表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
9章 初めての王都編
125/169

11.依頼

エピローグ的な……

 王都からかなり離れた森の中にぽっかりと木々が無くなっている場所があった。そこには巨大なクレーターがあり、その中心部には砕けた岩石と一体の異形の姿があった。翼は襤褸布のように穴だらけになっており、両腕はひしゃげて既に使い物にならないようだ。そして両足は……というよりも腰から下は完全に潰されて消え去っていた。


『くそ……どうして再生しない……』


 異形は自分の身体を再生しようと試みるが、全く身体が復元する気配がない。そもそもアルトの攻撃は一切の属性を持っておらず、属性のある魔力を用いた再生ではほとんんど効果を齎さないのだが、そんなことをこの異形が知るはずもなく、ただただクレーターの中央でもがくことしかできなかった。


「ふーん、あの薬をまとめて飲むと人間はこうなるのね」

『き、貴様……』


 突如そこに現れたのはネルヴァ。誰もいないせいか、ローブではなく白衣のような衣服を身に着けていた。


『ま……魔族だったのか……おい、何とかしろ……』

「何とかしろと言われても……追加料金になるわね」

『何だと……貴様……』

「そもそもここに来たのはデータ取りの為だし、いい加減に鬱陶しいのよね」


 ネルヴァは膝まであるハイヒールの踵で異形の頭を踏みつける。その顔には何の感情も抱いていないようだった。異形はそれを防ごうとするも、異形の力をもってしてもネルヴァの足をどけることが出来なかった。


『ぐっ……何故……』

「薬を飲んで変質しただけのエセ魔族が純粋な魔族である私に勝てると思ってるの? 色々と都合したのはデータが欲しかっただけ。貴方が死んでも他のパトロンを探すわ、だから安心して……消えて?」


 ネルヴァは無造作に異形を踏む足に力を籠めると、あれほど強固だった異形の頭が易々と砕け散る。頭部を失った身体はしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなると同時に真っ黒な塵へと変わり、風に散って消えていった。


「身体の強度は亜種の下級魔族くらい、魔力もほぼ同等、知能は……好戦的になる反面、理知的な思考は出来なくなる傾向……魔法に関しては詠唱不要になる傾向にあり……か。うまく調整すればいい売り物になりそうだけど……」


 ネルヴァは足についた異形の残滓を振り払いつつ思案に耽る。だがそれは今始末した異形についてではない、この異形をここまで傷つけた存在に対してだ。


「こいつは下級魔族程度には強かったのにここまでやられるなんて……相当な手練れがいるみたいね。ぜひとも研究対象にしたいわ、リタが何か知っていそうだし、後で聞いてみましょうか。きっと快く教えてくれるはず……くふふふ」


 まるで面白い玩具を見つけた子供のように無邪気に笑うネルヴァ。しかしその笑顔は抑えきれない嗜虐心の現れでもある。思わず零れ出る笑いを堪えることもせず、ネルヴァはその場から消え去った。



**********



「で、どうしてクレアさんがここにいるんですか?」

「それは私がこの宿を紹介したからよ。で、この宿は私もよく使ってるワケ。理解?」

「だからといって僕の部屋にクレアさんがいる理由にはならないと思うんですが」

「アルト君のことはリカルド様からもお師匠からも頼まれたからね、こうして一緒にいたほうが楽かなって思ったワケ。理解?」

「……理解はしますけど」


 ガルシアーノの別館での事件の後、宿を取っていない僕が困っているとリカルド氏が助け船を出してくれた。


「クレア、いつもの宿に連れていくがいい。代金は私に請求を回すように伝えてくれ」


 そしてクレアさんが連れてきてくれたのはFランクの冒険者が使うには豪華すぎる宿だった。部屋は小さくなったオルディアが走り回れるほど広く、寝台はふかふかでしかも大きい。これならオルディアと一緒に寝ても全然問題ない。さらに驚いたのは、部屋に風呂があることだ。普通の宿では水浴びの水ですら有料であるのにこの部屋の風呂はいくらでも水を使っていいらしい。


 だが案内してくれたクレアさんが一向に部屋から出て行ってくれない。食事はいつでも部屋に持ってきてくれるらしいのでまずはオルディアと一緒に休みたかったのだが、なぜかクレアさんも寛いでいる。


「クレアさんも自分の部屋に戻ったらどうですか」

「え?」


 僕の言葉に全く予想外と言った感じの声を上げるクレアさん。


「だって面倒見ろって言われてるんだし、アルト君も若いからいろいろと発散したいんじゃないかな、って思ったワケ。理解?」

「理解しませんよ!」

「ちぇ、なかなか見どころのある子だから早めに唾つけとこうと思ったんだけど……」


 正直なところ女性に興味がない訳ではないが、まだ駆け出しの僕には早いと思っている。もっと強くなって自分に自信がついたら……そういうことも考える余裕が出てくるだろう。


「ところでさ、アルト君は王都でどうしたいワケ? まさかずっと遊ぶつもり?」

「王都近辺での依頼を請けようかと思っています。薬草採取の依頼ならどこの支部でも常時依頼を出してるはずですから」


 薬草採取はギルドのどこの支部でも常時依頼を出している簡単なものだ。冒険者はランクが上がると実入りのいい討伐依頼に集まる傾向があるので、薬草採取は敬遠されがちで薬草の備蓄はいつもぎりぎりなんだとサリタさんも嘆いていた。第三の街の入口付近でもちらほらと薬草を見かけたので、小遣い稼ぎくらいにはなるはずだ。


「それならさ、もっと報酬のいい仕事してみない?」

「危険なのは勘弁してください」

「危険は無いわ、アルト君は薬草に詳しいって聞いてたから、ちょうどいい仕事があったな、って思ったワケ。理解?」

「ちょうどいい仕事?」


 薬草に詳しい僕にちょうどいい仕事? 一体どんな仕事だろうか、薬草の調合やポーション作りの手伝いとかだろうか。薬草の調合なら出来るがポーション作りは魔法を使う必要があるので僕には出来ない。不安になる僕とは真逆にクレアさんは全く心配していないような顔で言う。


「最近は薬草の重要性を理解してない連中が多いワケ、だからその知識の一部でもいいから教えてあげて欲しいワケよ。薬草の知識があれば治癒魔法が使えない状況に陥っても命を繋ぐ可能性が高くなるでしょ? だからその知識を教えてあげて欲しいワケよ。理解?」

「……まぁいいですけど、一体どこで誰に教えるんですか?」


 教えること自体は問題ないが、重要なのはそれを聞きたがる人がいるかどうかというところだ。教えようとして誰も集まらないなんてことになったら多分立ち直れない。


「教えるのは学生よ、場所は王立の学園で、併設されてる騎士学園と魔法学園の生徒の選択授業の一環として頼まれてるの。もちろん私も実技の講師で呼ばれてるワケなんだけど……どうかな?」

「いいですよ、僕に出来ることであれば」

「よし、それじゃ明日にでも顔を出しましょ」


 まさか僕が誰かに教える立場になるとは思わなかった。それもかつては生徒として入学することを夢見ていた魔法学園に、だ。本当に人生というものはどう転ぶのか全く読めない。僕にどこまで出来るか全くの未知数だが、時間があれば図書館も見てみたい。きっとたくさんの蔵書があるはずで、もしかすると僕の召喚の力についても何か情報があるのかもしれないのだから。

これでGW連続更新は終了です。次章でついに再会するかも? 

お約束な学校編にはならないと思います。


読んでいただいてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ