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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
5章 追跡者編
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8.ようじょ?

「いけませんよ、アルト殿。こちらの方はこう見えても私より数倍長く生きています。見た目通りの年齢ではありません」

「ということは……お祖母ちゃんですか?」

「いえ、もっと年老いた何かでしょう。若い男を誑かそうとする魔物の類かもしれません」

「おい! その言い方は酷くないか? 私は長命種なのだから仕方ないだろう。それにこんな容姿でも子を為すことはできるぞ。まだ産んだことはないがな」

「あなたを妊娠させた者がいたら、ある意味で豪傑と言えるでしょうな」


 先生と幼女が言い合いしている様子を見ながら、僕は目の前の稀少な存在に見入っていた。

 長命種、それはこの世界において数えるほどしかいない希少種だと文献に記してあった。何故彼女を長命種と確信できたのか、それは彼女の特徴的な耳を見たからだった。


「ん? どうした少年、この耳が珍しいか?」

「はい、本で読んだことはあっても実物を見たことが無いので」

「そうか、なら存分に見るがいい。少年が望むなら私のすべてを……」

「アルト殿にはそのような特殊な性癖はありませんので」


 纏っていた簡素な貫頭衣を脱ごうとした幼女を先生が制止する。先生の言う通り、僕にはこんな幼い容姿の女の子に興味はない。確かに可愛らしいとは思うが……


「お、今私のことを可愛いと思ったな? 少年には見どころがある、私と子作りする権利を与えよう」

「いりませんよ。それよりどうして僕の……」

「彼女は私の闇属性魔法の師なのです。心を読むことなど造作もありません」


 僕が疑問を言葉にし終えるより早く、先生がその理由を教えてくれる。先生はその二つ名に闇が付くほどの使い手だ。だがその師匠ということになると、先生以上の使い手だということになる。となればやはりSランクなのか?


「残念ながら私はAランクだ。確かに私は魔法の扱いに長けている自信はあるが、こんな容姿だから剣術をはじめとした身体を使う分野が苦手でな。魔法は闇以外にも使える属性があるおかげでその分をカバーできているが、そのバランスの悪さでSランクに上がることが出来なかったのだよ」

「彼女の闇魔法は私よりも上です。ですがそれだけでは魔法が使えない状況に陥った場合に手立てが無くなります」

「バーゼルの言葉通りだな。魔法が使えない状況というものは意外と多い、例えば魔力切れがあるな。余程魔力に余裕がある者でもない限り、常にそれは付き纏う。だから魔法に偏るのは良くないのだよ」


 僕には魔力切れの経験はない。計測できない程の魔力量の賜物だと言えるが、回復する前に魔力を消費し続ければその危険性も十分にある。先生が僕に剣術や体術を教えようとしているのは、万が一に魔法に頼れない状況に陥っても切り抜けることが出来るようにということだろう。


「まぁ私にはこういう裏技があるがな。これは魔石だ、魔物の体内で生成される核のようなものだが、魔力の結晶体なので体内魔力の代替品にできる。だがかなり高価だな、これ一つで小さな貴族家の年の税収くらいあるぞ」


 そう言って幼女が見せてくれたのは、首から提げているペンダント。その中央には真紅の宝石が嵌められている。僕の親指の爪くらいの大きさだが、そんなに高価なのか。となれば僕が持っているアレは……いや、今は考えるのはよそう。悪いことをしていない自信はあるが、心を読まれるというのは気分が悪い。


【魔力による探知波を検知、阻害障壁を展開します】

(え? それって……)

【こちらを探ろうとしています。悪意は感じられませんが、こちらに何の断りもなく行うのは礼儀に欠ける行為ですので】


 アオイの声が頭の中に響く。それは確かに礼を失した行為だ。勝手に他人の能力を探ろうとするなど、覗き見されている気分になる。だがアオイもそれをしていないか?


【私は敵対の意思を持つ者にしか行いません】

(そうか……疑ってごめん)

【私のようなモノに謝罪など……】

(訂正して、アオイはモノじゃない。アオイだって僕の家族だ)

【アルト様……】


 本が家族だと言い切る僕は他人から見ればおかしいのかもしれない。彼女は僕にしか見えず、しかも今は僕の中にいる特殊な本。彼女にとっては僕はこれまでいた契約者の一人かもしれないが、僕にとっては何度も命を救ってくれた、とても大事な存在だ。彼女の存在が他者に知られ、もし奪われることにでもなったら、僕は自分を見失わずにいられるだろうか。


「おや? 少年の情報の感情が急に読めなくなった。それに詳細情報も。少年、何かしたのか?」

「僕に断りもなく探るのは失礼じゃありませんか? それともラザードの冒険者ギルドではこのようなことを初対面の相手にするという礼節でもあるのですか?」

「い、いや、それはだな……」

「確かにあなたはこの支部でも地位が高いのでしょう。ですが僕はまだあなたの名前すら知らない。この支部の人間かどうかすら知らない。そんな人が幹部のこの支部をどうやって信頼できるんですか?」


 つい感情的になってしまったが、僕は敢えて言葉に表した。僕には他人に探られたくないものがある。それはアオイの存在。目の前の幼女が彼女の存在を知って、その力を欲しないという保証はどこにもない。

 だから敢えて言葉にした。いつも僕を守ってくれている彼女に対して、この程度のことで釣り合うなどとは考えていない。だがそれでも意思表示をしなければならない、そう感じたからこそ声に出した。たとえそれでこの支部を敵に回したとしてもだ。


「また悪い癖が出ましたか。彼女は気に入った相手を探る癖があるのですよ。散々直せと忠告していたのですが、そんなことをされた相手があなたを気に入るとでも思っているのですか? そんなことだから王都の支部を追い出されるんです。それにですよ、未だ自己紹介も無いとは、あなたそれでも責任者なのですか?」

「わ、私はお前の師匠だぞ?」

「関係ありません。私はあなたの魔法の腕以前に礼儀がなっていないと言っているのです。アルト殿、申し訳ありません、気分を損ねてしまったようで……。彼女はこれでもこの支部の支部長なのですよ。残念なことですが」

「そ、そうだ、私はこのラザード支部の支部長をしているサリタだ。見てわかると思うがエルフ、それもさらに稀少なダークエルフだ。痛たたたた! こらバーゼル! 耳を抓るんじゃない! もげる! もげる!」

「まずは謝罪では? 何度言ってもわからない嫁ぎ遅れも甚だしい婆さんエルフにこんな大きな耳は不要ですね、今すぐ切り取ってしまいましょう」

「待て待て待て! どうしてそんなに殺気が駄々洩れしているんだ? わかった、悪かった! 謝る! 謝るからぁ!」


 先生がにこやかな笑顔そのままに殺気を漲らせながら、サリタという幼女エルフの右耳を抓りあげる。だが実は僕にはもうそれほどの怒りの感情は残っていなかった。

 それはなぜか? なぜならエルフ、それも稀少なダークエルフ、分厚い文献でもほんの数行しか記述の無かった稀少な種族がここにいる。もっと色々と知りたい、そんな思いがいっぱいになって、怒りはどこかに吹き飛んでしまっていた。アオイには申し訳ないとは思うが、これは僕の抑えきれない好奇心なので勘弁してもらいたい。


【まったく……ですが私の為に怒ってくださったこと、感謝いたします】


 心なしか潤んだように聞こえるアオイの声。だがこの程度のことで感謝なんて大げさだ、彼女は僕の家族なのだから。家族を守るために怒るくらい何の問題もない。それに今怒らないと、僕たちはここに来た目的を果たせなくなりそうだから。


『ご主人様ー、コレ要らないなら捨てていいー?』

「ごめん、もうちょっとだけ待ってて」


 未だ失神している襲撃者たちの上に乗り、逃げられないようにしているオルディアが退屈そうな声をあげる。そう、ここに来たのはこの襲撃者の実体を暴くこと。なのにまだそれが出来ていないのだ。残党がまだ残っているので、こちらとしては早々に次の一手を打ちたいところだが……先生が僕の為に怒ってくれているのは嬉しいが、早く本題に入らせてほしい。

ロリ婆登場w

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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