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落ちこぼれの家庭教師

私はリーンヴェルト侯爵家の家庭教師をしているリューノルというものです。


私は、三人の子供たちを受け持っています。

おっと、一番上のライル君は見事学園をご卒業されましたから、今は二人ですね。

三人とも、教え甲斐のある私の自慢の生徒です。


しかし、私には一つ大きな悩みがありました。


次女のフランソワ君のことです。


彼女は秀才です。

素直で、真面目。

私が教えることを熱心に聞いてくれて、予習復習も欠かすことなくされています。


長女のクレア君と比べると物覚えも良くないし、柔軟な発想力があるという訳ではありません。

ですが、それを踏まえても、座学のみで競えば、既にクレア君に肉薄しています。

クレア君はフランソワ君より1つ上の学年首席ですから、それはつまり、同学年において、座学で彼女の右に出る者はいないということです。


彼女のすごいところは、継続して努力できることです。

驚いたのは、私が家庭教師をしていた1年前と比べて、座学はもちろん実技においても着実に伸びていることです。

誰に注意されることもない学園で、大半の子らは、自分に甘くなるものです。

しかし、フランソワ君は私の見立てを大幅に超えて成長されていました。

学園での授業に真摯に向き合われ、凄まじい努力をなされたことが見て取れます。


だからこそ、惜しいのです。

彼女が評価されないことが……


雇い主のリーンヴェルト侯爵のことを悪くは言いたくないですが、侯爵様はもっと彼女を認めてあげるべきです。

魔法の才能がないと見るや、彼女のことは放ったらかして、ライル君やクレア君にだけ期待を掛けるのは、親として如何なものかと思います。


たしかに、ライル君もクレア君も頑張っていますが、私の目から見れば、一番頑張っていて、一番苦しんでいるのは誰か一目瞭然なのですから。


おっと、これ以上は私が首をつっこむことではありませんでした。

私ができることは、私ができる範囲でクレア君を応援してやることです。


彼女は、侯爵様に期待されていないことを気にしていました。

私に言わせれば、侯爵様の基準は高過ぎるのです。

それでも、彼女は期待に応えようと必死でした。


私は、おそらく最初に気付いていました。

フランソワ君の魔力が低いことを。

ですが、それを本人に伝えることはとうとうできませんでした。

今思えば、その方が余程むごいことだったのかもしれません。

学園に入学して、彼女は初めて、己の才の無さに気付かされることになったのですから。


そして、ある意味当然のことで、彼女は降格しました。

ショックは尋常ではなかったと思います。

しかし、彼女は折れなかった。

彼女は立ち上がり、再び私に教えを請いました。

彼女が相談しに来てくれたときは、本当に嬉しかった。


だから、私は彼女に応えたい。

彼女の頑張りに報いてやりたいと、本気で考えました。

となると、なりふり構ってられません。

戦闘訓練は必須です。

なぜなら彼女の成績をこれ以上伸ばすには、どう考えても、模擬試合でいい結果を残すしかないですから。


武の分野において、彼女の才能は並だと思っていました。

ところが、いざ訓練をしてみると、予想より成長は早かったのです。

物事を分析して、最善の動きを考えられる頭の良さと、普段から走り込みをしていて、基礎体力がついていることが幸いしたのでしょう。


ところで、一体学園に通う何人の子たちが、毎日早朝から走り込みをしていると思いますか?

私の学生時代ですと、そんな子は一人もいなかった。


たしかに、私は彼女に言いました。

基礎体力を付けるのには、走り込みが一番だと。

彼女は私の教えを律儀に守り、一年間継続していたのです。


武闘派貴族の子たちは、座学よりも剣術や魔法を重視する傾向がありますが、フランソワ君はそうではありません。

ですから、彼女がこの分野で、そういう子たちに追いつくのに、普通は春休みの期間ではとても足りません。

くわえて、彼女に魔法の才能に乏しいことは明らかですから、生半可な努力ではその差は縮まりません。


そこで、私はこの春休みを利用して、少々無茶な方法で本格的な戦闘を仕込むことにしたのです。

彼女は、いつも通り全力でそれに応えようとしてくれました。

私の教えに忠実に、持てる限りの力で応えてくれました。

教師として、これほど嬉しいことはありません。


終わった今から考えると、やはり随分無茶な訓練でした。

侯爵様はライル君やクレア君に同じ訓練をさせようとしても、おそらく許可されなかったでしょう。

許可が出たのは、フランソワ君だから。

彼女のことを軽視している侯爵様の考えを、利用させていただきました。


正直なところ、辛かったと思います。


私が魔法で作り出した幻影を相手に、気を失うまでまで訓練を続けたこともありました。

迷宮でゴブリン狩りをさせて、冒険者まがいのこともさせました。


私はこれまで、彼女に本格的な訓練を受けさせることを避けてきました。

というのも、今まで身の回りのことでさえ、侍従がやってくれる生活を送ってきた令嬢に、戦闘訓練を仕込む方がどうかしています。

普通の令嬢は、魔法の練習をすることはあっても、汗を流して体を動かす訓練などほとんどしませんから。


ただし、彼女の場合、魔法以外のところで勝負する必要がありましたから、そういった訓練も必須となるわけです。

彼女に忍耐力があることは分かっていましたが、それを踏まえても、最初はこの訓練をする気はさらさらありませんでした。


ですが、彼女に応えるために、私には他の方法は思いつきませんでした。

しかし、彼女は私の訓練を耐え抜きました。

おかげで、普通の侯爵令嬢であれば、一生体験しないであろうことをたくさん経験させてやることもできました。


本当に、よくついてきてくれました。


春休みを終えて、彼女はたしかに成長しました。

それでも、現段階では、武闘派貴族の子たちには、魔法込みでは敵わないでしょう。


しかし、1年後。

もしも彼女が私の教えに従い、努力をし続けていたら……

いえ、きっと彼女ならそうしてくれるはずです。

学年末の模擬試合で彼女を甘くみた対戦相手は、泣きをみることになるでしょう。

少なくとも、昨年の二の舞にはならないはずです。


私は彼女が報われることを、心の底から祈っています。

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