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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
6章 飢えた狂犬編
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1.新たな試み

新章突入です!

「……こんな感じだけど」

【情報再現率、誤差はプラマイ〇.一パーセント未満を確認。使用者との洞調率九九.九パーセント以上を確認。使用者の負荷率は規定の範囲内を確認。問題ありません、テスト完了です。異常はありますか?】

「少しだけ疲れが残ってるけど……うん、大丈夫」

『疲れたならお昼寝しよー』


 大きく深呼吸すれば、澄んだ空気が身体の疲労を緩やかに癒してゆく。聞こえてくる清流のせせらぎの音が高鳴る胸の鼓動を穏やかにしてゆく。僕に身体を擦りつけてくるオルディアの柔らかな獣毛がとても心地よく感じられた。


 ラザードでの騒動が決着した三日後、装備類の修理も無事に済んだ僕たちは街を後にした。街の人たちの迷惑にならないように夜明け前に出立したのだが、それでも見送りに来てくれた人たちがいたのには驚いた。そのほとんどが色街の娼婦のお姉さんや男娼さんだったが。

 諸国を見て回りたいという僕の望みを聞いたサリタさんが提案してくれたのがラザード山越えのルートだ。隊商も時折通行している道であり、馬車の通行も可能、今の季節は野営するにも底冷えすることもない。しかもラザードの街を潤す川の源流があるだけあって、水場にも困らない。


「魔物はそれなりに出没するが……まあお前たちが遅れを取るような魔物はいないから安心しろ」


 そう言ってサリタさんが手渡してくれたのは一通の書簡。どうやら次に向かおうとしている街のギルド支部長に向けた紹介状のようだ。


「ラザード山を越えればもうガルシアーノ家の管轄じゃない。だがラザードは元々交流を持っていたから多少顔がきく。無碍に扱われることはあるまい」


 とのことだった。ちなみにサリタさんは見送りには来てくれなかった。捕縛した連中を王都に護送する手続きやら何やらで忙しいから、と言われてしまった。その原因を作ってしまったのが僕なので少々心苦しかったが。


 そして今いるのがラザード山の中腹よりやや山頂より、小さな清流のほとりの草地だ。もうすぐ日没ということもあり、今日はここで野営することになった。ちなみに先生は森の中へ食料を探しに行っている。


 先生が働いているのに僕は何をしているのかと言うと、決して遊んでいる訳ではない。これも僕の召喚の熟練度を上げるための大事な訓練だ。事の発端はアオイの一言だった。


【アルト様、あなた自身が強くなる必要があります】


 その言葉を聞いたとき、ついに来たかと思った。先だっての地下迷宮、盗賊の頭目ランザと相対したときは何とか奴の剣を防ぐことが出来たが、それはランザが僕を見た目通りのひ弱な冒険者と侮っていたからできたことだった。にわか仕込みの僕の拙い剣でもどうにか対応できたおかげで召喚を使うことができた。だがもし召喚を使う間もなく攻撃されたら、敵が僕を弱いと侮ることなく慎重に攻撃していたとしたらどうなるだろうか。

 

 アオイのおかげで多少の傷は修復できるが、一撃で命を絶たれてしまったらどうなるかはわからない。かといってどんなに頑張ってもいきなり達人になることなんて出来るはずもない。ではどうすれば強くなることができるのか、それを今検証しているところだ。


【現状の疲労度から推測しますと、使用回数は一日一回、制限時間は約十分程度と思われます。ですが今後も身体を慣らしていけば制限時間の延長や使用回数の増加もできます。無理せず鍛錬を重ねていきましょう】

「うん、でもこれって反則じゃないの?」

【出来得る限りの手段を用いて依頼を遂行するのが冒険者です。これはアルト様のみが使用出来る立派な手段です。反則という言葉は不適切と思われます】

「あ……ごめん、そういうつもりで言った訳じゃないんだ」


 相変わらずその声には抑揚が無いが、どこか不満げな雰囲気がかんじられるが、それも致し方無いことだ。アオイの言うことは正しい。これが正式な場での一対一の決闘にでもなれば違うのかもしれないが、今の僕は冒険者だ。依頼の遂行、そして生きるためには形振り構ってなどいられない。


【おっしゃる意味もわかります。ですがこれは無限に使用できる訳ではありません。過度の使用は負荷に身体が耐えられません。ですから鍛錬が必要なのです。それは反則と呼べるものなのでしょうか】

「ずるいって意味で言ったんだけど……そうだね、僕が使う手段の一つにすぎないか」


 僕が使う召喚はアオイの助力のおかげで強い部類に入る。オルディアだって結構強い。だが僕が持つ手札はそれだけだ。僕自身の行動として持ち合わせている実力は未だ手札にすらならないほど稚拙である。そこに回数限定ではあるが戦える手段を持っておくということは冒険者として生きていくのならば受け入れて当然か。


 でもこれで僕の戦いの手札が一つ増えたのは事実だ。まだ一日一回限定で使いどころが難しく、できることならこれに頼らずに終わらせたいが、時と場合によっては使わざるを得ない。そんなことを考えつつ少々重く感じる身体をなんとか動かして、オルディアと共に木陰へとたどり着く。

 差し込む木漏れ日の柔らかな温かさを感じながら、一歩一歩着実に前に進んでいるという充実感に満たされれてゆく。そして柔らかな獣毛に身を預けるようにして座り込むと、まどろみの世界へと落ちていった。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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