11.反撃開始?
二日続けての接続障害で更新できず……
大変申し訳ありません。
「闇の者だと? それは本当か?」
「推測の域は出ませんが、この術式は間違いありません。私も数度見たことがあるだけですが、これの厄介なところは様々な属性に偽装できるところです。以前見たものは光に偽装されていました」
闇の者。昔からおとぎ話などで語られているが、実在する危険な者達。皆一様に高い戦闘力を持つ闇の世界の異形。魔王を筆頭に、死と破壊を撒き散らすことを目的とする者達。まさかそんな奴らが彼らと繋がっているのか?
「アルトの話だとアルトを金づるにしようとしていたそうだが、となると奴らが闇の者という可能性は低いな。闇の者は金には全く執着しないらしいからな」
「おそらくですが、亡くなった新人たちが苦しみながら死んでいくのを愉しんでいるのでしょう。人間の断末魔は奴らの大好物ですからな」
「そうなるとアルト殿が生き延びているということは彼らにも都合が悪いはず。と、その前に彼女の精神操作を解除しておきましょう。侵食も軽いようですし、すぐに済みます」
バーゼル先生が手をかざすと、お姉さんは我に返ったようだ。
「あら、私こんなところで何を……あらアルト君、どうしたの?」
「おいシェリー、お前はアルトに討伐依頼を受けるように言っていたんだぞ」
「え? だってアルト君は戦う力なんて皆無じゃないですか、討伐なんてできるはずないでしょう」
「よし、まともになったな」
シェリーさんの反応が一般的なギルド職員のものに変わったことを確認したダウニングさんが安堵の息をつく。僕自身に戦う力が無いと知っていれば当然の対応だ。
「さて、奴らが来たときの段取りを決めておくぞ。まずは奴らが来たときの対応はシェリーだな。いきなり他の者が相手をしては怪しまれるからな」
「そして話の途中で私が追い込むという流れでしょうか。アルト殿は危険ですから別室で合図があるまで待機していてください」
「シェリーさんは大丈夫なんですか?」
「こう見えてもシェリーも元Bランクだ。ギルド職員は皆元冒険者だぞ?」
いつもはそんな素振りを見せないから気づかなかったが、確かに粗暴な者が多い冒険者相手の仕事となれば、それなりの実力を持つ者でなければ務まらないだろう。
「いざとなればワシも出る。それにこちらには元Sランクの『宵闇』がいるんだ、遅れをとることはないだろう」
その言葉を合図に皆がそれぞれの位置についた。僕は受付が見える位置の別室で様子をうかがうことになった。自分を殺そうとした人たちと再会するのは正直怖いが、その心を敏感に察したオルディアがそばに来て身体をくっつけてくれた。力強い温かさに支えられて、僕は自分の道を進むために戦う決意をした。
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「こんにちは、薬草の買い取りを頼む」
「あ、ノルさん、珍しいですね、薬草採取なんて」
「やはり初心に帰るというのは大事だからな」
「質の良いものが多いですね、アルト君と遜色ないかも……そういえばアルト君は一緒じゃなかったんですか?」
「ああ、彼は……ゴブリン相手に単身突っ込んでいって返り討ちにあってしまったんだ。ぼくらは一生懸命説得したんだが、彼は僕らを振り切って……残念だよ」
「まあ……」
ずいぶんと勝手な言いぐさだ。シェリーさんが絶句しているが、奴らはショックをうけていると思っているだろう。だがそれはこいつらがあまりにもぬけぬけと僕が死んだということを話しているからだ。
「そんなことより早く鑑定してくれよ」
「ほう、ずいぶん良質な薬草ですな、しかも治癒草とは。こんなにたくさん集めるのは大変だったでしょう」
「僕らが発見した方法なら簡単だよ。治癒草は根を埋めておけばまた芽が出てくるんだよ」
「ほう……」
かかった。先生が鑑定士として薬草に興味を示せばあいつらはその方法を自慢げに話してくれる。でもそれは僕が教えた方法だ、しかもあいつらには話していない重要なポイントがある。
「ですが治癒草の栽培はギルドとしても極秘に研究を進めておりましてな、君たちもその根をどの向きに埋めれば発芽するかは御存知でしょう?」
「え、いや、根を下にして埋めるんだろ」
「ほう、根を下に、ですか」
あいつらは僕の話した『根を埋める』ということしか知らない。だがそれには普通の植物の常識があてはまらない。治癒草の根を埋める場合、刈り取った部分を下に、根を上にして埋めなければ発芽しない。それ以外では全て腐ってしまう。そのことを僕はあいつらに話していなかった。
「おかしいですな、こちらの調査では『根を上にして』埋めることが良質の治癒草を作るポイントとありますが……」
「あ、いや、これはあのアルトって奴が言ってたことなんで……でもゴブリンに」
「僕は死んでませんよ?」
「なッ……どうしてここに」
僕が彼らの前に姿を現すと明らかに狼狽する三人。その動揺のせいか、僧侶のシファが決定的な一言を漏らしてしまう。
「どうして……私がナイフで刺したのに……」
「ほう、今の話、奥の部屋でじっくり聞かせてもらおうか」
突然ダウニングさんの声がする。完全に気配を消したダウニングさんは室内で最初からあいつらのとのやり取りを聞いていた。
「王都の支部長にも連絡をとらせてもらった。お前等には新人冒険者行方不明の嫌疑がかかっている。それとここにいるアルトの殺人未遂もな。魔道具で職員の精神操作をするなんざ、ギルドもずいぶん舐められたもんだ。だがそれもここまでだ、死ぬまで奴隷落ちか、悪ければ処刑だな」
「くそ! 逃げるぞ!」
「おっと、そうはさせません」
突然身を翻して逃げようとするが、先生が流れるような身のこなしで行く手を塞ぐ。逃げ道が無くなったと思ったのか、三人はそれぞれ武器を抜いた。
「ギルド内での刃傷沙汰はご法度というルール、冒険者なら皆知っていることだと思いますが。あなたがたは本当に冒険者ですか?」
「ああ、Bランクの実力があるようには見えねえな」
先生とダウニングさんに挟まれ、あいつらは動きがとれない。動きたくても二人の放つ威圧があいつらの動きを封じているようだ。
【アルト様、彼らに不明なエネルギーが集中しています。エネルギーの増加率が異常です。注意してください】
「先生! ダウニングさん! あいつら何かしようとしてます! 気を付けてください!」
「まずい! 自爆かもしれん! ふん!」
「「「 うぎゃッ! 」」」
僕の言葉に状況の変化を察したダウニングさんが丸太のような腕の一振りで三人を薙ぎ払い、三人を窓の外へと吹き飛ばした。先生が逃走されないようにすぐさま距離を詰める。だが僕の見る限り、三人は手足があり得ない方向に折れ曲がっており、逃げ出せるとは思えない。
「もう諦めろ、このままだとついうっかり殴り殺してしまうかもしれん」
「アルト殿を狙った時点で私としては始末してしまいたいのですが」
先生とダウニングさんが不穏なやりとりをしている。この二人に挟まれたらどんな猛者でも戦意喪失してしまいそうだが、満身創痍の三人は不敵な笑みを浮かべている。
「……そうだよ、新人冒険者を殺したのは俺達だ。生贄に捧げてやったんだ。そいつは人間が苦しみながら死ぬ瞬間が好きらしくてな、しかも俺達が動きやすいように魔道具までくれたんだよ」
「もういいわ、この街の住民全員を捧げれば、もっといい暮らしが出来そうだし」
「私たちのためにエサになってください」
いきなり勝手なことを言い始める三人。こんな状況でありながら、自分たちがここで捕縛されることなど微塵も考えていないようだ。一体何の根拠があってこの自信があるんだ?
「いつもは人目につかないところでやるんだが、ここにいる全員をエサにすると言えば文句は言わないだろう」
「早くやりなさいよ!」
「手早く済ませて治癒しないと」
ノルの手には一枚の薄汚れた羊皮紙がある。そこには複雑な魔法陣が描かれており、うっすらと光を放っている。
『御主人様ー、危険ー』
【アルト様、あの紙を媒体にゲートを開こうとしています。強大な力を持つ何かが顕現しようとしています】
アオイとオルディアが警戒している。それほどに巨大な力を持つ何者かがここに現れようとしている。おそらくそれがあの三人の切り札、これがあるから全く動じていなかったんだろう。
「二人とも! 何かが来ます! それもとんでもない力を持ったヤツが!」
「「 ! 」」
僕の叫びに即座に二人が距離をとった。すると今まで二人がいた場所に力場が発生する。空間が歪み、捻じ曲がる。僕の背丈ほどもある岩が粉々に砕けて消えていく。もし数舜遅れていたら先生たちがああなってしまったかもしれない。
「くくく、おまえらはもう終わりだよ。せいぜい苦しんであいつのエサになれ」
ノルの言葉が終わると同時に、巨大な重圧が周囲を包み込んだ。
読んでいただいてありがとうございます。