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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
3章 湖畔の街編
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7.少女の正体

 未だに顔を手で覆っている少女をそのままにして、失神して転がっている襲撃者たちを森の蔦で縛り上げた。彼女は必死に顔を覆っているが、指の隙間からちらちらと覗き見している。何を見ているかはあえて言及しないでおこう。

 襲撃者の覆面を取ると、皆一様に精悍な顔つきをしているが現地人のようではないようだ。というのもこの地域の人たちのほとんどが健康的に日焼けをしているが、襲撃者は皆日焼けしていなかった。


「やはり身分のわかるようなものは持っていませんか。色々と聞きたいことはありますが、今の私には聞き出す手段がありません。領主に引き渡すしかありませんね」

「領主ってアントニオさんのこと?」

「ロッカ子爵をご存じなんですね。先ほどこの子を使いに出しましたので、じきに誰か来るでしょう」


 少女の肩に一羽の小鳥が舞い降りて止まる。まるで新雪のような白い羽毛の小鳥は少女の白魚のような指で喉を撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。


【アルト様、こちらに接近してくる反応があります。領主補佐のレジーナ女史です】


 アオイの言葉通り、屋敷のほうから歩いてくる女性は昨日会ったレジーナさんだった。だが昨日のようなラフな格好ではなく、磨き上げられたプレートアーマーの上から真っ赤なサーコートという特徴的ないで立ちだった。ちょっと待て、真っ赤なサーコートってもしかして……


「レジーナさん、王宮近衛守護隊ロイヤルガードだったんですね」

「アルト君、こんなところで何を……いえ、それよりもエフィ様、御怪我はございませんか?」

「あなたはアルトという名ですのね。アルト君のおかげで襲撃者を捕縛することができました」

「ヘルミーナは……その様子を見ればわかります。素直にメイドだけに専念していればいいものを」

「彼女はずっとあなたに憧れていましたから。ところでこの襲撃者たちに心当たりはありますか?」


 彼女の名はエフィっていうのか。だがレジーナさんの恰好はどう見ても王宮近衛守護隊の正式武装であり、己の剣を捧げた相手に相対する場合には必ず着用することになっているものだ。しかも赤のサーコートはその中でも上位の実力を持つ者しか着用が許されていないはず。レジーナさん、手練れどころの話じゃない。

 エフィさんが未だ失神している襲撃者の覆面をはぎ取ると、レジーナさんが一人ずつ確認していく。だがレジーナさんの表情は曇ったままだ。


「いえ、顔の特徴から北方系だとは思いますが、王都には北方系の住人は多いですから何とも言えません。少なくともこのロッカの人間ではないようですね」


 レジーナさんは襲撃者の一人の首すじを指さして説明する。


「この地域は日差しが強いので、北方系の者は肌が赤く腫れあがるんです。それも一年もすれば次第に消えていきますので、この者が最近ロッカに来たということは明白です」

「この者が指揮していた者のようですが」


 エフィさんがまるで汚物から目をそらすような感じで下半身が丸出しの男を見ている。確かに女の子が直視していい姿じゃないので仕方ないか。レジーナさんが指揮官と聞いて男の首筋をしきりに調べていた。


「やはり……この者は最近王都で力をつけている犯罪組織の者のようです。この首筋にある蠍の刺青が幹部構成員の証です。エフィ様、この者はこちらで尋問いたします。誰が黒幕か必ず吐かせてみせます。それからアルト君、エフィ様を護ってくれてありがとう。やはりバーゼル殿の教え子ですね」

「先生との手合わせはどうでしたか?」

「引退したとはいえ、さすがはSランクですね。軽くあしらわれてしまいましたよ」


 一応全力だったんですが、と照れ臭そうに頭を掻いているレジーナさんはどこかかわいらしい。凛々しい正式武装でそんな仕草をするというギャップがいいのかもしれない。


「それで先生はどうしているんですか?」

「実はどうも不穏な動きがあると教えてくださったのはバーゼル殿なのですよ。一緒に出発したのにあっという間に置いて行かれてしまいました。おそらく周辺で残党がいないか確認しているのでしょう」

「どうやら残党がいるようですな。ですが不利と認識した途端に指揮官すら見捨てて、なおかつ痕跡を極力残さないで逃走するとはなかなか鍛えられた集団です。これは気をつけないと再度戦力を整えてやってくるかもしれません」


 木々の間からまったく音を立てずに現れた先生。いきなり現れてエフィさんもレジーナさんも驚いている。僕はアオイの索敵のおかげで存在を確認できたが、もし僕だけの力ならすぐそばに近寄られても全く気付かないだろう。


「それでそちらのお嬢さんはどなたですかな? これだけの手練れが襲撃するほどの立場にある人物のようですが」

「申し訳ありませんが申し上げることはできません。これ以上はいくらバーゼル殿といえど……」

「襲撃者を捕縛したアルト殿に対してもですか? そもそもレジーナ殿のその装備からしてどういった方なのかは想定できますが」

「もういいわ、レジーナ。ここまで巻き込んでおいて、そのうえ助けてもらったのにそれはあまりにも礼を失しているわ。いくら私がお忍びで来ているとはいえ、家名に泥を塗るような行為よ」


 エフィさんが言いよどむレジーナさんを手で制した。そもそも王宮近衛守護隊が正装している時点で王族に関連する人物だということは明白だ。問題は彼女がどれだけ重要な位置にいるかということだ。


「改めて自己紹介するわ。私はエフィ=ガルシアーノ、王国を支える五王家の一つ、ガルシアーノ家の血に連なる者です」


 思わず絶句する僕と先生。まさか五王家なんて有名どころが出てくるなんて思わなかった。そんな立場の彼女が狙われるなんて、想像以上に敵は大きいのかもしれない。それに彼女の言っていた改革派という言葉、かなり厄介なことに巻き込まれてしまった気がする。

ヘルミーナは正式な騎士ではありません。なので鎧は新品なのです。へっぽこです。

読んでいただいてありがとうございます。

前回の召喚の元ネタは近日中に活動報告にてw

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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