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魔法学園の落ちこぼれ

わたくしは、その事実を未だ受け止められませんでした。


「フランソワよ、このような成績について、私に言うことはあるのか?」


お父様の視線が、わたくしの心に突き刺さります。

わたくしは、お父様ととても目を合わせられません。


「ごめんなさい、お父様。ですが、次は、きっとまた、Aクラスに入ってみせます」


「ふぅ…… もういい。我が侯爵家の娘なら、Sクラスで当然。Aクラスを目標に掲げている地点で、お前はその程度なのだ。下がりなさい」


「お、お父様」


「下がりなさいっ!」


お父様がそうおっしゃる以上、わたくしは従うしかありません。


「畏まりました。失礼致します」


わたくしはお父様にご挨拶して、背を向けると、早足で、最後には小走りで自室に向かいました。

淑女にあるまじきことであるとは分かっていながら、わたくしは、足を止めることができませんでした。


「お、お嬢様! フランお嬢様!」


侍従のニコルが心配して声を掛けてくれるのに、反応する余裕すらありません。


わたくしは、自室に入ると、その場で崩れ落ちました。


「…… どうしてっ!? どうして、わたくしはっ!」


悔しかったのです。

わたくしは、どうしようもなく悔しくて、どうしようもなく、自分が許せませんでした。


「フランお嬢様…… 」


「お願い! 一人にして!!」


愚かなわたくしは、ニコルに強く当たってしまいます。


「……畏まりました」


ニコルは、嫌な顔一つせずに、わたくしのわがままを受け入れてくれました。

わたくしには、不相応なほど立派な侍従です。


「どうしてっ! どうして、わたくしは…… 」




どうして、わたくしは落ちこぼれなのでしょう?

お兄様もお姉様も優秀で、わたくしだけが、不出来なのでしょう?

これでは、本当に侯爵家の恥晒しです。

お父様の言う通り、わたくしは、この程度の人間なのでしょうか……




わたくしは、聖コンスタン学園という学園に通っております。

この学園は、魔法使いを育成するための一流の学園で、貴族の子はほとんど皆この学園に通っております。

稀にですが、平民の子供たちもいます。

魔法を使える者は、法に従い、身分に関係なく、学園に通わなければならないからです。

そして、聖コンスタン学園は、魔法育成学校の中でも、間違いなくトップクラスの学園です。

当然、入学試験の審査も厳しいものですから、よほどのことでない限り、平民には縁遠いところです。


わたくしは、侯爵家に生まれ、何不自由なく生活し、優秀な家庭教師にも恵まれましたから、昨年無事に聖コンスタン学園に入学することができました。

入試の成績から、わたくしはAクラスに選ばれました。

わたくしにしては、よくできたと言っていいのかもしれません。

しかし、お兄様やお姉様には敵いません。

わたくしの現状から考えれば、比べることさえおこがましいのかもしれません。


聖コンスタン学園には4つのクラスがあり、上級から下級までSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスがあります。

お兄様は3年生Sクラスの次席、お姉様にいたっては、なんと2年生Sクラスの首席なのです。

かつては、お父様もSクラスを卒業されたとお聞きしています。

これは、大変な偉業です。

わたくしには、その偉大さが身にしみて分かります。


一方のわたくしは、入学時こそ辛うじてAクラスでしたが、この一年間でどんどん落ちこぼれ、来年度はCクラスに降格することが決まってしまいました。

学年末のテストの悲惨な結果から、成績がよくないことは想像できましたが、実際に通知を受け取ると、現実を突きつけられたような思いです。


入学当初は、こんなことになるとは思いにもよりませんでした。

入学時のわたくしには、他の生徒に比べてアドバンテージがあったからです。

我が家に仕える優秀な家庭教師が、つきっきりでわたくしをご指導なさってくださったのですから、他の生徒たち、特に下級貴族の子や平民と比べると、出来がよくて当然でした。


しかし、学園は寮生活です。

家庭教師の先生は、もう助けてはくれません。

わたくしが持っていたアドバンテージは、周りの子たちの成長に反比例するように、なくなっていきました。

わたくしが落ちこぼれるのに、そう時間はかかりませんでした。

自分が落ちこぼれなのかもしれないという疑念は、次第に確信へと代わり、学年末の頃には、入学当時の少しばかりの自信は、すっかり崩れ去っていました。


そして、つい先ほどのことです。

わたくしの学年末テストの結果が通知され、それをお父様がお知りになったのです。


ーーーーーーーーーー

実技 195/500

座学 495/500


計 690/1000

クラス C

ーーーーーーーーーー


このテスト結果が、一年間のわたくしの評価ということになります。


この結果には、大きな意味があります。

学園のルールにのっとり、試験結果によって次年度のクラス替えが行われるのです。

そして、卒業時のクラスは、そのまま卒業後の影響力に直結します。

ですから、自分に箔を付けるために、皆必死に努力するのです。

900〜1000がSクラス、800〜899がAクラス、700〜799がBクラス、600〜699がCクラス、600点未満は留年です。

入学時はギリギリのAクラスだったわたくしは、留年こそ免れましたが、とうとうCクラスに転落してしまいました。


ここからは、言い訳になります。

結果を真摯に受け止めて、今後更に励むべきだと頭では分かっていますし、そう努めるつもりです。

しかし、心の中でぐらい自分に言い訳しないと、おかしくなってしまいそうです。


わたくしは、この一年間、いえ、生まれてからずっと、わたくしなりに努力してきたつもりです。

特に座学は、学年最高得点だったそうですから、その点においては、努力は実ったということになるのでしょう。

ただし、実技の成績ははっきり言って、壊滅的です。

最低レベルの成績であることに間違いありません。

これでは、座学の成績は良かったなどと、お父様には、口が裂けても言うことができません。

お兄様も、お姉様も、そしてお父様も、座学と実技を両立して、素晴らしい成績を修められているのですから。


実技とは即ち、魔法実技のことを指します。

魔法を学ぶための魔法学園ですから、魔法実技を重視するのは当然のことです。

ところが、はっきり申しまして、わたくしは魔法が苦手です。

もちろん、学園に入学できたことから明らかですが、魔法が全く使えないという訳ではありません。

ごく小さな炎や風を起こしたり、軽いものを少しだけ動かす程度の魔法であれば、わたくしにも何とか使うことができます。

しかし、この学園が求めるのは、より高みなのです。


わたくしとて、座学の勉強のみをして、実技の練習を疎かにしていた訳ではありません。

むしろ、苦手な実技の練習をしないことの方が不合理です。

魔法の基礎と言われる集中力を鍛えるための瞑想は、毎日欠かしていませんし、魔法の教科書は穴が開くほど読み込みました。

しかし、期待した成果は得られませんでした。

いくら学園の先生に教わっても、いくら教科書通りに実践しても、うまくいったことの方が少ないぐらいです。


入学以前、家庭教師のリューノル先生に教わっていた時から、兆候はあったのです。

しかし、体の成長に伴って、魔法を使う力も成長するからと、気にしないように言われておりました。

わたくしも、幼いうちはそれで納得していました。

ですが、わたくしはもう13歳です。

次年度は2年生ですから、14歳になります。

背も伸びて、女性らしい体つきにはなってきました。

しかし、一向に魔法の力は成長しません。


わたくしの成長は、打ち止めなのでしょうか?

このままではいずれ、わたくしは皆に置いていかれることでしょう。

そもそも、ほとんどの魔法が効果をなさないのですから、上達するきっかけすら掴めないままでした。


そんな不安を抱きながら、わたくしは、だんだんと近付く学年末テストを恐れていました。

わたくしの魔法は弱々しくて、例えば学年末テストの模擬試合のような状況では、全く役に立たないだろうということは容易に想像できましたから。

わたくしが使える魔法は、どれも決定的に「威力」を欠いていたのです。


何が魔法の威力を向上させるのかは、少なくともわたくしが知る限り、はっきりとは解明されていません。

一説には、集中力や、魔法に対する理解が影響すると言われていますが、今の所わたくしには当てはまっておりません。

しかし、一つだけ、歴史上明らかなことがあります。

それは、魔法の適性が親から子へと引き継がれる傾向にあるということです。

これは周知の事実ですから、入学当初は先生方もクラスメイトも侯爵家のわたくしに、期待を掛けてくれていたように思います。

しかし、わたくしはことごとく期待を裏切りました。


わたくしには、どうしようもないことでした。

わたくしは、一体どうすれば期待を裏切らずに済んだのでしょう?

わたくしにできることは、全てやったつもりです。

わたくしは、これ以上、何をすれば……


「あれっ。なぜっ、わたくしっ…… 」


わたくしは、自分の頬に涙が伝っていることに気付きました。

こんなことで涙を流すなんて、心が弱い証拠です。

ですが、一度溢れ出したそれは、自分の意思で止めることができませんでした。


今しばらくの間だけ、心が落ち着くまでの間だけだからと、弱いわたくしは自分に言い訳をしました。

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