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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
4章 迷宮探索編
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7.ダンダンダーン

今回の召喚の元ネタを知りたい方は「キャプテン」「ダンダンダーン」でググってみてください。

第三者視点のバーゼルサイド→主人公視点へと切り替わります。ご注意ください。

「おらぁ! 次はどいつだぁ!」

『ウォンッ! ウォンッ!(おまえら邪魔!)』


 冒険者たちが戦々恐々と状況を見守っている中、バーゼルとオルディアがオーガを次々と屠ってゆく。その光景は冒険者たちにとっては現実のものとは思えないものだった。

 初老の男性は見たこともない強力な闇属性魔法を駆使して硬いオーガの皮膚を熟しすぎた果実を切るように容易く分断してゆく。方や白銀の狼のように見えた魔物は巨大化し、巨大な双頭の狼(?)となってオーガを喰い殺していく。オーガの集団という現実に絶望していた冒険者たちの目に希望の光が宿り始める。


「こっちの一匹くらい任せてくれ! 全員でかかれば何とかなるはずだ!」

「おう! 助かる!」

『ウォン!(ありがとー!)』


 戦意喪失していた冒険者たちが即席のパーティを作ってオーガの一体を相手取る。寄せ集めとはいえそれなりに経験を重ねた者たち、己の職業に応じた役割をこなして連携を取り始める。僅かでも対応を間違えれば死が待ち受けている状況となれば皆死力を尽くすのは当然だ。だが一分一秒でもオーガを殲滅してアルトを救出しなくてはならないバーゼルたちにとってはたかが一体であっても分担してくれるのは有難かった。



 やがてバーゼル、オルディアがそれぞれオーガを倒した。彼らの周囲にはもうオーガの姿はない。視界の隅ではちょうど冒険者たちが一体のオーガを倒すところが見えた。ゆっくりと倒れてゆくオーガに冒険者たちが歓声をあげている。

 だがバーゼルは警戒を怠らない。アルトを救い出すこともあるが、まだ自分たちを足止めしてオーガを放った黒幕が姿を見せていないのだ。この混乱に乗じて逃げたという可能性もありうるが、ここまで策を仕込んだ者がその結末を確認しないなど考えられなかった。


「殲滅したのに扉が開かない……ということはまだ条件を満たしていないということか?」


 バーゼルが未だ開放されない扉を見て忌々しそうにつぶやく。もし先ほどのオーガの殲滅が正解ならば既に扉が開いていなければおかしい。それはすなわちまだ終わりではないことを証明していた。


 と、突然轟音が響き、扉の周辺の壁の一部が弾け飛んだ。


「一体何事が?」

『ウォンウォンッ!(ご主人様のニオイ!)』


 もうもうと立ち上る土煙が周囲の視界を遮る。もし黒幕が仕掛けてくるならばこのタイミングは絶対に見逃せないはずだ。だがそのような気配は全く感じ取れず、オルディアはちぎれんばかりに尻尾を振っている。おそらくアルトの匂いを感じ取ったのだろう。


「あれは……人間?」


 バーゼルは壁が弾けた場所から生えているものを凝視してそんな言葉を漏らした。壁から生えているのはどう見ても人間の上半身だった。なぜ壁から人間が生えているのか、まさか迷宮にそんな不思議な現象が起こるなど今まで見たことも聞いたこともない。とすればこんな非常識な現象を引き起こす要因は一つしか考えられない。


「アルト殿……そちらは大丈夫そうですな」




**********



 ゲートから走り出てきたのは明るい朱色の丸い何か……ではなく、朱色の覆面に朱色のマントを纏った恰幅のいいおじさんだった。正直なところ全く強そうに見えないんだが……


【周辺環境の補正値を変更、再現状況に合わせて修正を完了。再現率は規定値をクリア、リリース時間は対象の完全捕縛までに設定変更を完了。問題なく構築されています】


 どこか憤慨したような感じも読み取れるアオイの言葉。と同時におじさんは僕のほうを振り向いてにっこりと微笑むと親指を立てた。体型は丸にい。口元には髭が生えている。どこかの宿屋あたりにいそうなおじさんが朱色の覆面をしているだけのような気もするんだが……


『ダンダンダーン!』

「な、なんだテメエは……うわッ!」


 おじさんはそう叫ぶと手近なところにいた盗賊の襟首をつかむと、僕が入ってきた扉のある壁に向かって投げつけた。人間一人をつかんでいるとは思えないほどに軽々と片腕で投げつける。猛烈な勢いで飛んでゆく盗賊だが、このままいけば間違いなく頭から壁に激突する。巨大な石を重ねたような壁はその強度も見た目通りであるとするなら盗賊の体は熟れすぎた果実のごとく潰れてしまうだろう。アオイの言っていた生け捕りという手段が根本から崩れてしまう。


【ご心配なく、周辺環境の設定値も変更してあります】


 アオイの声がするのと盗賊が壁に激突したのはほぼ同時だった。だが盗賊は僕が思ったようなことにはならなかった。盗賊はまるで柔らかな土壁に突っ込んだように下半身を壁から生やしていた。時折ぴくぴくと痙攣していることから死んではいないようだ。


「ちッ! 一斉にかかれ! オーガやあのネコ女に比べたら大したことはねえ!」


 ランザは舌打ちすると部下たちに指示を出し、自らも剣を抜いておじさんに斬りかかった。そんな状況になってもおじさんは焦る様子を見せない。


『ダンダンダーン!』

「うわッ!」

「ひぃッ!」

「助けてくれぇッ!」


 斬りかかってくる盗賊たちを軽々と片手で掴みあげて放り投げるおじさん。まさに圧倒的な強さで盗賊たちを壁に突き刺していく。やがて残るはランザ一人になったのだが、ランザの姿が見えない。おじさんはゆっくりと僕に向かって歩き出す。すると突然、おじさんの背後の土が盛り上がり、そこからランザが飛び出してきた。


「まさか土属性の使い手?」

「そうだよ! まさかこいつを使う羽目になるとはな!」


 ランザは偉そうに言っているが、とどのつまりは土属性魔法で地中に潜り、背後から強襲しようというもの。大口を叩く割にはやってることが小さい。だがもしこれが乱戦になったとしたらこの手口はとても効果的だろう。


「殺った!」


 ランザの剣は僕に向かって歩き続けて振り返ろうともしないおじさんの頭部に力一杯振り下ろされた。召喚した僕でさえ今回は駄目かもしれないと思ったのだが、アオイはどこまでも冷静だった。


【彼は強いですよ】

「なん……だと……」


 ランザの振り下ろした剣はおじさんの頭に当たると甲高い金属音を残して真っ二つにしてしまったのだ、その手に持った剣を。アオイの声とランザのつぶやきがほぼ同時に聞こえた。


『ダンダンダーン!』


 おじさんは茫然としているランザの襟首をつかむと、ほかの盗賊と同じように壁に向かって投げつけた。厳密にいえば壁ではなく、先ほどの扉に向かってだ。ランザはまったく速度を落とすことなく扉に頭から激突すると、扉を貫通して止まった。両腕は体に密着した状態で扉に刺さっているので、どう足掻いても逃げ出すことは不可能だろう。もっともそれ以前に扉にぶつかった衝撃で失神していたのだが。

 そして衝撃で半開きになった扉の隙間から先生と巨大化しているオルディアの姿が見えた。向こうには巨大な体の魔物が横たわっており、その横で渋い顔をしている先生と目が合った。先生の安堵の表情を見て、これでようやく終わったとほっと一息ついてゲートに戻ってゆくおじさんを見送るのだった。

元ネタは当時大好きだった映画です。こういう気楽に観ることができる映画、最近ありませんね。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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