2.パーティ参加
ちょっと短いです
「こんにちは、また薬草の買い取りをお願いします」
「あらアルト君、いらっしゃい」
翌日、薬草を買い取りしてもらいにギルドを訪れた僕に、受付のお姉さんはいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。
「で、今日も薬草?」
「はい、ちょっと量が多いですが」
そんな何気ないやり取りをしながら、心の中でストレージから薬草の取り出しを念じる。数量を確認してきたので百に設定する。次の瞬間、カウンターの上には百本の薬草が現れる。
「え? 何? いったいどこから?」
「僕、収納魔法を覚えたんですよ。でもこのくらいの量で精一杯ですが」
戸惑うお姉さんに笑顔で説明する。だがこの説明は正しくない。
僕の購入した魔法書は確かに収納魔法だったが、それは欠陥品だった。収納できるものは一つだけ、というのがその魔法の正体だった。属性なしでも使える稀有な魔法ということでかなり期待していたんだが、正直なところお金の無駄遣いだったと思っていた。最初は。
だが考え方を変えればとても便利なものだと気づいた。いつもは大き目の肩掛け鞄にアオイを入れていたんだが、かなり嵩張る。他の人には見えないとはいえ、それはちょっと面倒だったんだが、収納魔法の特性に気づいてから考え方を変えた。
薬草は一本しか収納できなかったが、試しにアオイを入れてみたところ問題なく収納できた。しかもアオイとの意思疎通は問題なくできた。本のページも見ることができたので、召喚も問題なくできた。
なのでアオイの機能を収納魔法ということにした。かなり便利になるとは考えていたが、お姉さんの態度が確信に変えてくれた。
「しゅ、収納魔法? あの無駄に魔力を使う?」
「無駄は酷い言い方ですね」
「あ、いや、そんなつもりじゃなくて……収納魔法なんて使う人、初めて見たから。エルフとかに使い手がいるって聞いたことはあるけど」
確かに収納魔法の使い手なんて、僕も色々と調べてみたけど見当たらなかった。確かにエルフは魔力が多いというのは事実だし、使い手がいてもおかしくない。
「そうか……でも収納魔法を覚えたのならこの量も納得よ。ぜひ昨日の話も前向きに考えてほしいわ」
「パーティ参加の件ですか? 何故そうなったのか、理由を教えてもらってもいいですか? その如何によって考えますので」
アオイの件もあるし、オルディアの正体のこともあるので、極力ソロでの活動を優先してきた。そもそも僕自身の戦闘力が低いので、危ない場所には近づかないようにしていたんだが、それに関してはギルドも認識しているはずだ。
「実はアルト君がいつも薬草を持ち込んでくれているおかげで、ギルドもポーション作成を継続できているの。それに薬草の品質も高いから出来るポーションも冒険者たちからも好評でね、そういう冒険者が危ないことに巻き込まれないように保護するべきだって言ってる高ランク冒険者もいるのよ。それにパーティに参加していれば討伐依頼も受けられるしランクアップも早いわよ」
「危ないことなんて……今までありませんでしたけど」
薬草の採取場所付近にも魔物が出ることは無いとはいえない。魔物ではなくても獰猛な獣だって出没するが、そういう類のものはアオイの索敵で事前にわかるし、近づかれたとしてもオルディアが追い払ってくれるので直接的に危険に遭遇したことはない。でもこのことを知られれば面倒なことになりかねないので誰にも教えていないが。宿屋のイリーナさんにはウサギを狩って持ち込んでいるけど、それを知っているのは宿の人たちだけだ。
「ちなみに聞きますけど……それ言い出したのってどんな人たちです?」
「最近王都から来たBランクの冒険者パーティよ。最近活動拠点を移したみたいだけど、こちらとしては高ランク冒険者が増えるのは嬉しいわ」
満面の笑みを浮かべるお姉さん。確かにギルドとしては高ランク冒険者を抱えることは支部間での発言力も上がるから嬉しいんだろうけど、基本的に冒険者は全てにおいて自己責任だ。そんな殊勝なことを言う冒険者なんているんだろうか、ギルド関係者ならともかく。
「彼らは後進の育成に力を注ぎたいと言っていたわ。それはギルドとしての課題でもあったから渡りに船ってことよ」
「そうですか……ちなみに拒否することはできますか?」
「え? 拒否……するの?」
僕の一言にお姉さんの顔が露骨に曇った。まさか断られるなんてこと考えてもいないという表情だった。まぁ普通に上昇志向を持った冒険者ならすぐに飛びつく話だろうけど、僕の目的は路銀を稼ぐことで、高ランクになることじゃない。
「ちなみにこの話は支部長も乗り気だから、断ると最悪依頼を受けられなくなるかもしれないわよ。悪い話じゃないから是非参加してみて」
結局、ほぼ一方的にまくしたてられて、半ば強引に参加させられることになった。一応、お試しということで数回依頼を受けてみてから決めるということになったが、色々と気になる部分があったのも確かだ。
「色々あったせいで過剰に反応してるのかなぁ……」
【もしもの場合は私がいるので安心してください】
『我もいるよー』
今日の報酬を受け取り宿へと向かう道すがら、思わず漏らした僕のつぶやきにアオイとオルディアが反応した。彼女たちがいるおかげで今の僕があるというのは情けないことだが真実だ。そんな彼女たちが嫌な思いをするようなことがあってはならない。
「とりあえず明日、顔合わせをしてみて考えよう」
明日、ギルドで顔合わせをすることになった。とりあえず会ってみないことには最終決断することもできない。いつものようにすっきりとした気分で宿に戻れないことに戸惑いながら、やや重い足取りで宿への帰り道を歩き続けた。
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