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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
3章 湖畔の街編
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9.まさかの……

 エフィさんが放った一言は僕たちに過大な衝撃を与えた。アルフレッド=メイビアは死亡したと父フリッツが公表し、キースが家督を継ぐことでアルフレッドとしての僕の存在は消滅したはずだ。先生やニックおじさんたちのように例外はあるが、それを除けば僕とアルフレッドが同一人物と結び付けられる者はいないはず。ましてやガルシアーノ家のご令嬢がそこに気づくなんてありえない。


「ぼ、僕は冒険者のアルトですよ。他人の空似じゃないんですか?」

「いいえ、そんなことはありません」


 慌てて取り繕った僕の言葉を真っ向から否定するエフィさん。さらに顔を近づけて棒の顔を確認するように眺めている。一体何を確認するつもりなのか全く理解が追いつかない。


「やはり……あなたは間違いなくアルフレッド君です。あの時に感じた魔力の波長、特にあらゆる属性に親和性を持たないという稀有な特徴を間違うはずがありません」

「魔力の波長?」

「まさか……エフィ様、あなたは魔力を見ることが出来るのですか?」


 先生の問いに小さく首肯することで答えるエフィさん。確か昔書物で読んだことがあるような……


「はい、私は聖属性です。ですが補助的な分野にのみ特化しているので攻撃に関しては直接攻撃できる手段を持ち合わせていませんが」


 そういうことか。確かに聖属性の魔法には魔力の質を見極めるものが存在する。でなければ属性判別の宝珠というものの存在が説明できない。属性判別の宝珠は魔力量判別の宝珠とともに聖属性を持つ術者による特殊な魔法にて生成される。だが大きな魔力を持つ者でも一か月ほどかかりきりになってようやく出来上がるというもので、稀少性が高いのも頷ける。それに聖属性持ち自体が少ないのも拍車をかけている。だがまさかエフィさんが聖属性持ちだとは思わなかった。


「あのときって……まさか属性判別の儀式のときにメイビア領にいたんですか?」

「はい、偶然にもここに遊びにきていたときに噂を聞きまして、当時には既に聖属性があることはわかっていましたので、後学のためにと思ってお邪魔させていただいたんです。ですがあのようなことになってしまったので……」

「聖属性は他の属性とは特殊ですからな、属性の発現が早いという事例もあります」


 突然黙り込んでしまったエフィさん。あの場にいたとなればあの不穏な空気も感じていたのだろう。だがその後のことまでは知らなかったようだが。


「それでどうなんですか? あなたはアルフレッド君でしょう?」

「う……はい、確かに僕はアルフレッドです」


 僕の目をじっと見据えて問いかけてくるエフィさんの圧力に負けて、観念して正体を明かす。それを聞いて彼女は大きく安堵の息をついた。


「よかった……あの時の子爵の様子が尋常ではありませんでしたから心配していたんです」

「……ありがとうございます、気にかけていただいて」


 この様子だと僕がどういう状況に陥り、そのせいで名前と実家を捨てることになったのかは知らないのか? 


「ですがお亡くなりになったという話を噂に聞きまして……」

「その点は色々と複雑な事情がありまして……まぁ盗賊に襲われたのは間違いありませんし、僻地の貧乏子爵の跡継ぎよりも自由な冒険者のほうが僕には合っているんじゃないかと思ってそのまま旅に出たんです。あ、でも実家には内密にお願いします、死んだと公表した人間が生きていたなんて知れたら面倒なことにしかなりませんから」

「……わかりました、かなり複雑な事情があるそうですが、こちらも命を救われた身ですし、その恩を仇で返すようなことはしたくありません。あなたは冒険者のアルト君ということでよろしいですか」

「はい、それでお願いします」


 よかった、これで面倒事に至らずに済みそうだ。フリッツに僕が生きていることが知れれば間違いなく始末する方向に再び動き出すはず。あのプライドの高い男が自分の失態をそのまま受け入れるはずがない。事と次第によってはエフィさんにも悪影響を及ぼすかもしれない。


「でも一方的にではありますが、見知った顔に出会えたのは私にとっては僥倖でした。お忍びなので仕方ないのですが、毎日ヘルミーナの相手をするのも少々辛いものがありまして……」

「あー、それは納得です」


 あの登場シーンだけでも空回りっぷりは見事だった。レジーナさんとも既知の間柄だったらしいが、先ほどの話によると元々はメイドだったらしい。どんなメイドかはおおよその想像ができるのが悲しいところだが。

 お忍びとはいえ五王家のひとつ、ガルシアーノ家の家名を持つ者がこんな田舎に来る上に襲撃されるなんて何か深い事情があるに違いない。とても心細かっただろうことは容易に想像できるので、僕のような者に会えたくらいで安心してもらえるのならこちらとしても満更ではない。


「そこでお願いがあるのですが……私、この街の祭りを大変楽しみにしているんです。アルト君、街の案内をしてもらえませんか」

「はい?」


 エフィさんのお願いは僕のまったく想定していなかったところからやってきた。視界の隅ではオルディアが楽しそうに水遊びしている姿が映った。あんな風に能天気に遊ぶことができたらどれほど人生が楽しいだろうかと心から思った。 

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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