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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
2章 駆け出し冒険者編
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14.顕現

ヘドン視点→アルト視点へと移ります。

(一体何が起こってやがる? あのガキのまわりに妙な魔力が集まってきている)


 ヘドンは突然自分に向けて突進してきたオルトロスを使役している少年に少々困惑していた。オルトロス自体は強いが、かといって負ける相手ではない。耐久力の高さだけで言えば『闇の者』の中でも上位に入るという自負がある。

 だがそんな魔獣を使役する者など聞いたことがない。魔獣は自分よりも弱いと認識した者に従うことなどあり得ない。となれば目の前の少年が何らかの方法でオルトロスを屈服させたということになる。


(面白いことになりそうだな)


 ヘドンは単眼をゆがませながら、小さく笑みを浮かべる。少年の持つ正体不明の力に興味がわいたのだ。どのような手段でオルトロスを従えたのか、と。


 元々この任務にまったく興味がなかった。上位の魔将から指示されたのは新しく開発した精神干渉の魔道具の実験、酷く退屈で面白みの欠片もない任務だった。だが魔将において上位の存在の指示は絶対だ。上位ということは、確実に自分よりも強い存在だからだ。力こそ全ての組織だからこそ、ヘドンは今の地位にまでのし上がってきた。


 部下として抱えているゴブリン共に丸投げしていたのだが、あるときゴブリン共が妙に肌のツヤが良いことに気付いた。何か美味いものでも喰っているのではと思い問い詰めていた時にゲートが繋がった。そこでヘドンは確信した。

 こいつらは人間を喰っている。

 なんて羨ましいことをしているのかと腹が立った。ゴブリン共のリーダーから実験はまずまずの結果が出ていると報告は受けていたが、まさか人間を喰っているとは思ってもいなかったのだ。

 詳しいことを聞けば、ゴブリンリーダーはある冒険者パーティに話を持ち掛け、報酬として様々な魔道具を見返りにして実験を行い、そのついでに人間を差し出させていたとのこと。


 魔道具など『闇の者』にとっては重要なものではない。力の使い方を知らぬ若造が一時的に補助具として使う程度のものでしかないが、人間にとっては高値で取引されるものだという。そこまでの方策を考えられなかった自分も悪いが、なぜ自分に報告がなかったのかということにも腹が立ったのだ。実際はヘドンは丸投げばかりするので配下から快く思われていなかっただけなのだが。


 そんな折、突然開いたゲート。さらにはゲートの向こう側から濃密な人間の匂い、となればもう抑えがきかなかった。配下のゴブリンが制止するが、その悉くを動かぬ骸へ変えて、ヘドンはやってきたのだった。人間を心ゆくまで喰らうために。そこで出会った不思議な力を持つ少年、ヘドンは愉しくなった。『闇の者』はおおむね好戦的だ。強い者と戦い、己の闘争心と嗜虐心を満たすことを非常に好むのは上位の者になればなるほど強くなる傾向がある。ヘドンもその一人だった。


 目の前の少年がどのような手段で戦うのか、少なくともあのオルトロス以上の何かがあるのは間違いない。でなければ劣勢のオルトロスを見てなお戦う意思を見せることはないだろう。どこかふっ切れたようなその顔にはある種の決意のようなものが感じ取れた。


『ぜったいにしずまないふね』


 少年が口にした言葉。と同時に彼我を遮るように今までとは一線を画す濃密な何かが生じる。それはあたかも自らが先刻通り抜けてきたゲートと酷似しているが、その内実はまったく異なるものであることは魔法に疎いヘドンにもはっきりと理解できた。

 通常のゲートであれば、少なからず転移先の情報が垣間見える。ヘドンの場合はこのあたりの人間の匂いを感じ取ったから押しかけてきたのだが、そういったある種の情報が流れ込んでくるものだ。

 だが眼前に揺蕩う闇のようなものは全く異質。『闇の者』であれば親和性の高いはずの闇のように見えるが、感じ取れるはずの情報がまったく無い。欠片すらない、皆無だ。それが何を意味するのかを理解できるほどの知性をヘドンは持ち合わせていない。やがて入ってきた情報、それは急速に近づいてくる地響きだった。




**********




『ぜったいにしずまないふね』


 そう口にしてからも、僕には何が召喚されてくるのかがわからない。なぜならここマウガの街中には小川はあれどせいぜい小舟が行き来できる程度のもので、まだ実物を見たことはないが、魔法で動く魔導軍船なるものが移動できる大きさではない。魔導軍船は少なくとも百人以上で動かすような巨大な船だ。一体こんな街中で何ができるのか?

 しかもこの街の外にも大きな川や湖はない。一度は見てみたいと思っている海もはるか遠方だ。アオイの選択肢の中で負けないことがイメージできるものを選んだのだが、ただ圧倒的な力を持つ何かが近づきつつあることだけが理解できる。


「本当にこれで大丈夫だったのかな」

【情報再現率……基準値の誤差の範囲内。細部詳細……各パラメータは対象沈黙を最優先として再設定……完了。今回の選択には破綻は見られません。あの敵を排除するために最適と思われる選択肢からの妥当な選択です】


 僕の疑問にアオイが答える。アオイを疑ったわけじゃない、ただその選択肢の意味するところがよく理解できなかっただけだ。僕の知識が足りないだけなのかもしれないが。


【情報再現進捗……再現終了、リリース準備完了しました。パフォーマンス低下を防ぐための暖気運転済み……リリースします】


 アオイの言葉が召喚した存在の顕現を伝えてくる。そして大きくなってきていた地響きは直近で聞こえた。これから圧倒的な何かが出てくる。以前の『けもののおうこくのこくおう』とは違う種類のプレッシャーを周囲にまき散らしながら、それは顕現した。


「お、おじさ……ん?」


 闇から出てきたのは軍船でも運搬船でも、ましてや小舟ですらなかった。ややくすんだダークブラウンの髪に口ひげをはやして、その顔を真っ赤に上気させて戦闘準備を完了させているおじさんだった。

読んでいただいてありがとうございます。

ヘドン君は魔将の中では下っ端です。四天王最弱とかそんな感じです。

そして部下に嫌われている上司でもありますw



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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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