10話:もう1度君に会える時まで
現時刻2時15分
外でサイレンが鳴っており、段々と音が大きくなる。学校に近づいて来ているのだろう。
柊二は横で寝ているレミアを揺すって起こす。
彼女はまだ眠たそうな顔をしており、目を擦っている。
「もう朝なの?」
口を抑えてあくびをするレミア。
「いや、サイレンの音が鳴ってるからパトカーの類いだと思うよ」
横に置いていた2本の刀をベルトに刺して柊二は立ち上がった。
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「こちらは第○○中隊である。被災者の救助に来た。慌てないで我々のトラックに乗り込んで下さい」
どうやら自衛隊の救急隊が救助に来てくれたようだ。
良かった、これで皆助かる。
ホッと一安心した柊二は、クラスメイトをまとめて民間人の避難誘導を行った。約3分の2位の人数は避難させる事が出来た。
今、体育館に残っているのは柊二、吉田、中川、レミアを含めた30人位で次の救急隊を待っている。
妹の遥香は、既にトラックに乗り込み別の場所へ避難している
自衛隊の輸送トラックは約10分おきに来ているので、この様子なら直ぐにでも皆が避難できるだろう。
柊二は、体育館から外へ出る為の石段に腰をかけてトラックが来るのを待っていた。
「よっ、お疲れ」
暫くすると、吉田が缶コーヒーを持って俺の横に座った。
缶がほんのりと温かい、疲れた体に嬉しい温かさだ。
きっと気遣って買ってくれたのだろう。
「サンキューな」
俺は素直に礼を言うが、
「何言ってんだよ、お前が指揮を取ってくれたおかげで随分と効率が良かったんだ。礼を言うのはこっちだろ。」
余り褒めなれてない柊二は、褒められたことに少し照れ臭くなった。
その事がバレないように、吉田がくれた缶コーヒーにそっと口を付けて一息入れた。
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トラックが起こす大型車特有のエンジンが聞こえる。
「大変お待たせしました、こちらが最終便となっています。慌てず押さないでお乗り下さーい!」
どうやらこのトラックで最後のようだ。もう、俺達以外の避難者は見る限りはいないので自衛隊員の方に伝えて乗り込みが始まる。
「やっと安全な場所へ行ける」
安心する吉田。
「お父さんとお母さん、大丈夫かなぁ?」
家族を心配する中川さん。
残った人達皆が乗り込み座り込む。
柊二も吉田達に混ざってトラックに乗り込み、適当に座る。
「これで全員ですねー?」
自衛隊員の方が聞いてくる。
「あれ?レミアさんは?」
ふと気付いた吉田が答える。
吉田の発言が耳に入った柊二は辺りを見回すが乗車をしていないようで、どこかざわめく心を押さえつけて自衛隊員に聞いてみる。
「すみません、まだ友人が体育館の方にいるようなので時間を頂けないでしょうか?」
国と国民を守るのが自衛隊。
しかし、返ってきた言葉は、
「無理です。直ぐにでも出発します。」
否定の言葉であった。
「ちょっと待って下さい!民間人がまだ残っているんですよ!?」
柊二は声を荒らげて反論する。
「命令ですので直ちに出発します。」
淡々と答える自衛隊員の眼には光がなかった。
「民間人を置き去りにするなんて、それでもアンタ自衛隊員かよ!!」
更に声が激しくなる。
「たった1人のために大勢の命を無駄にする気か!よく考えろ!」
激しい息遣いで叫ぶ隊員。
コイツは、建前を立てておいて自分がこの場から逃げたいだけの臆病者なのだろう。
「いいから君は座っていなさい。後で我々が何とかするから!」
自衛隊員は柊二に拘束具をつけようとする。
「人1人を見捨てるようなお前らに何が出来るんだ!!」
柊二は拘束具をつけられる前に左拳で彼の肝臓がある部分を殴る。グゥっ!と唸り声を上げて自衛隊員は1度倒れるが立ち上がろうとする。
伊達に厳しい訓練を耐え抜いてきただけの事はあるな、と柊二は思いながら彼の横を抜けて体育館に向かう。
「おい君、止まりなさい!もう出発するぞ!」
と、運転手が立ち上がろうとする同僚に手を貸しながら叫ぶ。
彼の叫びは今の柊二には全く耳に入らなかった。
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「おーい、レミアさーん!」
体育館を捜したが見つからないので、もしやと思い校舎を探している。
校舎内はシーンとした空気の中、柊二の声だけが響き渡る。
蛍光灯は全て無灯火で、街の騒ぎで見回りの人もいないので静けさが恐ろしく感じる。
「レミアさーん、いるなら返事してくれ!」
もしかして、トラックを待てず歩いて避難しに行ったのか?
そんな気もしていたが――、
「きゃあああああ!」
叫び声が聞こえて、柊二は叫び声のする教室へ駆け込んだ。
そこで見た物に柊二はフラッシュバックが起きた。
地面に座り後ずさりを見せるレミアの目の前には見たことも無い異形の生物の様なものが蠢いている。
それは、モヤモヤとした黒煙の様なものが形を成しており、人の形のようにも見える。その手には、ほかの影よりも色濃く細長い形状になっている。多分、剣か何かだろう。
また、モヤモヤとした煙の一部は少し赤くなっている。位置的には人間の口の周りだろう。
血液ごと霊魂を吸っているのか?
「コイツが霊魂を喰うために人を殺すという敵か...」
そっと帯刀していた木刀を構える。
しかし奴は柊二に迫る様子はなく、むしろ腰が抜けているレミアに迫っていた。
「まずい!」
レミアと迫り来る敵の間に柊二が入り込む。
「天斬君、どうして!?」
「君の叫ぶ声が聴こえたから」
怯える彼女を背に柊二は目の前の敵に意識を集中させる。
すると、黒煙は目の前に出てきた男を敵と認識したのだろうか、より濃い影が柊二の横腹辺りからか飛んでくるが間一髪これを防ぐ。
防ぐというよりかは、受け流している。その方が体力も余り使わずにすむし、持久戦に持ち込めば勝率があがる。
そう考えていた柊二はひたすらに相手の剣戟を受け流す。
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おかしい、奴の剣筋は全くと言っていいほど変わっていない、むしろどんどん速くなっているような....。
「うっ、ぐっ」
持久戦に持ち込もうとしたが先に柊二の体力に限界が近づいてきた。
徐々に速くなる剣を受け流す事も難しくなり、所々に流し切れなかったせいで斬られたと思われる傷が幾つもある。
「それなら作戦変更だ!」
今まで防一線の型から攻めに変える。
残っている体力であらゆる方向から剣戟を加える。
だか、相手はまるでダメージが無い様子で攻撃してくる。
「くそっ!一体どうなってるんだ!?」
奴には一切の物理攻撃が効かない。煙の様な姿をしているせいか、柊二が振り下ろす木刀が全てすり抜けてしまう。
「なにか、なにかがある筈だ。奴を倒すための策が!」
攻めから攻防一線の構えに変えて攻略法を見つける為に思考を駆使する。
「・・・私に任せて!」
「一体何をっ!?」
今まで黙っていたレミアが急に立ち上がり柊二の背中に手の平を当てる。すると、徐々に手の平を当てられた場所が冷たく感じる。
「我に従いし万物の精。内なる冷たき精霊よ。汝、その名に従い我が力の糧となれ!」
レミアがそう告げる。
それと同時に教室に蒼白い光が放ち、辺りを雪が覆う。
「おお!何だこれ!?」
少しの間だが柊二はこの景色に驚きを隠せなかった。
それもそのはず、彼女が聞いたことも無い言語で何かを話し終えると気がついたら目の前は雪が降っていた。
雪に気を取られていると敵が突っ込んでくる。
「おわっ!」
間一髪の所で木刀で受け止める。だが、柊二が持っているのは先程の木刀では無く、氷で出来た剣だった。
柊二はそれで相手を押し退けた。次の瞬間、氷の尖った部分が敵にぶつかり煙が切れた。
「奴には物理攻撃は効かないから魔法で付与したの!」
エンチャントってのが分からないが、これで勝てる!
想定外の出来事に敵は我を忘れて柊二に向かってくる。それは余りにも無謀で策の無い、只の特攻だった。
これのチャンスを柊二は見逃さない。
両手で構えていた剣を鞘に収めるような型を作る。
そっと剣を腰へ運び、腰を落として目を瞑る
「天斬流抜刀術....」
迫り来る敵へ向けて技を放つ。
「一刀閃空ッッ!!!」
間合いを一瞬で詰めて首と思われる箇所を斬る。
少しの静寂の後、敵はパキパキと音をさせながら氷になり砕け散った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『終わった...のか?』
「天斬君!」
柊二を心配してレミアが向かってくる。
『おいおい、そんなに走ると転ぶぞ?』
と、少し冗談交じりに思いながらも近づいてくる彼女の方へ自分も歩き始めた。
だが、
「なんだ?おかしい、脚が動、かない。目も霞んで、きた」
寧ろ倒れたのは柊二の方だった。倒れ込んだ先で柊二はヌルッとしたものを触る。
それは自分の腹部辺りからか流れ出た血液だった。柊二が気づくより前に切られていたのだろう。結論が出た頃には気を失った。
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酷い頭痛がする。体は石のように重くて動かない。
「――君!」
誰かが名前を叫んでいる。
「――ぎり君!」
徐々に戻る視界で見る景色の中に泣いている女の子がいる。
『君はどうして泣いているんだ?』
柊二は涙を拭ってあげようと頬に手を伸ばす。
「天斬君!大丈夫!?」
柊二の目の前で泣いている女の子、彼女は柊二に膝枕をし、声をかけていた。
視界が完全に戻り、彼女の頬に手を当てて涙を拭ってあげる。
彼女もこれを拒まない。
「これはどういう状況?」
「天斬君、戦いの後にそのまま倒れたんだよ?」
「そっか....」
腹部に目を向けると包帯が巻かれているが出血が止まらない。
ドクドクとまではいかないが、ジワジワと滲み出てきているのが感じられる。
先程の戦いで気づかないうちにやはり斬られていたのだろう。
「ごめんなさい、包帯は巻いたのに血が止まらないの....」
「気にしないで....これが俺の運命なんだよ」
人は死ぬ間際は弱気になるっていうけどこういう事なのかな?今、凄く脱力感が迫ってくる。
「それにさ、女の子1人守れないで死ぬなんて男として、――剣士として恥だろ?」
少しでも彼女に笑って欲しい。
「君に涙は似合わない。笑顔の君が一番輝いてるよ」
『笑顔で過ごしていた君との日常が一番楽しかった。』
柊二は言葉を紡ぐも意識が朦朧としてきた。段々と体も動かなくなってきた。
「レミアさん、俺が死んだ後は祖父ちゃんと妹、それに吉田や中川さんに今から言うことを伝えてもらえるかな?」
「貴方がそう言うなら」
彼女は黙って受け入れた。
「もし俺が死んだら妹はきっと精神を病むと思う。それでも俺が死んだ事を受け入れて強く生きて欲しいんだ。君のお兄さんは、沢山の人々を救って亡くなったって言えば少しは遥香の気持ちも軽くなると思うんだ」
「祖父ちゃんは、俺がいなくなったら自分の健康を忘れると思うから、健康に気をつけろって伝えて」
「うん....うん」
レミアは黙って話しを聞いていた。これが天斬柊二の最後の言葉になる事に気づいたからだ。
「吉田には、お前とは小学生からの付き合いになるが毎日が楽しかったって」
「中川さんには、早く吉田に告白しなよって言っておいて」
「え!?中川さん吉田君の事好きだったの!?」
「要らない情報だと思うけどね」
場に似つかわしくない話をすると柊二は激しく咳き込み、2,3滴血を吐く。もうそろそろだと分かっていた。
「最後にレミアさん」
「....はい」
「初めて会った時、君のような素敵な女性がこの世に存在するなんて思っていなかった。そう思う程に君は綺麗だ。おっちょこちょいな所も頑張り屋な所も全部まとめて素敵だと思ったよ」
柊二はもう目が見えない。視界が悪くなったのか目を瞑ってしまったのかも分からない。
「さっきの出来事で君が嘘を言っていない事が分かったよ。今まで疑っていてごめん」
黙っている彼女に柊二は話し続ける。
「だけど、君と2人で屋上で話した事はいつまでも忘れないよ」
「俺と出逢い、俺達の日常に来てくれてありがとう。君は素敵な、女神...様」
涙を拭う為に彼女の頬に触れていた柊二の手は糸が途切れたかのように落ちた。
柊二は言いたい事を全て言い切った。その顔に悔いはない。
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大切な人を守れて死んでいった1人の剣士。彼の心は今満たされていることだろう。
だが、死ぬには余りにも早すぎる年齢である。
普通の高校生が送る日常を送れるはずの彼が、自分の日常より最後に気付いたとはいえ女神と答えた女性を半信半疑でも守る為に死んでいった。
少しずつ冷たくなっていく自分を護った剣士の頬を撫でる女神。それでも、胸に触ると彼の熱い想いが心に染みてくる。
暫く彼の心を感じていた女神はある決断をする。
「我を護りし剣士よ。それ栄誉を称え、再び生を授けよう」
「天斬君、勝手な事を許して下さい。それでも、貴方は死ぬべき人では無いのだと私は思うの。だけど、同じ世界には1度亡くなった人間が戻る事は出来ないの」
そう言いながらレミアは安らかに眠る柊二の髪を撫でる。
「だからね、こことは違う別の世界に貴方を転移させていただきます」
レミアは、横になっている柊二を抱きしめた。
「貴方が送られる世界はきっと大勢の人が困っていると思うの。でも、貴方なら皆を救ってくれると信じてる。だって、私を護ってくれた剣士様なんですから」
目を瞑ったままの柊二に顔を寄せる。
「あの時の貴方、すっごくカッコ良かったよ」
そのまま自分の額と柊二の額を合わせる。
「もう1度、あなたに逢える時を楽しみにしています。たとえ、幾百年、幾千年経って貴方が私を忘れていても」
二人の体が光の粒となり、薄くなり始める。
「私だけは貴方の事を忘れません。ありがとう、私の好きな剣士様」
女神レミアが言い終わった頃には、その場に2人の姿は見えなくなっていた。
これは剣の抜けない剣士が大切な人を護るために己の命を賭して護った話である。
己の命を賭して散っていった剣士は、こことは別の世界で救世主として伝説を作っていく。そして、再び彼女と逢える時まで彼は戦い続ける。
それがどれほどの年月が掛かろうとも。
どうも、皆様。太古です。本作はここ迄がプロローグとなっております。プロローグで10話もあるなんて長過ぎると思う事でしょう。自分もそう思います。ですが、読みやすい様に1話約1500文字ずつで執筆した結果がこれ程長いプロローグとなってしまいました。
又、これから後の本編では1話辺り4000文字となりますので時間がある時にでも読んでいただけると幸いです。
では、また本編でお会いしましょう。




