4.同行
更新できなくてすみませんでした。
「ま、魔王?」
「そうニャ。でも今代の魔王様はとても穏やかな方ニャ。個人的な活動は禁じてないけど大規模な動きは禁止されてるニャ。でもそれが気に入らない連中もいるニャ」
「リタは違うの? 確か僕のことを引き抜きに来たんじゃなかったっけ」
最初に会った時、リタは僕のことを引き抜きにきたと言っていた。そして他の一派に加担されると困るので始末しようとした、とも言っていた。でもそれは自身の軍勢を持つということじゃないだろうか。魔王の考えから乖離しているようにも思えるが……
「アタシは今代の魔王様が好きニャ。闘争が好きな連中はどこかで勝手にやってればいいニャ。でもそれを不服に思ってる連中が魔王様に敵対する可能性もあるニャ。だからアタシは護るための手勢が欲しかったニャ」
「……欲しかった? 今は違うの?」
「……怒られたニャ」
そう言って俯いてしゅんとするリタ。耳をぺたんと寝かせてしょんぼりしている姿はとても癒される。本人には悪いとは思うが。
「ほかの種族にまで迷惑かけちゃ駄目って怒られたニャ。それに……危険なことをするなとも言われたニャ。アタシのことを心配してくれるとても優しい方ニャ。だから……」
「リタは魔王のことが大好きなんだね」
「そうニャ! だから魔王様の言いつけを守ってアルトにはもう手を出さないニャ」
「食べ物についてはいいんだ……」
「コレは別物ニャ!」
と、紙の箱を抱きしめるリタ。まぁ無害なのはこちらとしてもありがたい。だがそれでもリタの言う別の一派がどう出てくるかが読めないのは怖いところだと思う。せめて何らかの情報だけでも得ることができればいいが……魔将という存在は普通の人たちにとっては遭遇すなわち絶望というくらいに圧倒的な存在なのだから。
「そうだ、もう少しコレを出しておこうか? 僕たちは王都に向かうから足りなくなっても手渡す方法も無いし」
「あ、それは心配いらないニャ」
「え? どうして?」
王都に直通の辺境伯の船はその航路も行程も明らかにされていない。それは王都に侵入してくる者を入り込ませないようにするための方策だが、そうなると途中に連絡をとる手段がない。今回のように偶然出会うことなどそうある訳じゃない。なのにリタは自信満々で心配無用と言ってのける。その真意はどこにあるのだろうか。
「だってアタシも一緒に行くからニャ」
「ちょ、ちょっと待って、そんなに簡単に乗れる船じゃないんだよ?」
通常の交易船ならまだしも、僕が乗ってきたのは辺境伯所有の船、ある意味公的な船と言っても過言ではない。勝手に入り込むことは罪に問われることとなる。
「密航は犯罪だよ?」
「ふふーん、これを見るニャ」
「何これ」
リタが懐から取り出したのは一枚の羊皮紙。そこに押されている印は冒険者ギルドの依頼請書だが……リタが今その請書を胸元から、それも谷間から取り出したように見えたのは僕の錯覚か?
「アタシは冒険者のリタとして同乗護衛の依頼を請けたニャ。一応Cランクニャ」
「僕より上……魔将だから当然か」
「ちなみに冒険者は猫獣人として登録したニャ。猫魔族と猫獣人はよほど魔力探知に長けた者でないと判別不可能ニャ」
「どうしてそんなこと……ああ、魔族は人間の生活域にはいないことになっているんだっけ」
魔族の存在は確認されているが、人間の国ではほとんどというか全く見かけない。どういう理由かはわからないが。
「弱い人間を虐めて喜ぶような腐った性根の魔族は魔王様がとても嫌がるニャ。もちろんアタシもそうニャ」
「じゃあなんで同乗依頼なんて請けたのさ」
「それは……魔王様に怒られたからニャ。アタシが持ち帰った情報のせいで他の魔将や魔族がアルトを狙うかもしれないから、アタシが責任持って護るようにって言われたニャ……だからアルトは責任とってコレをアタシに食べさせるニャ」
「う……まぁ護ってくれるのであればそのくらいどうとでもなるけど……」
「じゃあこれからよろしくニャ……」
これまで笑顔だったリタが突然真顔になって漁港の方を見る。耳がしきりに動いているので、何かの音を聞き取ったのかもしれない。
「港が襲われてるニャ」
「え?」
耳を澄ませば微かに人が騒いでいるようにも聞こえるが、果たしてそうなのだろうか。だがリタの言葉が正しいことを証明するように漁港のほうから立ち昇る黒い煙が見えた。煙のはまだ細く立ち昇る程度だが、船が燃えているのであればすぐに火の手が上がるはずだ。だが腑に落ちないところもある。
「ちょっと待って、襲われてるのって辺境伯の船?」
「たぶんそうニャ」
「辺境伯の船は魔法防御がなされてるはず、簡単に燃えるような船じゃない」
「でも燃えてるニャ。アルト、すぐに港に行くニャ」
「うん、わかった。オルディア、行くよ」
干し肉を食べ終えて昼寝していたオルディアを起こしてリタと共に港へと急ぐ。こんな場所で襲撃してくるということはやはりルーイン絡みだろうか。航路も行程も秘密のはずがどうしてここに停泊しているとわかったんだろうか。
だが今はそんなことを考えている場合ではない。ルーインが奪還されても、最悪殺害されてしまってもこちらの負けだ。ガルシアーノの懐刀と呼ばれるマディソン辺境伯と知って襲撃してくる以上、戦力は万全を期しているはずだ。そしておそらく……襲撃の成功条件には目撃者の始末も含まれているはず。何の罪もない漁民たちの口封じという後始末が……
「そんなことはさせない! アオイ、準備よろしく!」
【了解いたしました。最も効果的な方法を検索します】
アオイの返事が頭の中に響くのを確認しながらリタと共に港へと急ぐ。港から逃げてくる人たちをかきわけながら進むその先に、船の側面に炎を纏った船が見えた。
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