11話:剣士、異世界へ
一体どれくらいの時が経ったのだろうか、数日?数ヶ月?はたまた数年?
もしかするとそれ以上に長い時が過ぎた、そんな気もする。
全てが暗闇の世界で体の重みすらも感じず、ただただ宙を浮いているような感覚が全身を包む。
心地いいような、安心するような気分になる。
もう一生この世界で生きていたい、そう思えるほどに居心地のよい世界。
でも、何故だろう。俺には、やらなくてはならないことがあったような気がする。
誰か......大切な人を護らないと......。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何処からともなく音が聴こえてくる。
ドンドンッドコドンッ
何だこの音は?激しく響いているはずなのに不思議と聴いていたくなるような音だな。
〜〜♪
誰かが歌っているのだろうか。なら、音に合わせて歌っているのだとすれば今聞こえてくるのは音楽なのだろう。
「......ん?」
バッと勢い良く上半身を起こす柊二は、疑問に思った。それは彼が今までで体験した事の無い事だったからだ。
何故、俺は意識があるんだ!? 俺は死んだ筈じゃ......
そう、彼は1度死んでいる。1人の少女、もとい1人の女神を助ける為に戦った彼は敵の死に際の一撃を受けてしまい、それが致命傷となり死んでしまった。
死んだ筈なのに生きている、この不思議な出来事に柊二は戸惑いを隠せないでいた。
「何故だ?俺は死んだのに生きている、――俺は一体誰なんだ?」
未だ疑問を抱えている柊二だが、自分の置かれている状況を見てそちらに意識が向く。
「まずここはどこで、なんで俺は石棺(?)に入っているんだ。そして、俺が入っている石棺の横にある、この大きな石像はなんだ?」
新たな疑問が浮かんでくるがそれ以上にショックを受けたのは柊二だけでは無かった。
「―――。」ザワザワ
彼がいる石棺、と云うよりは石像の前で、儀式のような祭りの様な雰囲気を出していた人々はその場で止まって柊二を見つめた。
「えぇーと、何この状況?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ようこそ、ファル様」
1人の老婆と先程の儀式のようもので歌っていたと思われる巫女さんが柊二を家に招き、先程の状況について説明してくれるようだ。
「ご婦人、質問の前に一つよろしいですか?」
「ええ、なんなりとファル様」
老婆はフードを深くかぶっている為、表情は見えないが声質からして友好的なのが分かる。
「まず、どうして俺のことを【ファル】と呼ぶのですか?」
石棺から出てきた柊二の事を目にした人々は【ファル】と呼んでいた。
「それは貴方様が彼女の石棺から出てきたからで御座います」
「彼女とは一体誰のことです?」
次の老婆の言葉に衝撃を受けた。
「女神レミア様の事で御座います」
「そうか、彼女が...」
あの時、俺が死んだ後に何かしてくれたのだろう。だから俺はここにいるんだな。
柊二の心には熱く膨れ上がるような気持ちが湧き上がってきた。
「我々は女神レミア様の側で現れた方をファル(運命の人)と呼んでおります」
老婆が言うには、ファルは女神レミアの意思により現れる特別な人間だと言う。なぜ、ファルが現れるのかは未だに謎らしい。
なかなか手の込んだ設定だな、と考えていた柊二も女神レミアの名を聞いた途端にここは元いた世界とは別の世界だという事も理解した。
「それで、あなた方は何者で石像の前で何をしていたのでしょうか?」
「我々は人間種でヘリオ人と分類されます。石像の前では3ヶ月に1回行う女神レミアに対して豊穣の感謝を行う儀式で御座います」
成程、大まかな状況は理解出来た。要するに俺は異世界へ飛ばされて何をするのかも分からないままだという事だ。
「一体どうすりゃ良いんだよ...」ハァ
柊二は大きな溜息をついた。目的もわからないままじゃどうしようもない。
「今夜は遅いのでここに泊まっていかれると良いと思います」
ここまで話さなかった巫女さんが一言。
まあ、こんな夜中に外を出歩いてたら野犬なんかに襲われるかもしれないし、なにより今の持ち物じゃろくに野宿も出来ないだろうな。
「すみません、ではお邪魔でなければ今夜1晩有難く泊まらせていただきます」
とりあえず、寝床は確保出来たから次は飯だが....
「あ、あのっ!」
ん?今誰か呼んだみたいだけど姿が見えないな。
「こら、ノーラ。ちゃんと言わないと」
先程、泊まるように薦めてくれた巫女さんの後ろに少女が隠れていたようだ。
ショートカットの少女は両腕いっぱいにパンや林檎、チーズ等を持って柊二の元に寄ってきた。
「こ、これっ!お母さんが持って行きなさいって...」
「これを俺に?」
「――――」コクコク
恥ずかしがり屋なのだろうか、言うことだけ言って黙ってしまったが首を縦に振ってくれた。
「そっか、ありがとうね。ご馳走になります」
俺が礼を伝えるとそのまま家を出て行ってしまった。多分、自分の家に帰ったのだろう。後で御両親に挨拶とお礼に行かないと。
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少女に貰った食糧を抱えて巫女さんに部屋まで案内してもらい、テーブルに食糧を置いて食事を始める。
まずは丸みのある赤い果実をそのまま齧る。甘酸っぱさが口に広がり、スッキリとした後味が美味い。
次にパンにチーズとハムを挟んで頬張る。うん、パンにチーズとハムの味が合う。実に美味い。
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今晩中に食べた方がいいと思われる物を食べた後、頂いた食糧の中で日持ちしそうな干し肉や乾燥させた果物(いわゆるドライフルーツ)を布袋に入れておく。
明日にはこの村を出て街へ向かおうと思っているからな。非常食として取っておこうと思って布袋にしまった。
「さて...」
食事を一通り済ませたのだが一つだけ残っている物がある。柊二の視線の先には紐のような物で編まれたネットにビンが入っており、ビンの中には液体が入っている。
巫女さん曰く、何かの果実のジュースだと言うが多分違うな。だって、先程このビンの中身を味見して貰った巫女さん本人が床に倒れているんだからな。
なんか、差し入れの飲み物って怖い気もするだろ?だから、疑っていた俺を安心させるかのように自分から1口巫女さんが呑んだが――
「これ絶対、果実酒だろ....」
巫女さんの顔が赤くなって倒れている姿を見れば皆がそう思うだろうな。
柊二は倒れた巫女さんをベッドに寝かせ、自分は老婆に1杯の水を貰い、それを飲んでからソファーに横になった。
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外では虫の鳴く音が聞こえる。それ以外に外からも部屋からもの音がしない。
「眠れない」ガバッ
自分に掛けたブランケットを捲って立ち上がる。巫女さんはまだベッドで眠っているようだ。
柊二は音を立てないように部屋から出る。ふと気付いたが、この世界は元いた世界と比べると文明が古いような気がする。
その証拠に少し前に老婆と話をしていたリビングと思われる所には電球ではなく蝋燭が1本だけ、家の出入口の壁に立て掛けてあったからだ。
違いを感じながら家から出て、外の風にあたりに行く。
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「やっぱり、こう違いを見ると別世界なんだな......」
柊二は1人夜の村に出てきた。
この村の家の殆どが平屋の藁葺き屋根、整備された道はアスファルトではなく土、勿論街灯なんてものはない。
目覚めた時とは違い、儀式の為にいた皆は各々の家に戻り寝ているのだろう。外には子供一人もいない。こんな夜中に子供がいたら逆に危ないか。
彼が向かった先は、自分が目覚めた場所で石像の足下。そこは2、3段の石段になっているので、柊二は石段に腰掛けた。
聞けばまだ季節は日本でいう春らしいが、まだまだ夜は冷えるな。
肌寒さを感じながら、柊二は空を眺める。空は雲一つ無い空で、見たことも無いほどの無数の星々が空一面に散りばめられていた。
ふと、無意識にこんな事を呟いてしまう。
「この星空を君と見たかった...」
自分でも思ってもみない発言に少々恥ずかしかったが誰もいないので言いたいことを言おう。
柊二は星空が見える様に石像の方を向いた。
「レミアさん、俺には分からないよ、―――どうしてこの世界に飛ばされたのか、俺は今後どうやってこの世界で生きていけばいいんだろう...」
この世界に飛ばされてから思った事を一つ呟くと歯止めが効かなくなったように次々と言葉が出てくる。
「俺がこの世界に送られた理由、君が何を思って俺をこの世界に送ったのか答えて欲しい」
たった1人の青年が、目を覚ましたのは元の世界とは別の世界であり、知っている人も居ない状況、更には何をするのかも分からない。
そんな多くの不安の中で唯一安らげるのはこの場所しかないのだろう。
「なあ、教えてくれよ。俺はこの世界で何をすればいいんだ...」
彼女は何も答えない。無論、石像に話しかけても答えが帰ってくるはずもない。
「...今日はもう寝るよ、また明日」
柊二は立ち上がり、提供してもらった部屋に戻る。
相変わらず石像は動かないが、彼が立ち去った後に石像の口が笑っているような気もした。




