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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
5章 追跡者編
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4.酒場

「では割符を確認いたします」

「お願いします」


 ギルドの受付で換金の旨を伝えると、買い取りカウンターと思われる場所へ案内された。奥から眼鏡をかけた女性が出てくると、割符を手に取ってじっと眺めている。


「割符を偽造する者も少なからずおりますので、鑑定士が判別するのです。過去に割符を強奪するという事件があってからこのような方法をとっています」

「こちらの持ち主は……バーゼルさんとアルトさんですね。ギルドカードの提示をお願いします。……ありがとうございます、本人確認できました。準備いたしますのでおよびするまで少々お待ちください」


 待つこと十数分、眼鏡の女性が大小二つの革袋を持ってきた。やけに重そうにしているのが印象的だ。


「こちらが賞金になります。大きいほうはランザの、小さいほうはその他の盗賊のものとなります。生け捕りされたので、賞金には上乗せがしてあります」

「上乗せ?」

「はい、生け捕りにすれば魔法尋問で様々な情報を引き出せます。そうして得た情報の料金分、と言えばおわかりでしょう」


 ギルドの賞金首は基本的に生死問わずだが、多額の賞金のかかった者ほど生け捕りにした場合に賞金が上乗せされるそうだ。生け捕りによってさまざまな情報を引き出せることや、生け捕りにすること自体がかなり難易度が高いこと、それらを含めてギルドへの貢献度の高さを評価してくれているらしい。


「今回はアルト殿のおかげで上乗せ額も多くなりました。これだけあればしばらく路銀のことで心配する必要はありませんな」

「装備の修理もしておきたいですね」


 ニックおじさんに貰った装備もいつの間にか傷が目立つようになってきた。元々の素材が良いのと、腕の立つ職人の手で丹念に作られているおかげで修理することができるらしい。新しいものに買い替えるという方法もあるが、ニックおじさんがこれほど高価なものを譲ってくれることの真意を考えれば、できるだけ長く使っていきたい。


 僕みたいな若造がこれほどの大金を手にしていれば、素行の悪い冒険者が手を出してきそうなものだが、そこは元Sランクの先生がいるので誰も手を出してこない。というか、他人が命がけで得た金をどうにかしようだなんて冒険者の風上にもおけない行為だが。


「懐も温まったことですし、どんな店がご希望ですかな? 素敵な女性のいる店でもかまいませんぞ? いっそのこと夜の店でもいかがですかな?」

「な、なに言ってるんですか! まだ成人していないのに!」


 まあそういう店に興味が無いと言えば嘘になる。僕だって年頃の男なので、性欲はもちろんある。どうやって解消しているかは言えないが。

 子供みたいと言われるかもしれないが、そういうことをするのならば、やはり好きな人とがいい。娼婦さんたちの仕事を馬鹿にするつもりは無いが、自分の無防備な姿を晒しても安心できる人がいい。


「それは冗談として、まずは酒でも飲んでみませんか? 飲みすぎるなどは冒険者として失格ですが、僅かに嗜む程度であれば問題ないでしょう」

「はあ……」


 先生も性質の悪い冗談はやめてほしい。一瞬でも本気にしてしまった自分が恥ずかしくなる。まあそれは置いておくとして、酒はまだ飲んだことがない。なので酒場にも足を踏み入れたことがない。食事は野営か宿での食事で済ませていたからな。


「確かギルドを出てすぐのところに職人が集う酒場があります。採集も自分の手で行う職人も多いですから、付近の情報も手に入るかもしれません」

「じゃあ……ちょっとだけなら……」


 ギルドを出て数分、広い通りに面した建物に職人たちが入っていくのが見えた。きっとあれが酒場なのだろう。近づけば中から威勢のいい男たちの野太い声が聞こえる。


「まずは雰囲気を楽しみましょう」

「はい」


 促されるままに先生の後について店内に入る。

 店内はほぼ満席に近く、女給さんたちが忙しそうに動き回っている。活気のある様子から、かなり繁盛している店のようだ。だが僕にとっては異様にも見える光景だった。


 客のほとんどが筋骨隆々の男性。どう鍛えればそんな筋肉がつくのか知りたくなるような、まさに筋金の入ったような太い腕をこれ見よがしに見せつけている。まさに筋肉の塊が酒を飲んでいるかのようだ。だがそれよりも気になることがある。


「小さっ」

「「「「「 何だとゴルァ! 表に出ろや! 」」」」」


 そこにいた男性、皆僕より背が小さかったのだ。呟き程度の声の大きさだったが、なぜか全員それを聞き取っていた。それほどまでに気にしているのか……


「この店はドワーフの方々が足繫く通ってらっしゃるのです。ドワーフの方々は一様に小柄ですが、その力は他に類を見ないほどです」

「それを先に教えてください……」


 ドワーフ……本で読んだことはあるが、こんなすぐそばで見る機会などなかったが、こんな筋肉の鎧を纏った人たちだとは思わなかった。それに意外と短気な人たちだとも思わなかった。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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