ世界を手に入れようと自分の世界で軍事研究や魔法を生み出し人々に与えました」
「その結果、軍事産業は急成長し、兄の世界に手を伸ばし始めたのです。神が気が付いたのが早くとも、神の世界の人々は対抗する術が無い為、村や街が次々と占領されていきました。気が付けば、最初に神が作り上げた国である【聖メルセリア皇国】だけとなったのです。」
老婆は淡々と話すがその目は遠くを眺めているようだ。
「戦う術のない神は分身である弟になぜこんなことをするのかと問うと、弟が自分の心の一部だと知った時、神はショックを受けました。自分の中に彼のような心があった事が信じられない神は何も出来ず、ただ自分の作り上げてきた世界が悪に染まるのを眺めていました。」
ここまで話してきた老婆は悲しそうな顔をしていましたが、これから話すこと考えたのか少しずつだが微笑みを見せ始めた。
「が、ただ眺めていた神はふと思い出したのです。【神が作った分身は自分の一部】だという事に。神は弟を止めるべく自ら命を絶つ事に気が付いたのです。」
「神は命を絶つ前に人間以外の人種を作り上げ、それぞれの人種に合った能力や生態を与え、また多種別の神を作り彼/彼女らに争いがないように世界を統治するようにと伝えると、1人部屋の中に入り二度と出てくることはなかったという。それと同時に分身はもがき苦しみ消えていった。」
「弟が消えた後、率いていた兵たちは撤退しその後どうなったかはわからない。それから世界は多種別に新しい神々が管理しはじめ再び争いの無い世界が始まったのだった......」
これがこの世界が生まれた話だと老婆は言う。
「なるほど、再び訪れた平和な世の中というのが今という訳ですね」
「そうです、そうです」
村の広場では子供たちが追いかけっこをしてはしゃいでいるのが見える。この光景が見えるようになるためには、この世界の過去は元の世界では考えられないほどの大きな出来事があった。
この歴史は、これから生きていくこの世界で忘れてはいけないことなのだと、柊二は深く心に刻んでおいた。
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それからは別の街の話や土地の話、はたまた動物や植物のことなど細かい所まで話してもらった。
それと、疑問に抱いていた【言語】なんだが、話が通じるのは一番初めに生まれた種族は人類であり、人類の話す言語が世界中で共通語とされた。
そのため、ほかの種族にも発音しやすいように人類語を工夫した結果、柊二が使う日本語に似た形となった。所々変な発音もあるけれど殆ど日本語と同じだと気が付いた。
「さぁ、そろそろお昼になりますので続きはお昼の後にでも--、「大変だお婆!!リサが何処にもいねえぞ!!」
老婆と柊二が立ち上がった途端に畑の方から男が走ってきた。
老婆と男が言い合う中、一大事と思いながらも老婆にカーラという人物が誰なのか聞く。
「あの、お婆さん。リサとはどんな娘なんですか?」
少しでも助けになろうと特徴を老婆に聞く。
「誰って、―――私の孫です!巫女のリサです!」
巫女と聞いて柊二は焦りがドッと出てきた。焦りの出た柊二は男に迫り問う。
「おい、あんた!彼女が何処で消えたか知ってるのか!少しでもいい、情報をくれ!」
「わかったから落ち着いてくれ!か、鍛冶屋の娘のノーラって子と一緒だったt、―――うわ!」
必要な事を聞き男を突き飛ばして、昨日食料を持ってきてくれた少女の元へ急いで向かう。
焦りと不安の入り混じったなか、柊二は少女の元へと向かう。




