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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
1章 旅立ち編
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11.新たな生活

毎日更新最終日!


『ご主人様ー、またウサギとったよー』

「よしよし、オルディアは偉いな」

『えへへへ』


 ウサギを咥えて嬉しそうに戻ってくるオルティアの輝く銀毛を優しく撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める。獲ってきたウサギは綺麗に一撃で首を折られていたので、肉に臭みも残らないだろう。


【アルト様、依頼の薬草も規定の倍量採取できております。そろそろ戻ったほうが良いのでは?】

「え? もうそんな時間か。おいでオルディア、帰るよ。今日もウサギがたくさん獲れたから串焼きでも買って帰ろうか」

『わーい』


 オルディアが嬉しそうに僕の傍へと駆け寄ってくる。ぶんぶんと振られている尻尾が嬉しさの度合いを表しているが、尻尾が足に当たって地味に痛いんだけどこんなに嬉しそうにされたら文句も言えない。


 オルトロスという絶望的な魔物との遭遇から早くも二ヶ月が経過した。あの後僕は街道を王都へと進み、王都には向かわずに途中で南に逸れて、辺境都市マウガへと着いたのは十日後だった。


【このまま王都へ行くのは危険かと思われます。万が一のための罠があるかもしれません】


 アオイのこの一言でマウガへと向かうことが決まった。フリッツにそこまでの深慮があるかどうかは怪しかったが、もし実際に罠があったら命が危うい。別に急ぐ訳でもないので、それならばここマウガである程度力を蓄えてからでもいい。それにマウガはフリッツと非常に仲の悪いマウガ男爵の統治する街だ。仲が悪いといってもフリッツが一方的に嫌っているだけのようだったが。


 マウガ男爵は文武に優れ、武勲もさることながら統治もきちんと行われているので、僕が身を隠すにはとても都合がよかった。街の警護も厳重なので、怪しい素性の者は入ってくることが難しいからだ。


 僕は到着してすぐに冒険者となった。ギルドに登録すれば身分証がわりになるし、世界中に支部のある組織なので別の国に行くときにも入国手続きが簡素化できるからだ。そして一月半ほど経過して今に至る。もちろんランクは底辺のFだ。属性を持たない無能にできる依頼なんて薬草の採取や掃除、簡単な荷物運びくらいで討伐なんて受けさせてもらえない。


【アルト様が私を使えば敵など存在しません】

『ご主人様は我が護るよー』


 アオイとオルディアがかなり憤慨していたが、彼女たちの力を使ってランクを上げるのは何だか違うような気がした。なので地道な依頼を受け続けている。


 マウガへと戻る道をオルディアが先導してくれている。オルディアはあのオルトロスなんだが、どうしても名前が欲しいということで名付けた。輝く銀毛の美しい犬はすれ違う人たちが振り返って見るほど美しい。ちなみに雌だった。

 あの時は闇と同化したかのように黒かったんだが、マウガへ来る途中で水浴びしたときに水をかけたらいきなり銀色になって驚いた。


『水浴びなんてしたことなかったよー』


 つまりあの黒はこれまで溜め込んだ汚れだった。小川が真っ黒に染まって魚たちには迷惑だったかもしれないが。


【そろそろ街に到着します。ウサギを収納してください】

「わかったよ。起動『ストレージ』、対象ウサギ」


 僕の言葉に反応するように十匹以上いたウサギが消える。アオイを取り出して開けば『ストレージ』と書かれたページにウサギの項目が増えていた。これで面倒ごとに巻き込まれなくて済む。

 アオイの指示で起動したのはアオイの能力の一つ、様々なアイテムを収納しておける『ストレージ』という機能だ。収納されたものはアオイのページに記載され、いつでも取り出し可能になる。どうしてこんな手段をとっているかというと、僕の今のランクはF、決して半日程度でウサギを十数匹狩れるレベルじゃない。となればそれをどこで入手したのかという疑問を持たれれば色々とトラブルの種になりかねない。ここでは極力目立たないようにしないといけないので苦労するけど仕方ない。


 南門から街に入り、中央付近にある冒険者ギルドへと向かう。相変わらず建物の中は活気があり、腕っぷしの強そうな連中がたむろしている。僕はまっすぐにカウンターへと向かって依頼票と薬草を渡す。


「採取依頼完了しました。確認お願いします」

「ああ、アルト君。いつもの薬草採取ね。どれどれ……回復草が二十に解毒草が十、これは治癒草ね、これが二……と。治癒草があるのは嬉しいわ、依頼料とは別に買い取りするから安心して」

「はい、ありがとうございます」


 僕たちのやり取りを聞いてギルドの隅のほうでひそひそ声がするけど気にしない。僕みたいなのが討伐なんてできないし、薬草採取だって立派な依頼だ。


「あいつらのことは気にしないで。アルト君の持ってくる薬草は鮮度がいいから薬師の評判がいいのよ。それにこの薬草が無ければあいつらが使うポーションだって作れないんだから」


 受付のお姉さんは僕が落ち込んでいると思ったのか、そんなことを言ってきた。そんなこと考えてたわけじゃないんだが。

 どうして新鮮な状態の薬草を持ってこれるか、これも『ストレージ』のおかげだ。この機能は収納した時の状態をそのまま保存してくれるので、採取するなり収納すればいつでも採れたてを用意できる。


「はい、依頼料の三十Gに治癒草の買い取り金額十G、合わせて四十Gね」

「ありがとうございます」


 四十枚の銅貨を財布に入れて懐にしまうとギルドを出る。アオイのアドバイスに従って歩いていくといつもの宿屋の前に出た。何故アオイの指示に従うかというと、いつもギルドを出ると誰かに尾行されているようなので、撒くようにナビゲートしてもらっている。厄介ごとには巻き込まれないのが一番だ。もしもの時はオルディアもいるから大丈夫だが、できるだけ面倒ごとは遠慮したい。


「あらアルト君、おかえりなさい」

「ただいまイリーナさん、またオルディアがウサギ狩ってくれたから」


 宿に入る前にアオイから出しておいたウサギを五匹、宿の看板娘のイリーナさんに渡す。僕より二歳年上で茶色の髪をポニーテールにしたお姉さんだ。


「ありがとう、オルディアは偉いわね」

「はい、今週分の宿代です」

「ウサギを持ってきてくれたから割引して三十Gね。ウサギの鮮度がいいから今日から食事は無料でいいわよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 イリーナさんに感謝の礼を言って階段を上がり二階の一番奥の部屋へと向かう。鍵をあけて中に入ればそこは寝台と小さな机のあるだけの部屋。だがこの部屋こそこの街での僕の拠点、僕だけの場所だ。


『ご主人様ー、一緒に寝るー』

「いいよ、おいで」


 そう言うと早速寝台に飛び乗って僕に寄り添うオルディア。その頭を撫でながら、ここまでの日々を思い返す。平穏と呼ぶには程遠いものだったが、それでもアオイと出会い、オルディアと出会ってここまで来た。僕一人では決してここまで来ることはできなかった。


「アオイ、オルディア、ありがとう」

【どうしたんですか、アルト様】

『ご主人様ー、どうしたのー?』


 小さく呟いた言葉にアオイとオルディアが反応する。彼女たちがいなければこれから先も生きていくことは難しいだろう。情けないがこれが現実だ。


「僕は君たちがいなければ生きていけない。こんな弱い男でごめん」

『ご主人様はご主人様だよー』

【アルト様は私を起動できる唯一の存在です。それはこの世界の誰にも出来ないことだという自信を持ってください】


 つい吐いてしまった弱音。こんな僕を支えてくれる彼女たち。一度は全てを諦めてしようかとさえ考えたが、こうして前に進むことができている。これから先どのようなことがあるのかなんて僕には全くわからない。わからないなら考えるだけ無駄だ。それならば今を生き抜くことを優先しよう。そして世界を見て回ろう。この理不尽極まりない、だが素晴らしい魅力にも満ち溢れている世界を。

 そんなことを考えながら、オルディアのふわふわの毛並みに埋もれて眠りに落ちていった。 

これで一章は終了です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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