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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
3章 湖畔の街編
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13.状況打破のために

いよいよ祭りですが……

「釣れませんね」

「僕たちは素人ですから仕方ないですよ」

「ダメですよ、そんな弱気じゃ。出るからには一位を狙うんです!」


 屋敷での話し合いの後、エフィさんとヘルミーナさんは僕の宿泊している宿屋に泊まることとなった。祭りまでの間に再度襲撃されては困るので、行動を早めたほうがいいとの皆の判断だった。そして祭りまでは何の動きもなく、こうして無事に参加している。


 湖上の舟の上、エフィさんが不満を漏らす。釣れていないわけじゃない、そこそこの大きさの魚は釣れている。だがはっきりとわかる大物は釣れていない。他の漁師たちは別な場所に舟を向けているのでこの場所には僕たちしかいない。まさかエフィさんがこんなに熱くなる人だとは思わなかった。


『おさかな美味しー』


 釣れた魚はオルディアが美味しくいただいている。今僕らが乗っている舟は小舟にしては大きめで、僕とエフィさん、ヘルミーナさん、そしてオルディアが乗ってもまだあと二人くらいは乗れそうな大きさだ。


「他の漁師はどこに行ったんでしょう?」

「きっと自分だけの場所があるんだと思います。事前に調べていたんでしょう」

「ヘルミーナ! ほかの漁師を探しますよ!」

「はい! お嬢様!」


 舟の櫓を握るヘルミーナさんが強く返事をするが、ほかの漁師がどこに行ったのかなどわかるのだろうか。彼女の舟の扱いはなぜか手慣れたもので、幸いにも舟はとても安定している。


「ヘルミーナさん、舟の扱いが上手ですね」

「はい、私の本業はお嬢様の専属メイドですから」


 そう言って櫓を操る彼女の服装はメイド服だ。はっきり言ってとても場違い感があるんだが、彼女はまったく気にしていないようだ。


「舟の扱い程度、メイドの嗜みのひとつにすぎません」


 すごいなメイド。舟が嗜みのひとつということは他にも嗜んでいるものがあるのか? 一体それがどういうものなのかを詳しく教えてもらいたい衝動に駆られる。だがそうなると先日のあの失態は何だったのか。


「あのときはメイド服ではありませんでしたから。メイドはメイド服を着用することで十全の力を発揮できるんです」


 なら何故鎧を着た。聞けばこれまでもエフィさんの護衛をしていたとのことで、メイドのままでも良かったんじゃないのか?


「ヘルミーナは騎士への憧れがとても強いんです。レジーナさんのような優れた騎士が目標だったんです」

「ですが身の程を知りました。やはりメイドはメイドであってこそ最強なのですね」


 櫓を操る彼女からは全くと言っていいほど隙が見当たらない。やはり彼女はメイドのままのほうがいいだろう。あのときのポンコツぶりを見たら誰だって騎士なんて向いていないと判断するだろう。

 そんな彼女でもやはり漁という専門外の分野については不得手のようで、大物が潜んでいそうな場所は見当もつかないらしい。僕としてはエフィさんを護れればそれでいいんだが、当の本人は気が収まらないらしい。時折、大物を釣り上げた漁師の舟が近くを通り過ぎるたびに悔しそうな表情を見せている。その表情は年相応の女の子のそれであり、とても可愛らしくて見てて楽しいんだが。


「どうしましょう、このままでは他の漁師に負けてしまいます。アルト君、何かいい方法はありませんか?」

「そうは言っても……僕も素人ですから、専門家でないと……」

【ならその道の専門家に頼めむべきでしょう】


 唐突にアオイの声が頭に響く。まさかこんな状況をも打破する方法があるというのだろうか。


【勿論です。今は超大物を狙うべき時、ならば伝説級の獲物を数多く仕留めてきた存在を招聘すべきです】

「わかったよ、エフィさん、ちょっと離れてください。今専門家を呼びだします」

「一体何を……いえ、アルト君は私たちの想像もできない力を使うんでしたね。わかりました、いつでもどうぞ」


 エフィさんが僕からやや離れたのを確認すると、アオイが僕の手に現れる。それを見ていたエフィさんが僕の手のあたりに視線を固定している。


「恐ろしいほどに濃密な力がそこにあります。ですが不思議と危険を感じません」

「やはり見えませんか」


 魔力の属性を視認できるエフィさんでもアオイを視認することはできないようで、ただ魔力のようなものが集まっているのを感覚で理解するくらいしかできないらしい。ヘルミーナさんはそれすらわからないようで、エフィさんの行動に首を傾げている。


【情報再現率は規定値に設定、縮尺補正は設定値を継続、使用道具はリリース後の状況判断にて随時再現とする……全項目オールクリア、リリース準備整いました。キーワードを詠唱してください】

「わかった、『つりざおしょくにんのまご』解放!」


 キーワードを唱えるとともに、僕とエフィさんの間に闇のようなものが現れた。大きさは大人がなんとか収まる程度、超大物を狙うにしてはずいぶん小さいように思える。もっと大きな何かで一気に決めるのかと思っていたが、そうでもないらしい。


【勝負には周囲の観衆を魅せることもまた重要です。誰も文句のない完全なる勝利をアルト様に捧げましょう】

「魅せる?」


 アオイの言葉が少々気になる。それに相変わらず全く意味がわからないキーワード。だが今はアオイを信じる以外に僕たちには手立てがない。そして闇は次第にあるものを形作ってゆく。僕たちに勝利という名の超大物をもたらすために。 

事前に申し上げておきます。今回の召喚は私の個人的趣味を爆発させております。


Y先生のことは大変尊敬しておりますので、リスペクトということで……


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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