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召喚士は今日も喚ぶ ―僕だけが読める謎の本―  作者: 黒六
9章 初めての王都編
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4.依頼完了

 第二の街へと入る門まで行くと、ちょうど先行隊が中に入るところだった。慌ててその最後尾について中に入ると第三の街に比べて雑多な街並みが目に付く。道幅もそんなに広くなく、大型の馬車が何とかすれ違うことができる程度の広さしかない。これまで見てきた街と大差ない造りに少々ほっとする。


「無事撃退できたようですな」

「はい、一時的なものではありますが時間稼ぎにはなりました」

「これからの予定が少々変わります。ルーインの尋問はこの第二の街で行うことになりました」

「え? ガルシアーノの本家でやるのでは?」

「襲撃される可能性が高まったことで一部の貴族が被害を恐れて陳情してきたのです。ガルシアーノとしてもそれを無視することはできませんので……」


 どうやら先だっての紅蓮飛竜での襲撃の情報が流れてしまったらしい。ガルシアーノだけが襲われるならまだしもその被害が自分たちに及ぶかもしれないと思った一部貴族がルーインの街へ入ることを頑なに拒んでいるそうだ。


「なのでこの第二の街にあるガルシアーノの別館にて執り行います」

「……大丈夫なんでしょうか?」

「ガルシアーノに関してはこの街のほうが都合がいいかもしれません。ガルシアーノの戦力の大半は第一の街を居心地悪く感じる者たちですから」→貴族とそりが合わないのであれば、居心地悪く感じるのは第一の街だと思うのですが。


 聞けばガルシアーノの私兵の半数以上は傭兵や冒険者上がりの実戦重視で、訳の分からないこだわりを持つ貴族たちとはそりが合わないらしい。なので自由に動かせる実力者はだいたいこの街を拠点にしているとか。個人的には元貴族として複雑なところもあるが、無意味なこだわりを持つという点では同意できるところだ。


 ガルシアーノの案内役に先導されて道を進む馬車の一団は細い道を何度も曲がり、迷路のように複雑に入り組んだ街の中をゆっくりと進んでゆく。もはや馬車がぎりぎり通れるくらいの道を進むと、突然開けた場所へと出る。周囲に高い建物が取り囲み、広い庭園が印象的な石造りの堅牢な屋敷……というか砦と言ったほうが正しいかもしれないその建物の前には、決して派手ではないが頑丈そうな馬車が一台停車しており、屈強な護衛が抜き身の剣のような殺気をばら撒いている。先生はその殺気を全く感じていないかのようにその馬車へと近づき軽く一礼する。


「リカルド殿、ルーインを連行いたしました」

「うむ、ご苦労」


 馬車の扉を開けて出てきたのは厳格そうな壮年の男性。鋭い視線はそれだけで心の弱い者は動けなくなってしまうのではないかと思えるほどで、服の上からでもわかる引き締まった体つきは彼が決して身分に胡坐をかくような人物ではないことを物語る。この人物こそ危険極まりない辺境を一手に任されている五王家の一角、ガルシアーノの当主、リカルド=ガルシアーノに間違いないだろう。


「では尋問はここで?」

「ここならば多少の襲撃があっても問題あるまい。入り込もうにも侵入できる数は制限されるうえに周囲の建物からの遠距離攻撃も可能だ。さらにお前から指示のあった空からの襲撃に対しても遠距離魔法の使い手を建物に配置してある。余程のことがない限りここが落とされることはあるまい」

「わかりました、ルーインを連行します」


 先生が護送馬車の荷台から何重にも縄で巻かれた状態で眠っているルーインを担いで辺境伯とともに建物の中に入ってゆく。護衛は建物の入口へと向かい、その両脇に立つと再び厳しい視線を放つ。これで僕が請けた護送依頼は完了ということになるが……さて一体誰に依頼完了のサインを貰えばいいのだろうか。


「あの……」

「何だ小僧、さっさと帰れ」

「いえ、ギルドに提出する完了証明にサインが欲しいんですけど……」

「……ちっ、おい、誰かサインしてやれ」


 護衛の一人に声をかけるが、あからさまに不機嫌そうな顔で周囲の人たちに声をかける。すると中から出てきた穏やかそうな女性が完了証明にサインしてくれた。


「ごめんなさいね、先ほども襲撃があったということで皆警戒してるの。はい、これでいいわ、依頼遂行お疲れ様」

「ありがとうございます。それで……この街でお勧めの宿を教えてもらえますか? 王都は初めてなもので」

「んー、私も護衛で基本この街にいないから……ギルドで聞いたほうが早いかも。ごめんなさいね、頼りなくて。理解してね」

「いえ、ありがとうございます」


 その女性は笑顔を絶やさずにそう言ってくれた。だが彼女が穏やかそうな見た目とは反してかなり高い実力を持つ魔法使いだ。その証は彼女が両手にはめている手袋だが、この手袋には魔力発動媒体が付けられており、この手袋だけで高度な魔法を放つことができるという高価な魔道具だ。この魔道具は扱いがとても難しく、並みの魔法使いは皆杖のようなものを使うという。やはりガルシアーノの護衛だけあってその実力は計り知れない。


 微笑みながら手を振る女性に別れを告げて、元来た道を引き返す。完了証明に書かれているギルドの住所によれば、王都の支部はこの第二の街にあるらしい。まずはギルドで完了の報告をして、それから宿をとって、後はルーインの結果が出るまで王都を楽しむとしよう。


『お腹すいたー』

「そうだね、早く終わらせて美味しいもの食べようか」

『わーい』


 尻尾を振りながら身体を擦りつけてくるオルディアの頭を撫でながら、ギルドへの道を急ぐ。これだけ栄えている街だからきっと食べ物も美味しいはずだ、そう考えると自然と足が軽くなる。このまま無事に終わってくれることを祈るばかりだ。




**********



「で、あんたはどう責任とってくれるワケ?」


 ガルシアーノ別館の入口に不機嫌そうな女性の声が響く。声の主は先ほどアルトに応対した女性なのだが、その顔からは先ほどの穏やかな表情はなく、声も低くなっている。彼女が話しているのは入口に立っていた護衛なのだが、その顔はアルトに対しての横柄な態度など見る影もなく青ざめている。


「ま、まさかあんな子供が……」

「子供だろうが老人だろうが関係ないでしょ? お師匠が認めた冒険者に対してあの態度はどうなのかって聞いてるの、理解?」

「そ、それでは何故帰すことに同意されたので……」

「ん? そんなのお師匠が決めたことだから知らないわよ。私が言ってるのは護衛のくせに実力を見抜く力もないのかってこと。あの従魔だけでも相当強いわよ? あんたなんて瞬殺よ、瞬殺。理解?」


 女性は畳みかけるように護衛の男を問い詰める。男はしどろもどろになりながらも弁解を試みるが、それをさせないようにまくしたてる女性はどうやらバーゼルの弟子のようだ。


「そこまでにしておきなさい、クレア」

「お師匠、だってこいつらなってないですよ? アルト君の強さもわからないんですから。この護衛任務がどれほど難しいか」


 クレアと呼ばれた女性はバーゼルに咎められて渋々引き下がるが、それでも納得がいかないようだった。その矛先は師匠であるバーゼルにも向かう。


「それにアルト君がそんなに強いならここにいてもらった方がいいんじゃないですか? あのルーインも捕縛できる実力の持ち主なんでしょ?」

「確かにアルト殿は強いですが、それ故に狙われる立場になり得るのです。それに……これから行われることはまだ経験させるべきではないと思うのです。これから行われることは言わば人間の汚い部分、それを見るにはアルト殿はまだ若すぎるのですよ」

「……わかりました。でも終わったらきちんと紹介してくださいよ?」

「ええ、それには手早くルーインの魔法尋問を終わらせてしまいましょう」

「了解です」


 二人はそんなことを言いながら建物の中へと消えてゆく。これから行われるのは拷問などという生易しいものではない。拷問は苦痛により心を折ることだが、魔法尋問とは無理矢理脳から情報を抜き取るというものだ。例え対象者が魔法に耐えられずに命を落としたとしても、いや、そもそも対象者の命など考慮すらしない。それ故にバーゼルはアルトを遠ざけたのだ。ルーインがこれからどうなるかはアルトに知らされることはない。

読んでいただいてありがとうございます

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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