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新学級の自己紹介

「今日から君たちの担任を受け持つことになったゴトーだ」


入学式が終わると、在校生は続けて始業式が行われ、その後はクラスごとにホームルームの時間が設けられていました。


「専門は数学と模擬訓練。専門外のことで力になれないこともあるかもしれない。だが、困ったことがあれば、何でも相談に来て欲しい。俺はできる限り君たちの力になりたいと思っている」


新担任の先生の名前は、初めてお聞きしました。

今年度から新しくお越しになったそうです。


何といっても目立つのは、その顔立ちでした。

黄色がかった肌の色、低い鼻。

異国出身の方でしょうか。


「--俺の自己紹介は以上だ。次は君たちの番だ。それじゃあ、えーっと…… 右の列から順に、名前と何か一言を。簡単に自己紹介をお願いしたい」


ガタッ、と椅子を引く音が教室に木霊しました。


「先生、待ってくださいっ。ここは、フランソワ様からではないのですかっ!?」


メランダさんです。

突然わたくしの名前が出て、驚きましたが、彼女がわたくしを気遣ってくださることは、とても嬉しく思います。


「なるほどな、まあそう思うよな」


ゴトー先生は、顔に手を当てて思案げな表情を浮かべました。


「すまない、はじめに言っておくべきだった。俺は、そういうのはしないんだ。この教室にいる以上、貴族だとか、平民だとかは関係ない。今後も、できるだけ公平に接するつもりだから、よろしくな」


「なっ!?」


メランダさんは絶句といった表情で、納得していないことは明らかでした。

しかし、ゴトー先生も毅然とした態度で、譲る気は無いようです。


「先生がそうおっしゃるのでしたら、わたくしは従わせていただきますわ。学園は、誰もが学べる場所であるべきですから、ゴトー先生の言うことはごもっともだと思いますので」


と、いうのは建前です。

正直なところ、落ちこぼれのわたくしにとって、大貴族扱いされるのは居心地の良いものではありません。

ゴトー先生の指導方針には、便乗させていただきました。


「よろしいのですかっ? フランソワ様?」


「ありがとう、メランダさん。あなたのお心遣いには、感謝致します。ですが、大丈夫です。わたくしは、気にしませんわ」


わたくしのことなのに、彼女ばかりに言わせて申し訳無く思います。

後でもう一度、お礼を言っておきましょう。


「そういうことだ。もう一度言っておく。この教室の中で、君たちは平等だ。身分に囚われることなく、お互いに切磋琢磨してもらいたい」


そうして、一応この場は収まりました。

Cクラスで一番家格が高いわたくしが言った手前、表立って反論しにくかったというのもあるのでしょう。


ですが、決して満場一致の意見では無さそうです。

特にアポカリプト伯爵家の子息、テノール=アポカリプトさんは、ただならぬ様子でゴトー先生を睨みつけていました。


彼には、悪いことをしたかもしれません。

他の貴族の子たちも、良いようには思っていないでしょう。

わたくしだって、もしも自分が落ちこぼれでなければ、反感を抱いたかもしれません。

とはいえ、学園の教師には基本的に権力は通用しませんから、ゴトー先生の拘りが強いのであれば、わたくし達にはどうしようもないことなのですが。


「じゃあ、右列から順に頼む」


ゴトー先生は、貴族の子たちの反感など御構い無しとばかりに話を進めていきます。


「はい。僕はアッシュと言います。10人兄弟の長男です。将来は、弟たち全員を養えるような、立派な魔法使いになりたいです--」


そうして、自己紹介が進んでいきました。


Cクラス約40名。

顔と名前だけでも全員を覚えることを目標に、わたくしは耳を傾けていました。





「--私はメランダ=クリフト。家格は男爵ですっ。私、元素魔法は得意ですが、座学は苦手です。尊敬する人物は、勇者様と、フランソワ様ですわっ。皆さま、どうぞよろしくお願い致しますっ」


メランダさんは、そう言うとわたくしの方を向いてニコリと微笑まれました。

大変可愛らしいのですが、わたくしは彼女の尊敬を得るほどのことをした覚えがありません。

3年前、魔王を討伐し、救国の英雄となられた勇者様と並べていただけるのも、光栄ではありますが、わたくしが落ちこぼれであることを差し引いても、恐縮の限りです。


教室中の視線が自分に集まるのが分かりました。

自分は何も成し遂げていないのに、賞賛され、期待されても、居心地が悪いだけです。

ですが、メランダさんの好意を否定する発言をするのは憚られました。

わたくしは、そんな内心を抱えながらも、毅然とした態度で胸を張るように努めました。





「--テノール=アポカリプトです。家格は伯爵。得意科目は模擬訓練です。俺は、強くなるためにこの学園に入学しました。『貴族たる者は強くあれ』というのが父の教えです。皆さん、よろしくお願い致します」


自己紹介も進み、注意散漫になる子が増えてきた中、テノールさんの番になると、急に静かになって、みんなが気を引き締めたのが分かりました。

力のある伯爵家の御曹司ですから、みんなが注目するのも当たり前です。


わたくしにとっては、そんなことよりも、先の発言が問題です。

貴族であるのに魔法が碌に使えないわたくしは、テノールさんの目にどう写るのでしょうか。

あまり良い想像はできません。





そんなわたくしの不安をよそに、自己紹介の順番は、とうとうわたくしに回ってきました。


テノールさんのときと同様に、しんと静まった教室には、緊張が漂っていました。

わたくしは音を立てずに椅子を引き、立ち上がりました。



「皆様ごきげんよう。フランソワ=リーンヴェルトと申します。家格は侯爵ですわ。座学は得意なのですが…… 実技は全く…… 特に魔法は苦手です。ここにいる皆様とは、切磋琢磨し、有意義な時間をご一緒に過ごしたいと考えています。よろしくお願い致します」


魔法が苦手ということを話すのは躊躇しましたが、隠してもすぐに明らかになるので、先に言ってしまうことにしました。

それに、一度期待されて失望されるより、幾らかはマシだと思いますから。


反応は、概ね予想通りでした。

魔法が苦手だと告げた直後、クラスのみんながわたくしを見る目が、僅かに変わったのが分かりました。


素直に驚きを見せた者。

謙遜と受け取り、頷いて自己完結している者。

逆に、露骨に眉を顰める者。

他には、憐れむような表情を浮かべた者もいました。


負の感情を向けられることには、いつまで経っても慣れません。

胸が苦しくて、油断すると瞳が潤んでしまいそうになります。

しかし、結局のところ、どんな感情も受け入れるしかないのです。

受け入れたくなければ、己の力でそれを覆せばいい。

そして、その力はわたくしに未だありません。


悔しいけれど、これが現実です。

「努力は報われる」なんて甘い現実では無いのは承知しています。

それについては、わたくしの昨年の成績が物語っていますから。


ですが今日は、新たなスタートを切る日。

朝のお父様との会話には動揺しましたが、これ以上深く考えないようにします。


とにかく、わたくしにはもう後がありません。

だから、もう一度。

もう一度精一杯、頑張りたいと思います。

そして、この「頑張りたい」という感情だけを、今は大切にするべきだと思います。


春休みには、家庭教師の先生に扱いていただき、自分の伸び代を見つけることもできました。

後は、わたくし次第です。

まずは、わたくし自身の実力で、クラス全員にわたくしを認めていただくことを目指そうと思います。


人知れず決意を新たに、わたくしは着席しました。


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