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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
5章 追跡者編
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6.うしまつり

元ネタは当然、あの祭りです。

【再現率の基準値クリアを確認。補正値は攻撃対象の完全制圧を想定して変更……完了しました。効果範囲は設定エリア内に限定。各パラメータは評価値の三倍で再構成……完了しました。リリース時間は対象の完全沈黙までに設定。すべての準備が完了しました。キーワードを詠唱してください】


 酒場を出た途端にアオイは準備を完了させていた。あのまま酒場にいると関係ない人たちまで巻き添えにしかねないうえ、人質をとられたりすると厄介なので、いっそのことこちらからおびき出すことにした。僕たちに無関係の人が人質に取られた場合、関係ないと無視することも出来るが、それをすればこの街に滞在することは厳しくなるだろう。

 先生には皆まで言わなかったが、あの様子だと僕がやろうとしていることに気付いているだろう。それでも僕を送り出してくれるということは、この程度の連中ならとアオイだけで対処可能と信じてくれている証だ。


【この先の路地を右に曲がってください。オルディアは二本目の路地を左に曲がって待機してください。敵の逃亡と増援の阻止を任せます】

『任された―』


 アオイの指示が聞こえているようで、オルディアは右に曲がって二本目の路地を左に入って気配を消す。僕は彼女との魔力リンクがあるので、その存在を見失うことはないが。


【このまま進めば行き止まりです。そこで仕掛けてくるはずですから、返り討ちにしましょう。アルト様を狙うなど万死に値する愚行ですが、殺してしまうのはある意味慈悲でしかありません。再び生け捕りにして屈辱を味あわせてやりましょう】


 やけに準備が速いと思っていたらそういうことだったのか。半ば呆れながらも目の前の壁を見上げていると、距離をあけて尾行してきた者たちが声をかけてきた。どうやらこちらの目論見通りに進んでいるようだ。




**********



 漆黒のゲートの奥から聞こえてくるのは明らかに蹄の音。だがそれは馬のものではなかった。馬ならば蹄の音はもう少し軽い音がするはずだ。しかも蹄の音は複数聞こえる。これはきっとアレなんだろうな……


「な、なんでこんな場所に牛が!?」

「おい、こっちに来るぞ!」

「暴れ牛……ぶべ!」


 そう、ゲートから出てきたのは牛の群れ。しかも皆血走った目をして走っていくその様子は暴走していると表現するのが最もしっくりくると思う。


 牛たちは僕を追い詰めたと確信して油断していた男たちに向かって突進していく。牛といっても立派に成長した雄牛だ、大人が十人くらいでようやく取り押さえられるような雄牛が群れできているのだ。男たちは自分の置かれた状況を把握することができず、ただ牛たちに背を向けて逃走していく。

 

 だがどう足掻いても暴走した牛の速度に人間が勝てるはずもなく、最後尾の男が牛に踏まれて失神している。だがほかの者はかろうじて牛の猛追から逃げきれそうだ。だがここで逃走を許すほど今の僕たちは甘くない。


「今だ! オルディア!」

『ウォンッ!』

「うひゃいッ! うごッ!」


 路地の出口が見えて安心したであろう男たち。だがそれを阻むのは僕の大事な家族、オルディアだ。合図を聞いて彼女は身体を巨大化させて路地を塞ぎ、大きく吠えた。聞くものの恐怖心を煽るその吠え声を聞き、逃げ切れると安心した瞬間に逃げ道が無くなるという事実は男たちにパニックをもたらした。そして何が起こっているかを理解しないうちに牛たちの蹄に踏まれていった。



「見張り役の二人、逃げたね」

【それも考慮しています。どのみち今回の襲撃を仕組んだ者はどこかで高見の見物をしているはずです。残党はしっかりと狩らないといけません。ああいう輩は一人見れば百人はいると思ったほうが良いでしょう】

「害虫じゃないんだから」

【あれは世の中の害虫です。しっかり駆除しなければいけません】


 どうやらアオイにはこれから先の作戦が出来上がっているようだ。だが失敗してすぐに仕掛けてくるとは到底思えない。何の対策もせずに再び挑むなど、いくら彼らが切羽詰まった状況だとしてもそこまで馬鹿ではないだろう。


「まずは……先生のところに戻って無事だということを報告しないとね。オルディア、そいつら連れてこれる?」

『まかせてー』


 オルディアが巨大化したまま襲撃者たちを咥えて引きずってくる。オルディアは手を使えないので仕方ないと言えば仕方ないのだが、男たちの足を咥えて引きずっている。きっと男たちの後頭部の毛根は致命的なダメージを受けるだろうが、理不尽な逆恨みで僕の命を狙おうとしたのだから、このくらいやり返しても文句など言わせるものか。


「おや、随分と早かったですな」

「ただいま戻りました。こいつらが僕を狙ってきた襲撃者の一部です。首謀者は出てきませんでした」


 酒場の入り口で待っていてくれた先生に戻った旨を伝え、オルディアが引きずってきた襲撃者たちを見せる。その表情が一瞬だが緩んだように見えたのは気のせいか?


「まずは様子見といったところでしょうか。この装備は……【黒の旅団】のようですな。貴族の汚れ仕事を請け負っているという話も聞きます。このままギルドに引き渡してしまうのが最善でしょうな」

「警備兵じゃダメなんですか?」


 大きな街には必ずといっていいほど、領主の管理する警備兵が存在する。だが先生はそこに引き渡すよりもギルドを選んだのだが、どういう理由があるのだろうか。


「貴族の裏仕事を請け負うということは、当然ながらその関係を知られたくない貴族は揉み消しに走ります。もし中流以上の貴族が絡んだ場合は、領主へ圧力を掛けられる可能性も無くはないのです。であれば基本的に中立な組織であるギルドに引き渡したほうが無難です」

「色々と面倒くさいですね」

「貴族などそんなものですよ。それはアルト殿も良くおわかりでしょう?」


 そういえば、今思えばメイビア家も色々と面倒くさいことが多かった。父フリッツもメンツが潰されたとかいうどうでもいい理由で寄り親のマディソン辺境伯に何度も手紙をしたためていたな。

 

 もし僕に属性の適応があったら、きっと今頃は面倒くさい貴族の仲間入りをしていたことだろう。そう思えば今の自由な暮らしは厳しい反面、とても楽しい。充実している。だからこの生活を壊そうとする輩には遠慮せずに立ち向かわせてもらおう。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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