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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
9章 初めての王都編
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5.王都のギルド

 第二の街の門からすぐのところに冒険者ギルドの建物があった。やはり王都のギルドだけあって建物も大きく、これまでの街の支部とは比べ物にならないくらいの大きさだ。メイビア家の屋敷が粗末な小屋に見えるくらいに大きく、すべて石造りのために堅牢さも段違いだ。

 中に入れば受付のロビーも広く、壁際に置かれたテーブルについている数人の冒険者が僕に鋭い視線を投げかける。敵意ではないと思うが、きっと見慣れない冒険者が来たということで警戒しているのかもしれない。そんな視線の中、受付カウンターで受付嬢に完了証明を手渡す。


「ラザードのギルドマスターからの指名依頼、完了しました。確認をお願いします」

「はいはい、完了証明ね……ってラザードのギルマスから!? それにこのサイン、リカルド様の側近のクレアさん!?」

「はい、罪人の護送が完了しましたので」

「そ……そうなの……い、今報酬の準備をするわね」

「お願いします。それからお勧めの宿があったら教えてください、王都は初めてなのでよくわからないんです」

「ちょっと待っててね」


 受付嬢はカウンターの奥にある部屋へと入ってゆく。彼女の慌てた対応から普段とは違うことを察した冒険者たちのざわめきがとても居心地悪く感じるが、報酬をもらうためには耐えるしかない。およそ十分ほど経過して、受付嬢が大きな革袋を持ってきた。


「はい、報酬よ。でもまさかFランクの冒険者に指名依頼が来るなんて信じられないわ」

「ラザードでギルドマスターと知己になりまして、王都に行く冒険者がいなかったので頼まれたんです。それに同行者が凄腕だったんです」

「そういうことね、それはよくある話だわ」

「それと……こういうのって買い取りしてもらえるんですか?」


 ついでとばかりに出した数十本に及ぶ鳥の羽をカウンターに並べる。先ほどの鳥の魔物が落としていった羽根だ。派手な色ではないが、落ち着いたグレーとブラウン、そして白の混ざった複雑な紋様はとても綺麗だ。だが受付嬢は少々困った表情を浮かべる。


「えーと、言いにくいんだけど、王都のギルドでは基本的に素材系の買い取りはしてないのよ。辺境のギルドじゃ買い取りも業務のうちなんだけど、王都では素材の買い取りは直接工房に持ち込んだほうが買い取り金額が高いの。うちでも買い取り出来なくはないんだけど、どうしても手数料がかかるから」

「そうですか……」

「場合によっては素材供給が過剰になることがあって、ギルドで対応しきれないのよ」


 つまりギルドですべて買い取りしていたら、大量に出没する魔物の素材がだぶついてしまうということらしい。工房は必要な分しか仕入れず、余剰分の負担は決して小さい金額ではないらしい。ただ辺境では街専属の冒険者の数も多くないので必然的に持ち込まれる素材も少なく、ギルドで対応できる範囲内とのこと。


「でもこの羽根、よく手に入ったわね。これ多分キングホークの羽根よ? キングホークの羽根は生きてるうちに抜かないとこの紋様が消えて真っ黒になるの、それに生命力が高いうちに抜いた羽根ほど鮮やかになるんだけど、こんなに綺麗に紋様の出てる羽根は見たこと無いわ」


 確かに生命力は高かった……というか驚かせた拍子に抜けた羽根だから当然だろう。傷ひとつ付けていないのだから。だがここで買い取りしてもらえないとなると……工房を探すしかないのか。


「工房ってどこか紹介してもらえますか?」

「それがね、工房はギルドじゃ紹介できない決まりなの。一部の工房だけ紹介したら不公平でしょ? だから工房が集まる地域を教えるくらいしか出来ないのよ。あ、これ宿の地図ね」

「そうですか……なら仕方ないですね」


 工房を紹介できない理由もそこそこ複雑で、以前はギルドが一定以上の技術を持っていると判断した工房を紹介していたらしいんだが、一部の工房がギルド職員に賄賂を贈って優先的に紹介してもらっていたという事件があってから一切紹介しなくなったそうだ。ただ工房は特定の地域に集中しているので、その地域への行き方までは教えてもいいらしい。

 羽根を背負い袋にしまいギルドを後にしようとすると、受付にいた数人の冒険者と視線が合ったので小さく会釈しておく。何やら僕を見て小声で話していたようだが、そんなことより今は宿を確保するほうが大事なので急いで建物の外に出た。まずは宿に行ってから腹ごしらえして、それから工房を探しに行こう。




**********



「おい、さっきの見たか?」

「ああ、あの金もそうだがキングホークの羽根なんざ滅多に出回らねぇお宝じゃねぇか。しかもあいつFランクだとよ。余程強いパーティにいたんだろうぜ」

「俺たちがこんなに必死に依頼を請けても大した稼ぎにならねぇってのに、楽して儲けるような奴がいるなんて不公平だとは思わねぇか?」

「ああ、そうだな」


 アルトが去った後のギルド内、受付の隅に置かれたテーブルで数人の冒険者が小声で話し合っていた。この冒険者たちはアルトのことをずっと見ていたのだが、アルトが貰っていた報酬とキングホークの羽根に目が釘付けになった。彼らは王都周辺で活動しているDランクの冒険者なのだが、とある理由により伸び悩んでいた。だがその理由に思い至らないところが伸び悩む所以であることを理解していない。そもそもそれが理解できないからこそ、自分たちが選択する行動が悪手であるということにさえ気付かない。


「……やるか?」

「……そうだな、脅して口止めすればバレねぇだろ」


 そして冒険者たちはギルドを後にする。その行動の先に待つものが何か知らずに……

 

読んでいただいてありがとうございます

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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