プロローグ
完全に個人趣味の物語です。細かいところはスルーしていただければ助かります。かなり偏った内容になる予定ですので。
どうして僕はこんなところにいるんだろう。
地下迷宮の最下層、僕は高名なパーティのおまけでここにいたはず。だけど今ここには僕しかいない。
目の前には獰猛な光を宿した、金色の瞳を持った巨大な魔物がいる。大きく裂けた口からは鋭利な刃物の如き牙が獲物を噛み千切る瞬間を心待ちにしているのかもしれない。当然、その獲物は……僕のことだろう。
どうして僕だけがここにいるのか、パーティはどこに行ったのか、そんな分かりきったことに考える時間を費やすのは無駄だ。その理由は僕の両足に刻み付けられた大きな傷がはっきりと教えてくれる。なぜか後ろ側に付けられた傷は未だに鮮血を滴らせ、その血の匂いは目の前の魔物の食欲中枢をずっと刺激しつづけている。そんな僕を護るように銀色の美しい毛並みの獣が僕の前に立つ。
『俺達はこんなところで死ねないんだよ』
『私たちのために死んで』
『君のことは一生忘れない』
そんな理不尽な言い訳を残してこの場を立ち去った、仲間だと思っていたパーティメンバーは、逃げようとした僕の足を背後から斬りつけた。致命傷じゃないのは……少しでも活きのいい獲物のほうが逃げる時間を稼げるから。
彼らにとっては僕みたいな【荷物持ち】なんてどうでもいい存在だ。忘れないなんて嘘ばかり、生き延びれば僕のことなんて記憶から早々に消されてしまうだろう。
いつだってそうだった。僕が皆と同じ力を持つことができなかった、ただそれだけで僕は家族からも見放された。
『ダメージコントロール……下肢裂傷のダメージレベル……危険度中位と判断して一部機能を肉体修復へ切り替えます』
「了解、いつもありがとう」
『前方の危険生命体……詳細分析終了しました。対処に最適な手段を解放します。選択後、鍵なる言葉を発音してください』
頭の中に語り掛けてくる抑揚のない女性のような声。いつも僕を助けてくれる心強い存在だ。彼女の言う通り、両足の痛みが次第に薄れていく。
僕が彼女の声に了承の意を伝えると、僕の手に一冊の本が現れる。両腕で抱えるほどの大きさのその本は、見た目とは違い重さを全く感じない。僕にとっては。
装丁は透き通るような鮮やかなブルー、今まで見たどの本とも違う材質の装丁のそれを開くと、何も書かれていなかったページにいくつかの言葉が現れる。その言葉が何を意味しているのかを事前に知ることはできない。発動させければ何が起こるかさえ僕にもわからない。でも彼女が言うんだから間違いないはず。僕は立ち上がり、銀色の獣を安心させるようにその頭を優しく撫でる。
そして唱える。今この状況を打破すべく彼女が選んだ何かを顕現させるために。未知なる存在の力で目の前の敵を蹂躙するために。
もう一話投稿する予定です。