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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
11章 渇望する者編
151/169

1.調査

永らくお待たせいたしました。

新章スタートです。

 アルト達が旅立って数日後、王都のガルシアーノ家の執務室にて机越しに向かい合う二人の男性。一人はガルシアーノ家当主リカルド、もう一人はバーゼル、二人は共に目を閉じて沈黙を保っている。どのくらいの間沈黙が続いただろうか、執務室に満ちる静寂を破ったのはリカルドだった。


「やはり尻尾を掴むことは出来なかったか」

「はい、マクマード家もまた教会の捨て駒に過ぎなかったということでしょう」

「忌々しい連中だ、再び戦乱の世を招いてどうするというのだ。教会に与したところで人も財も吸いつくされるだけだというのが何故わからん」


 拳を握りしめるリカルドの表情は険しい。エフィの絶縁という、五王家の一角としてそうせざるを得なかったとはいえ、決して少なからずリカルドにダメージを与えていた。リカルドから発せられる怒気に室内の空気が張り詰める。だがバーゼルは表情を変えることなく、いつもと変わらず飄々としている。


「そこで怒りを止められなくては連中の思うつぼですな。正統王家に繋がりを持つという目的もありますが、五王家の排斥もまた奴等の狙い。公に動けば連中に攻撃させる口実を作りかねません」

「すまん……ところでもう一つの調査のほうはどうなっている?」

「エフィ嬢の……母君についてですが、不思議なほどに痕跡を残しておりません。まるで自分を探られることを予知していたかのようです。娼館に遺された名前も偽名のようですが……」

「娼館の連中はあいつらなりの仁義を通す、どんなことがあっても迂闊な情報は出さんだろうよ。ましてやあの街の娼館となれば一国の諜報部が総がかりでも敵わんだろう。それを熟知していたというのであれば、なかなかの女傑ということになる」


 リカルドはバーゼルにエフィの母親についての情報を探らせていた。実はリカルドはエフィの母親についてほとんど情報を持っていなかった。兄の子供であることは兄が遺した遺書がわりの書簡で確認しているが、では誰との間に産まれた子なのかがはっきりしなかった。


 エフィ自身は母親の素性を教えられておらず、ほぼ何の情報も得られなかった。ただ救いであったのは、エフィが母親からの愛情を受けて育ったということだろう。それ故に陰謀渦巻く貴族との関係の中に放り込まれても、決して歪むことは無かったのだから。


「で、彼らはこれから何処へ?」

「東門から出ていきましたので、恐らくこのまま進めばイートンに向かうのが妥当でしょうな。水運が目立つ王都の流通ですがここから最も近い陸路の中継都市、パイロン家の支配領域です」

「イートンか……物見遊山であれば最適の街だが……」

「良いではありませんか、彼らは誰にも縛られることのない自由の身です。今は……今だけは純粋に旅を楽しむくらいは……」

「そうだな……」


 リカルドは椅子に背を預けながら暫し目を閉じる。今回の騒動の根源である教会の真意は全く掴めず、そもそもエフィを執拗に狙うことの理由がわからない。アルトによって最悪の事態は免れたが、これでアルトもまた教会に要注意人物として認識されてしまうだろう。だがそれにはまだ猶予はある。それまでの短い間、何も気兼ねすることなく旅をするくらいは許されていいはずだ。教会が本腰を入れれば如何なる場所にも安息など無くなってしまうのだから。


「ところでエフィ嬢のことですが……やはり出生から調べなおす必要がありそうですな」

「ああ、頼む。あの街、ユングストロームはウィルヘルム家の支配地だ。ガルシアーノの力で探りを入れることは難しい」

「承知しております」


 ガルシアーノの力が及ばないということは、何かトラブルはあっても援護は見込めない。孤立無援の状況のまま任務を遂行しなければならないのだが、バーゼルの表情に変化はない。これまで幾度となく死地を潜り抜けてきた彼にとって孤立無援など日常茶飯事だ。しかも今彼が動いているのは決して義憤などという大それた理由ではない。それ故にリカルドは目の前の老体の本気というものを感じ取っていた。


 リカルドはこれまでバーゼルと関わり合いを持ってきたが、果たしてここまでの本気を見せたことがあっただろうか。彼が知るのはソロでのSランク認定された後、しかしその時のバーゼルは表情に起伏のない男だった。いや、死人に近いと表現したほうが正しいとさえ、当時のリカルドは思ったものだ。だが今のバーゼルには活力が漲っている。老いなど何の足枷にもならないと主張するかのように。


 やがてバーゼルはリカルドと少し言葉を交わした後に部屋を出てゆく。その足取りは今までにないほど力強いものだった。遠ざかる足音を聞きながらリカルドは改めて思う。バーゼルがかつてないほどの本気であるのならば、これから敵対する相手は今まで以上に狡猾で慈悲のない相手になるだろうと。そして教会の認定した聖女の王都入り、危険の種であることは間違いないと。


「戦力を集結せねばならんか……」


 五王家にとって王都は何としても死守しなければならない平和の象徴だ。教会の持つ戦力は全く未知数の上、魔族とのつながりを匂わせる事件もあった。現在王都にいる戦力だけでどこまで対抗できるか、リカルドの危惧はそこにあった。良く言えば平和だが、悪く言えば実戦経験不足の集団とも受け取れる。少なくとも五王家に良い感情を持っていない貴族の私兵はあてにならない。


 となればリカルドのとれる手段は、過酷な辺境にて腕を磨いた精鋭たちを王都に集めることくらいしかない。当然ながらそれは外敵の脅威を防ぐ戦力の低下に他ならないのだが、かといって大々的に戦力増強すればこちらの手の内を探られかねない。


「アルト……エフィを頼んだぞ」


 教会のエフィへの執着ぶりは、間違いなくこれから先アルト達に災いを齎すだろう。だからこそエフィをアルトに任せたのだ。魔族すら退けたというアルトの実力を信じて……

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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