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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
7章 辺境伯領編
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11.聖地

更新できなくてすみません。

急な出張だったもので……

 少年の身体が歪み、違う存在へと変貌してゆく。筋肉はおろか骨格までもが原型を留めないほどに肥大化してゆく。だが決してぶくぶくと醜く肥えているのではない。あたかも少年が青年に成長してゆくように、そして鍛え上げられた筋肉を身に纏うように巨大化してゆく。


 見た目は先ほどのオーガのようだが、明らかに違う。その体は鮮血のように赤く、その額からは捻じくれた黒曜石のように輝く角。その瞳は金色に輝き、知性の光を宿している。全身からはゆらゆらと赤みがかったオーラを発している。


 そう、風格が違うのだ。先ほどのオーガが一兵卒とするならば、目の前にいるかつて少年だったモノは王とでもいうべきだろうか。


「オーガ……キング……」

『そんなダサい言い方は止めてほしいな。僕はオーガロード、オーガを統べる者だよ。そして魔将の一角でもある。魔将ヤムだよ、あ、覚えておかなくていいよ、どのみち君たちが僕と戦って生きていられる可能性なんて存在しないから』


 陽気な声とは裏腹に、その威圧は想像を絶するものがあった。僕ですらはっきりと感じ取れるのだから、先生たちが感じるプレッシャーは相当なものになっているはずだ。その証拠に先生は表情を変えないようにしているが、その顔にはうっすらと汗が浮かんでいた。兵士の中には既に失神している者もいた。


 そしてヤムの最も近くにいるテッドは、先ほどのオーガ戦で力を出し尽くしたらしく、片膝をついて肩で息をしていた。だがその顔色が蒼白なのは決して力尽きたせいではないはずだ。


『さあ、誰が僕を愉しませてくれるのかな? まずはさっきの君から逝こうか?』

「アルト殿、下がってください。アレは危険です」

『ふーん、おじいさんはなかなかやるみたいだね。いいよ、僕と戦う栄誉を与えよう』

「バーゼル殿に続け!」

「「「おお!」」」


 先生に続くように、まだ戦闘可能な兵士たちが立ち向かってゆく。力の差は圧倒的、だがそれでも立ち向かうのは、この存在をそのままにしておけば絶対にこの街のためにならないという危機感からだろう。


『いいね、それ。うん、護るものがあるっていいことだよ。だからそんな君たちが全力を出せるようにしてあげよう。君たちが全滅したら僕はこの街の人間を全員喰らう。女子供も含めて全部だ。さあ、街を護りたいなら命がけで来るんだ。愉しませてくれたらちょっとは考えてあげでもいいよ』


 無邪気な子供が面白い玩具を見つけたような明るい声で言うヤム。その容姿と少年特有の高い声が非常に違和感を感じる。


「アルト殿、ここは私が食い止めますので、あの巨人を喚んでください。サイクロプスを倒したあの巨人を」


 先生がそう言い残してヤムへと向かってゆく。その顔にはいつもの優しさはなく、真剣そのものだった。僕の力を信じて、共に戦う仲間として僕にヤムとの戦いを託したのだ。この街を護るために、この街を護ろうと死地に向かう兵士たちを護るために。そして……


「オルディア! テッドを!」

『わかった!』


 そう、テッドだって先生は護りたい。ならば後顧の憂いはここで断っておくべきだ。オルディアは巨大化するとすぐさま跳躍し、ヤムのそばで未だ立てずにいるテッドを咥えるとそのまま僕のところに戻ってきた。だがその行動がヤムの興味を引いてしまったようだ。


『白いオルトロスを使役する子供……そうか、君がヘドンを倒した巨人を喚び出した召喚士か。面白い、その巨人と戦わせてよ。都合のいいことにここは太古の闘技場の跡地らしい。僕たちの戦いにはうってつけだと思わないかい?』


 ヤムが立っている場所は四方に四本の石柱があり、巨大な四角い岩が埋め込まれていた。確かに闘技場のようにも見えるが……


【闘技場……そうですか、懐かしい響きと思えたのはそういうことだったんですね】

(ア、アオイ?)


 アオイの様子がおかしい。一体何があったのだろうか。


【マディソンという名、やはりそういうことでしたか。あの聖地と同じ名を冠するとは……やはりアルト様による巡り合わせでしょう】

(アオイ、あの『ぜったいにしずまないふね』を召喚したいんだけど……)

【アルト様、ここは聖地、そしてあのヤムとかいう魔将はこの聖地で戦うと言う。であればここは聖地での戦いに相応しい存在を召喚することをお勧めします。己の分も弁えぬ愚かな挑戦者には絶対的な強者による鉄槌を】


 今までにないほどにアオイが乗り気だ。共に戦う僕にとっては非常に心強いが、果たしてあの『ぜったいにしずまないふね』よりもこの場にふさわしいとはどういうことだろうか。だが今はヤムが先だ。まずは僕に注意を引き付けて皆に被害が出ないようにしなければ。


「いいよ、魔将ヤム。相手になるよ。だが今回はあの巨人よりもお前に相応しい存在を喚んでやる。格の違いをその身でしっかり味わえ」

『うん、いいね。その無礼、巨人を血祭りにした後で嬲り殺しにすることで許してあげるよ』


 僕の挑発にヤムが乗ってきた。厳めしい顔に歪な笑みを浮かべて僕の方へと歩いてくる。


『ご主人様!』

「オルディアは下がって皆の護りを。ここは任せて」


 テッドを咥えたオルディアを下がらせてヤムの前に立つ。尋常ではない威圧感が僕を襲うが、僕にはアオイがいる。オルディアがいる。心強い仲間が僕に力を与えてくれる。


【準備できました。キーワードの詠唱をお願いします】


 アオイがいつにも増して美しい青い光を発しながら僕の前に現れる。ひとりでに開かれたページにはアオイの選んだ召喚のキーワードが浮かび上がる。あとはそれを唱えるだけだ。


「愚か者に力の鉄槌を!『しのたによりきたれしはかほりにん』」


 僕がキーワードを発した途端、まだ日も高かったはずが急に暗くなり、さらには濃い霧が立ち込め始めた。そして……


 ごーん……ごーん……ごーん……


 どこからともなく、不気味な音色を響かせる鐘の音が鳴り響いた。


 

この登場シーン、ついにあの男が登場します。

今回はメジャーなところで……


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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