魔法学園の担任教師
俺の名前はゴトー。
ここ聖コンスタン学園で教師を務めている。
天職だと思う。
俺は、教えることも好きだし、子供も好きだ。
何より、俺が手を掛けた子供たちが大人になって、社会に胸を張れる人間になったなら、こんなに嬉しいことはない。
なんていう青臭い理想論は横に置いたとしても、安定して給金も高いので、文句は無い。
むしろ、この給金に見合うように働かなければ、と思う。
俺は、次年度から担任を受け持つようになった。
配属されるのはCクラス。
たった今、昨年の担任の先生から引継ぎを受けたところだ。
俺は、クラスの名簿と引継ぎ資料を見合わせていた。
この学園は実力主義で、実力に伴ったクラス替えがあるのだが、Cクラスは概ねメンバーに変わりは無い。
Cクラスの子が上のクラスに上がるのは、やはり難しいのだろう。
引継ぎ資料には、新クラスの子たちの昨年度の成績の他、旧Cクラスの分だけは前任の先生が書いた児童観察記録が残っているので、こちらとしてはその方が都合がいい。
「ふむふむ…… 」
Cクラスには、他の学年と比べて平民の子が多いようだ。
観察記録を見ると、彼らが途轍もなく努力していることがよくわかる。
平民の子が座学で出遅れるのは仕方の無いことだ。
むしろ、入学以前に十分な勉強ができるのは、貴族の特権だろう。
平民の子たちは、入学してから、本格的に座学の勉強を始めるのだ。
彼らには、上昇志向がある。
平民に生まれ落ちたのに、魔法の力が強いというのが、どれだけ幸運なのかを知っているからだ。
1年生のうちはまだ貴族の子たちには敵わない子が多いが、入学時と比べると皆格段に伸びている。
今後に期待できそうだ。
しかし、先入観で判断するのは禁物だ。
逆に、貴族の子は座学に対して、苦手意識を持っている場合がある。
幼い頃から座学の勉強させられるのは、平民とは違うベクトルで辛いものがあるというのは、経験上分かる。
特にこの年頃の子供たちは、いろいろなことに興味があって、その中で一見地味な座学に真摯に打ち込むことは、誰にでもできることではない。
それに、貴族の子たちは魔法に優れている。
特に大貴族の血統の子たちは、魔法実技に優れ、その分座学を軽視している節がある。
授業をサボったり、真面目に聞いていなかったりして教師の間で問題になるのは、大抵そういう子たちだ。
親の権力が強い分、こちらも慎重に対応せざるを得ない。
また、そう言う子たちに限って、平民を軽視している傾向があるのは、もはやお約束だ。
貴族の義務を真の意味で理解しているような本当に家格が高い貴族の子たちは、座学にも熱心で上位クラスに配属されるので、Cクラスの貴族には問題児率が高いのが現状だ。
ということで、俺はまず、名簿から貴族の子たちをピックアップして見てみることにした。
「アポカリプト伯爵家の次男に、クリフト男爵家の令嬢か…… 典型的な脳筋タイプだな」
魔法実技ばかりで、座学の成績が伴わないタイプは、(主に俺の中で、)脳筋タイプと呼ばれている。
脳みそまで筋肉。
魔法は筋肉ではないが、意味は分かる。
「えー、他には…… って、リーンヴェルト侯爵令嬢がいるのかっ!」
俺は素直に驚いた。
侯爵家ほどの家格の令嬢は、普通Cクラスにはいない。
リーンヴェルト侯爵家ともなれば、尚更だ。
確か、2年生の首席もリーンヴェルト家だったはずだ。
「姉妹と言ってもいろいろあるのかねぇ」
残念ながら、彼女の観察記録は手元にはない。
どうやら、1年生の時は別のクラスだったようだ。
俺は、気になったのでとりあえず彼女の成績だけを見ることにした。
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フランソワ=リーンヴェルト
性別 女
<座学部門>
○魔法学 100/100
○歴史 100/100
○文学 98/100
○数学 98/100
○教養 99/100
合計 495/500
<実技部門>
○元素魔法 27/100
○力学魔法 26/100
○模擬実践 142/300
合計 195/500
総合計 690/1000
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「これは…… 」
観察記録などなくても、これを見れば一目でわかった。
この子は、そもそも魔法の力が弱いのだと。
元素魔法や力学魔法の評価が50点に満たない子など、殆どいない。
これだけしか魔法が使えないのにも関わらず、あの模擬実践テストの点数は、むしろかなり頑張ったのだろう。
そして、座学の点数は殆ど満点。
こんな点数は聞いたことがない。
最高峰のこの学園で、この成績はちょっとありえない。
Sクラスの子たちでさえ、450点を超える子はほんの一握りなのだから。
学園の教師であったとしても、5教科総合でこの点数を取れるものだろうか……?
本来、賞賛されて然るべきはずなのに、結果的にはCクラスに甘んじているのは、本人にとっても辛いはずだ。
「もし、彼女が苦しんでいるのだとしたら…… 何とかしてやりたいな」
俺は、ぼんやりとそんなことを考えていた。