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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
7章 辺境伯領編
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12.墓堀人

ついに登場!

【情報再現率基準値クリア、縮尺補正は対象を基準にプラスマイナス一パーセント未満を確認、環境設定の各数値は情報をもとに再現、各パラメータの設定は目標基準値との誤差範囲内を確認、リリース時間は対象沈黙までに設定】


 まるで複雑な呪文のようなアオイの言葉の羅列が続く。そしてそれに伴い、空は闇色を濃くしてゆき、立ち込める霧もまた深さを増してゆく。不気味な鐘の音も規則正しく鳴り続けるが、この街にある刻の鐘とは全く音が違う。いや、今まで聞いた鐘の音のいずれとも違い、地の底から鳴り響いているかのようだった。


『な、何なの? さっきまであんなに明るかったのにどうして? それにこの鐘の音はどこから?』


 突然周囲が暗くなり、さらには濃霧と鐘の音。そんな急激な変化にヤムも動揺を隠しきれない様子だった。だが大きく取り乱したりしないところは流石オーガを統べる者、オーガロードといったところか。

 これから何かが起こることを理解し、全身に力を漲らせている。筋肉はこれでもかと言うほど盛り上がり、そこから繰り出される一撃がどれほどの破壊力を生み出すのか想像もつかない。


【情報展開完了、リリース状態の継続を認証】

「おい!何かが来るぞ!」


 アオイの言葉に召喚が無事に完了したことを知る。魔力が抜ける感覚が今でも続いているのがその証明だ。ヤムへと向かっていた兵士たちも足を止め、急激な状況の変化に戸惑っているようだった。その中の一人が霧の一層濃い方を指さして叫ぶ。そこはヤムが立っている場所からやや離れた、木々が生い茂った場所だ。何故彼がその存在に気付いたのか、それは簡単な理由だった。


 濃い霧の向こうから、強烈な光が照らしている。ランプの灯りなどという脆弱な光ではなく、魔法の光のようにも見える。だが僕の知る限り、こんなにも強烈で眩しい光を放つ魔法は無い。一瞬だけ強力な光で相手の目を眩ませるものや、ランプよりやや明るい程度の光を持続的に放つものはあるが、こんなにも長く照らしう続ける強い光は存在しない。


 その光を遮るように立つ人影。濃霧に浮かび上がるその人影は次第に輪郭をはっきりとしたものにしてゆく。一歩一歩着実に、そしてゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。やがて数歩進んだ時、その全貌が明らかになった。


 それは黒。闇をそのまま切り取ったかのような黒一色。黒の帽子に黒のロングコートといういで立ちの大男だった。まだ距離があるので顔は把握できないが、纏う空気は明らかに異なるものを持ち合わせていた。


 ごーん……ごーん……


 鳴り続ける鐘の音のゆっくりとしたリズムに合わせるかのように、一歩また一歩と大地を踏みしめながら歩くその大男。オーガロードという、常人では到底敵うことのない存在を相手にしながらも、微塵の動揺を見せずに歩を進める。まさに王者の貫禄といったところだろう。


『ようやく来たね』

『……』


 大男はゆっくりと歩いてヤムの待つステージのような場所へとやってきた。目線はヤムに固定されているので、これから闘う相手であるということは認識できているようだが、全く気後れしているようには見受けられない。対してヤムはようやく身体を動かせる喜びに満ちた声には己の敗北など微塵も考えていないようだ。それもそうだろう、魔将という存在は常人にとっては絶望の象徴であり、ただ弱者は嵐が通り過ぎるのを待つようにその暴威が終わるのを待つしかないのだから。


 しかしここにいる兵士たちはもちろん、先生もそれに抗おうとしている。そして僕の力ならば対抗できると信じている。そのために危険を顧みずに時間を稼いでくれた。そんな皆の想いに応えるためにも、絶対に負けは許されない。負ければすべてが終わってしまうのだから。


 相変わらずゆっくりとした動作でステージへと上がる大男。そして被った帽子と着ていたコートをおもむろに脱ぎ捨てた。そこから現れたのはヤムにも引けを取らないくらいに鍛え上げられた鋼のような肉体。身体にフィットした黒いズボンと上着のせいで筋肉がより強調されている。


『ちょっとは骨がありそうだね』

『This is my yard!』

『何を言ってるのかわからないよ!』


 待ちきれないとばかりに大男に向かって駆け出すヤム。その速度は巨体から全く想像できない素早さで、決して怪力だけではないということの証だった。しかもヤムの武器はそれだけではない。上位種と下位種では大きな違いが存在するのだ。


『僕はオーガを統べる者! こういうことも出来るんだよ!』


 ヤムの言葉に合わせて巨大な岩石がステージから生み出され、大男の退路を塞ぐ壁になる。あれは地属性魔法かもしれない。そう、ヤムはオーガロードの名に相応しく、魔法をも使いこなしている。その間もヤムは大男に向かって突進を続ける。


 そして辺りには鍛え上げられた筋肉と筋肉がぶつかり合う轟音が響いた。巨大な質量を持つ者たちの闘いの幕が切って落とされた瞬間だった。

シンプルな黒の衣装はカート・アングル戦の入場をイメージしました。

ちなみに「骨壺」はこの世界には存在しないので登場しません。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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