8.魔神?
スーパーでストロングなマシーンと言えば……
ルーインの左腕を折り曲げて右わきに差し込むようにして、右手でその左腕を掴んで固定する。空いた左腕は奴の首に巻き付けて抱え込むように固定する。横目で先生たちを見れば僕が何をするのか理解できないようだが、まぁそれも当然か、これはアオイから流れ込んできた知識によるものなのだから。
ルーインの両腕をがっちりと固定しながら引き付け、両足を踏ん張って後方に身体を反らす。ルーインの身体は加速度をつけて後方に向かって投げだされようとするが、僕が両腕を固定しているので不自然な格好のままだ。当然ながら受け身など取れるはずもない。そもそも奴は抵抗できない状態だったが。
僕はといえば、身体を反らした状態でさらに後方に倒れこむ。だが決してバランスを崩した訳じゃない。地面に倒れこむ寸前、全身に、それも首に力を入れて衝撃に備えると、身体を反らしたまま頭で接地して身体を固定する。アオイの知識によるとこの状態を『ぶりっじ』と呼ぶらしい。
ルーインは速度が増したまま、受け身が取れない状態で後頭部付近から地面に叩き付けられた。そして捻りあげられた左腕が肩から外れる鈍い音が聞こえる。首、肩を中心にダメージを与えるこの技、今の僕の力なら……これで完全に無力化したはずだ。
ルーインを解放してその様子を伺うと、白目を剥いて口から泡を吹いていた。あとはサリタさんに任せてしまっても問題ないだろう、まさかこの状態で魔法が使えるとは思わない。
「終わった……のか?」
「はい、完全に失神しています。ついでに右腕も使えなくしておきました」
「色々言いたいことはあるが、まずはルーインの拘束か。バーゼル、私は大丈夫だから奴の拘束を頼めるか?」
「それだけ言えれば問題ないようですな。わかりました、ルーインのほうはお任せください」
そう言うと両手から黒い縄状に練り上げられた魔力を出してルーインを拘束する先生。どうやら闇属性魔法の一種のようで、既にルーインの意識が無いおかげで問題なく拘束できたようだ。そのままずるずるとギルドの建物のほうへと引きずってゆく。先生も相当怒っていたようで、引きずられるルーインが小石などにぶつかっても全く気にせずに歩いていた。
「すまないな、お前に余計な心配かけてしまって。こちらで対処するつもりだったんだが」
「仕方ありませんよ、相性が悪かったんです」
「そう言ってくれるのは嬉しい限りだな。まぁ普通ならあれほどの光属性魔法の使い手であればどこぞの宮廷魔導士や軍の専属魔導士にあっていてもおかしくない。奴のあの性格が異常だっただけだろうよ」
僕を心配させまいと笑顔を見せるサリタさん。だが固く握られた拳が震えている。不甲斐ない自分が許せないのかもしれない。
「それはそうと、アレは召喚なのか? 強化魔法のようにも見えたが……ああ、話せないことなら無理に話さなくてもいいぞ?」
そう聞いて慌ててフォローを入れるサリタさん。サリタさんには既に召喚しているところを見せているので話しても問題なさそうだ。
「ええ、僕の魔力を全身に多めに循環させて下地を作り、僕自身に召喚を行うような感じですね。どうやらかつての闘士と同化する召喚のようですね」
「ほう、そんなものがあるのか……強化魔法の一種と考えれば現存の魔法でも似たようなことができるか? いや、使う技の知識が無ければ難しいか」
ぶつぶつとつぶやくサリタさんの顔は既に魔法の研究者としての顔になっていた。僕がその顔を眺めていると、それに気づいたサリタさんは顔を赤らめながら言葉を濁した。
「ま、まあその、あれだ、お前のおかげでまた助けられた。今後何かあったら全面的に協力するぞ。そ、その、もしお前が望むなら……い、いや、今のは忘れてくれ! と、とにかくありがとう!」
ぶんぶんと手を振って慌てるサリタさん。本当はもっと被害も少なくすることができたのかもしれない。もっと早く気付いていれば、僕が街を離れなければ、とマイナス方向に思考が向いてしまいそうになる。
と、不意に頭にある言葉が浮かんできた。どういう意味かはわからないが、今の僕の心情を現す言葉なのかもしれない。
「ん? どうした?」
「え、あ、いや、しょっぱいしあいですいません」
「何だそれ? 召喚の呪文か?」
「さあ、何なんでしょう? つい思い浮かんだもので」
【情報再現率は問題ないようですね】
どうやら先ほどの召喚に関することらしいが、アオイはそれ以上教えてくれなかった。しょっぱいって何だろう? 塩で味付けしたものなどあったのだろうか。
もちろんフィニッシュはこの技ですね。なにげに完成度の高い技なのでとても好きです。
そして最後のセリフも……有名ですね。
読んでいただいてありがとうございます。