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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
4章 迷宮探索編
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10.圧倒

ついに決着?

 地下迷宮の最下層にて僕たちが巨人と地竜の戦いを見守っていると、突然アオイが注意を促してくる。だがその口調には差し迫った危険があるようには感じられなかった。それはアオイの注意の内容が過分に影響を与えているのではないかと疑わざるを得なかった。


【アルト様、ネコがいます】

(ネコ?)


 いきなり場違いなことを言い出すアオイ。こんな場所にネコがいるはずないだろう。そもそもここは地下迷宮、そんなところにノラネコがいるなんて聞いたこともない。もしいるのならば、どれほど場数を踏んだノラネコだろうか。街の裏路地にいるようなノラネコとは比較にならないほど強いのだろう。魔物を倒すネコ……どうにも想像することができない。


【右前方に潜んでいます。逃げ遅れたのでしょう】

(本当にネコがいるの?)


 アオイの指示する場所を何度も見るが、何も見つけることができなかった。だがアオイが言うのならばそこに確実にいるのだろう。


【索敵情報を魔力経路を介して反映させます】

(あ、視える。本当だ、ネコ……あれはネコ?)


 突然視界がクリアになった。そしてアオイの指示する場所を改めて見ると、そこにはネコらしきものがいた。確かにネコだが、想像していたネコではない。頭部にネコミミをつけた猫獣人の女の子がうずくまって潜んでいた。必死に隠れているのだろう、耳はぺたんと閉じられており、巨人と地竜の戦いを固唾を飲んで見守っている。


(助けたほうがいいのかな?)

【この場にあのネコがいる理由が不明です。妥当なところでは、あのオーガを嗾けた張本人と考えることかと思います】

(それって危険なんじゃ……)

【あのネコはあのトカゲ如きに恐怖しています。その程度ならば問題ありません。万が一に備えての準備も万端です】


 アオイの自信に満ち溢れた声。確かにあの様子では混乱に乗じてことらに危害を加えることはできないだろう。それにこちらにはあの巨人がいる。あのネコ獣人も正面きって戦おうとはしないはず。とりあえずの危険性は低いと判断して巨人と地竜の戦いに集中することにした。


 戦況はまさに圧倒的の一言に尽きた。

 ブレスが悉く潰され、口の周りが爛れてきている地竜は攻撃のパターンを変えてきたのだが、それすらも巨人は対応してみせたのだ。竜種といえばブレスが代名詞のように言われているが、その爪や牙の威力も尋常ではない。それどころか、あらゆる鉱物よりも硬いとされている鱗に守られた巨体そのものが凶悪な武器となる。全身が武器の巨大生物であり、そのスタミナも無尽蔵と言われている。まさに無敵という言葉が最も似合うのが竜種なのだ。


 その竜種が圧倒されている。この世界の誰も見たことがない巨人に翻弄されている。竜種の恐ろしさを知る者が見れば夢でも見ているかと自分の状態を確認することだろう。事実、僕の隣で両者の戦いに魅入られている先生は心ここにあらずといった様子だ。


『ば、馬鹿な、地属性最上級の護りの効果を持つ我が鱗が全く通用しないなど……』


 地竜はその牙での噛みつきや爪攻撃、さらには巨体を活かした尻尾攻撃と攻撃手段を増やしたが、巨人はそれらを初見で捌いてみせた。それどころか攻撃を躱された際に生じる大きな隙を逃さずに攻撃を叩き込む。如何なる武器も、強力な魔法をも弾き返すと言われる鱗を足打が破壊し、拳打はその鱗越しに衝撃を貫通させて着実にダメージを与えている。

 だがどこか違和感を感じる。これほどの戦闘能力を持っている巨人がこんなに手数を多くする必要があるのだろうか。戦いぶりを見ている限り、どうも全力で仕留めにかかっているとは到底思えない。わざと加減した攻撃を数多く当てているような印象さえ感じた。それは地竜の言葉からはっきりと理解できた。


『な、何故一思いに勝負をつけん……貴様ほどの腕があればそれも容易なはず……』

『……』

【アルト様を屑呼ばわりした愚か者にそのような慈悲を与えるとでも思っているのですか? やはりトカゲ並みの知能しかないということでしょうか】


 いつになくアオイの言葉が辛辣だ。既に地竜の戦意ははっきりとわかるほどに衰えてきている。だが巨人は僕の……というかアオイの方を向くと小さく頷く。あたかも目上の存在に指示を仰いでいるような行動、そしてさらに攻撃は苛烈なものになっていく……




『ずびばぜんでじた……わだじが屑でじだ……』


 それから程なくして、全身ぼろぼろの傷だらけになった地竜が滂沱の涙を流しながら蹲っていた。すでにその心は見事なまでにへし折られているようで、先生やオルディアが近づいても威嚇をするどころか、その一挙手一投足に怯えの色を露わにした。


【自分の愚かさをようやく理解しましたか】

(ねぇアオイ、これじゃ僕たちが悪役みたいだよ)


 喜び跳ね回るオルディアの動きに、まるで子犬のように体を竦めて震える地竜を見ながら僕はこんな感情を抱くに至った。


 これはちょっとやりすぎではなかろうか、と。、

明日の更新はお休みします。執筆環境の整っていない場所への出張なもので……


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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