表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
6章 飢えた狂犬編
82/169

7.悪魔

遅くなって申し訳ありません。

体調が悪くて午後から仮眠したつもりが完全に爆睡……


途中で視点が切り替わります。ご注意ください。

【制御プログラムダウンロード完了、自動展開開始します。……展開完了、プログラム起動します。起動制限時間は八分です】


 アオイの声とともに僕の知識に新たな何かが書き込まれてゆく。それを意識の中でなぞってゆくと、全身を駆け巡っていた魔力が急速に安定してきた。試しに両手を握ったり開いたりしてみたが、これまでにない力強さを感じた。試してみたことはないが、リンゴくらいなら軽く握りつぶせるかもしれない。


「テメエ……舐めんじゃねえぞオラァ!」


 補助魔法を重ね掛けしたのだろうか、先ほどよりも体に帯びる光の量が増えたルーインが僕に殴り掛かってくるが、その動きはとても緩やかだ。


【感覚の増幅、問題ありません】


 ぎりぎりまで引き付けてから避ける。といっても躱すのではなく、ルーインの背後に回り込むように移動する。それもゆっくりと歩きながらだ。


「なッ! 消えやがった! おい、どこに行きやがった!」

「どこにも行かないよ、まだ僕の気が収まらない」

「い、いつの間に……これだけブーストしてるんだぞ!」


 よほど自分のやり方に自信を持っていたんだろう。確かに光属性魔法の補助魔法重ね掛けなんてやり方、通常では考えられない。そもそも光属性持ちはそう多くないので、対峙した者は何をされたのかすら分からなかったのかもしれない。


 だが今の僕にはそんなもの何の意味も持たない。どうすればこいつを倒せるか、どうすればより効果的に痛めつけられるかが頭の中に浮かんでいる。まずは……


「ふんッ!」

「ぐえッ!」


 ルーインの腹、それも鳩尾のあたりに前蹴りを入れる。だが決して振りぬくことはしない。もし振りぬけば奴は吹き飛んで自分の放った魔法に当たる。もしそうなったとしても自業自得なのだが、それでは僕の気持ちが収まらない。カエルが潰されたような声を出して前かがみになるルーイン。こんなもので終わると思ってもらっては困る。


「こ、このガキ……俺をここまで虚仮にしやがって……」

「だから何だ? お前がこれまでさんざんしてきたことだろう?」


 誰かを嬲る気なんて毛頭ない。だが今だけは、苦しめられた人たちの無念を晴らすために痛めつけさせてもらう。片膝ついた状態のルーインの両耳を持って引っ張り上げると、中腰の状態になる。先ほどの蹴りで下肢に力が入らないのか、膝が大きく笑っている。

 まだ敵意の籠った目で僕を見上げてくるルーインの頭を胸の高さあたりで固定し、身体を反らす。


「ひッ!」

「なんだ、怖いのか?」


何をされるか粗方の予想がついだであろうルーインはこれから来る痛みに恐怖の色を浮かべた。だがそれがどうした? お前が今までしてきたことをされている、ただそれだけだろう? むしろこの程度で抑えられていることを感謝してもらいたいくらいだ。


 ごん!


「ぎッ!」


 ごん!


「ぐあ!」


 ごん!


「ぎゃ!……や、やめ……」

「意外と弱いな、この程度で音を上げるなんて。サリタさんはずっと耐えてたぞ?」


 まだだ、まだこんなものでは僕の大事な人たちを傷つけた償いになどならない。あの人たちの苦しみに比べたら今のお前が受けている苦痛なんてぬるま湯だ。まだまだ終わらせるつもりはない。おそらく鼻骨が折れたのだろう、歪に曲がった鼻からだくだくと血を流し、涙を浮かべているルーインを見下ろしながら、再度身体を反らす……




**********



 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!


 どうしてこの俺がこんなガキ一匹始末できねぇ? 俺の攻撃が全然効いてねぇ! 仕込みは十分だったはず、俺に絶対に魔法が当たらないように《反射》を仕込みまくった。そして魔法で周囲を蹂躙しつつ強化魔法で獲物を嬲る、それも絶対に助けがこない状況で。俺が味わう至福の時間だったはず。なのにどうして俺が片膝ついてこのガキを見上げている? 


 このガキが召喚なんて珍しい魔法の使い手だってことは調べていくうちに目途がついていた。召喚なんて珍しいが、今まで無かった訳じゃねぇ。そして召喚を使うヤツのほとんどが、当人の戦闘力が低いということもわかっていた。きっとこいつも【宵闇】に護られていなければ召喚が使えねえ。そのはずだった。


 だが現実は違った。鳩尾に喰らった蹴りは華奢なガキとは思えねぇほどの重さだった。駆け出しのころオーガに喰らった蹴りのほうがまだマシに思えるくらいに重く、身体の芯に残る蹴りは一撃で俺の足の自由を奪った。


 いや、まだだ。まだ負けてねぇ。こんなガキだ、いずれ詰めの甘さを露呈するはずだ。その時まで待って反撃すればいい。それまで耐えきればいい。


 と、ガキが俺の両耳を持って引っ張りやがった。ちぎれそうな痛みに思わず中腰になっちまった。ガキが俺を見下ろし、身体を反らす。ま、まさかこいつ……


「ひッ!」

「なんだ、怖いのか?」


 ふざけんな、と言いたかったが、口から出てしまったのは情けない悲鳴。そして鼻のあたりに衝撃が走る。痛みに頭が痺れ、鼻からは鼻血が流れ出る。だがそれだけでは終わらなかった。


 二度、三度と同じ場所に額を打ち付けてくるガキ。その度に鼻の奥からは固いものが砕けるような音がする。次第に意識が薄れていく。このままじゃヤバい。


「……や、やめ……」

「意外と弱いな、この程度で音を上げるなんて。サリタさんはずっと耐えてたぞ?」


 サリタ? ああ、あのダークエルフか。俺が嬲ってやったんだっけ。痛みに自然と涙が浮かぶ。もうどうでもいい、早く楽にしてくれ。そう言おうとしてガキを見上げる。そして涙で滲んだ視界のはずなのにはっきりと視た。とても恐ろしいものを。


 俺を見下ろすガキの目はどこまでも冷たく、だが怒りの炎をその奥に燃やしていた。そしてガキが纏うオーラのようなもの、その向こう側で嗤うバケモノの顔をはっきりと視た。頭髪はなく、銀色の肌は魔剣の刃のようにも見える。だがそれだけじゃない。鼻がなく、目と口が強調され、その目は大きく吊り上がり、口は大きく裂けている。まるで無様な俺を絶対的強者が嘲笑するかのように。


 そうか、俺はあんなバケモノを怒らせてしまったのか。いや、あれはバケモノなんて生易しいものじゃない。そう、悪魔だ。こいつは悪魔を召喚したんだ。そしてどこかでしくじって身体を乗っ取られたに違いない。そして悪魔は更なる生贄に俺を選んだのか。


 嫌だ、死にたくない。そう喚こうにも身体に力が入らない。視界にはガキが再び身体を反らす姿が映っている。このままいけば俺の身体はいずれ下級悪魔の餌となり、魂は地獄へと持ち帰られる。だが身体は万力で固定されているかのように微動だにしない。


 そして更なる衝撃が俺を襲い、そこで意識が薄れていった……

アルトの背後に見えたのは……?


マッチョなドラゴンさんではなく、スーパーでストロングなマシーンさんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ