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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
6章 飢えた狂犬編
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6.いんすとーる

今回の召喚はかなり特殊ですw

「おい、テメエ何しやがった?」

「……」


 ルーインが警戒心を露わにして僕に問うが、僕はそれを無視する。


「何したのかって聞いてるんだよ! 答えやがれ!」


 今にも爆発しそうな勢いだが、いきなり攻撃してこないところを見るとそれなりの自制心はあるようだ。だが今の僕にはお前に構っている余裕はない。


「おい、この俺が聞いてるのに無視してんじゃねぇ!」


 子供のように地団駄を踏む姿は見ていて滑稽だが、正直それどころではない。身体中を駆け巡る力を抑え込もうと必死だからだ。


 僕が使用した『いんすとーる』は召喚の一種らしいが、その力を顕現させる場所を僕の体内に指定するものだ。顕現した力は僕の力となり全身を巡り、防御力を上げたり筋力、体力の飛躍的に増加させる。ルーインが使った補助魔法のようでもあるが、あちらが防御や攻撃に分かれているのに対し、こちらはそのような分類がされていない。そのかわり力の配分は自分で制御しなければならない。今はその前段階だ。


 全身を巡る力は当然ながら属性を持たないので、ルーインにはただただ把握できない未知の力が僕にあふれているくらいにしか認識できていないはず。よくわからない何かに怯える自分に苛立っているのかもしれない。


【魔力循環率上昇中、規定値までの予測時間残り十秒】

(あともう少しだ)


 今はまだ動くことができない。だからといって完全無防備という訳でもない。ルーインは光属性の強化魔法を使用している、となれば単純な物理攻撃も光属性の影響を受けているはず。実戦で試すのは初めてなので少々緊張する。


「ふざけんじゃねぇ! ……なんだと!」


 痺れを切らしたルーインが僕の顔面に拳を打ち付ける。だが僕にダメージを与えることなく顔すれすれで固まったように動けなくなっている。


「何が起こってやがる! テメエ何しやがった!」


 理解不能な状況に半狂乱になっているルーイン。だがそれも当然か、まさか自分の攻撃がまったく通用しないなんて考えたこともないだろうからな。


 この召喚は前段階が完了しなければ次のステップに進めない。そして攻撃できるようになるのはそこからだ。つまり今の僕には攻撃手段がない。なので全身に魔力を循環させるとともに薄い魔力の膜を何層にも纏って外部からの攻撃を遮断している。属性を持たない僕の魔力は属性の影響を受けないので、魔法でブーストされたルーインの攻撃はそのほとんどを無効化されている。もし奴がブースト無しの純粋な物理攻撃してきたら少々危険だったかもしれないが。


【魔力循環率規定値オーバー、制御プログラムダウンロード可能状態です】

「準備できたみたいだね」

「な、何言ってやがる……」


 こんな状況下にありながら、まったく動揺していない僕に次第に気圧され始めるルーイン。使い勝手の良い光属性魔法に狡猾な策略、特に魔法においては比類なき威力を発揮する《反射》を使うことでこれまで苦戦というものをしてきたことがないのだろう。自分の想定外のところで進む事象には脆いのかもしれない。


「よくも街の人たちを……サリタさんを傷つけてくれたな!」

「な、なんだテメエ、あいつらは俺より弱かった! 弱い奴をどうしようと俺の勝手だろうが!」

「ただ光属性を持っていたってだけじゃないか。ただそれだけだろう?」

「うるせえ! テメエは何なんだよ! どうして俺の攻撃が通じねぇ!」


 何度も僕を殴りつけるが、その攻撃はもう僕には通らない。いくら光属性で攻撃力を増強しようが、僕の膨大な魔力をつぎ込んだ魔力の膜はお前如きじゃ破れない。これまで圧倒的優位に立った攻撃しかしてこなかったツケが回ってきている。もしこれが先生だったら取り乱すことなく僕の弱点を探るだろう。そういう点でもこいつが最もSランクに近いなんて絶対に認めない。認めてなどやるものか。


【アルト様、制御プログラムを選択してください】


 アオイの声とともに、いつものように現れる青い本。その開かれたページに書き記されているのは相変わらず理解不能な言葉の羅列。だがこれは目の前の最低の屑を無力化するには最適だとアオイが判断したもの。僕が今この場で出すことができる最高の切り札だ。


 サリタさんは初めて自分の意志で人を殺めて苦悩していた僕を助けてくれた。この街の人々が受け入れてくれた。僕の大事な人たちを理不尽に傷つけたお前を絶対に許さない。そしてお前を僕に仕向けた連中もだ。だから遠慮なく使わせてもらう。


【制御プログラム受け入れ状態です。キーワードを詠唱してください】


 安心しろ、僕はお前のようになどならない。決して殺さない。殺してしまえばお前を仕向けた連中の思うつぼだからだ。卑劣な手段に怒り、その勢いに任せて殺してしまえば手掛かりそのものが消える。そいつらはそこまで考えてこの狂犬を送り込んできたのだから。そいつらの思惑通りにしないためにも、殺さずに無力化させてもらう。


「制御プログラムダウンロード『おまえひらただろ』」

「ひらた」って誰?

そう思った方は「お前平田だろ」で検索してみよう!


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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