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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
7章 辺境伯領編
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14.墓標

 闇に響き渡る鐘の音に混ざり、時折聞こえる雷鳴。いつの間にか霧は棺桶のまわりに集まり、再び強烈な光が放たれると棺桶の輪郭がはっきりと霧に映し出された。そして雷鳴が一際大きく轟いた瞬間、一条の落雷が棺桶を直撃した。木製の棺桶はその威力に抗うことができず、炎に包まれた。


 一体何が起こっているのか、皆がそれを理解するよりも早く、棺桶が内側から蹴破られた。蹴破って出てきたのは……あの大男だった。


『ば、馬鹿な! ヤツは底の知れない奈落の底へと落としたはず! まさか君が蘇生させたのか?』


 奈落の底、ということは地属性魔法でも高位の魔法「奈落」のことだろう。その先は別世界に繋がっているとさえ言われている魔法で、蘇生させるための死体すら見つからないために蘇生は不可能とされている。だがそんなことも分からないほどにヤムは混乱しているらしい。


【さあ、これからが本番です】

「そういうことは事前に教えてほしいよ」


 こういう展開になるなら前もって教えてほしいものだ。でなければこちらも心臓に悪いことこの上ない。老人だったらショックで死んでしまうかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、大男は大股でヤムへと近づいてゆく。その身に纏うオーラは先ほどまでの比ではなく、離れた場所にいる僕ですら肌が焼けるような不思議な感覚に襲われる。


『……また殺されに来たのか? いいよ、何度でも殺してあげるよ!』

『Deadman walkin'』

『だから何を言ってるのか分からないってば!』


 再び拳に炎を纏わせて豪腕を振るうヤム。その拳は外れることなく大男の顔面を捉えた。だが結果は先ほどと同じではなかった。


 拳を顔面で受け止めた大男は吹き飛ばされるどころか、その炎でも火傷すらすることなく不敵に笑みを見せる。対してヤムは自慢の一撃を受け止めて余裕の大男に一瞬だが怯んだ。だがその一瞬、ほんの一瞬が大きな隙になった。


 ばちぃん!


 大男が勢いよく伸ばした右腕がヤムの喉元へと突き刺さる。だがそれは突きではなく、その手で喉を掴んでいた。先ほどの音は大男の掌がヤムの喉を捉えた音だったのだ。

 

『ぐっ! 離せ!』


 喉を掴まれてもがくヤム。だがそんなことはお構いなしに大男はヤムを右腕一本で掴みあげる。今まで経験したことのない攻撃にじたばたと足掻くヤムの右腕を大男は左腕で巻き込み、吊り上げた状態から勢いよくステージへと叩き付けた。先ほどまでのヤムの猛攻にも耐えていた石造りのステージが割れ、全体に大きく罅が入る。恐るべき破壊力であることは、叩き付けた衝撃音が地響きを伴って僕のところまで届いてくることから容易に想像できる。


『ぐぁ……』


 ヤムは確実に少なくないダメージを受けているようで、まだステージ上に横たわり立ち上がることが出来ていない。しかし大男は全く躊躇することなくヤムの髪を掴み立たせると、無理矢理頭を股の下に挟み、胴に腕を回して担ぎ上げた。一体何をしたいのか、誰も想像がつかない。


【情報展開率、完璧です】


 いや、アオイだけはその真意を理解しているようだ。だが先ほどの攻撃から想像するに、このまま頭から叩き付けるつもりなのだろう。しかし大男は僕の想像を超えた行動を取った。


 ヤムの履いているのははちきれんばかりに張り詰めた小さなショートパンツ状になったズボン。そのズボンの両サイドを掴みあげると、そのまま高く吊り上げた。その行動が何を意味しているのかはすぐに理解することができた。


 大男は勢いよくその両腕を前方へと振り下ろす。振り下ろしによって加速がつけられたヤムの巨体は、その高さと大男の超越した膂力により圧倒的な破壊力を生み出す道具と化して石のステージへと叩き付けられた。ただほんの僅か高さが増しただけにも思えるが、そこに大男の力が付け加えられたことを考えると、ヤムの受けたダメージは計り知れない。


『ば、ばけもの……』


 ヤムの口からそんな言葉が洩れるが、それも仕方ないことだろう。自分の攻撃が全く効かず、さらには生き返るなど何の冗談かと思うだろう。だがこれはヤム自身が望んだ戦いだ、そしてこちらは街の人たちの命が懸かっている。ここで同情してやる理由はない。


 僕の思いを察したのか、大男はようやく立ち上がりふらふらになっているヤムの身体を抱きかかえる。さらには器用にヤムの身体を上下に反転させると、頭を下にした状態のまま小さく跳んで膝を折った。


 まるで岩盤に杭を打ち込むかのような轟音が響き、ステージが完全に崩壊した。ステージの中央に打ち込まれた杭こそ魔将ヤム。オーガを統べる魔将はその胸あたりまで崩壊したステージにめり込ませていた。もはや微動すらしていない。


『Rest In Peace』


 大男は一言そう言い残すと、ステージを下りて再び霧の中へと消えていった。ステージには突き刺さったままの魔将。大男の残したその姿はまるで魔将ヤムの墓標そのもののように見えた。

やはりチョー〇スラム、ツームスト〇パイルドライバー、ラス〇ライドに決まりでしょう。ヘルズゲー〇はちょっと地味なので……

いずれはマンカイン〇とのあの一戦を……


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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