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僕と君の夢は叶わない

作者: ナイキ

僕には幼なじみが居る。可愛くて、優しくて、明るくて。そして誰よりも悲しそうな目を持っている。中学二年の今、彼女と話す機会は減っていった。同じクラスで、僕は窓際で彼女は黒板の前。席は離れているし、仲良しな友達も其々違う。


~回想~

小学三年生のとき、彼女の家族が仕事で居ない日だった。そして、それに漬け込んだ同い年の女の子達は彼女をいじめていた。大人しい彼女はされるがままで、クラスで孤立していた。

そんな彼女を僕は見ていることしかできなかったんだ。自分もいじめられてしまうと思ったから。

彼女の家はすぐ近くで、帰りはよく一緒になった。


「私ね、もう学校いきたくないよ」

「・・・」

「私、なにもしてないよ?悪いことしてないよ?」

「・・・」

「やだよ」


その日彼女は泣きながらは僕のとなりで顔を下げていた。

僕の何かが切れたのはその時だ。

いじめの女の子グループが彼女の家の前でたまっていた。

僕は、男らしくもないことに、彼女たちに手を出した。


「な、なによ」

「痛いやめて!」


何が痛いだよ。こいつはこんなに泣いてるんだぞ。


そう呟いた後も僕は女の子達に手をだし続けた。

「ママに言うからね!」

「やだーーもうえーん」


僕は、初めて彼女を助けられた気がした。

ふと、後ろを振り向くと、彼女は今までに見たこともないような嫌悪の目で僕を見つめていたんだ


~回想終わり~


あれから、会話は減った。帰りもなるべく一緒になることを避けた。昔は後悔してたけれど、今はもう後悔はしてない。

きっと、正義だとか悪だとか決められることじゃないから。


それから彼女は変わっていった。大人しい性格も小学生低学年までで、今は幸せそうに暮らしているみたいだ。明るくてとてもいい人になってる。

もし、あの事件をきっかけに変わってもらえたのならそれはそれで嬉しい。だから、これまでもこれからも彼女と仲良くなれなくても、僕は救われた。


「お前、また見つめてんの?」

「な、見つめてないよ!」

「はぁ、まぁ叶わないから止めとけって」


友達のちゃかしにも慣れてきた。そうだ、僕は彼女の事が今も昔も大好きなんだ。

だから、少し寂しい。本当はもっと一緒に居たい。また、仲良く話せたら嬉しい。それが叶うなら、僕は死んでも良いと思えるほどに。


―――次の日。


父と母が仕事で今日は僕だけだ。土曜日で学校も休み。部活にも入ってない僕は家でゆっくりとしている。

無駄に早起きして、テレビを見ながらご飯を食べている時、ふと目がそっちへといってしまった。


「大切な人に思いを告げるなら、ここがオススメ!」


ありきたりな題目で、色々な名所をテレビが宣伝していた。

そこに、僕の住んでいる街の近くにある海岸が映っていた。


「すげぇ」


綺麗な夜景に満天の星空が広がっていた。

そうだ、今日は二人とも居ないから行ける!


僕は、パソコンで場所を調べ、準備をした。

別に誰かと行く訳じゃないけれど、行ってみたいからな。よし、今夜が楽しみだ。


あっという間に時間は過ぎ、夕方になっていた。僕はこれまでに無いほど気分が高揚していた。

一応、おにぎりを持って僕は小走りで家を出た。


~回想~

「私ね、お嫁さんになりたいな」

「僕は―――」

「たくさん幸せになりたいな。いっぱい遊んでいっぱい楽しいことをしたいの。約束だからね」

「約束・・・うん。僕の夢はね―――」


~回想終わり~

家から自転車で三十分程で着くことができた。夕暮れに染まった海辺を見て、身震いした。

感動したんだ。僕以外に人は居なくて、この世界には僕しか居ないんじゃないかと錯覚するほどに、絶景だった。

「知らなかったな、こんなとこ」


自転車を止め、砂浜へ出てみることにした。海に反射した光が眩しい。

僕は、初めて来た筈なのに、何故か懐かしさを感じた。

と、同時に悔しさが胸を苦しめた。


僕は、君のために頑張れたのに、なんでこんなに悲しい気持ちにならなきゃダメなんだ。

無性に叫びたくなった。

周りには誰もいない。僕一人なんだ。だったら――


「だーーーーいーーーーすーーーーきだー!!」


初めて出す叫び声に、鳥肌が立つ。そして、ゆっくりと腰を下ろした。悔しさの次は悲しさが襲ってきた。

最初は右目からゆっくり涙が垂れてきた。後を追うように左目からも。


僕は一対、何をしてるんだろう。


ぽつりと溢した。


「ただいま」


聞き覚えのある、しかし今は遠い声が聞こえた気がした。


「ごめんね、お待たせ」


気のせいじゃない。後ろを振り返ると


――――彼女は居たんだ。


「な・・・なんで」

「今日は、君の誕生日でしょ」

「!そ、そういえば」


そうだった、僕は今日が誕生日だった。忘れていたことにも驚いたが、彼女が未だに誕生日を覚えていたことに驚いた。


「約束、わすれちゃった?」


少し切なさを残した笑顔で、後ろの夕陽に映えた彼女は、綺麗だった。


「約束って、いつの?」


分かっているよ。僕と君がした約束なんて一つくらいしかないから。


「ふふ、誤魔化すの下手くそだなぁ。恥ずかしい?」

「な、は。恥ずかしくねえけど!でも、なんでここが」

「ここで、約束したからだよ」

「・・・結婚の話?」


彼女は僕の言葉を聞いて笑った。


「違うよ。それはまた先の話でしょ。もうひとつ約束したよ」

「もうひとつ?」


ここで?僕と君が?いや、そんな記憶は無い。

いや。あったとしても


―――その約束は君とはしてないはずだ。


~回想~

幼稚園の頃だ。両親に連れられて、とても綺麗な海へと連れてこられた。僕は感動して、砂浜を走り回っていた。そんな時、眼帯をした白いワンピースに包んだ少女と話をした。


「僕ね、ママもパパも好きじゃないんだ」

「どうして?」

「いっつも僕の事を叱るんだ」

「んー、私もね。パパが直ぐに怒るんだ」

「一緒だね」

「でもね、それが【優しさ】ってやつなんだって!学校の先生が教えてくれたの」

「そっか。じゃあ、僕が今度から君が困ったら助けてあげるね」

「・・・ほんと?」

「うん!守ってあげる」

「私ね、今日誕生日なんだ」

「わー、すごいね!おめでとう」

「また君とお話したいな。だからね、これから君の誕生日と私の誕生日の日はここでお話ししない?」

「する!約束するよ!」

「良かった」


しかし、僕の誕生日に、彼女が現れることはなかったんだ。


~回想終わり~

「幼稚園の年中さんの時ね、お母さんとお父さんの都合で海外に居たの。だから、誕生日には来られなかったんだ。でもね、こっちへ帰ってきたとき、一度も欠かさず私はここへ来てたんだよ」

「は、はは。すごいなぁ、あのときの眼帯の女の子がまさか君だなんて」


全然気づかなかった。あんなこと覚えててくれたのか。


「私ね、あの時助けてくれて嬉しかったんだよ」

「・・・でもあの時君は」

「怖かったんだ。止めても止まってくれなくて怖かったの。そして、それが言い出せないまま君とは疎遠になっちゃったから」

「ごめん。もっと良い方法があったのかもしれない」

「大丈夫だよ。約束を守ってくれたもの」

「でも」

「私ね、一週間後にここから居なくなっちゃうんだ」


――――え?


直ぐに僕の顔は崩れたに違いない。動揺が隠せなかった。


「少し遠いところに行っちゃうんだ。だから、君と思い出を作りたいの」


彼女はまた笑顔で僕を見つめた。

―――――

それからのことは鮮明に覚えている。家族に説明して、学校を休み、たくさん遊んだ。

遊園地にもいった、水族館にもいった、海にもいった、デパートも。

彼女との思い出はたったそれだけしか無かった。





―――――彼女は亡くなった。


遠いところってやつへ行ってしまったんだ。

きっと、彼女は知っていたんだ。

僕との約束を守れないことを。

幸運だったのは、あの時彼処へ行ったことだ。もし彼処へあの日行かなければ一生後悔していただろう。


今の僕には何もない。周りに誰も居ないし、名前もない。周りには誰も居ないってのは比喩だ。誰も僕へ気が付かない。


彼女の事を思い出すと、泣きそうになる。けど、もう泣くことはできない。


彼女はたくさんのひとを悲しませた。


そして、僕もまたたくさんの人を悲しませた。




「大好きだよ」

「うん。これからはずっと一緒だ」




―――――僕はそっと、彼女の手を引いて歩きだした





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