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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
7章 辺境伯領編
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5.襲撃

【アルト様、建物の周囲に敵性反応多数接近中です】


 辺境伯の追求を逃れた僕の頭に警告が響く。用意された客室でほっと一息つきたいところだったが、ここは辺境伯の屋敷、こんなところで仕掛けてくることなどあるのだろうか。それに先生もその気配を察知した様子は見られない。


(誰も気づいていないみたいだけど、本当なの?)

【建物の周囲に同じ速度で接近してくる反応があります。方向、距離はすべて異なりますが、同一時刻にこの建物に到着するように接近しています。総数は二十を超えますが、それほどの数でここまで動きを合わせるとはよほど組織的に鍛えられていると考えたほうが自然です】


 先生は辺境伯と色々と打ち合わせがあるらしく、今この場にはいない。狙いが辺境伯共々ルーインを始末するつもりならば、辺境伯と行動を共にしていれば守り切ってくれるだろう。

 だがこの屋敷には戦闘力を持たないメイドや使用人もいる。もし襲撃者と彼らが遭遇すれば、間違いなく口封じされてしまうだろう。


(組織的に訓練……裏で関わっている貴族の私兵?)

【それが最も可能性が高いでしょう。練度から考えるに、私兵の育成にそれだけの資金を回せるほどの財力を持つ者かと思われます】


 やはりルーインに依頼した連中の可能性が高いか。正式な機関で魔法尋問で自分たちの名前が出れば全てを失うのは明らか、であればここで辺境伯を相手にすることも辞さないということか。辺境伯相手に仕掛けてくるということは身の程知らずの馬鹿貴族か、それともかなりの高位の貴族か。だが今はそんなことを詮索している場合じゃない。


(関係ない人たちを巻き込むようなことはしたくない。無力化できる方法は?)

【殲滅、とは仰らないのですね】

(手掛かりは多いほうがいいと思って。それに屋敷内で刃傷沙汰があったとなれば依頼者も口出ししてくるかもしれない)


 高位の貴族というものは決して危険な橋を渡らない。もしここで襲撃者を殲滅しようものなら、使いに出した者が殺されたとか言い出して糾弾することだってあり得る。そのためにも迂闊に殺してしまうようなことはできない。もちろん自決だってさせたくない。


【分かりました、現状を打破する方法は複数あります。最も殺傷能力の低いものを選択します。対象はこの建物全体でよろしいですね】

「うん、ありがとう」

『ご主人様ー、我はー?』

【オルディアは危険なので周辺警戒を】

(え、そんなに危険なの?)

【ええ、オルディアにとっては非常に危険です】

『わかったー』


 オルディアは不満を言うかと思っていたが、僕に仕事を任される喜びのほうが上だったようだ。尻尾がぶんぶん振られているので問題ないだろう。


「建物内の人たちに影響は?」

【殺傷能力は皆無に近いので問題ありません】

「でも巻き込みたくないよ」

【ならばできるだけ窓や入り口から離れてもらいましょう。いい方法があります】





「大変です! オオヨロイバチの大群が!」


 声を張り上げながら屋敷内を走り回る僕を使用人たちが不思議そうな顔をして見るが、それも一瞬のこと。すぐに真剣な表情に変わり窓や扉を閉めて遠ざかる。だが僕はそれを最後まで見届けることなく次の場所へと走る。


「オルディア! ほかに人の匂いのするところへ!」

『わかったー!』


 オルディアの先導に従い、屋敷内を走り回る。アオイの予測では襲撃があるまで残り十分程度、それだけの時間で屋敷の人たちを窓や扉から離れさせるための方法としてアオイが提案したのがこの方法だった。


 オオヨロイバチは世界に広く生息している虫で、魔物と同等の扱いをされている。大きさは大人が両腕を広げたくらいの大きさで、性格は獰猛極まりなく肉食。尻の毒針から注入される毒は刺されると数分で全身に回り絶命する。数千から多い時には数十万単位の数になり、家畜を襲ったり集落を襲う。開いている窓や入り口から侵入するのを防ぐため、一匹でも見かけたらすぐに戸締りして建物の中心で潜んでやり過ごすのが最も一般的だ。強力な広範囲殲滅魔法を使える者ならば戦うこともできるだろうが、並みの冒険者ではまず討伐不可能だ。


 なので屋敷の使用人たちは皆いつものやり方で対処していった。だがこれは僕の嘘の情報なので少々心苦しいが、一匹でも見かけたらこうしろと昔から言われているので問題ないだろう。それよりも今は襲撃に備えるのが最優先だ。

 そしてオルディアが先導した最後の場所の扉を勢いよく開く。もうここで嘘をつく必要はない。


「先生! 襲撃です! 数は二十超! 全員ばらばらにこの場所を目指しています! あと数分で到着するでしょう!」

「本当ですか、アルト殿!」

「全員この屋敷に同じタイミングで到着するように移動しています。相当な練度の襲撃者です!」

「辺境伯! 急いで退避を!」

「うむ、だがどうしてそんなことを……いや、今はそんなことを言っている場合ではないな。わかった、だがお前たちはどうする?」


 さすがに今問答をしている場合ではないことをすぐに理解した辺境伯は即座に退避に応じてくれた。だが僕は一緒に行くことはできない。無力化できる方法があるのだから。


「先生は辺境伯の護衛をお願いします。僕は……全員無力化します」

「わかりました、お任せします」

「お、おい、いくらなんでもそれは……」

「アルト殿が出来ると言うのであれば、その言葉に偽りはないでしょう。私もそれで何度も救われましたから」


 抗議の声を上げる辺境伯を先生が無理矢理連れだしてくれた。僕の力を理解している先生が気を利かせてくれたのだろう。正直なところ、とてもありがたい。

 さて、これで心おきなく対処できるというものだ。


【アルト様、準備できました。キーワードの詠唱をお願いします】


 いつものようにアオイが顕現し、自動的にページが捲られる。そして開かれた空白のページに文字が浮かび上がる。後はそれを唱えるだけ、ただそれだけ。


『はえとりりぼんたいりょうせっち』


 詠唱とともに身体から魔力が抜けていく感覚。そして同時に無数の何かが窓や扉の周辺に降ってきた。それは鈍い光を放ちながら、襲い掛かってくるであろう襲撃者を心待ちにいしているように見えた。

昔実家でこれをよく使っていました。未だに根強い人気があるとか。問題は見た目と髪の毛につきやすいところでしょうか。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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