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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
3章 湖畔の街編
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12.どうして

体調悪くて寝落ちしてしまいました。すみません……

「アルト君! 頑張りましょう!」


 エフィさんが僕に向かって声援を送ってくる。それに対して作り笑顔で応える僕。大歓声の中、彼女の笑顔がとても眩しい。


「お嬢様、やるからには勝利を目指しましょう」

「もちろんです、ヘルミーナ」


 ヘルミーナさんが僕たちの後方から声をかけてくる。もちろん僕も参加するからには勝ちを目指して頑張るつもりだ。だがどうしても僕の心の中には一つの感情を拭い去ることができずに残っていた。もうこうなってしまったからには覚悟を決めなければならないことくらい分かっている。その感情は他の人から見れば大したことないのかもしれない。事実、僕だってそんな感情に左右されるほど弱くはないつもりだ。だが完全に自分自身を納得させるためには敢えてこう言わざるを得ない。



 どうしてこうなった、と。



**********


 

「エフィ様! ご無事ですか!」


 エフィさんとお茶を楽しんでいるところに血相を変えたアントニオさんがやってきた。だがその姿は領主としての威厳など欠片も感じることができなかった。


「私は大丈夫です。それよりもどうなさったんですか?」

「良かった……いえ、いきなりの報せて驚いてしまって……」

「階段から足を踏み外して転げ落ちてしまったんです。それで少々足を挫いてしまったようです」


 アントニオさんはレジーナさんに抱きかかえられた状態だった。所謂お姫様抱っこという形になっている。だが彼が驚いたのも無理はないだろう。彼が子爵としてこの領地を任されているのはエフィさんが深くかかわっているそうだ。彼はこの屋敷を管理するために子爵になったと言っていた。そしてこの屋敷はエフィさんが主に使っている。そんな彼女が襲撃されたとなればアントニオさんの責任問題になるのは必至だ。この街自体にも重大な影響を及ぼしてしまうかもしれない。


「襲撃者の黒幕についてはまだわかりません。ですがこの領地から出たという形跡がないので再び仕掛けてくる可能性が高いです」

「なのでエフィ様にはこの屋敷から出ないでいただきたいのです」

「つまり……ここで囮になれということですか」


 エフィさんの顔から笑みが消える。いつ仕掛けてくるかさえ分からない相手に対してひたすら待てというのは精神的にもかなり消耗するはずで、彼女が懸念するのも理解できることだ。


「ですがアントニオ殿、それはあまりにも危険ではないですかな。襲撃者は人気のない湖畔の屋敷で仕掛けてきたとすれば、目立つ場所での行動は都合が悪いはず。この屋敷にいては逆効果だと思いますが」

「では街中で対応しろと?」

「いえ、尻尾を出させれば良いのですよ。向こうもこれだけの手駒が捕縛されたとあれば大きな動きはできますまい。秘密裏に事を進めることは難しいはずです」


 先生がアントニオさんに苦言を呈している。敵とすればエフィさんを秘密裏に処分してしまいたいのは明白で、屋敷に単身ひきこもるなんて狙ってくれと言っているようなものだろう。


「敵の増援の動きが見えないとすると、襲撃者はなんとしても自分たちだけで任務をこなさなければならないということでしょう。であれば自由に動けなくしてしまえば問題はありますまい。幸いにもこの街は外部の人間が来ることはそうありません。見知らぬ者が動き回れば目立つことは間違いないでしょうな」

「だがそんなに都合よく動きを封じることができるのか?」

「相手から見れば自由に動けるタイミングはそう多くないでしょうな。例えば街の外から人が入り込んでも不自然ではない催しでもあれば別ですが」

「……そうか、祭りか!」


 アントニオさんが声を荒げる。確かに街をあげての祭りとなれば皆気分が高揚しており、見知らぬ人物がいても不思議に思うことはないのかもしれない。だがそんな状況で群衆の中にいたら襲撃されても防ぎようがないようにも思える。無関係な人たちを巻き添えにしても良いのであれば強力な魔法でも撃ち込めば一網打尽にできそうだが、被害が広範囲に及ぶうえにエフィさんの安全も危うい。そんな僕の不安を察知したのか、先生が僕に向かい決定的な一言を言ってきた。


「祭りに参加するのはアルト殿とエフィ嬢です」

「「は?」」


 思わず僕とエフィさんの声が重なった。なぜそんな目立つことを僕とエフィさんが行わなければならないのか。だが先生が言うにははっきりとした理由があるはず。


「……なるほど、それは面白い案ですね」


 予想外の声が先生の案に興味を示した。声のしたほうを見れば目を輝かせたエフィさんがいた。どうやら彼女はかなり乗り気のようだ。


「祭りの参加者になれば祭りの間は船の上、つまりは湖の上にいることになります。そこであればそう簡単に襲撃することができないということですね」

「そうか、水中を来るにしてもここは人間すら餌にする巨大魚もいる湖だ」


 アントニオさんが先生の言葉の真意に気づいたようで、感嘆の声をあげた。船の上なんて危険極まりないと思っていたが、確かに湖に出てしまえば近づいてくる者はすぐにわかる。それに祭りはどれだけ大きな魚を釣るかを競うもの、ほかの船が近づいてくるなどということは考えにくい。つまりは接近してくる船こそ襲撃者の船だということ。


「広範囲魔法については我々で探知することができます。となれば敵は接近戦をしかけてくる以外に方法はないでしょう」

「アルト殿、エフィ嬢の護衛を任せましたぞ」


 レジーナさんと先生が僕を見て微笑む。先生は僕の召喚の力を見越してのことだと思うが、果たして僕にそんなことができるのだろうか。


【問題ありません、私にお任せください】


 僕の頭の中にアオイの自信ありげな声が響く。果たしてどんな方法なのか不安に思う部分もあるが、これまでアオイの力で危機を乗り越えてきた。きっと今回もいい方法があるのだろう。こうして僕とエフィさんは祭りに参加することになった。 

いよいよ祭りに突入です。そしてついに……

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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