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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
3章 湖畔の街編
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11.胸に秘めて

前話に引き続きエフィ視点です。

 まずはじめに思ったのは、彼の纏う空気がとても綺麗だったということ。私の知る限り、誰しも何らかの色を持つはずなのに彼にはそれがなかった。清らかな湧き水のように透き通った色は、私の心に強く印象づけられた。そしてうっすらとした濁った闇色が彼に追従するように漂っていた。まるで清廉な泉を穢すような悪意がそこから感じられた。


「あの……本当に大丈夫ですか? どこかに強くぶつけたりしませんでしたか?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 心配そうな表情で手を差し伸べてくる彼からは不思議とあの濁った色を感じない。だけど漂う闇色は虎視眈々と獲物を狙う獣のように彼に纏わりつく。いや、もしかするとすでに何かの影響下にあって、それを監視しているのかもしれない。


「僕、これから大事な儀式があるので行きますけど……」

「頑張ってくださいね」


 そう答えるのがやっとだった私は立ち去る彼の後ろ姿を複雑な心境で見送っていた。そしてその後の顛末は私が予想していたものとほぼ同じだった。彼の透き通った魔力はどの属性にも親和性を持たず、巨大な魔力を内包しているという前評判にあやかろうと集まってきた寄生虫のような人たちを失望させた。その場に茫然と立ち尽くす彼の顔からはあの柔和な笑顔の欠片も見当たらなかった。

 そして彼と再び会うこともなく、メイビア領を離れることとなった。唯一の心残りは、アルフレッド君の凍り付いた表情が私の目に焼き付いて離れなかったこと。彼がこれから経験するであろう苦難がどれほど過酷なものになるかなど、想像することができなかった。噂では屋敷に幽閉されているとか、すでに放逐されているなどの心苦しい話ばかりで、それが私の心にしこりを残していた。あのときに何か助言できたのではないか、そうすれば彼のあのような表情を見ることなく、万事うまくいったのではないかと。




**********




 再び会うことができた彼はアルトと名を変えていた。うまく言葉を濁していると思っていたのだろうけど、彼が苛烈な状況に陥っていたことは容易にうかがい知れた。だけど私に向けてくれた笑顔はあの当時のままの柔和なものだった。しかも彼に付き纏うように漂っていた濁った闇が綺麗に消えていた。そしてうっすらと見える透き通るような青い光、どの属性にもそんな兆候など存在しない不思議な何かが彼を護るように包んでいる。きっとこれが彼を救ってくれたんだろう。


「えー? 僕とエフィさんて昔会ってるんですか?」

「ええ、属性判別の儀式の直前に」

「あの時はかなり緊張していましたから……」


 屋敷を案内しながら当時のことを話すと彼は照れ臭そうに笑っていた。彼は私のことなどまったく覚えていないようだったのは少々残念な気分だったけど、彼が無事でいてくれたことが嬉しかった。

 聞けば彼は既にメイビア家とは完全に袂を分かったという。当代のメイビア子爵の噂は私も聞いたことがある。非常に虚栄心が高く、陰湿かつ狡猾な野心家であると。そのせいか、当時勝手にメイビア領まで足を延ばしたことをガルシアーノ本家からきつく叱られた。そのためにレジーナというお目付け役までつけられてしまった。それほどまでにあの子爵家の当代当主の評判は悪い。寄り親であるマディソン辺境伯やその関係者の評価は低いが、ガルシアーノ家はそうは考えていなかった。ほんの僅かでも付け入る隙を見せてはいけないということでしょう。

 アルト君が言葉を濁すのも納得できる話です。もしガルシアーノ家がアルト君に起こったことを知ればメイビアはガルシアーノから要注意な存在として目をつけられてしまうでしょう。場合によっては領民に過大な迷惑をかけることになるかもしれません。心優しい彼は何の関係のない領民が巻き込まれることが嫌なのでしょう。あの柔和な笑顔のように、彼の優しさが伝わってくるようです。


「さあこちらへどうぞ。今お茶の支度をしますから」

「エフィさんが?」

「ええ、ヘルミーナが出かけているときは全て自分でやらなければいけないので。予想外でしたか?」

「はい、まさかガルシアーノの令嬢が自らお茶を淹れるなんて想像もつきませんでした」

「アルフレッド、いえ、アルト君は私を何だと思ってるんですか?」


 ヘルミーナがまだ目を覚まさなかったので、私がお茶の支度をしているとアルト君が不思議そうな顔をしている。確かに私はガルシアーノの末席にいるが、生まれつきの五王家の人間じゃないのでこういうことに抵抗感はまったく感じない。こういうところもガルシアーノ家の中で一人だけ浮いた存在になってしまっているんだろう。

 アルト君との他愛のない会話がとても心地よい。思えばガルシアーノの血を受け継ぎ、なおかつ聖属性持ちだと判明して以来、素の自分を出すことなどまったくできなかった。ガルシアーノとしての立ち居振る舞いを常に要求され、それ以外は常に籠の鳥状態だった私にはこんな時間を味わうことすら許されなかった。

 思いがけない場所でまさかの人物との再会、これは何かの先触れなのかもしれない。彼はアルトと名を変え、不思議な力を使う術師「召喚士」となって私の前に現れた。もしかすると彼はその力で私の運命すら変えてくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に秘めながら、今はこの楽しいひとときを味わいましょう。 

エフィは今のところヒロイン候補……かな?

でも細かい部分の認識が違いますw

今後の進展がどうなるかは全くの未定だったりしてw

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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